2007年06月06日

EU憲法は復活するか

 サミット開催が報じられているが、現在の欧州はEU憲法に関する討論が主要な政治課題となっている。新たに就任したサルコジ仏大統領は精力的であり、縮小された規模でのEU憲法を模索しているようだ。日本でも報道はされている。(参照1)

 このEU憲法であるが、憲法と名付けられてはいるものの多分に象徴的な表現である。これに関してはBBCの記事が簡潔に現状を表現している。英国の冷淡さを反映してはいるが、かといって別に嘘を書いているわけでもないあたりに苦笑する。(参照2)その他各項目に簡単に言及しているこちらも分かりやすい。(参照3)一部引用する。

The procedures by which laws are passed have not fundamentally changed. Laws will still be proposed by the executive body, the Commission, and agreed jointly by member states in the Council of Ministers and the European Parliament. EU law is supreme in those areas where it has the right to legislate, but that has always been the case. If the procedure allows for a majority vote, it is possible, likely even, that a member state will be outvoted and in that case the EU law will be imposed on it. That already happens. The constitution means that it might happen more often.


 むしろ今までのマーストリヒト、ニース条約に近い性質をこのEU憲法は持っている。政治的宣伝の手法としては時期尚早に過ぎたかもしれない。ただ、ここでの記事で表現されている事実は現時点のものであって、一度構造を作ると時間の経過で実質的な機能が発展していくということはある話だ。

 争点になりやすいのは、現状各加盟国の国数と人口比の双方の二重多数決の部分であるが、これはオランダあたりを刺激するとはいうものの、落とし所を探るのはEU諸国の伝統からして難しくもないと思われる。予想以上に揉めたのは前文などで、こちらの記事(参照4)でも記述されているが、神への言及をどうするかなどでポーランドとフランスが対立したりとか、面倒な事態はあったようだ。とはいうものの、不要な対立を招く部分の常として削除されるようではある。その他名称にまつわる話とか、つくづく思想や主権にまつわる部分は議論の対象になるものだと感じる。

 サルコジ大統領の活動は活発なようだ。各国首脳との会談を次々に行い。合意可能な範囲でのミニ憲法を作成、批准することを目指している。ビジネスでも何でもそうだが、実行力のある人物は中間目標の設定に長けているものだ。欧州の行動主義者の代表はブレア氏からサルコジ氏に移るのだろうか。フランスがサルコジ氏を必要としたのは、実は政策というよりこの活力そのものであったような気がしてならない。国民を鼓舞するだけのリーダーでもそれが切実に必要な事はある。もちろん政策が正しく効率的であるに越したことはないが。

 現在はハイレベルチームが新たな草案の作成にかかっており、まだ議論の段階で一般への公開もまだのようだ。(参照5)直接の要素ではないが、サルコジ氏がトルコ加盟への反対を重ねて表明しているのは草案への合意可能性を高めるだろう。実質的に機能することを重視するという態度は一貫している。

 ただでさえ更新の少ないブログであるが、何となく書けなくなって時間が過ぎてしまった。メモ程度でも残しておくべきだったかもしれない。ただ、それこそ数行書いて終わりか半年は調べ上げないと何も書けないか、というのが世界情勢を語る上ではありがちな事で、こうなるのもおかしくはないかなと思いもする。
posted by カワセミ at 03:05| Comment(0) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア

2007年05月13日

トルコ政治の混迷

 トルコの政治は混迷を深めているようだ。この記事を執筆している段階では、従来議会が指名していた大統領を国民の直接投票とする法案をトルコ議会が可決したと報じられている。(参照1)しかしながら大統領は拒否権を持っており、まだ紆余曲折がありそうな状況だ。

 与党の公正発展党(以下AKPと記述)は国民の広範な支持を得ており、国民の直接選挙とすることでその立場を強化したい意図があるのは間違いない。にもかかわらず、一方でトルコ国民は軍部の政治介入を容認ないしは支持してきた歴史がある。これはタイなどでの国民意識と比較すると面白いかもしれない。タイの場合は王室もあり、国民が政治的に一体感を感じる対象はかならずしも議会が主導的に持っているわけではない。ではトルコの場合はどうだろうか?

 専門家というわけではないので考え違いがあると指摘していただけると有難いのだが、トルコ国民の軍部に対する支持は、進歩性や公正性の象徴ではないかと思われる。尚武の気風はアラブ世界にも多いが、ケマル以降はそこに近代性を持ち込む事に成功した。アナトリア人という概念の抽出に成功した事が重要であろう。そして現在は軍部主導の国家安全保障会議という組織が強力な権限を有しており、時に内閣に対して政策や人事を指示する形となる。例えば(イスラム主義の)福祉党が政権を獲得した際は憲法裁判所への提訴という形を取って解党する事となった。

 日本人に対してこの状況を理解させるのはかなり難しい。無理に比喩を挙げるとすれば司法のそれかもしれない。選挙の結果地位を獲得した議員や政党がいたとして、三権分立の原則の下、司法府に所属する検察庁が告発し、裁判所が判決を下したら、国民の内心の支持がどうあろうとその結果をまずは信頼するというのがこの国の政治文化である。以前のエントリで多少関連することを書いたが、日本では法務大臣が死刑判決にサインしないことをしばしば批判される。これは単純に立法府・行政府が司法府ほど信頼されてないという事実の発露であるのだが、この側面に関して日本人が自覚的であることは必要なのかもしれない。しばしば政治文化はその国の体臭のようなもので自国では気付きにくい。他国からの介入も良い結果を生み出すことが少ないのは「無理をさせる」事になるからであろう。しばしば有益なのかもしれないが。

 しかしながら、今回の混乱に関しては確かにトルコ人の意見は多様である。AKPはまずまずの運営をしてきたとみなされていること、軍部や官僚エリートは既得権層であるとの見方も強いからだ。その意味で世俗主義者も必ずしも全てEU加盟賛成というわけでもない。

 なお、最近のトルコに関する記事は欧米では比較的手厚く報道されており、BBCなどは分かりやすく背景なども記しており参考になるだろう。(参照2/参照3)下記の引用部分などには注意する必要がある。

The European Commission has already warned that "the supremacy of democratic civilian power over the military" is a prerequisite for any country hoping to join the EU.


 とはいうものの、仏サルコジ大統領の誕生などもあり、トルコのEU加盟は当面進展しない方向で動くだろう。トルコ国内でもEUの交渉態度に不満の声が強い。確かに外部から見れば「嫌なら嫌と最初から言え」というところか。英国は異質なものを抱え込んで平然とする様は他になかなか見られない側面もあり、同情的なようだが。もちろん色々と思惑込みだがそれは言わないのが欧州人のお約束というものだろうか。
posted by カワセミ at 03:35| Comment(8) | TrackBack(0) | 西南アジア・北アフリカ

2007年04月29日

リベリアの政情は安定したのか

 本ブログに関して、個人的な友人に対してはあまり知らせていないのだが、昨日の会話で2名程度の読者は増えることになるかもしれない。まぁ、本人に知らせるちょっとした業務連絡である。なお今回のエントリはそれを受けたものでもない。別に更新が急いで必要なわけでもないし、たまには前向きな話題も書きたいと思っただけである。このリベリアにまつわる話は以前の経緯が陰惨なものであっただけになおさらである。

 安全保障理事会は、4月27日にリベリアのダイヤモンド輸出を解禁する決定をした事が報じられている(参照1)いわゆる「ブラッド・ダイヤモンド」問題は映画の影響もあって国際的にも批判されていた。通常の一次産品(例えば原油が典型)と比較して、商品に至るまでの生産設備の問題が少ないことは、むしろ外国勢力による利権の問題を少なくさせた。正確に言うと政治的障害となる構造ではなかったというところか。いずれにせよこの問題での禁輸はそれなりに機能していたのだろう。出自が価値の一つとなる商品であったのは幸いというべきか。またあまり報じられてないようであるが、昨年時点で木材輸出などに関しては先行する形で認められている。

 例によってリベリアの基本情報を外務省サイトからリンクしておく。(参照2)若干情報が少ないのは残念であるので、手軽に参照可能なものとしてWikipediaのリンクも準備しておく。(参照3)この国は歴史的経緯を簡単にでも押さえておくべきである。いわゆる移民出身の「アメリコ・ライべリアン」が主導的な役割を担っていた事に注意すべきであろう。国旗にもその影響が示されている。私も当時の国際政治の雰囲気に詳しいわけではないのだが、かつてのリベリアはアフリカの中でも最も先進的な地域として国際社会から高い評価を得ていたという印象がある。特に70年代あたりはそうだったのではないか。中高校の教科書レベルでも船舶の登録数が屈指などという記述もあったようだ。ただ遠隔地の外国に起源をもつ少数支配という意味で当時の南アフリカ共和国と共通するような面もある。もちろん南アはシステムを固め過ぎていたので目立つという面はあった。しかし肌の色などは無関係であると言えるのだろうし、国際社会の評価は極端に違ったと思わざるを得ない。

 いずれにせよ、それなりの国際的評価があった時代と比較し、その後発生した内戦は悲惨で、少年兵・性的奴隷・民間人の虐待など陰惨を極める。上でやや批判したが相対的な人道性という意味で一定の現実解がそれまでにあった事は認めざるを得ないような事態だった。当時の国際社会の反応も鈍いものであったが。

 現在のサーリーフ大統領は、アフリカ初の女性大統領という事でニュース性もあったのか、各国からの就任式への参加も多かった。ただ米国はかなりリベリア和平を重視しており、この時もライス国務長官、ローラ大統領夫人が出席していた。経済畑で実務に強く、かつ強固な信念を持つ指導者として評価は高いようだ。米国のサポートを得られたという点も大きいのであろう。この付近(参照4)を読むとライス国務長官との相性も良かったのかなと思わなくもないが。一部引用する。

Liberia. What a promising future Liberia now has under the excellent leadership of Ellen Sirleaf Johnson, amazing possibilities there because the United States, with our African colleagues, insisted on Charles Taylor leaving and being brought to justice. And then it's maybe not remembered that the Marines actually secured the airport and the seaport to give a possibility for an end to that civil war, then a transitional government, and then the election of this fine president. And I was just at a conference in which we have pledged significant funding to Liberia, including debt relief, that the United States will lead. We were also active in ending the conflict in the DROC.



 問題は山積しているが、まずは前進していると言えるのであろう。
posted by カワセミ at 01:48| Comment(4) | TrackBack(0) | サハラ以南アフリカ

2007年04月12日

スーダン情勢に関する観察(5)国連人権理事会の無力

 既に様々なページで話題になっているが、Google Earthはダルフール紛争に関する新レイヤーを追加したと報じられている(参照1)この試みは大変に有意義なものだ。情報とそれによる人の意識の変化のみがこの種の問題を解決するからだ。本ブログでも何回か取り上げているこの問題だが、簡単ながら状況の推移を記しておきたい。

 前回のエントリでICCの対応を取り上げた。その後戦争犯罪であることは間違いないということになり、代表的人物として容疑者も名指しして引き渡しを求めることになった。しかしスーダン政府はこれを拒絶している。(参照2)これは政治的に大きな情勢の変化と言えるだろう。信頼性の高い人物の情報がソースとなり、公式な国際機関からの正式な要請を拒絶したという事実が残るからだ。

 にもかかわらず、昨年国連の組織改編の一環として成立した国連人権理事会の対応はお寒い限りである。理事国の顔ぶれはこのようなものである。(参照3、下の47ヶ国)例えばこのあたりのページ(参照4)は分かりやすく書いてあるが、要はとにかく政治的な思惑が先行し、人権問題の対応という本来の責務は二の次になってしまうということだ。安保理の代替とは無茶だが、使える組織は使うというのは世界的に見れば常識だ。「品のいい」国は少数派なのだろう。日本も過去の歴史問題を引き合いに出されたりしているが、例えばここにあるようにスイスも人種差別国だというような表現で貶められたりする事がある。勿論大方において非難する国の人権の問題のほうが比較にならないほどお粗末であるのだが。

 ダルフール問題を扱った時の内容はこのようなものであるが(参照5、中ほどにダルフール関連、ページは30 March 2007時点)言うまでもなくここに形容されているような建設的なものであったとは言い難い。このページ全般を読むと理解出来ると思うが、本来の意味で人権を重視する民主主義国が少数派になって何も進まない状況である。この人権理事会、主要国で唯一反対していた米国の予想がそのまま的中したのは何というべきか。もはやジョークと表現しているメディアもあるがその通りであろう。

 ダルフール問題では、こちらの記事(参照6)が今少し人権理事会の状況をまともに伝えているだろう。重要なキーワードが次々削除されて見事に骨抜きになる様子が伺える。最後付近のこの文章が、的確に現状を表しているだろう。

If, as some diplomats claim, the EU draft is the strongest possible text that could win a majority vote in the Council, that in itself is an indictment of the body, confirming its inability to credibly address the world's greatest ongoing human rights crimes.


 そして現状はというと、この有様にスーダン政府はタカをくくったのか事態は悪化する一方である。隣国チャドとの紛争は以前から継続しているが、チャド側で200-400人と推定される多くの死者が発生したと報じられている。(参照7参照8)せめてこれが事態打開の糸口になればと言うくらいしか無い。中国により一層の関与を求める声も強くなっているようだが。
posted by カワセミ at 02:01| Comment(8) | TrackBack(0) | サハラ以南アフリカ

2007年04月09日

米韓FTAへの所感

 米国と韓国がFTAを締結することで合意したと報道されている。今まで交渉の難航がしばしば伝えられており、悲観視されていたものが一転合意となったことから話題となっている。コメや自動車が大きな争点として取り上げられていたが、FTAの内容は全体としてどのようなものであるのだろうか。

 朝鮮日報の記事が比較的うまくまとめており、概観するには参考になるだろう。(参照1参照2)かなり広範な要素を含むFTAであることが分かる。韓国には確かに農業問題などの政治的に困難な部分があるだろう。しかし全体としては有利なものであることは間違いない。それでは米国の立場はどのようなものであるのか。

 USTRは経済規模の大きなFTAの妥結であることを強調している。(参照3)しかしこのFTAの興味深い点は経済効果だけでなく考え方にあるように思う。PDFでやや詳細に各項目に関して言及しているが、農業分野、製造業分野もさりながら、それ以外の項目に関して興味を惹かれる。(参照4)P3の法的枠組に関して記述された部分などはそうであろう。一部引用する。

Important New Protections for U.S. Investors

. Establishes a stable legal framework for U.S. investors operating in Korea. All forms of investment will be protected under the agreement, including enterprises, debt, concessions and similar contracts, and intellectual property. With very few exceptions, U.S. investors will be treated as well as Korean investors (or investors of any other country) in the establishment, acquisition, and operation of investments in Korea.

. Pursuant to the Trade Promotion Authority (TPA) statute, the agreement draws from U.S. legal principles and practices to provide U.S. investors in Korea with substantive and procedural protections that foreign investors currently enjoy under the U.S. legal system. These include due process protections and the right to receive fair market value for property in the event of an expropriation.

. The investor protections are backed by a transparent, binding international arbitration mechanism, under which investors may, at their own initiative, bring claims against a government for an alleged breach of the chapter. Submissions to investor-state arbitral tribunals will be made public, and hearings will generally be open to the public. Tribunals will also be authorized to accept amicus submissions from non-disputing parties.


 また、その直後の韓国市場に対する記述の部分も引用する。

An Open and Competitive Telecommunications Market

. The agreement includes a commitment by Korea to permit U.S. companies to own up to 100 percent of an operation in Korea.

. It also ensures U.S. operators cost-based access to the services and facilities of dominant Korean phone companies, including their submarine cable stations, facilitating U.S. companies’ ability to build competing networks to serve customers in Korea.

. The FTA also includes groundbreaking safeguards on restrictions that regulators can impose on operators’ technology choice, particularly in wireless technologies, where U.S. service and equipment suppliers have strong competitive advantages.


 これらの部分だけが重要というわけではなく、象徴的な部分であると考えて欲しい。一方に、まだ産業社会として成熟していない国に対する啓蒙というような、大局的に見れば恩恵を与える部分があり、他方に自国の競争力の強い産業に関して自由化を求める実利の追求がある。これは米国の伝統的な政策であることは言うまでもない。

 しかし、弁護士やコンサルタントといった司法サービス、デリバリーサービスなどの流通関連、医療や製薬、通信事業とこの文書で記されているものを列挙すると、日本においてはどれ一つとっても政治的なハードルがとてつもなく高い事が分かるであろう。中でも免許系とでもいうような産業に関しては日本の競争力は低く政治力も強い。これは韓国でも事情は似ているが、行政府は大統領制であるというのと、必ずしも国内だけで完結している産業が少ないという事情もある。

 今回の米韓FTAでは韓国国内の保守層が歓迎している。しかしこれは、逆説的だが左派勢力だから成立したという側面もある。左派勢力の反米は多分に情緒的で、政治上の利害関係はむしろ右派勢力が多く有している。つまり行政府のトップが決断すればむしろ政治的障害は少ない。そして今回のFTAは、内容を見ればそれなりの合理性があり、双方に利益があるものだ。交渉過程での高め玉発言はいくらでもあることである。

 開城工業団地の問題は先送りされたような印象がある。しかしここで韓国側の立場として示された「市場で利益を上げることの重要さを北朝鮮に理解させることが重要」という発言は、そう非常識なものではない。実際米国は冷戦期に旧東側に対して同じような手法で風穴を空けていった。米国の成功体験に絡めるような交渉をしたのではないか。もちろん現状では慎重に管理されている項目ではあるが、例えば麻薬や偽札問題を緩和させるための取引に使うとかもあるだろうし、将来の統一朝鮮の初期段階での安定化方策の一つとして温存するという面もある。もちろん短期的な北朝鮮への経済制裁にはマイナスであるが、どちらにせよ効かないのであれば管理可能な範囲としておくという考え方もある。むしろ直接北朝鮮の国民の口に入るルートを作るというのが米国の伝統的な考え方だと思うがどうだろうか。

 いずれにせよ、既に成熟した経済を有している日本はこれほど身軽ではない。以前のエントリで挙げた租税条約のような手は打っているのだが政治的障害が実態以上に強すぎる。EUとなれば日本に加えて域内での合意形成が大変で、大規模なFTAはさらに難しいはずなのに交渉を進めている。総論はともかく各論となるとマイナス面を過剰に報道するマスコミにも責任があるが、短期的な混乱を嫌い過ぎる文化的な側面が強いのだろう。
posted by カワセミ at 00:29| Comment(5) | TrackBack(0) | 経済一般

2007年04月02日

北アイルランド問題のささやかな進展

 紛争が断続的に続いている北アイルランドであるが、北アイルランドの議会を構成する代表的な政党、民主統一党(DUP)のペイズリー党首とシン・フェイン党のアダムズ党首が会談し、自治政府を再開する事で合意したと報じられている。(参照1)今回の和平は長続きするのだろうか。

 この北アイルランド問題、アイルランドとの間で昔から続いてきた伝統的な紛争の延長に位置し、宗教対立が背景にあると理解する人もいるが、必ずしもそのように解釈すべきではない。現在の国境の状態を直接規定した英愛条約にしても1921年と充分に近代のものであり、シン・フェイン党に近しいIRAは1969年の分裂により日本でIRA暫定派と表記される(以降英語圏に多いPIRAと表記)武装組織が成立している。これは様々な思惑が錯綜する政治路線の現代的な対立問題と解するべきであろう。ちなみにPIRAのテロに自爆テロは確認されていない。あくまで政治活動の一環であり、宗教的情熱から発生しているわけではない。そしてその政治的意識とは、1960年代の米国での公民権運動の影響が大きいとされている。実際、IRAの分裂もこの時期である。確かに差別されていたのはカトリックであるが、宗教というより人権の問題というほうが正確であろう。(しかしこの1960年代における紆余曲折を経た民主主義の進歩は高く評価されるべきだ。当時のそれが日本において実りが少ないことをもって民主主義国としては二線級であると欧米人が言うことがあるが、少々反論が辛い。日本はむしろ穏健なコンセンサスによりそれをかなり代替しているのであり、事情が違うのは確かにその通りだが、様々な問題を隠蔽したのも否定できない)

 話がそれた。さて政治の問題となれば、北アイルランドにおける選挙結果はまず参照しなければならない。Wikipedia(参照2)をリンクさせていただくが、DUPとシン・フェインというそれぞれ強硬な立場を示している政党が躍進を継続している。(過去の選挙結果などを参照)これは住民の要求が先鋭化してきたというより、実質的な交渉能力を評価するようになったということであろう。賢く振舞う統治能力の高い(元)タカ派同士の合意はしばしば紛争を終結に導くものであるが、今回もそうであると良いのだが。また、英国に起源をもつ政党は歴史的に零落してゆき、北アイルランドに地盤を持つ政党が躍進したという事実も把握しておく必要があろう。また保守党が直接北アイルランド議会に議席を持とうとする試みも失敗している。現実の住民意識として政治単位としての独立性が高い事は間違いない。その上での政治的選択がどうかということである。こういう事実を前にすると例えば沖縄独立などが100%無いことも良く理解できる。現地オリジナルの政党への支持はほぼゼロである。もちろん日本では沖縄に限らない話だ。

 PIRAの穏健化は様々な要因があろう。経済的に引き合わないという現実的な計算も浸透してきたようだ。そしてこのPIRAの資金の多くは、アイルランド系米国人、特にニューヨーク周辺から多く得てきたとされている。金額に関する確かな情報など確かめようもないが、数百万ドル程度までは間違いないという意見が強い。そしてこのPIRAへの金銭的支援は9.11以降ニューヨークで支持を失い激減した。米国の態度も厳しくなった。ただ武装闘争の放棄宣言以降米国はPIRAのテロ組織認定は解除している。

 経済情勢も状況改善に役立ったようだ。ピーク時に17.2%に達した失業率は2001年段階で6.2%まで低下している。(参照3)現在では4.5%とEU平均よりも低く(参照4)経済の安定の継続が背景にもなっているのは間違いない。

 そのような背景があるとしても、今回の和平の進展に関してブレア首相を称賛する声もある。例えばこのようなコラム(参照5)は賛同するところ多い。最後の部分などは特に。

When he came to office in 1997, an inexperienced and untested leader, it would have been very easy for him to run away from grappling with what had been the most intractable problem in the politics of the British Isles for decades. He had many other ambitions to which Northern Ireland could have been subordinated.

He has displayed courage, ingenuity and persistence. He breathed new life into the peace process and then sustained it through all those exhausting years. In the tireless effort he has devoted to getting to a settlement in Northern Ireland, Mr Blair has showcased his best qualities: his negotiating skills, his flair for creative ambiguity, a certain degree of deviousness, his capacity to take risks, and sheer effort of will.

Last Christmas, the press jeered at him for spending his holiday in the Miami mansion of Robin Gibb of the Bee Gees. To tell the truth, I thought it was pretty naff and ill-judged as well. I laughed like you when 'Stayin' Alive' was mockingly played as the soundtrack for his premiership. As it happens, he spent much of that holiday keeping the peace process alive. Every day but Christmas Day, he was on the phone to Northern Ireland's political leaders, working them towards agreement. Tony Blair has been looking for a high on which to depart from Number 10. He has now got a very great one from this triumph of politics over decades of hate and murder.


 長く続いた紛争はしばしば人をそれに慣れさせる。有利な条件が発生しても人為的な介入が無ければ平和は訪れないか、リーダーが老いて交代する数十年後であったりする。ブレア首相の評価は人により様々であるとしても、様々な問題に何かをしなければならないという決意があり、そして行動したこと、何もしない冷笑主義者と最も遠い距離にあったことは誰もが認めざるを得ないだろう。ユーゴ紛争、イラク戦争、この北アイルランド問題と、驚くほど理念的かつ実務的だ。結局歴史は、そのような人物が作るのだろう。
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2007年03月20日

歴史認識問題の難しさ(補足)

 雪斎殿のブログは概してコメント欄も含めて冷静な意見が多いのだが、今回の従軍慰安婦、米下院の決議に関わるエントリは少し変な方向に議論が流れているという印象がある。コメント代りに前回の私のエントリの補足も兼ねて多少意見を付け加えてみたい。

 まず、米国の意図はあまり邪推しないほうがいいと思う。あの国はどこそこの国の政権を転覆すべしという意見を堂々と連邦議会の議員がインターネット上で公言する国柄である。副次効果に関しては大声で言わないというのはあるかもしれないが、原則部分はいつも明確に示されている。今回は純粋な人道問題扱いという事だ。別段米国議会として珍しい事ではない。

 問題はコミュニケーションで、これは現在の日本の保守政治家全般が今回の問題をうまく切り回せていない印象がある。例えば、先の雪斎殿のエントリなどもそうであるが、当時の貧困地域の貧しさを理解してもらおうという意見が多い。これも普通にやると見事に失敗しそうだ。というのは、慰安婦を高給で雇っていたという事自体を別途主張しているからだ。当時の日本の軍は、例えば現在の途上国とか、一時期のトルコなどと同様なのだが、権力を持ち財政に大きな影響力を持っていた。慰安婦に高額な報酬を払う一方、農村の貧困の撲滅には力を入れなかったのかと反論されておしまいである。なまじ兵器だけは世界屈指のものを揃えていただけに苦しいところである。要は当時の負の部分の追認という印象を与えることを避けなければならないのだが、それを自覚しながら閣僚が発言しているとも思えない。

 また、この問題に関してだけではなく人権問題全般において、日本人の米国に対する考え方が2種類あることを意識しておくべきだろう。それは、他国の人権問題への米国の介入を、本質的に是としているか、常に否とは思わないものの基本的に慎重であるべきと考えるかの違いである。そして、国会議員も含めて双方の意見がある事は民主主義社会として当然としても、内閣でこの立場の統一が意識されず各人が勝手に自分の意見を主張していると間違いなく事態は紛糾する。

 私は基本的に前者の立場の考えであるので次のようなことを考える。この問題に対して同様に考える日本の政治家が米国に話す機会があるとしたら、冒頭に次のような言葉を挟むのはどうだろうか。「この種の人権問題に関与することは米国の大きな長所の一つである。日本と周辺諸国には意見の相違があるが、米国の関与で問題が和らぐとしたらそれはとても喜ばしい」と。シーファー大使の意見にしても、「人権問題を重視する米国の考えは我々も賛同するところ多い。しかし一部に誤解があるようだ」とでも言っておけば良い。またこれは非常に残念な事でもあるのだが、証人の偽証を追求する人に限って、その偽証の最大の被害者は、実際に当時深刻な人権侵害を受け、その事実が隠蔽されかねない人であるとの認識が薄い。仮に99%が偽証であっても残りの1%に対して責任を負っているという原則を示しておかないと、人権問題そのものに冷淡であるという印象を与えるであろう。

 ところで安倍首相はどのような考えの人なのであろうか。本質的にこの種の問題への米国の関与を必ずしも喜ばない人なのかもしれない。(小泉前首相は是としているかもしれない。その意味でも確かに米国と相性は良かったのだろう)それならそれで別の方法のアプローチを取るしかない。ただその一方で、拉致問題は米国のこの種の関与主義がなければ協力関係も難しい。一つ言えるのは、変な取引を持ちかけたりしないことだ。歴代の自民党の何人かの首相はひどい事になっている。やはり安倍首相の場合、大変でもまともに説明していくしかないのだろうなと思う。

 また当然の事であるが、事実に関する認識は指摘しておくべきだろう。これはアカデミズム的なアプローチを前面に出せば良いだけの話だ。それは日本が英文テキストを詳細に積み上げるしかないだろう。現在の状況にぶつぶつ言っても「違うならなぜ反論しないのだ?」と切り返されてこれまた終わりである。

 また、日本人にはなかなか難しい事かも知れないが、この種の問題への対処をあまり面倒がらないように心掛けるべきであろう。この種の認識ギャップは人の世に当然あること、まして外国との間ならば、と淡々と処理していくべきだ。さすがに楽しみながらというまでには至らないかもしれないが。
posted by カワセミ at 00:44| Comment(11) | TrackBack(0) | 世界情勢一般