米大統領選は間もなくである。長い選挙戦も終わり、次期大統領が決まる。そうなる前に一言くらいは書いておきたいと思う。
現在の所オバマ氏が優勢と報道されている。もちろん選挙の常として終わるまでは分からないが、州ごとの情勢で見るとマケイン氏はかなり苦しいようだ。金融危機以降はマケイン氏にミスがあったかもしれない。米大統領選は加点での評価と減点部分を厳しくチェックされるという二つの側面がある。そして今回の両候補、いずれも歴代の大統領候補の中ではかなり魅力的な方ではないだろうか。加点法ではいずれも魅力があるように思える。しかしながら、減点につながる部分を厳しく管理し、最小限に押さえ込んだいうことで、オバマ氏に軍配が上がるという結果に結びつくのではないだろうか。そして、恐らくは選挙後も見据えてのことであろうが、後で自分自身の言動で選択肢が狭まることも注意深く回避しているようにも見える。
オバマ氏の公式サイトであるが、issuesの部分を見ると興味深い。これは本人が語るメッセージもそうだが、概して倫理的な部分ではむしろ保守的なトーンを保っている。単にアルファベット順に並べているにも関わらず最初がCivil Rightsなのは今回の選挙戦の象徴かもしれない。実際に語っている政策はややリベラルな面もある。その一方でDefensの内容を見るとこれも興味深い。内容はブッシュ政権で出てきたテーマを忠実に継承し、最終的な仕上げの洗練化に注力するように見える。現国防長官の打ち出した拡大路線も継承するようだ。"Finally, it will establish the legal status of contractor personnel, making possible prosecution of any abuses committed by private military contractors."などは別にどうと言うこともないのだけど、裏方の仕事というより明確に計算できるリソースに組み込む意図に見えなくもない。
またimmigrationの部分も、ここでは何も具体策を語ってないようにも見えるが、うまい表現になっていると思う。米国人の皮膚感覚としては、恐らくではあるが、現状がうんざりするものになっているのでそれなりの現実解を示せ、ということではないだろうか。管理しようとだけ簡潔に述べているのはある意味反則ではある。Veteransもそれに近いかもしれない。しかし精神的ケアを重視する論調にしているなど、過不足無いコメントとなっている。
マケイン候補の公式サイトと比較すると面白い。同じissuesの欄はずっと詳細に具体的に記している。内容も手堅く、例えば同じVeteransの欄を見るとずっと具体的である。他の項目もそうなのであるが、選挙戦という意味ではどうだろうか。これは公式サイトの問題に限らないのだが、選挙でどちらかの候補を選択するという場合、全体としての倫理性、合理性、タフさ、国民との対話能力といった事が重視される。メッセージはシンプルで、かつすべての課題に関して同じように倫理的で、合理的な対処能力があると見なされる事が求められる。
今までの経緯を見ると、米大統領選がここまで長い時間をかける事にはやはりそれなりの意味があるように思える。広大な国で、物事が浸透するのには時間がかかる。両党の候補者は、私見ではもっとも人間的にはまともそうな人が選択されたように見えた。そしてどのような候補にもそれを懐疑的な目で見る人はいるものだが、報道が繰り返され、多くの人がその個人の様々な面を観察するだけの充分な時間が与えられることは、受け入れ可能なリスクを判定するための不可欠な条件ではないだろうか。
結果として、オバマ候補は対外的に道義的には正しいと見られながらもシビアに国益を追求する大統領になるかもしれない。そう考えると米国的と言うよりはカナダのそれに近いかもしれない。うまくいかない案件に対しても、最終的には管理可能な範囲で失敗を最小化するような手腕は見られるかもしれない。
あと12時間くらいで正式な結果は判明するだろうか。マケイン氏が当選したとしてもそう悪い大統領ではならないように思える。ただどういう結果になったとしても、私にとっては落ちた候補が惜しいなと思う選挙である。まぁ、日本人が外国の選挙に関心を持ち過ぎだと言われれば、返す言葉もないのだが。
2008年11月04日
2007年01月13日
米軍の規模、再拡大へ
明けましておめでとうございます、というのも遅いくらいまたまた間を空けてしまった。ロシア絡みとか、微妙に言いたい事は色々あるのだが今ひとつ考えがまとまらない。ちょうどというか、エレニさん所で会話していたのだが、彼女もこの地域に関しては同じような感覚があったのかもしれない。ロシア含む欧州は日本人の腹芸にも似た側面があったりするので日本人もそれなりの知識人が丁寧に取材すれば分かるはずなのだが。
ブッシュのイラク新戦略に関しては様々な論者がコメントしているし、溜池通信殿でも取り扱っているので私が加えるような事などは無い。国内マスコミでの報道は、一時的な増派の部分を放置して報道してきたツケが回ってきた形だがもはやいつもの事でもありどうでもいいように思う。
むしろそれに関連して、米軍の規模そのものを拡大するというニュースがあり、そっちの方に興味を惹かれた。国防総省としてはこのように発表している。恒久的に陸軍と海兵隊双方を増やすというのだ。特に後者はかなり野心的という印象がある。とはいえ、元々クリントン政権時に米軍の規模は大きく削減されており、それを少々元に戻しただけという見方はあろう。しかしその間にRMAはかなり進行しており、戦力自体は強化されている。結局RMA信奉者のラムズフェルド氏の辞任は米軍再拡大を意味したのだが、そういう解釈は早期からされても良かったかもしれない。
この決定に関してはもう少し細かい報道もある。(参照)軍事的見地から持続可能な方策としてのルール変更であったようだ。一部引用する。
9.11直後のアフガンへの対応時から問題点は指摘されていた。今回の決定はイラクへの対応のための直接的な政策というより、もう少し狭い地域での小規模な制圧作戦を長い時間持続的に続けるためのものという事であろう。近未来の風景となれば、イスラエルを抑えるためにレバノンの一部地域で展開とか、まぁあくまで例だが、要所に当たるポイントでの活動を順に積み重ね、何十年もしたら広い地域がそれなりに民主化していたというような構想をしているのかもしれない。イラクへの増派も米軍の規模拡大も、今回は新国防長官が軍の意向を汲んで、というプロセスを辿っているので民主党の反対も通らないであろう。なまじ占領統治の技術を上げてしまうとまた世界は悩むことになりそうだが。
ブッシュのイラク新戦略に関しては様々な論者がコメントしているし、溜池通信殿でも取り扱っているので私が加えるような事などは無い。国内マスコミでの報道は、一時的な増派の部分を放置して報道してきたツケが回ってきた形だがもはやいつもの事でもありどうでもいいように思う。
むしろそれに関連して、米軍の規模そのものを拡大するというニュースがあり、そっちの方に興味を惹かれた。国防総省としてはこのように発表している。恒久的に陸軍と海兵隊双方を増やすというのだ。特に後者はかなり野心的という印象がある。とはいえ、元々クリントン政権時に米軍の規模は大きく削減されており、それを少々元に戻しただけという見方はあろう。しかしその間にRMAはかなり進行しており、戦力自体は強化されている。結局RMA信奉者のラムズフェルド氏の辞任は米軍再拡大を意味したのだが、そういう解釈は早期からされても良かったかもしれない。
この決定に関してはもう少し細かい報道もある。(参照)軍事的見地から持続可能な方策としてのルール変更であったようだ。一部引用する。
But Pentagon rules limited those troops to no more than 24 months of active-duty service every five years. Part-time soldiers who had been to Iraq once could be sent back only if they volunteered.
The result is that only about 10 percent of the 522,000 soldiers in the Army National Guard and Army Reserve are available for service, and more than half of the units that deploy now have to rely on volunteers from other states in order to fill their ranks, military officials say.
9.11直後のアフガンへの対応時から問題点は指摘されていた。今回の決定はイラクへの対応のための直接的な政策というより、もう少し狭い地域での小規模な制圧作戦を長い時間持続的に続けるためのものという事であろう。近未来の風景となれば、イスラエルを抑えるためにレバノンの一部地域で展開とか、まぁあくまで例だが、要所に当たるポイントでの活動を順に積み重ね、何十年もしたら広い地域がそれなりに民主化していたというような構想をしているのかもしれない。イラクへの増派も米軍の規模拡大も、今回は新国防長官が軍の意向を汲んで、というプロセスを辿っているので民主党の反対も通らないであろう。なまじ占領統治の技術を上げてしまうとまた世界は悩むことになりそうだが。
2006年11月12日
2006年米国中間選挙
世の中での扱われ方も大きいし、既に様々な人がコメントしているので書くこともあまりないが、やはり節目でもあるので軽く感想を記しておく。
まず上下両院で民主党が過半数になったという事であるが、すっきりした結果であり政治の構図に紛れが無くなったという意味で良かったと思う。そもそも改選議席から考えて次の2008年においては共和党が上院の多数派を占めるのは困難であろう。また、今回の選挙戦の経緯を考えると、ブッシュ大統領がここで「潔く」しておく事は有益であろう。
選挙後のブッシュ大統領の記者会見のリンクを示しておく。ここでの声明に限らず、イラク統治の失敗ということを「敗因として強調」している。もちろん米国の多くの有権者の期待する水準を大きく下回る実態であり、低く評価された大きな原因であるのは間違いない。しかし今回の選挙戦の経緯は、広く知られているようにフォーレー元下院議員のスキャンダル、金権腐敗などのような政治的不道徳がターニングポイントとなったものだ。それが共和党の信頼を大きく損ね、有権者のバランス感覚により野党民主党に投票したという事であろう。実際、今回落選した議員は品行方正とも言い難い人物がままいる。上院の議席数がギリギリとはいえ、ここで労力をかけるのは今後に禍根を残しかねない。いわば政治的損切りみたいなものであろうか。
そのように考えると、先のブッシュ大統領の記者会見がスキャンダルなどの件をほとんど語っていないのは興味深い。これは多くの共和党議員に「恩を売った」ようなものではないだろうか。両党の融和を第一に語り、イラク問題とラムズフェルド国防長官の辞任が強調されている。ラムズフェルド氏の辞任は予定されていた事であるし、実際、イラク問題で民主党が素晴らしい解決策を持っているとは思いがたい現状、敗因はそれである、じゃあ民主党側はどうなのかとボールを投げ返すのはなかなか見事な対応だろう。いずれにせよ超党派的な結束はここで示しておくのは適切だ。
それにしても、ラムズフェルド国防長官をネオコンに分類して語るマスコミの不見識はどうにかならないものか。RMAを占領統治に応用したのが失敗であり、ネオコン派はむしろ当初から巨大な関与を望んでいた。そうであるから結果として政治的な命脈は絶たれたわけではなかった。もっとも大規模な派兵をしようにも米軍は湾岸戦争時と比較してかなりの兵力削減をやってしまっている以上、不可能であったのかもしれない。で、これから民主党との超党派でとなるとどのような選択肢があるだろうか。NATO や日本などの同盟諸国に追加派兵を要求、くらいしか思いつかないのだが。そもそも多くの問題を米国だけで抱え込み過ぎるという文脈の批判も根強いのだから。
まず上下両院で民主党が過半数になったという事であるが、すっきりした結果であり政治の構図に紛れが無くなったという意味で良かったと思う。そもそも改選議席から考えて次の2008年においては共和党が上院の多数派を占めるのは困難であろう。また、今回の選挙戦の経緯を考えると、ブッシュ大統領がここで「潔く」しておく事は有益であろう。
選挙後のブッシュ大統領の記者会見のリンクを示しておく。ここでの声明に限らず、イラク統治の失敗ということを「敗因として強調」している。もちろん米国の多くの有権者の期待する水準を大きく下回る実態であり、低く評価された大きな原因であるのは間違いない。しかし今回の選挙戦の経緯は、広く知られているようにフォーレー元下院議員のスキャンダル、金権腐敗などのような政治的不道徳がターニングポイントとなったものだ。それが共和党の信頼を大きく損ね、有権者のバランス感覚により野党民主党に投票したという事であろう。実際、今回落選した議員は品行方正とも言い難い人物がままいる。上院の議席数がギリギリとはいえ、ここで労力をかけるのは今後に禍根を残しかねない。いわば政治的損切りみたいなものであろうか。
そのように考えると、先のブッシュ大統領の記者会見がスキャンダルなどの件をほとんど語っていないのは興味深い。これは多くの共和党議員に「恩を売った」ようなものではないだろうか。両党の融和を第一に語り、イラク問題とラムズフェルド国防長官の辞任が強調されている。ラムズフェルド氏の辞任は予定されていた事であるし、実際、イラク問題で民主党が素晴らしい解決策を持っているとは思いがたい現状、敗因はそれである、じゃあ民主党側はどうなのかとボールを投げ返すのはなかなか見事な対応だろう。いずれにせよ超党派的な結束はここで示しておくのは適切だ。
それにしても、ラムズフェルド国防長官をネオコンに分類して語るマスコミの不見識はどうにかならないものか。RMAを占領統治に応用したのが失敗であり、ネオコン派はむしろ当初から巨大な関与を望んでいた。そうであるから結果として政治的な命脈は絶たれたわけではなかった。もっとも大規模な派兵をしようにも米軍は湾岸戦争時と比較してかなりの兵力削減をやってしまっている以上、不可能であったのかもしれない。で、これから民主党との超党派でとなるとどのような選択肢があるだろうか。NATO や日本などの同盟諸国に追加派兵を要求、くらいしか思いつかないのだが。そもそも多くの問題を米国だけで抱え込み過ぎるという文脈の批判も根強いのだから。
2006年09月12日
米国は核の優位を確立したのか
昨今、中国の核開発が進展し、米国の核の傘は機能するのか怪しい、日本も核武装をという論調が一部で見られる。しかしそれは政治的思惑からの発言と観て良いだろう。客観的にはいささか違う様相を呈しているようだ。
今回紹介する論文は、最近のForeign Affairsの論文の中でも比較的話題になったものである。ロシアの指導者はこれを読んで衝撃を受けたとされているようだ。こちらで公開されている。ちなみにForeign Affairsの論文はかなり多くが雑誌「論座」で和訳されたものが掲載されているが、これに関してはなぜか扱われていない。近辺の号にも見当たらないことは確認したので見落としではないと思う。少なくとも有名なものは掲載する方針であるはずなのでこれにはやや疑問だ。朝日新聞社の雑誌ということもあり、他の日本語の論説は全体的に左派的な論調が目立ち、日頃から必ずしもForeign Affairsとの親和性は高くない。かといって恣意的な選別をしているとも思いたくないのだが。なおこの論文、右派にとっても左派にとっても少々都合の悪い文書であるような気はする。
さて内容だが、全体として、米国はロシアや中国に関してほぼ完全な核の優位を確立していると論ずるものだ。かつてのMADの理論は過去のものとなり、米国の先制攻撃で報復能力をほぼ奪える形で主要な戦力を壊滅できるとするものである。内容は読んでの通りであるが、部分的に引用してみたい。
上記の現状を述べた後、米国の政治的態度の変化に関する懸念がまず言及されている。恐らくそれが最も議論を呼ぶのであろう。タカでもハトでもないフクロウ派の懸念はリアリストのものだ。
1ページ目最終のこの付近、米国の兵器の性質を典型的に示している。日本であれば当初から完成度の高いシステムを組み上げるであろう。ただ、特定用途への最適化を徹底するがそのため転用が難しいものにしてしまうかもしれない。配備してから改良や使い回しで段階的に性能が向上していくこの性質は、米国企業の民生品にも似たような例が多い。
次いで2ページ目でロシアの核戦力について触れているが、稼働率が極めて低いとされている。日本のように150年間基本的に工業力が向上し続けた国においては、この種の後退は実感を持って受け止めにくいかもしれない。その後の具体例もさりながら、
このレーダー網の穴は致命的と言える。実際、先日の北朝鮮のミサイル実験さえ捕捉出来なかったことにより、実態が証明されている。
簡単なモデルを採用して検証しただけでもこのように結論付けられるとしている。実際にワシントンが行う戦略はより有効であるだろうと。
3ページ目で中国に関して触れているが、近代化は遅々として進んでいないという認識のようだ。むしろ通常戦力に焦点が合わせられているとしている。
この論文のポイントとなっている米国の思惑であるが、テロ組織への対応よりロシアや中国への優位確立に主眼があるとしている。ただこれは議論の余地があるかもしれない。
そしてミサイル防衛に関して、むしろ攻撃的な意味合いがあるとしている。ただこれは、テロ組織やテロ支援国家が可能かもしれない数基のミサイルに関する対策と結果的には用途が重なってくる。同盟国への対策という面もあり、総合的に観てそのような作用もあると考えるべきかもしれない。
この論文は事実関係がという事より、見積もられる仮想敵国の反撃能力をどう評価するかという点に関する議論の対象となるのかもしれない。そして最も厳しい基準を要請する人に対しても対応するのがミサイル防衛であると。そして実際の攻撃効果の試算には様々な要素が入り、もう少し米国が不利な形での結論があり得るかもしれない。しかし、全体としてMADが機能しなくなりつつあるという方向性は現出していると考えるべきであろう。
ここで、同盟国である欧州や、特に日本が考えておかなければならないことは何だろうか?米国が核武装国の脅迫により妥協するのではないかという懸念があるが、それは実際の所余り心配することは無いだろう。より深刻な問題は、米国が妥協しないことによって出現する事態である。米国は安全であるとして、その時の米国に対する脅迫の道具としては、上記論文で扱われていない中・短距離ミサイルによる同盟国への攻撃であろう。ただそれを理由に米国が大幅な政治的妥協をする事は無い。仮に日本が、米国が妥協してくれたほうが自国にとって助かるというような場合でも(例えばダーティーボム程度の被害なら大雑把な米国は頓着しない、などの例がある)あっさり却下される、という所ではないだろうか。もちろん同盟国がそうならないようにするためのツールという側面もあるミサイル防衛ではあるし、日頃からの対話による同盟の深化も重要だということではあるが。
ともあれ、日本が核武装を必要とする文脈は、強い立場にあることで強硬に振舞いたがる米国と距離を置き、日本が独自の判断で時に妥協的に対処するための余地を発生させるため、となる。その意味で実際の安全保障の強度や政治的立場の強化というよりは政治的フリーハンドという面に主眼が置かれていると言えるのではないか。結果的にこれは右派勢力の願望と部分的に一致するが、主張している議論とはやや距離が発生しているかもしれない。独自の抑止力が総合的に見てどのような政治的作用をするかは複雑な問題ではある。
ところで、このブログの最近のコメントスパムが気になっているが、ちょっと対策には手間がかかるかもしれない。少なくとも最新のほうの記事は受け付けを停止することはしない。過去記事に関しては一部閉じているが、各エントリに対する手作業なので途中で放り出している状況だ。コメントを寄せていただける方は、出来ればテキストのバックアップをしていただいて、すぐ再投稿可能な状態にしておいていただけると助かります。こちらでも極力バックアップはしておきますが。
今回紹介する論文は、最近のForeign Affairsの論文の中でも比較的話題になったものである。ロシアの指導者はこれを読んで衝撃を受けたとされているようだ。こちらで公開されている。ちなみにForeign Affairsの論文はかなり多くが雑誌「論座」で和訳されたものが掲載されているが、これに関してはなぜか扱われていない。近辺の号にも見当たらないことは確認したので見落としではないと思う。少なくとも有名なものは掲載する方針であるはずなのでこれにはやや疑問だ。朝日新聞社の雑誌ということもあり、他の日本語の論説は全体的に左派的な論調が目立ち、日頃から必ずしもForeign Affairsとの親和性は高くない。かといって恣意的な選別をしているとも思いたくないのだが。なおこの論文、右派にとっても左派にとっても少々都合の悪い文書であるような気はする。
さて内容だが、全体として、米国はロシアや中国に関してほぼ完全な核の優位を確立していると論ずるものだ。かつてのMADの理論は過去のものとなり、米国の先制攻撃で報復能力をほぼ奪える形で主要な戦力を壊滅できるとするものである。内容は読んでの通りであるが、部分的に引用してみたい。
Finally, a third group -- owls, who worry about the possibility of inadvertent conflict -- will fret that U.S. nuclear primacy could prompt other nuclear powers to adopt strategic postures, such as by giving control of nuclear weapons to lower-level commanders, that would make an unauthorized nuclear strike more likely -- thereby creating what strategic theorists call "crisis instability."
上記の現状を述べた後、米国の政治的態度の変化に関する懸念がまず言及されている。恐らくそれが最も議論を呼ぶのであろう。タカでもハトでもないフクロウ派の懸念はリアリストのものだ。
Finally, although the air force finished dismantling its highly lethal MX missiles in 2005 to comply with arms control agreements, it is significantly improving its remaining ICBMs by installing the MX's high-yield warheads and advanced reentry vehicles on Minuteman ICBMs, and it has upgraded the Minuteman's guidance systems to match the MX's accuracy.
1ページ目最終のこの付近、米国の兵器の性質を典型的に示している。日本であれば当初から完成度の高いシステムを組み上げるであろう。ただ、特定用途への最適化を徹底するがそのため転用が難しいものにしてしまうかもしれない。配備してから改良や使い回しで段階的に性能が向上していくこの性質は、米国企業の民生品にも似たような例が多い。
Russia has 39 percent fewer long-range bombers, 58 percent fewer ICBMs, and 80 percent fewer SSBNs than the Soviet Union fielded during its last days. The true extent of the Russian arsenal's decay, however, is much greater than these cuts suggest. What nuclear forces Russia retains are hardly ready for use.
次いで2ページ目でロシアの核戦力について触れているが、稼働率が極めて低いとされている。日本のように150年間基本的に工業力が向上し続けた国においては、この種の後退は実感を持って受け止めにくいかもしれない。その後の具体例もさりながら、
But the radar network has a gaping hole in its coverage that lies to the east of the country, toward the Pacific Ocean. If U.S. submarines were to fire missiles from areas in the Pacific, Russian leaders probably would not know of the attack until the warheads detonated.
このレーダー網の穴は致命的と言える。実際、先日の北朝鮮のミサイル実験さえ捕捉出来なかったことにより、実態が証明されている。
According to our model, such a simplified surprise attack would have a good chance of destroying every Russian bomber base, submarine, and ICBM.
簡単なモデルを採用して検証しただけでもこのように結論付けられるとしている。実際にワシントンが行う戦略はより有効であるだろうと。
Despite much talk about China's military modernization, the odds that Beijing will acquire a survivable nuclear deterrent in the next decade are slim.
3ページ目で中国に関して触れているが、近代化は遅々として進んでいないという認識のようだ。むしろ通常戦力に焦点が合わせられているとしている。
Some may wonder whether U.S. nuclear modernization efforts are actually designed with terrorists or rogue states in mind. Given the United States' ongoing war on terror, and the continuing U.S. interest in destroying deeply buried bunkers (reflected in the Bush administration's efforts to develop new nuclear weapons to destroy underground targets), one might assume that the W-76 upgrades are designed to be used against targets such as rogue states' arsenals of weapons of mass destruction or terrorists holed up in caves. But this explanation does not add up. The United States already has more than a thousand nuclear warheads capable of attacking bunkers or caves. If the United States' nuclear modernization were really aimed at rogue states or terrorists, the country's nuclear force would not need the additional thousand ground-burst warheads it will gain from the W-76 modernization program. The current and future U.S. nuclear force, in other words, seems designed to carry out a preemptive disarming strike against Russia or China.
この論文のポイントとなっている米国の思惑であるが、テロ組織への対応よりロシアや中国への優位確立に主眼があるとしている。ただこれは議論の余地があるかもしれない。
What both of these camps overlook is that the sort of missile defenses that the United States might plausibly deploy would be valuable primarily in an offensive context, not a defensive one -- as an adjunct to a U.S. first-strike capability, not as a standalone shield. If the United States launched a nuclear attack against Russia (or China), the targeted country would be left with a tiny surviving arsenal -- if any at all. At that point, even a relatively modest or inefficient missile-defense system might well be enough to protect against any retaliatory strikes, because the devastated enemy would have so few warheads and decoys left.
そしてミサイル防衛に関して、むしろ攻撃的な意味合いがあるとしている。ただこれは、テロ組織やテロ支援国家が可能かもしれない数基のミサイルに関する対策と結果的には用途が重なってくる。同盟国への対策という面もあり、総合的に観てそのような作用もあると考えるべきかもしれない。
この論文は事実関係がという事より、見積もられる仮想敵国の反撃能力をどう評価するかという点に関する議論の対象となるのかもしれない。そして最も厳しい基準を要請する人に対しても対応するのがミサイル防衛であると。そして実際の攻撃効果の試算には様々な要素が入り、もう少し米国が不利な形での結論があり得るかもしれない。しかし、全体としてMADが機能しなくなりつつあるという方向性は現出していると考えるべきであろう。
ここで、同盟国である欧州や、特に日本が考えておかなければならないことは何だろうか?米国が核武装国の脅迫により妥協するのではないかという懸念があるが、それは実際の所余り心配することは無いだろう。より深刻な問題は、米国が妥協しないことによって出現する事態である。米国は安全であるとして、その時の米国に対する脅迫の道具としては、上記論文で扱われていない中・短距離ミサイルによる同盟国への攻撃であろう。ただそれを理由に米国が大幅な政治的妥協をする事は無い。仮に日本が、米国が妥協してくれたほうが自国にとって助かるというような場合でも(例えばダーティーボム程度の被害なら大雑把な米国は頓着しない、などの例がある)あっさり却下される、という所ではないだろうか。もちろん同盟国がそうならないようにするためのツールという側面もあるミサイル防衛ではあるし、日頃からの対話による同盟の深化も重要だということではあるが。
ともあれ、日本が核武装を必要とする文脈は、強い立場にあることで強硬に振舞いたがる米国と距離を置き、日本が独自の判断で時に妥協的に対処するための余地を発生させるため、となる。その意味で実際の安全保障の強度や政治的立場の強化というよりは政治的フリーハンドという面に主眼が置かれていると言えるのではないか。結果的にこれは右派勢力の願望と部分的に一致するが、主張している議論とはやや距離が発生しているかもしれない。独自の抑止力が総合的に見てどのような政治的作用をするかは複雑な問題ではある。
ところで、このブログの最近のコメントスパムが気になっているが、ちょっと対策には手間がかかるかもしれない。少なくとも最新のほうの記事は受け付けを停止することはしない。過去記事に関しては一部閉じているが、各エントリに対する手作業なので途中で放り出している状況だ。コメントを寄せていただける方は、出来ればテキストのバックアップをしていただいて、すぐ再投稿可能な状態にしておいていただけると助かります。こちらでも極力バックアップはしておきますが。
2006年05月10日
キューバの石油開発と米国
日中の東シナ海ガス田問題は、日本では資源の問題というより主権の問題として、中国ではそれに加え共産党の政治的問題として認識されているようだ。そのため構造的に合意に達しにくい状況であり解決が難しい。またこのような広大な大陸棚が広がっている係争地域もあまりなく、政治的条件も異なり他国の事例も参考になりにくい。そのためこのキューバ沖の話は参考に出来る事例でもないのだが、米国内ではそれなりに話題となっていることから取り上げておきたい。
1977年、米国とキューバが双方の権利を保持するようフロリダ海峡を分割した条約を結んでいる。これはそれなりに海峡が深いこともあり、さすがに米国は大陸棚云々とキューバの領海近くまでの権利主張はしていない。また近年の米国は自国沿岸地域での石油・天然ガス開発はしていない。米国は環境保護団体の発言力が強いこともあり、事故による水質汚濁への懸念しているということが背景にある。過去有名な事故としてはアラスカでのエクソン社のものがあり、それ以来大規模な原油流出事故への恐怖が根強くある。この件は英語版Wikiの記述が手厚く、参考になると思われる。(参照)将来のエネルギー安全保障に備えて採掘していないのではないかという意見もあるが、共和党より民主党のほうが石油開発には消極的なところを見てもそれは過大評価であろう。技術進展による価値下落のほうがペースが早いのではないか。
ともあれ、最近のキューバは中国やインドといった外国からの働きかけもあり、自国沖の資源を開発する政策を進めており、海底資源問題が改めて注目を集めている。(参照2)言うまでも無いが米国内でのキューバへの反発は強く、非民主的な国の関与は様々な政治的レベルで懸念が表明されている。(参照3)あくまで利潤を追求する民間企業が主体となるカナダやスペインとは違って、中国などは国策としてかなり無神経な態度を取っているようで、米国から厳しい反応が返って来ているようだ。先の記事にある"acting as if they can somehow 'lock up' energy supplies around the world"という事が重要で、市場に流さず囲い込むという挙動に反発がある。この点は日本も対イランなどで意識しておいたほうが良いことでもある。
中国に関しては、米国と外交案件が山積みなこの時期に間も悪いし、摩擦は事前に予想できそうなものだが。それを考えると、東シナ海で日本と交渉している内容は、自国沿岸でもありまだ遠慮深いほうだとでも中国は思っているのかもしれない。またインドについても、米国内ではブッシュ政権は甘い対応をし過ぎるとこれまた風当たりが強くなっている。
とはいえ、自国周辺での石油資源の利用をより積極的に進めるべきだという意見は常にあるし、そういう動きに繋げるためにこのキューバの件を報道しているという人々もいる。このコラムなどはその主張の典型例といえるだろうか。(なおここで記述されているメキシコの件は、メキシコが一部麻薬の合法化を検討していて米国が猛反発しているという事が背景にある)何しろメキシコ湾に関してはあまり調査もされていないようなのだ。さっさと調査して採掘すればいいと思うのだが。なぜか石油は戦略資源として特別視されることが多い。確かに代替性は最も低い部類に入るが、一次産品は抱えていても価値があるわけではなく、市場に提供して初めて利益となる。北米自由協定を締結していて、一人当たりの所得水準が米国より低めでビジネスが回りやすいメキシコに開発させるのが一番良いと思うのだが。メキシコが経済的に反映すれば、難民や犯罪者、麻薬などの米国への流入も減るのではないか。
1977年、米国とキューバが双方の権利を保持するようフロリダ海峡を分割した条約を結んでいる。これはそれなりに海峡が深いこともあり、さすがに米国は大陸棚云々とキューバの領海近くまでの権利主張はしていない。また近年の米国は自国沿岸地域での石油・天然ガス開発はしていない。米国は環境保護団体の発言力が強いこともあり、事故による水質汚濁への懸念しているということが背景にある。過去有名な事故としてはアラスカでのエクソン社のものがあり、それ以来大規模な原油流出事故への恐怖が根強くある。この件は英語版Wikiの記述が手厚く、参考になると思われる。(参照)将来のエネルギー安全保障に備えて採掘していないのではないかという意見もあるが、共和党より民主党のほうが石油開発には消極的なところを見てもそれは過大評価であろう。技術進展による価値下落のほうがペースが早いのではないか。
ともあれ、最近のキューバは中国やインドといった外国からの働きかけもあり、自国沖の資源を開発する政策を進めており、海底資源問題が改めて注目を集めている。(参照2)言うまでも無いが米国内でのキューバへの反発は強く、非民主的な国の関与は様々な政治的レベルで懸念が表明されている。(参照3)あくまで利潤を追求する民間企業が主体となるカナダやスペインとは違って、中国などは国策としてかなり無神経な態度を取っているようで、米国から厳しい反応が返って来ているようだ。先の記事にある"acting as if they can somehow 'lock up' energy supplies around the world"という事が重要で、市場に流さず囲い込むという挙動に反発がある。この点は日本も対イランなどで意識しておいたほうが良いことでもある。
中国に関しては、米国と外交案件が山積みなこの時期に間も悪いし、摩擦は事前に予想できそうなものだが。それを考えると、東シナ海で日本と交渉している内容は、自国沿岸でもありまだ遠慮深いほうだとでも中国は思っているのかもしれない。またインドについても、米国内ではブッシュ政権は甘い対応をし過ぎるとこれまた風当たりが強くなっている。
とはいえ、自国周辺での石油資源の利用をより積極的に進めるべきだという意見は常にあるし、そういう動きに繋げるためにこのキューバの件を報道しているという人々もいる。このコラムなどはその主張の典型例といえるだろうか。(なおここで記述されているメキシコの件は、メキシコが一部麻薬の合法化を検討していて米国が猛反発しているという事が背景にある)何しろメキシコ湾に関してはあまり調査もされていないようなのだ。さっさと調査して採掘すればいいと思うのだが。なぜか石油は戦略資源として特別視されることが多い。確かに代替性は最も低い部類に入るが、一次産品は抱えていても価値があるわけではなく、市場に提供して初めて利益となる。北米自由協定を締結していて、一人当たりの所得水準が米国より低めでビジネスが回りやすいメキシコに開発させるのが一番良いと思うのだが。メキシコが経済的に反映すれば、難民や犯罪者、麻薬などの米国への流入も減るのではないか。
2006年03月16日
米国の2006年新国家安全保障戦略について
ホワイトハウスから国家安全保障戦略に関して改訂版が発表されている。戦略の要点、これまでの成果、今後の課題などを平易に記述してある。戦略内容としては今までと極端に変わるものではないが、手段に関してはやや穏健な表現になっているようだ。
以前、米国の戦略に関しては、先制攻撃と予防戦争の違いに関して、海外の著名人の論文を引用する形でエントリを書いたことがある。今回もその違いは示されてはいるようではあるが、明確極まりないというものではない。イラク戦争は先制攻撃ではなく古典的な予防戦争なのだが、意図的にミスリードするマスコミもあるのは残念なことだ。しかしいずれにせよ、戦略としては妥当性はあり、それをどう効率的な手法で達成するかが問題であることは米国内の議論の方向性としてほぼ間違いないところだ。
今回の発表内容はこのようなものである。長大な文章ではないし全て要所がまとめられたものなので全て目を通すと良いだろう。全般としてかなり丁寧な記述との印象がある。そしてある部分は教科書的な表現だ。例えば3章の下記部分などが見本と言える。
世間のイメージはともかく、ブッシュ政権は米国の基準としてもこのようなより社会科学的なアプローチを好む傾向がある。このテロに対応する論理などはおおよそ1980年代以降の時期の学問的反映ではないだろうか。今はちょっと忘れてしまったので、そのうち機会あれば関連の重要書籍など紹介しようと思っているが。
以前ブッシュ政権に関しては、手段はともかく目的は比較的正しいと書いた覚えがある。それは今も変わらないが、また別の言い方であれば、大局的な視点はあまり誤らないが個別の案件に関する対応はしばしば大雑把だったり非効率だったりするとも言える。マクロには強いがミクロには弱いと言うところで、日本とちょうど逆かもしれない。小泉政権はまた少し違うかもしれないが。
各地域に関して述べた8章は具体的な興味を惹きやすいところかもしれない。アフリカへの関与が予想以上に熱意を持って示されているのはやや興味を惹く。「チャンスの弧」と以前から表現されているが、中東で反米主義が蔓延してしまったのと比較し、米国への好意は相対的に高いので、ここではうまくやろうかとの思いも滲み出ている様に思える。ロシアに関してはより率直な印象がある。great influenceの言い回し、安定をもたらす存在として協力を期待するというメッセージであろう。実のところロシアは、自覚は少ないかもしれないが今日の世界秩序の最大の受益者の一つだろう。その意識があれば今少し外交も変わるのではないだろうか。
中国に関しては、以前から言っている通りである。最後にwhile we hedge against other possibilitiesと釘を刺しつつ、透明性を高めるようにとの発言を繰り返している。ちょうど日本の麻生外相がWSJに寄稿した文章があるが(内容はかんべえ氏が不規則発言の3/14記述分で全文引用している)そこでもtransparentに言及している。それは米国人の琴線に触れるようにかなり練られた文章と言えるし、日本の政治家の言としても出色のものだ。だがメッセージは相手に伝わらなければならない。(今回は米国向けの役割かもしれないが)built-in stabilizer providedの意味が腑に落ちてくれると今少し建設的な話となるのだろう。19世紀の英国のものがそうであったように、それは結局国際公共財の役目を果たすのであるし、今の米国もその本質は変わらないのだ。ただ、それが少なくとも政治レベルでは100%理解される国は、そもそも既に民主主義は成熟しているのかもしれない。
今回の戦略文書、最後に思うのは、これを目にしての各国の反応はどうかという事だ。その対米感こそが、この文章に記述された内容をまさに示すもののように思われる。
以前、米国の戦略に関しては、先制攻撃と予防戦争の違いに関して、海外の著名人の論文を引用する形でエントリを書いたことがある。今回もその違いは示されてはいるようではあるが、明確極まりないというものではない。イラク戦争は先制攻撃ではなく古典的な予防戦争なのだが、意図的にミスリードするマスコミもあるのは残念なことだ。しかしいずれにせよ、戦略としては妥当性はあり、それをどう効率的な手法で達成するかが問題であることは米国内の議論の方向性としてほぼ間違いないところだ。
今回の発表内容はこのようなものである。長大な文章ではないし全て要所がまとめられたものなので全て目を通すと良いだろう。全般としてかなり丁寧な記述との印象がある。そしてある部分は教科書的な表現だ。例えば3章の下記部分などが見本と言える。
The terrorism we confront today springs from:
・Political alienation. Transnational terrorists are recruited from people who have no voice in their own government and see no legitimate way to promote change in their own country. Without a stake in the existing order, they are vulnerable to manipulation by those who advocate a perverse vision based on violence and destruction.
・Grievances that can be blamed on others. The failures the terrorists feel and see are blamed on others, and on perceived injustices from the recent or sometimes distant past. The terrorists’ rhetoric keeps wounds associated with this past fresh and raw, a potent motivation for revenge and terror.
・Sub-cultures of conspiracy and misinformation. Terrorists recruit more effectively from populations whose information about the world is contaminated by falsehoods and corrupted by conspiracy theories. The distortions keep alive grievances and filter out facts that would challenge popular prejudices and self-serving propaganda.
・An ideology that justifies murder. Terrorism ultimately depends upon the appeal of an ideology that excuses or even glorifies the deliberate killing of innocents. A proud religion ? the religion of Islam ? has been twisted and made to serve an evil end, as in other times and places other religions have been similarly abused.
Defeating terrorism in the long run requires that each of these factors be addressed. The genius of democracy is that it provides a counter to each.
・In place of alienation, democracy offers an ownership stake in society, a chance to shape one’s own future.
・In place of festering grievances, democracy offers the rule of law, the peaceful resolution of disputes, and the habits of advancing interests through compromise.
・In place of a culture of conspiracy and misinformation, democracy offers freedom of speech, independent media, and the marketplace of ideas, which can expose and discredit falsehoods, prejudices, and dishonest propaganda.
・In place of an ideology that justifies murder, democracy offers a respect for human dignity that abhors the deliberate targeting of innocent civilians.
世間のイメージはともかく、ブッシュ政権は米国の基準としてもこのようなより社会科学的なアプローチを好む傾向がある。このテロに対応する論理などはおおよそ1980年代以降の時期の学問的反映ではないだろうか。今はちょっと忘れてしまったので、そのうち機会あれば関連の重要書籍など紹介しようと思っているが。
以前ブッシュ政権に関しては、手段はともかく目的は比較的正しいと書いた覚えがある。それは今も変わらないが、また別の言い方であれば、大局的な視点はあまり誤らないが個別の案件に関する対応はしばしば大雑把だったり非効率だったりするとも言える。マクロには強いがミクロには弱いと言うところで、日本とちょうど逆かもしれない。小泉政権はまた少し違うかもしれないが。
各地域に関して述べた8章は具体的な興味を惹きやすいところかもしれない。アフリカへの関与が予想以上に熱意を持って示されているのはやや興味を惹く。「チャンスの弧」と以前から表現されているが、中東で反米主義が蔓延してしまったのと比較し、米国への好意は相対的に高いので、ここではうまくやろうかとの思いも滲み出ている様に思える。ロシアに関してはより率直な印象がある。great influenceの言い回し、安定をもたらす存在として協力を期待するというメッセージであろう。実のところロシアは、自覚は少ないかもしれないが今日の世界秩序の最大の受益者の一つだろう。その意識があれば今少し外交も変わるのではないだろうか。
中国に関しては、以前から言っている通りである。最後にwhile we hedge against other possibilitiesと釘を刺しつつ、透明性を高めるようにとの発言を繰り返している。ちょうど日本の麻生外相がWSJに寄稿した文章があるが(内容はかんべえ氏が不規則発言の3/14記述分で全文引用している)そこでもtransparentに言及している。それは米国人の琴線に触れるようにかなり練られた文章と言えるし、日本の政治家の言としても出色のものだ。だがメッセージは相手に伝わらなければならない。(今回は米国向けの役割かもしれないが)built-in stabilizer providedの意味が腑に落ちてくれると今少し建設的な話となるのだろう。19世紀の英国のものがそうであったように、それは結局国際公共財の役目を果たすのであるし、今の米国もその本質は変わらないのだ。ただ、それが少なくとも政治レベルでは100%理解される国は、そもそも既に民主主義は成熟しているのかもしれない。
今回の戦略文書、最後に思うのは、これを目にしての各国の反応はどうかという事だ。その対米感こそが、この文章に記述された内容をまさに示すもののように思われる。
2006年03月15日
米国の食品全国統一法案に思う
米国内の話であるが、個人的にこのニュースは興味深いと感じたので取り上げてみたい。下院でNational Uniformity for Food Act of 2005が通過した。食品などに関する安全基準を連邦共通とするもので、内容はこのようなものだ。(概してこのリンク先は便利だ。アメリカウォッチャーな人には御用達か)国全体での安全性の向上を謳っているが、一方少なくとも200の州法を無効にすると議論になっている。
背景として、これはあからさまにカリフォルニア州法のProposition65を標的にしたものだという指摘がなされている。これは周知の事実のようだ。簡単な解説をしている記事をリンクしておく(参照)。Proposition65自体は日本の製造業一般でも良く知られていて、例えば鉛が露出しているのでこの電池では表示が必要、といった具体例となり、ビジネスをいささか面倒なものにしている。(参考:参照2)この種の安全基準がある主権国家内で共通であるのは、日本人的感覚では当たり前であろう。しかし米国内では必ずしもそうでもない。そもそも文化的に許容度が違うということもあるし、時に食習慣さえ違うので実際的なのであろう。必ずしも現在政治的課題として大きい扱いではないこの時期、港湾管理の件で大モメしてる最中にこっそり通すという印象は否めない。
BSEに関する日米摩擦の背景にしても、州ごとに違うべき、理念的には個々人で違って然るべき安全の許容基準を、ある特定の基準を強制するという政治手法への反発が米国側にある事は認識しておいたほうがいいかもしれない。日本で牛丼復活を期待している人を強権的に抑圧しているという印象もあるのだ。だからこそ規制よりは「表示」が重要であったりする。かといって健康上危険かもしれないと堂々表示してその代わり安いから選択してね、という米国内の一部のやり方は、日本人的にはなかなか付いていけないのであるが。もっとも今回のような件は、そういう理念をいささか後退させるように思える。
もちろん、普通の日本人や欧州人(EUで安全基準を統一、というのは比較的許容される傾向はある)にとって見れば、国内でこうも違うのは勘弁して欲しいとなるであろう。しかしながら、この効率の悪さを甘受した多様性の保留こそが米国の強みや魅力でもある。その意味で個人的にはいささか残念な流れだ。伝統的な地域主義を通しても良さそうに思える。
背景として、これはあからさまにカリフォルニア州法のProposition65を標的にしたものだという指摘がなされている。これは周知の事実のようだ。簡単な解説をしている記事をリンクしておく(参照)。Proposition65自体は日本の製造業一般でも良く知られていて、例えば鉛が露出しているのでこの電池では表示が必要、といった具体例となり、ビジネスをいささか面倒なものにしている。(参考:参照2)この種の安全基準がある主権国家内で共通であるのは、日本人的感覚では当たり前であろう。しかし米国内では必ずしもそうでもない。そもそも文化的に許容度が違うということもあるし、時に食習慣さえ違うので実際的なのであろう。必ずしも現在政治的課題として大きい扱いではないこの時期、港湾管理の件で大モメしてる最中にこっそり通すという印象は否めない。
BSEに関する日米摩擦の背景にしても、州ごとに違うべき、理念的には個々人で違って然るべき安全の許容基準を、ある特定の基準を強制するという政治手法への反発が米国側にある事は認識しておいたほうがいいかもしれない。日本で牛丼復活を期待している人を強権的に抑圧しているという印象もあるのだ。だからこそ規制よりは「表示」が重要であったりする。かといって健康上危険かもしれないと堂々表示してその代わり安いから選択してね、という米国内の一部のやり方は、日本人的にはなかなか付いていけないのであるが。もっとも今回のような件は、そういう理念をいささか後退させるように思える。
もちろん、普通の日本人や欧州人(EUで安全基準を統一、というのは比較的許容される傾向はある)にとって見れば、国内でこうも違うのは勘弁して欲しいとなるであろう。しかしながら、この効率の悪さを甘受した多様性の保留こそが米国の強みや魅力でもある。その意味で個人的にはいささか残念な流れだ。伝統的な地域主義を通しても良さそうに思える。
2006年02月01日
2006年米国大統領一般教書演説
米国で年頭の恒例とされる、大統領の一般教書演説が行われた。内容は様々な所で公開されているが、今回ホワイトハウスが内容の補足まで含めてかなりの情報を挙げている。まずは全文のリンクを参照してほしいが、ここの上のほうにある各ページへのリンクは見ておくべきであろう。米国政治は日本以上に公式に発表された一次情報が重要であるが、これはその典型といえる。読めばいいだけの話で私が何を補足するものでもないが、軽く感想くらいは述べてみたい。
一般教書の演説そのものに関しては国内の報道で要点が紹介されている。しかしどうにも適切と思えるものが無い。ここで重要なのは、演説内容そのものもそうであるが、それをとりまく英語表現の雰囲気とか、ある種の理想主義の体現の部分のように思われる。核心部分をとりまく建前の部分にかなり本質的な内容が入っているのである。日本などではしばしば左派勢力が美辞麗句と貶めるが、もちろん米国政治に関してはそうではない。そして今回の演説自体は、細部をかなり詰めてあるという印象がある。以前全文を紹介したイラク政策に関するものもそうであるが、あくまで直球で攻めて来ている印象が強い。米国ではこれは効くなと思う。例えばこの部分だ。またYetかと言う人もいるかもしれないが。
これなどはアメリカ人向け殺し文句とでも言うべきか。
全体としては、イラクと対テロ戦で多くが占められているが、それ以外の部分もなかなか目を引く。アフリカに言及しているのは近年の関与の深さの反映であろう。また何だかんだと言いながらも米国経済が成長しているのは追い風だろう。雇用をこのような言い方で表現するとアピールするなと思う。我々は凹むが。
ベビーブーマーの引退、ヘルスケアなどの問題は日本同様だ。政治的には重い課題になっている。ヘルスケアは、日本はまだうまくやっているほうだろう。そしてエネルギー問題に広く言及したのはやはり目を引く、上で紹介したリンク先で、もう少し詳しく記述されている。(参照)以前紹介したForeign Affairsの論文(参照2)があるが、そのような炭素固定に関する技術などにもコストをかけるようだ。
またいつもの事だが、米国は他国の成功を取り入れることに長けているなとつくづく思う。日本を例に取れば、かつて有色人種で唯一の工業化に成功したと誇ったが、国内的な法制度上の人種差別の抑止は、恐らく米国が世界で一番進んでいる。真珠湾の教訓からの空母運用は言うまでも無く、また経済面からの発言力強化を狙った80年代の日本の試みも米国の金融ビジネスの洗練化という形で返ってきた。今度はエネルギー・環境問題に関する日本の個々の技術の洗練が、大規模なシステムの統合された運用による効率化という形でやられそうな気がしなくもない。21世紀半ばには二酸化炭素排出量は激減するという予想が以前からあったと思うが、さてどこだったか。中国とインドの経済成長が鈍化すれば一息つけるかもしれない。
演説の最後のほうには、このような表現がある。これは日本人があまり信じられない事なのかもしれない。だが、私はこのような表現は正しいと思うし、多くの人が正面から受け止めて良いものだと思っている。その後に記述される具体例は説得力がある。そして我々日本人も、昨年の9月11日のように実は何かを選んできたはずだ。その多くはアメリカのように大声で成されたものではなく、静かな選択であったろうけども。
一般教書の演説そのものに関しては国内の報道で要点が紹介されている。しかしどうにも適切と思えるものが無い。ここで重要なのは、演説内容そのものもそうであるが、それをとりまく英語表現の雰囲気とか、ある種の理想主義の体現の部分のように思われる。核心部分をとりまく建前の部分にかなり本質的な内容が入っているのである。日本などではしばしば左派勢力が美辞麗句と貶めるが、もちろん米国政治に関してはそうではない。そして今回の演説自体は、細部をかなり詰めてあるという印象がある。以前全文を紹介したイラク政策に関するものもそうであるが、あくまで直球で攻めて来ている印象が強い。米国ではこれは効くなと思う。例えばこの部分だ。またYetかと言う人もいるかもしれないが。
Our coalition has learned from our experience in Iraq. We've adjusted our military tactics and changed our approach to reconstruction. Along the way, we have benefitted from responsible criticism and counsel offered by members of Congress of both parties. In the coming year, I will continue to reach out and seek your good advice. Yet, there is a difference between responsible criticism that aims for success, and defeatism that refuses to acknowledge anything but failure. (Applause.) Hindsight alone is not wisdom, and second-guessing is not a strategy.
これなどはアメリカ人向け殺し文句とでも言うべきか。
And tonight I ask for yours. Together, let us protect our country, support the men and women who defend us, and lead this world toward freedom.
全体としては、イラクと対テロ戦で多くが占められているが、それ以外の部分もなかなか目を引く。アフリカに言及しているのは近年の関与の深さの反映であろう。また何だかんだと言いながらも米国経済が成長しているのは追い風だろう。雇用をこのような言い方で表現するとアピールするなと思う。我々は凹むが。
In the last two-and-a-half years, America has created 4.6 million new jobs -- more than Japan and the European Union combined.
ベビーブーマーの引退、ヘルスケアなどの問題は日本同様だ。政治的には重い課題になっている。ヘルスケアは、日本はまだうまくやっているほうだろう。そしてエネルギー問題に広く言及したのはやはり目を引く、上で紹介したリンク先で、もう少し詳しく記述されている。(参照)以前紹介したForeign Affairsの論文(参照2)があるが、そのような炭素固定に関する技術などにもコストをかけるようだ。
またいつもの事だが、米国は他国の成功を取り入れることに長けているなとつくづく思う。日本を例に取れば、かつて有色人種で唯一の工業化に成功したと誇ったが、国内的な法制度上の人種差別の抑止は、恐らく米国が世界で一番進んでいる。真珠湾の教訓からの空母運用は言うまでも無く、また経済面からの発言力強化を狙った80年代の日本の試みも米国の金融ビジネスの洗練化という形で返ってきた。今度はエネルギー・環境問題に関する日本の個々の技術の洗練が、大規模なシステムの統合された運用による効率化という形でやられそうな気がしなくもない。21世紀半ばには二酸化炭素排出量は激減するという予想が以前からあったと思うが、さてどこだったか。中国とインドの経済成長が鈍化すれば一息つけるかもしれない。
演説の最後のほうには、このような表現がある。これは日本人があまり信じられない事なのかもしれない。だが、私はこのような表現は正しいと思うし、多くの人が正面から受け止めて良いものだと思っている。その後に記述される具体例は説得力がある。そして我々日本人も、昨年の9月11日のように実は何かを選んできたはずだ。その多くはアメリカのように大声で成されたものではなく、静かな選択であったろうけども。
We see great changes in science and commerce that will influence all our lives. Sometimes it can seem that history is turning in a wide arc, toward an unknown shore. Yet the destination of history is determined by human action, and every great movement of history comes to a point of choosing.
2005年12月20日
ブッシュ大統領のイラク政策に関するテレビ演説
ブッシュ大統領がイラクに対する政策を述べたホワイトハウス執務室からの演説が話題になっている。この内容は全文が公開されている。米国民に広く語りかける内容であるということを考慮すると、そのまま引用するのも構わないと考える。思うところあるので、今回は英文の全内容のコピーをそのまま置いておきたいと思う。
私はブッシュ大統領のイラク政策にほぼ賛同する立場だ。正確にいうと当初からではなく、イラク戦争開始時は6割の賛成だった。現実の厳しさに、クリントン大統領時のソマリアみたいに放り出すのではないかと思ったからだ。しかし、その後の対応を見ると、虐待事件や治安維持の問題などがあったが、一貫して最後まで推進するという姿勢は明確になっている。それでほぼ100%の支持をするようになった。もちろん私はアメリカ人ではないし、その政策を受け入れるかは結局はアメリカ人の判断によるものだ。無責任な部外者の見解でしかない。
この内容には、立場の近い政治家の様々な表明のエッセンスという面があるように思う。これは陰謀論者や冷笑主義者の嘲笑の対象としかならないだろうし、好意的な立場に立つ者もそれなりに懐疑の目で見ると思う。だが、そうした事を全て念頭においたとして、かつ様々な立場の人が過去様々な思惑であったし、これからもそうであるとしても、私はこのスピーチはとてもいいものだと思う。後年、これはブッシュ大統領の考えを示す資料として多く引用されるだろう。今日我々が感じる皮膚的なニュアンスを多くの人が忘れ、ただ歴史にしばしばあった、荒々しさを伴った近代文明との邂逅とだけ記述される事になったとしても。
私はブッシュ大統領のイラク政策にほぼ賛同する立場だ。正確にいうと当初からではなく、イラク戦争開始時は6割の賛成だった。現実の厳しさに、クリントン大統領時のソマリアみたいに放り出すのではないかと思ったからだ。しかし、その後の対応を見ると、虐待事件や治安維持の問題などがあったが、一貫して最後まで推進するという姿勢は明確になっている。それでほぼ100%の支持をするようになった。もちろん私はアメリカ人ではないし、その政策を受け入れるかは結局はアメリカ人の判断によるものだ。無責任な部外者の見解でしかない。
この内容には、立場の近い政治家の様々な表明のエッセンスという面があるように思う。これは陰謀論者や冷笑主義者の嘲笑の対象としかならないだろうし、好意的な立場に立つ者もそれなりに懐疑の目で見ると思う。だが、そうした事を全て念頭においたとして、かつ様々な立場の人が過去様々な思惑であったし、これからもそうであるとしても、私はこのスピーチはとてもいいものだと思う。後年、これはブッシュ大統領の考えを示す資料として多く引用されるだろう。今日我々が感じる皮膚的なニュアンスを多くの人が忘れ、ただ歴史にしばしばあった、荒々しさを伴った近代文明との邂逅とだけ記述される事になったとしても。
Good evening. Three days ago, in large numbers, Iraqis went to the polls to choose their own leaders -- a landmark day in the history of liberty. In coming weeks, the ballots will be counted, a new government formed, and a people who suffered in tyranny for so long will become full members of the free world.
This election will not mean the end of violence. But it is the beginning of something new: constitutional democracy at the heart of the Middle East. And this vote -- 6,000 miles away, in a vital region of the world -- means that America has an ally of growing strength in the fight against terror.
All who had a part in this achievement -- Iraqis, Americans, and Coalition partners -- can be proud. Yet our work is not done. There is more testing and sacrifice before us. I know many Americans have questions about the cost and direction of this war. So tonight I want to talk to you about how far we have come in Iraq, and the path that lies ahead.
From this office, nearly three years ago, I announced the start of military operations in Iraq. Our Coalition confronted a regime that defied United Nations Security Council Resolutions -- violated a cease-fire agreement -- sponsored terrorism -- and possessed, we believed, weapons of mass destruction. After the swift fall of Baghdad, we found mass graves filled by a dictator -- we found some capacity to restart programs to produce weapons of mass destruction -- but we did not find those weapons.
It is true that Saddam Hussein had a history of pursuing and using weapons of mass destruction. It is true that he systematically concealed those programs, and blocked the work of UN weapons inspectors. It is true that many nations believed that Saddam had weapons of mass destruction. But much of the intelligence turned out to be wrong. And as your President, I am responsible for the decision to go into Iraq.
Yet it was right to remove Saddam Hussein from power. He was given an ultimatum -- and he made his choice for war. And the result of that war was to rid the world of a murderous dictator who menaced his people, invaded his neighbors, and declared America to be his enemy. Saddam Hussein, captured and jailed, is still the same raging tyrant -- only now without a throne. His power to harm a single man, woman, or child is gone forever. And the world is better for it.
Since the removal of Saddam, this war -- like other wars in our history -- has been difficult. The mission of American troops in urban raids and desert patrols -- fighting Saddam loyalists and foreign terrorists -- has brought danger and suffering and loss. This loss has caused sorrow for our whole Nation -- and it has led some to ask if we are creating more problems than we are solving.
That is an important question, and the answer depends on your view of the war on terror. If you think the terrorists would become peaceful if only America would stop provoking them, then it might make sense to leave them alone.
This is not the threat I see. I see a global terrorist movement that exploits Islam in the service of radical political aims -- a vision in which books are burned, and women are oppressed, and all dissent is crushed. Terrorist operatives conduct their campaign of murder with a set of declared and specific goals: to de-moralize free nations, to drive us out of the Middle East, to spread an empire of fear across that region, and to wage a perpetual war against America and our friends.
These terrorists view the world as a giant battlefield -- and they seek to attack us wherever they can. This has attracted al Qaida to Iraq, where they are attempting to frighten and intimidate America into a policy of retreat.
The terrorists do not merely object to American actions in Iraq and elsewhere -- they object to our deepest values and our way of life. And if we were not fighting them in Iraq, in Afghanistan, in Southeast Asia, and in other places, the terrorists would not be peaceful citizens -- they would be on the offense, and headed our way.
September 11th, 2001 required us to take every emerging threat to our country seriously, and it shattered the illusion that terrorists attack us only after we provoke them. On that day, we were not in Iraq, we were not in Afghanistan, but the terrorists attacked us anyway -- and killed nearly 3,000 men, women, and children in our own country.
My conviction comes down to this: We do not create terrorism by fighting the terrorists. We invite terrorism by ignoring them. And we will defeat the terrorists by capturing and killing them abroad, removing their safe havens, and strengthening new allies like Iraq and Afghanistan in the fight we share.
This work has been especially difficult in Iraq -- more difficult than we expected. Reconstruction efforts and the training of Iraqi Security Forces started more slowly than we hoped. We continue to see violence and suffering, caused by an enemy that is determined and brutal -- unconstrained by conscience or the rules of war.
Some look at the challenges in Iraq, and conclude that the war is lost, and not worth another dime or another day. I don't believe that. Our military commanders do not believe that. Our troops in the field, who bear the burden and make the sacrifice, do not believe that America has lost. And not even the terrorists believe it. We know from their own communications that they feel a tightening noose -- and fear the rise of a democratic Iraq.
The terrorists will continue to have the coward's power to plant roadside bombs and recruit suicide bombers. And you will continue to see the grim results on the evening news. This proves that the war is difficult -- it does not mean that we are losing. Behind the images of chaos that terrorists create for the cameras, we are making steady gains with a clear objective in view.
America, our Coalition, and Iraqi leaders are working toward the same goal -- a democratic Iraq that can defend itself -- that will never again be a safe haven for terrorists -- and that will serve as a model of freedom for the Middle East.
We have put in place a strategy to achieve this goal -- a strategy I have been discussing in detail over the last few weeks. This plan has three critical elements.
First, our Coalition will remain on the offense -- finding and clearing out the enemy, transferring control of more territory to Iraqi units, and building up the Iraqi Security Forces so they can increasingly lead the fight. At this time last year, there were only a handful of Iraqi army and police battalions ready for combat. Now, there are more than 125 Iraqi combat battalions fighting the enemy -- more than 50 are taking the lead -- and we have transferred more than a dozen military bases to Iraqi control.
Second, we are helping the Iraqi government establish the institutions of a unified and lasting democracy, in which all of Iraq's peoples are included and represented. Here also, the news is encouraging. Three days ago, more than 10 million Iraqis went to the polls -- including many Sunni Iraqis who had boycotted national elections last January. Iraqis of every background are recognizing that democracy is the future of the country they love -- and they want their voices heard.
One Iraqi, after dipping his finger in the purple ink as he cast his ballot, stuck his finger in the air and said: "This is a thorn in the eyes of the terrorists."
Another voter was asked, "Are you Sunni or Shia?" He responded, "I am Iraqi."
Third, after a number of setbacks, our Coalition is moving forward with a reconstruction plan to revive Iraq's economy and infrastructure -- and to give Iraqis confidence that a free life will be a better life.
Today in Iraq, seven in 10 Iraqis say their lives are going well -- and nearly two-thirds expect things to improve even more in the year ahead. Despite the violence, Iraqis are optimistic -- and that optimism is justified.
In all three aspects of our strategy -- security, democracy, and reconstruction -- we have learned from our experiences, and fixed what has not worked. We will continue to listen to honest criticism, and make every change that will help us complete the mission. Yet there is a difference between honest critics who recognize what is wrong, and defeatists who refuse to see that anything is right.
Defeatism may have its partisan uses, but it is not justified by the facts. For every scene of destruction in Iraq, there are more scenes of rebuilding and hope.
For every life lost, there are countless more lives reclaimed. And for every terrorist working to stop freedom in Iraq, there are many more Iraqis and Americans working to defeat them.
My fellow citizens: Not only can we win the war in Iraq -- we are winning the war in Iraq.
It is also important for every American to understand the consequences of pulling out of Iraq before our work is done. We would abandon our Iraqi friends -- and signal to the world that America cannot be trusted to keep its word. We would undermine the morale of our troops -- by betraying the cause for which they have sacrificed. We would cause tyrants in the Middle East to laugh at our failed resolve, and tighten their repressive grip. We would hand Iraq over to enemies who have pledged to attack us -- and the global terrorist movement would be emboldened and more dangerous than ever before. To retreat before victory would be an act of recklessness and dishonor -- and I will not allow it.
We are approaching a New Year, and there are certain things all Americans can expect to see. We will see more sacrifice, from our military, their families, and the Iraqi people. We will see a concerted effort to improve Iraqi police forces and fight corruption. We will see the Iraqi military gaining strength and confidence, and the democratic process moving forward.
As these achievements come, it should require fewer American troops to accomplish our mission. I will make decisions on troop levels based on the progress we see on the ground and the advice of our military leaders -- not based on artificial timetables set by politicians in Washington. Our forces in Iraq are on the road to victory -- and that is the road that will take them home.
In the months ahead, all Americans will have a part in the success of this war. Members of Congress will need to provide resources for our military. Our men and women in uniform, who have done so much already, will continue their brave and urgent work. And tonight, I ask all of you listening to carefully consider the stakes of this war -- to realize how far we have come and the good we are doing -- and to have patience in this difficult, noble, and necessary cause.
I also want to speak to those of you who did not support my decision to send troops to Iraq: I have heard your disagreement, and I know how deeply it is felt. Yet now there are only two options before our country -- victory or defeat. And the need for victory is larger than any president or political party, because the security of our people is in the balance. I do not expect you to support everything I do, but tonight I have a request: Do not give in to despair, and do not give up on this fight for freedom.
Americans can expect some things of me as well. My most solemn responsibility is to protect our Nation, and that requires me to make some tough decisions. I see the consequences of those decisions when I meet wounded servicemen and women who cannot leave their hospital beds, but summon the strength to look me in the eye and say they would do it all over again. I see the consequences when I talk to parents who miss a child so much -- but tell me he loved being a soldier -- he believed in his mission -- and Mr. President, finish the job.
I know that some of my decisions have led to terrible loss -- and not one of those decisions has been taken lightly. I know this war is controversial -- yet being your President requires doing what I believe is right and accepting the consequences. And I have never been more certain that America's actions in Iraq are essential to the security of our citizens, and will lay the foundation of peace for our children and grandchildren.
Next week, Americans will gather to celebrate Christmas and Hanukkah. Many families will be praying for loved ones spending this season far from home -- in Iraq, Afghanistan, or other dangerous places. Our Nation joins in those prayers. We pray for the safety and strength of our troops. We trust, with them, in a love that conquers all fear, and a light that reaches the darkest corners of the Earth. And we remember the words of the Christmas carol, written during the Civil War: "God is not dead, nor (does) He sleep; the Wrong shall fail, the Right prevail, with peace on Earth, good-will to men."
Thank you, and good night.
2005年05月09日
米国におけるヤルタ会談の評価(2)
finalventさんのトラックバックにコメントを返そうと思ったのだが、ちょっと長くなりそうなのでまたエントリの形で。ちなみに雪斎さんの方でも同じテーマでエントリされており、注目するテーマは皆似たようなものかと苦笑した。北朝鮮はしばらくどうでもいいだろう。例によって話がずれまくるが好きに書き散らしてみる。
このヤルタ体制関連に関して、もはや蛇足もいいところだが一応背景も含めて述べる。第二次大戦開始前は、英仏あたりには「ヒトラーとスターリンどっちがマシか」という究極の問いが存在していた。ここでドイツに傾く人が多かったのは当時の基準としてはさしておかしくもない。フィンランドとの戦争でソ連がイメージを落としていたのも案外効いていたようだ。もちろん歴史はドイツを強く否定する事になったのは皆ご存知の通りだ。結局ドイツが欧州ローカルで圧倒的なのが二度の世界大戦の原因だということで戦後の厳しい仕打ちがあったわけだが、そういう背景の反動という側面もある。そのための東欧の犠牲は、米国はともかく英仏あたりはやむなしの構えだった。戦後のフランスの露仏同盟もどきの行動など私に言わせれば悪質だが、ただ陸軍国の戦争の悲惨さを思うと一刀両断にも出来ない。時間が経過し、ドイツが穏やかに復活する様子を見れば、ここまでの犠牲は必要なかったとの揺り戻しがあるのはおかしくもない。
もっともこれは大戦直後にはっきり考えられていたともいえない。案外軽視されているが、米国は大戦直後には本気で五大国(現常任理事国)の世界統治を考えていたフシがある。常任理事国の軍事参謀委員会のようなものもあった。もちろんあっという間に役に立たなくなったが。この付近での対ソ認識の極めて甘い時期がソ連に貴重な時間を与えた。冷戦の成立はジョージ・F・ケナンのX論文以降といって良いだろう。この前後で対ソ戦のオプションもあったようだが手遅れで無理だった。そうこうするうちに朝鮮戦争と相成る。後はどうにもならない。
そして凍結されたドイツ問題だが、これは欧州と米国の温度差は常にあった。米国側がドイツ東部国境の複雑な問題にかなり無頓着であったのは様々な側面から見て取れる。当時でさえそうであるし、まして現在は「安定した文明的な地域」として過去に言及しなければいけない。しかも東欧は少なからず対テロ戦争の正面に立つ同盟国で、例によって対応が甘くなる。結局今の米国は今抱えている問題の延長線ですべてを解釈するとしかいいようがない。ここではドイツが低い確率で東欧に変なことを言い出す可能性がある事に関してはノーマーク状態だろう。むしろ対露よりその意味で東欧のNATO加盟は意味があるかもしれないが。
米国国内という意味では、専制政治への妥協でひどい目にあったという認識が対中東問題を中心に蔓延している。イラン憎しでフセインに入れ込んだのが代表だろう。この意味では共和党の伝統的保守主義者も、ラムズフェルドなどを筆頭に批判される立場でしかない。結局ウィルソン的な理想主義を一定程度織り込まざるを得ず、政治路線という意味ではある種の落としどころは出てしまっている。少なくとも今回のブッシュ発言を勇み足と否定するような意見は米国内ではきわめて弱いだろう。
そしてこのブッシュ発言そのものは、客観的立場でも、実際に犠牲になった東欧諸国の立場でもヤルタ会談を否定する内容はその通りだとしか言いようが無く、ロシアの言い分は無理筋ではある。結局すべてに首尾一貫するしかない。ただそれが第二次大戦後の国際秩序の否定かというとそれほどの意味は無いだろう。ただ米国の思いとして、せいぜい第一次大戦後のイメージ(まぁアジアは抜くとしても)に近くなり、それでも微調整程度に考えているとしたら、実際の当事者はそれだけでも大事になって大変かなぁ、とは思う。
このヤルタ体制関連に関して、もはや蛇足もいいところだが一応背景も含めて述べる。第二次大戦開始前は、英仏あたりには「ヒトラーとスターリンどっちがマシか」という究極の問いが存在していた。ここでドイツに傾く人が多かったのは当時の基準としてはさしておかしくもない。フィンランドとの戦争でソ連がイメージを落としていたのも案外効いていたようだ。もちろん歴史はドイツを強く否定する事になったのは皆ご存知の通りだ。結局ドイツが欧州ローカルで圧倒的なのが二度の世界大戦の原因だということで戦後の厳しい仕打ちがあったわけだが、そういう背景の反動という側面もある。そのための東欧の犠牲は、米国はともかく英仏あたりはやむなしの構えだった。戦後のフランスの露仏同盟もどきの行動など私に言わせれば悪質だが、ただ陸軍国の戦争の悲惨さを思うと一刀両断にも出来ない。時間が経過し、ドイツが穏やかに復活する様子を見れば、ここまでの犠牲は必要なかったとの揺り戻しがあるのはおかしくもない。
もっともこれは大戦直後にはっきり考えられていたともいえない。案外軽視されているが、米国は大戦直後には本気で五大国(現常任理事国)の世界統治を考えていたフシがある。常任理事国の軍事参謀委員会のようなものもあった。もちろんあっという間に役に立たなくなったが。この付近での対ソ認識の極めて甘い時期がソ連に貴重な時間を与えた。冷戦の成立はジョージ・F・ケナンのX論文以降といって良いだろう。この前後で対ソ戦のオプションもあったようだが手遅れで無理だった。そうこうするうちに朝鮮戦争と相成る。後はどうにもならない。
そして凍結されたドイツ問題だが、これは欧州と米国の温度差は常にあった。米国側がドイツ東部国境の複雑な問題にかなり無頓着であったのは様々な側面から見て取れる。当時でさえそうであるし、まして現在は「安定した文明的な地域」として過去に言及しなければいけない。しかも東欧は少なからず対テロ戦争の正面に立つ同盟国で、例によって対応が甘くなる。結局今の米国は今抱えている問題の延長線ですべてを解釈するとしかいいようがない。ここではドイツが低い確率で東欧に変なことを言い出す可能性がある事に関してはノーマーク状態だろう。むしろ対露よりその意味で東欧のNATO加盟は意味があるかもしれないが。
米国国内という意味では、専制政治への妥協でひどい目にあったという認識が対中東問題を中心に蔓延している。イラン憎しでフセインに入れ込んだのが代表だろう。この意味では共和党の伝統的保守主義者も、ラムズフェルドなどを筆頭に批判される立場でしかない。結局ウィルソン的な理想主義を一定程度織り込まざるを得ず、政治路線という意味ではある種の落としどころは出てしまっている。少なくとも今回のブッシュ発言を勇み足と否定するような意見は米国内ではきわめて弱いだろう。
そしてこのブッシュ発言そのものは、客観的立場でも、実際に犠牲になった東欧諸国の立場でもヤルタ会談を否定する内容はその通りだとしか言いようが無く、ロシアの言い分は無理筋ではある。結局すべてに首尾一貫するしかない。ただそれが第二次大戦後の国際秩序の否定かというとそれほどの意味は無いだろう。ただ米国の思いとして、せいぜい第一次大戦後のイメージ(まぁアジアは抜くとしても)に近くなり、それでも微調整程度に考えているとしたら、実際の当事者はそれだけでも大事になって大変かなぁ、とは思う。
2005年05月08日
米国におけるヤルタ会談の評価
ヤルタ会談を否定的に評価するブッシュ大統領の発言が話題になっている。「東欧を共産主義の手に渡した」と過去の米国の政策を自己批判した。これは米国の外交姿勢としてかなり大きな変化ではある。ここで国内の対民主党への批判構図を持ち出すのはさすがに考えすぎだろう。ただ練られた発言であるとは思う。ライス国務長官の影響もあるかもしれない。ここでプーチン大統領が「ファシズム打倒のための結束である」と素早く反応しているのも感覚としては良く分かる。
ワシントンポストのこの記事、あっさりしてはいるが興味深い。(参照)この付近の言い回しとか。奴隷制度への言及とか、国内外へのある種の同一視は日本人には出てきにくい発想かもしれない。
And to make the point that the United States owns up to "the injustices of our history," he reminded his audience -- and by extension Putin -- of the shameful heritage of American slavery and centuries of racial oppression.
歴史の解釈とはその時代の価値観の過去への反映である。もっともヤルタ会談当時の米国も、それが良いことだとは思っていなかっただろう。せいぜい現実の追認というところだ。欧州に派兵された米兵の帰還圧力は当初からかなり強かった。そしてこれほど長期間、厳しい冷戦体制が存続するとも思っていなかった。このヤルタへの否定的評価は米国内でも根強いものであったし、レーガン政権下でも出てきたものではあったが、こういう場で公式に表明されることはやや珍しいと言える。
これは9.11以降の米国外交の変化と同期している。日本国内ではあまり注目されないが米国外交の重要な変化点の一つとして、専制政治への妥協が極端に低下していることがある。これまでであれば地域の現状として容認してきた状況の幅が狭くなっている。サウジやエジプトへの対応が好例だ。結果、空気を読めない専制政治家はウクライナのような末路となる。「イラクに増派するから見逃してくれ」みたいな事を言ったらしい。完全に逆効果である。
中東のみならず、世界における自由の拡大戦略とこの歴史解釈は連動しているが、本質的に米国の価値観と相性が良い故に継続するだろう。日本も対米外交でこのあたりに注意する必要がある。例えばイランとの取引などはこれに該当すると解釈されるだろうし、スーダンなど論外だろう。もっとも石油の場合はあの石油公団肝いりという時点で末路が見えるが。今まで死屍累々でこのリストにシベリアパイプラインも予定されている。何か前向きな結果が今まであっただろうか?ただせめて、今回のようなブッシュ発言を受けて、北方領土返還問題を有利に進めようとするような機会主義的な外交は避けて欲しいものだ。
ワシントンポストのこの記事、あっさりしてはいるが興味深い。(参照)この付近の言い回しとか。奴隷制度への言及とか、国内外へのある種の同一視は日本人には出てきにくい発想かもしれない。
And to make the point that the United States owns up to "the injustices of our history," he reminded his audience -- and by extension Putin -- of the shameful heritage of American slavery and centuries of racial oppression.
歴史の解釈とはその時代の価値観の過去への反映である。もっともヤルタ会談当時の米国も、それが良いことだとは思っていなかっただろう。せいぜい現実の追認というところだ。欧州に派兵された米兵の帰還圧力は当初からかなり強かった。そしてこれほど長期間、厳しい冷戦体制が存続するとも思っていなかった。このヤルタへの否定的評価は米国内でも根強いものであったし、レーガン政権下でも出てきたものではあったが、こういう場で公式に表明されることはやや珍しいと言える。
これは9.11以降の米国外交の変化と同期している。日本国内ではあまり注目されないが米国外交の重要な変化点の一つとして、専制政治への妥協が極端に低下していることがある。これまでであれば地域の現状として容認してきた状況の幅が狭くなっている。サウジやエジプトへの対応が好例だ。結果、空気を読めない専制政治家はウクライナのような末路となる。「イラクに増派するから見逃してくれ」みたいな事を言ったらしい。完全に逆効果である。
中東のみならず、世界における自由の拡大戦略とこの歴史解釈は連動しているが、本質的に米国の価値観と相性が良い故に継続するだろう。日本も対米外交でこのあたりに注意する必要がある。例えばイランとの取引などはこれに該当すると解釈されるだろうし、スーダンなど論外だろう。もっとも石油の場合はあの石油公団肝いりという時点で末路が見えるが。今まで死屍累々でこのリストにシベリアパイプラインも予定されている。何か前向きな結果が今まであっただろうか?ただせめて、今回のようなブッシュ発言を受けて、北方領土返還問題を有利に進めようとするような機会主義的な外交は避けて欲しいものだ。
2005年04月29日
米下院の北京五輪中止決議案について
中国政府が人権弾圧といった政策を止めなければ、2008年の北京オリンピックの開催を中止、開催地変更を国際オリンピック委員会に要求する決議案が米下院に提出されたとある。(参照)今までこの種の要求は時々米国議会では出てくる話でもあり、少し私の思うところをまとまりもなく書いてみたい。
米国政治はとにかく議会の権限が強い。日本でのイメージと違って行政府の権限はそれほど強くなく、多くの内政の権限は各州にあり、連邦全体の内政には立法権のある議会に圧倒的な影響力がある。そして日本と違って各委員会の活動に権威がある。これは委員会内で閉じることによって国民から遊離していると米国内での批判も強いが、ただ社会や産業が高度化すると官僚任せになってしまうのは先進国共通の現象としてあり、それを抑制するには議会政治家の活動以外に本質的には無いことから止む無しと認められているようだ。ちなみに欧州での反EUも、各国の政治が決定してきたことをブリュッセルの官僚に預けてしまうことへの反発と理解するべきであろう。反民主主義という言い方は一定程度有効だ。
話がそれた。で、この下院外交委員会であるが、米国ではこと外交に関しては上院外交委員会の権威が強い。しかし実際の外交に深く携わる人が多いせいか、中国に融和的との批判も強いようだ。この付近は日本の中国に融和的な議員と事情は大差ないかもしれない。もっとも日本のほうがずっと悪質で、日本の政治家が米中蜜月みたいなことを米国の政治家に話すと、事実としてその100倍は日中蜜月だったじゃないかというような切り返しが即座にあるようだが。
この人権に関する懸念というのは日本の政治家が重視しないところで、駄目だなと思うのだが、米国国内では外国政府を評価するときの決定的な要因である。ここで米国国内の情勢としては、なかなか中国に影響力を発揮できない議会のフラストレーションを何らかの形で表明する方法を日々様々に模索しているということになるようだ。そして今回のトピックは、脱北者というよりは一人っ子政策に対する強制中絶を叩くネタとして持ってきたようで、米国内の中絶論争やナチスの過去などもあり、うまいポイントに目をつけたなと思う。これは米国内の理屈としては各議員は反対し辛い。この付近のページの書き方は参考になるだろう。もちろんそういうテーマのサイトだということを考えておく必要はあるが。(参照1/参照2)
ちなみに先の速報ではタンクリド議員らと記載されているが、読んでの通りクリス・スミス議員も強力に推進しているようだ。彼は下院外交委員会のVice Chairmanであり、かなりの人物と目されてはいるようだ。両氏のページのリンクがあるページをリンクしておく。(参照)この法案の先行きは分からないが、総合的に見て米国内での影響力はそこそこあるのではないだろうか。
米国政治はとにかく議会の権限が強い。日本でのイメージと違って行政府の権限はそれほど強くなく、多くの内政の権限は各州にあり、連邦全体の内政には立法権のある議会に圧倒的な影響力がある。そして日本と違って各委員会の活動に権威がある。これは委員会内で閉じることによって国民から遊離していると米国内での批判も強いが、ただ社会や産業が高度化すると官僚任せになってしまうのは先進国共通の現象としてあり、それを抑制するには議会政治家の活動以外に本質的には無いことから止む無しと認められているようだ。ちなみに欧州での反EUも、各国の政治が決定してきたことをブリュッセルの官僚に預けてしまうことへの反発と理解するべきであろう。反民主主義という言い方は一定程度有効だ。
話がそれた。で、この下院外交委員会であるが、米国ではこと外交に関しては上院外交委員会の権威が強い。しかし実際の外交に深く携わる人が多いせいか、中国に融和的との批判も強いようだ。この付近は日本の中国に融和的な議員と事情は大差ないかもしれない。もっとも日本のほうがずっと悪質で、日本の政治家が米中蜜月みたいなことを米国の政治家に話すと、事実としてその100倍は日中蜜月だったじゃないかというような切り返しが即座にあるようだが。
この人権に関する懸念というのは日本の政治家が重視しないところで、駄目だなと思うのだが、米国国内では外国政府を評価するときの決定的な要因である。ここで米国国内の情勢としては、なかなか中国に影響力を発揮できない議会のフラストレーションを何らかの形で表明する方法を日々様々に模索しているということになるようだ。そして今回のトピックは、脱北者というよりは一人っ子政策に対する強制中絶を叩くネタとして持ってきたようで、米国内の中絶論争やナチスの過去などもあり、うまいポイントに目をつけたなと思う。これは米国内の理屈としては各議員は反対し辛い。この付近のページの書き方は参考になるだろう。もちろんそういうテーマのサイトだということを考えておく必要はあるが。(参照1/参照2)
ちなみに先の速報ではタンクリド議員らと記載されているが、読んでの通りクリス・スミス議員も強力に推進しているようだ。彼は下院外交委員会のVice Chairmanであり、かなりの人物と目されてはいるようだ。両氏のページのリンクがあるページをリンクしておく。(参照)この法案の先行きは分からないが、総合的に見て米国内での影響力はそこそこあるのではないだろうか。
2005年04月15日
ネオコンメンバーの人事
イラク戦争を主導したネオコン勢力の人事が話題になっている。ボルトン国務次官を国連大使に、ウォルフォウィッツ国防副長官を世界銀行総裁にするという、ネオコンの代表格の人事にはいくつかの解釈があり、一つは国際機関を動かすために強硬派を送ったという説と、もう一つは米国がさして重視していないポストを与える事実上の左遷という説。これには両方の側面があり、うまくいけば良し、そうでなくてもそこは元々期待してなかったから止む無し、という事ではないかと思っている。
ただ私の考えとしては、この両者には差があって、ボルトンに関しては確かに期待度は低いが、ウォルフォウィッツに関しては期待する向きも大きいのではないかと思う。この人物、元々の出自として一族をナチスに迫害され逃れて来た人物であり、自由と民主主義へのこだわりは非常に強い。そしてインドネシア駐在の折に、イスラム教と民主主義の並存に確信を持ったということである。ユダヤ人ばかりの集会で現在のパレスチナ人の苦境に言及し総ブーイングを浴びるなど骨もある。大真面目に、中東への戦略的関与を結構本気でやってしまうのではないかと思う。
この組織、純粋に金が問題になるだけあって日本の発言力も結構大きい。昨今ODAが減額気味であるが、これは日本の主要な援助対象国だったアジアが欧米の主な援助対象国と違って経済的に離陸してきたという側面もある。(もちろん、単純に金が無くなってきたというのは当然あるが)一部発言力確保の代替策として、世界銀行のような組織経由で少しひねって進めるというのが、関係閣僚の発言を聞いていると思惑としてあるような気もするのだが。そこでもアメリカの政治的発言力をうまく利用しようとしているようにも見える。
ただ私の考えとしては、この両者には差があって、ボルトンに関しては確かに期待度は低いが、ウォルフォウィッツに関しては期待する向きも大きいのではないかと思う。この人物、元々の出自として一族をナチスに迫害され逃れて来た人物であり、自由と民主主義へのこだわりは非常に強い。そしてインドネシア駐在の折に、イスラム教と民主主義の並存に確信を持ったということである。ユダヤ人ばかりの集会で現在のパレスチナ人の苦境に言及し総ブーイングを浴びるなど骨もある。大真面目に、中東への戦略的関与を結構本気でやってしまうのではないかと思う。
この組織、純粋に金が問題になるだけあって日本の発言力も結構大きい。昨今ODAが減額気味であるが、これは日本の主要な援助対象国だったアジアが欧米の主な援助対象国と違って経済的に離陸してきたという側面もある。(もちろん、単純に金が無くなってきたというのは当然あるが)一部発言力確保の代替策として、世界銀行のような組織経由で少しひねって進めるというのが、関係閣僚の発言を聞いていると思惑としてあるような気もするのだが。そこでもアメリカの政治的発言力をうまく利用しようとしているようにも見える。
2005年04月03日
9.11以降の米国外交に関して思うこと
昨日の韓国に関するエントリでも少し述べたが、9.11以降の米国外交はいくつか変化した事がある。ブッシュ政権の特質と混同して論じられることが多いが、そうでないと思われる部分について私の見解を多少書いておこうと思う。
まず、この付近の文章を読んでみて欲しい。ナイ氏の見解に全面的に同意するものではないが、不確定さという脅威に対応しなければならないのが課題であるという認識は米国での共和・民主両党に共通している。米欧同盟すら怪しい部分が出てきた昨今、明確な部分の価値が高まったといえる。
次に民主化の意味付けである。米国国内で今過去の外交に関して批判されているものに、冷戦時代に親米だからといって独裁者との安易な談合を行い過ぎたという事がある。今後は外交を進めていくにあたり、当事国国内の民主化状況がかなり影響すると考えられる。それは旧ソ連諸国でのやや性急な民主化推進への肩入れという形でも出て来てはいる。
ところで米国側の言い訳としては、「日本とフランスが独裁者と談合してビジネスを進めるから我々も合わせざるを得なかったのだ」だそうである。もちろん偏見なのだが全く日本にそういう部分が無いでもない。接待による途上国首脳の篭絡は世界屈指と聞くが、本当なのだろうか?
こう考えると、昨今の韓国の対応は実に間が悪いものになっていると言える。今までならあれでもそれなりに綱渡りも可能だったかもしれないが、悪い条件が重なり過ぎているようにも思える。
まず、この付近の文章を読んでみて欲しい。ナイ氏の見解に全面的に同意するものではないが、不確定さという脅威に対応しなければならないのが課題であるという認識は米国での共和・民主両党に共通している。米欧同盟すら怪しい部分が出てきた昨今、明確な部分の価値が高まったといえる。
次に民主化の意味付けである。米国国内で今過去の外交に関して批判されているものに、冷戦時代に親米だからといって独裁者との安易な談合を行い過ぎたという事がある。今後は外交を進めていくにあたり、当事国国内の民主化状況がかなり影響すると考えられる。それは旧ソ連諸国でのやや性急な民主化推進への肩入れという形でも出て来てはいる。
ところで米国側の言い訳としては、「日本とフランスが独裁者と談合してビジネスを進めるから我々も合わせざるを得なかったのだ」だそうである。もちろん偏見なのだが全く日本にそういう部分が無いでもない。接待による途上国首脳の篭絡は世界屈指と聞くが、本当なのだろうか?
こう考えると、昨今の韓国の対応は実に間が悪いものになっていると言える。今までならあれでもそれなりに綱渡りも可能だったかもしれないが、悪い条件が重なり過ぎているようにも思える。