2008年08月13日

グルジア情勢とNATOの今後

 グルジアでの紛争が再燃し、大きな国際問題となっている。最新の報道ではロシアが武力行使を停止したとされており、小康状態にはなったというところだろうか。この問題はあまりに複雑な要因が絡んでいるが、国内報道への違和感もあるので多少言及しておこうかと思う。

 全般としてはBBCのこの記事が簡潔に南オセチアにおける経緯をまとめており有用だが(参照1)アブハジアも含めもう少し経緯を記述したものとして、(論調には異論があるかもしれないが)ル・モンドの以前の記事も背景として参考になろうかと思う。(参照2)またこれも少し以前であるが、このopenDemocracyの記事も推薦できる。(参照3)いずれにせよ、現地の状況と国際社会ではどのような枠組みで対応してきたかということが重要であろう。

 南オセチア・アブハジア両地域では比較的整然と選挙が行われ、実質的には国家としての体裁を整えている。そして上記の記事にあるように、グルジア領内で強く分離独立を唱えている両地域においては、住民の多くがロシア国籍を有しているということがある。つまりロシアとしては保護の義務があると考えていたわけである。そして分離独立はロシアへの併合となる可能性が相当高いと考えられる。次にこの地域には平和維持軍が展開しているが、これは欧州安全保障・協力機構(OSCE)の名目で出されているものである。実態としてはこの組織がロシア軍の展開に国際的な正当性を持たせるために容認したという事であろうか。しかしその一方で、アブハジアには安保理決議を受ける形で国連グルジア監視団も展開している。国連であるので複数の国が関係しており、また2006年7月のグルジアの挑発行為も非難されているということがある。(参照4)

 つまり南オセチアとアブハジアの両地域の状況は違うと多くの当事者は考えているのだろう。アブハジアはEUの経済協力も一定程度進んでいる。例えばイングリ川発電所などが代表である。治安が回復すれば従来のようにリゾート地として観光産業による収益も期待できるだろう。ちなみに2014年冬季オリンピックが開催されるソチはロシア領であるがごく近い位置にある。そして欧米の外交官も、独立は認めないとしながらも一定の交流があるようだ。その一方で南オセチアの産業は農業主体であり経済力は弱い。そのため南オセチアにおける行政府の主な収入は関税であり、国家として承認されてないため、通常では違法となるような内容も含むようだ。過去にはドル偽札への関与も報道されており、北朝鮮などと並列に扱われる形でワシントンポストその他が報道している。(参照5)そのため欧米や、何よりグルジアでのイメージは随分悪いものであったようだ。南オセチアはアブハジア、沿ドニエストルと共闘することにより独立を目指しているが、アブハジアと比較して不利と感じていたのは間違いなく、焦燥感は大きかったのではないだろうか。そして国境紛争は間断なく続いていたようだ。つまり今回の紛争、南オセチアの行為に対して大きな不満を抱えていたグルジアがいつも以上に過剰な反応を行い、ロシアがさらに過剰な反応で対応したというのが正確なところではないだろうか。

 日本国内では欧米がグルジア寄りとする論調が多いようだ。全体的にはそのように言えるかもしれない。しかしグルジアへの直接支援を性急に決定したというわけではない。ロシアの対応も平和維持に有害という形で非難している。OSCEの権威(そういうものがあったとすればだが)を低下させ、共に平和を維持する責務を果たしていないという見解は正確だろう。加えると、今回の軍事作戦が整然としたものであり、グルジアの現在の政府を打倒する作戦計画の発動を疑われたのも間違いないだろう。当然ロシアとしては様々なオプションを用意していたとは思うが。いずれにせよ、グルジアは正統政府を任じるからには南オセチアに多くの責任を果たさねばならず、一定の非難も当然であるが、ロシアの責務はそれ以上のはずであるということであろう。

 コソボに関しても以前エントリを書いたが、この時には各国がこれはバルカンでのみ適用する特殊例だというのをしきりに強調していた。対応に疲れ果てていた欧米各国の実情からは無理もない側面もあるが、やはりというべきか、このように影響が飛び火する。特にアブハジアは「こっちはコソボより条件が整っているのに」と思ったであろう。賢い指導者であれば将来のロシアとの合併を断念する条件で独立を得ることが出来たかもしれないし、場合によっては今後そういう展開もあるかもしれない。

 それにしてもこの種の事件が欧州諸国に与える影響は大きい。ただEU内にも温度差があるのは当然である。(参照6)以前ドイツなどの一部の欧州諸国は、グルジアのNATO加盟に関してその資格がある民主国家といえるかどうかの懸念を示していた。それは結果として当たっていたかもしれないが、しかしその一方で今回グルジアが主張する「NATO加盟が認められていればこのような事態は発生しなかった。ロシアに誤ったメッセージを送った」との主張もそれはそれで一理ある。欧州は正しさを実効性あるものに結びつけるのに苦労しているが、今回も例外ではないのだろうか。なお米国は一貫してグルジアのNATO加盟を支持しているようだ。これもこれで肩入れし過ぎかもしれないが、ただ関係国の未来がより明るいものになるだろうとは言える。

 さて、その一方でウクライナのNATO加盟に関してはドイツもかねてより支援方向であると伝えられている。(参照7)ウクライナではロシア黒海艦隊の帰港を許すかどうかなどで論争になっていた。今回の事態を受けて、ウクライナは全力でNATO加盟を目指すであろうことは容易に想像できる。これはNATOの大多数の国も容認方向であろうし、ロシアが反発するのも必至なので次のトラブルになることは間違いなかろう。今回、腰が引けた米国の威信低下を指摘する向きもあるが、全体としてはロシアが多くのものを失うのではないか。部分的な正しさが全体の行動の適切さには結びつかなかったように思われる。あまりにも周辺国に人気が無さ過ぎる外交は長期的に国益を害するのであろう。
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2008年02月20日

コソボ独立問題に思う

 コソボ独立宣言を受け、各国が様々な立場を表明している。セルビアはもちろんのこと、ロシアも反対のようだ。また米国はかねてから独立を支持してきたという経緯もあるが、同国の政治的伝統を考えると支持するのは理解できるが、EU諸国がかなり早期に一致して結束した感があるのは興味を惹かれる。私の思い込みに過ぎないかもしれないが、EU諸国としてはもう少し時間をかけて着地点を探る外交が普通で、今回は多少高め玉のような気がしなくもないからだ。以前にも関連エントリを書いたが、節目ということで多少思ったことを書いてみたい。

 米国の大手メディアとしては、ヘラルドトリビューンの報道がやや目立ったので代表として取り上げておきたい。同紙にはややその傾向があるようにも思うが、欧州的な政治感覚がこの記事にも見られる。(参照1)2番目の記事の一部を引用する。

The second is to ask when and where the process of dismemberment of former empires will end. After all, the very word "Balkanization" derives from the break-up of the Balkan territory of two empires, Ottoman and Austro-Hungarian, into 10 states.


 この地域に関して言及するときの歴史感覚としては外せないのであろう。オーストリア・ハンガリー帝国やオスマン帝国(これは普通の日本人が思うよりかなり欧州寄りに考えたほうが良い国である)からの分裂が継続する、その最終段階であるとの意識が見える。4番目の記事のミリバンド氏のコメントもそれを示している。この種の「このユーゴ問題を終わらせる」という種類の発言は各国から共通に出てきている。


"There is a very strong head of steam building among a wide range of countries that do see this as the last piece of the Yugoslav jigsaw and don't see stability in the western Balkans being established without the aspirations of the Kosovar people being respected," Miliband said.


 ちなみに国内メディアの報道であるが、意外に読売がまとまった記事を出していた。社説(参照6)は特にどうということもないが、個別の記事では、例えばこれなどはポイントをうまくまとめていると思う。(参照7)ここではロシアの主張などもちゃんと書いてあり、国際法の観点からすると全く筋が通らないわけでもないのだ。ロシアは奇妙に(国連などでの)国際法の前例に拘り、何とか建前としては正当性を主張しつつ自国の影響力を残したいという主張をする外交的伝統があるが、このコソボ問題はまさに欧州の問題であるだけにそれが典型的に見られると感じた。またスリランカが非難声明というのをワンポイントで記事にしていたりする。(参照8)まぁこれは日本とノルウェーが頑張って宥めるのであろう。他にも関連記事がいくつかあるが、感度の高いライターが一人いるのかなという印象を受けた。社説の内容を考えると、組織立ってはいなさそうだが(苦笑)

 ちなみに中国へのフォローもさすがに手抜かりはないようで、今回のヒル次官補の訪中のタイミングは合わせたものであろう。確かに北朝鮮問題はないわけではないが、外交官が単独の目的で動くことは少ないし、ましてヒル氏がユーゴで実績を上げた経歴がある専門家である以上当然だろう。(参照9)ヒル氏のみならずブッシュ大統領も「特殊事例」と強調しているのはまさに長く続いたユーゴ紛争の終結としたいとの欧州諸国と共通の見解があるからであろう。

 ところでNATOの状況であるが、今はアフガンにおける兵力の分担で相当の軋轢が発生している。わけても、直近のニュースとしてはドイツがアフガン南部への部隊展開を断ったというのが大きい。(参照10)ドイツの国内状況としては、若干日本にも似た屈折した議論が発生しているようだ。最初に設定された担当地域からの変更は認めないという政治勢力があるようだ。そして多くの犠牲者を出したカナダやオランダは不公平だと兵力を引くかどうかという話になっている。そしてこの状況でコソボに展開するKFOR部隊の維持を昨年12月に決定している。(参照11)もちろん役割は違うので単純な使い回しというわけではないのだろうが、政治的軋轢が続く状況では、とにかく欧州内だけでもケリをつけたいという見解がEU内に強まったとしても無理もないところであろう。ちなみに現在のKFORの各国の派遣人数はこのようになっている。(参照12)仏独伊の負担がやや重い状況だ。なおリーダー国は、比較的小国の場合は持ち回りにしているようだ。チェコなども担当していたことがある。また言うまでもないが、これらのNATO諸国は、日本が給油問題でどういう議論をしていたかは良く知っている。来日時のメルケル首相の言もキツくなろうというものである。

 さて、コソボ問題での日本の立場であるが、意外に重要ではないかという気がする。他の国に独立承認を呼び掛けると、それを機会に追随する国も結構あるのではないだろうか。今回は国連を回避するかどうかという瀬戸際なのでなおさら重要である。通常の日本の外交的伝統では、時には無駄なくらい慎重に調べ上げて随分時間をかけて国家承認する手順を踏む。ところが町村氏などのコメントでは前倒しを示唆するような発言があった。かなり裏でせっつかれているのではないかと推察している。ちなみに現在セルビアへの最大援助国は日本であるはずだ。(欧米から干されているだけとも言えるが)こういう時にセルビアの顔が立つような妥協案を出すだけは出すということをしても良いだろう。EUの見解に少しのおまけがあるとか、実現時の負担の分担も怪しい言いっぱなしの内容とかでもいいのである。そこから事態が動くこともあるのだから。伝統的にフランスなどはこういうのがうまいのだが、今回はほとんど当事者であり、動きようもないだろう。

 ヒル氏は20日に来日の予定と聞く。まさかさすがの日本も北朝鮮問題の話だけして終わりとは思えないが。せめてこの問題につき、うまいコメントでも用意しておいて欲しいものだ。
posted by カワセミ at 02:07| Comment(2) | TrackBack(2) | カナダ・欧州・ロシア

2007年06月25日

修正された条約によるEUの前進

 以前のエントリでも取り上げたEUの憲法条約であるが、修正を加える形で各国の合意が得られる見通しとなったようだ。(参照1)修正された内容は多岐にわたるようだが、これもかねて報じられていたように、全体を簡素化して主権に関連する部分を抑えたものになるようだ。概要はこのあたりのニュースがよくまとまっている。(参照2/参照3)"

 元々内容的に憲法とは言い難く、"constitution"の語句を削除したのは適切なのだろう。またEUの大統領職は置かれるが外相ポストは無い。象徴的な部分は残すが実質の部分は(少なくとも現時点では)機能させずに、あくまで各国の主権を尊重するというところか。しかしその他理念的な部分の多くに手が加えられており、各国の微妙な世論に配慮した結果が伺える。そしてEUの多数決原理はより人口を反映した形に変化していくようであるが、やはりここは揉めるポイントになった。

 これも報じられていた話だが、この合意の直前でポーランドが歴史カードを切った。曰、「ナチスによる侵略がなければポーランドの人口は2倍はあった」という主張である。(参照4)6600万人というどう試算したか良く分からない数字も語っていたようだ。カチンスキ首相自らの発言であるだけに大きな反響を巻き起こした。いきなり高め玉の印象があるが、全く無茶な主張とも言えないのが問題を複雑にしている。駐日ポーランド大使館のページにちょうど記載があるのでリンクするが(参照5、ページのトップはこちらだがここ自体リニューアル中で、こちらに移行する模様)第二次世界大戦直後にポーランドの人口は大きく減少している。なお同国の犠牲者数は試算にもよるが600万人前後とされており、人口に対する犠牲者数では、日本も含めた主要な大戦関係国の中で間違いなくトップであろう。これを言われると基本的にドイツは黙るしかない。

 しかしこれにはEUの他の国の賛同は得られなかったようだ。まずデンマークのラスムッセン首相が反発したことが報じられている。相変わらず骨のあることである。こちらのニュース(参照6)などを見ると、北欧諸国が今回の合意を重視している様子が伺える。ポーランドとの関係が重要なバルト諸国などは微妙な立場だったかもしれない。

 結局、ドイツはポーランド抜きで採決しようとの強硬な立場を取ったようだ。そしてポーランドは結局折れた。しかしその一方で、合意結果に示されているように最終的にはポーランドに対して妥協している。そしてポーランドは感情的な外交で孤立したのかというとそうでもない。今回ポーランド支持に回るかもしれないと思われていたチェコは大きな動きを見せていないが、ポーランドとの役割分担はあったようだ。このあたりのニュースは興味深い。(参照7/参照8,広告後の音声に注意)ポーランドの立場強化に協力するが、合意が破棄される事は望んでいない。しかし交渉の矢面に立ったポーランドの支援には貢献したと自負しているというのは面白い。

 なお今回の交渉の主な勝者は英国と見られているようだ。(参照9)ブレア氏とサルコジ氏が親密な事は知られており、サルコジ氏が花道を用意したのかなとつい思ってしまう。ブレア氏をEU大統領職の候補に考えているようでもある。その一方で今回の交渉におけるドイツのリーダーシップに疑義を呈したりもしている事が報じられていた。サルコジ氏はポーランド排除など不可能な事だと思っているようだ。メルケル氏はうまくやったと言えるが、なかなか危ない状況でもあっらたしい。(参照10)

 今は欧州主要国のリーダーが変化している時期なので、距離感を探るような雰囲気もある。いずれにせよこの雰囲気では、正直EU拡大どころではあるまいなと思う。ただそれはそれで大事で、例えば対トルコとか、あまりに不誠実な外交を行うとやはり問題が持ち上がってくるのだが。
posted by カワセミ at 00:41| Comment(1) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア

2007年06月08日

スウェーデンとフィンランドはNATOに加盟するか

 ロシアの対欧米外交が強硬なものになっている昨今だが、その影響は様々な所に出ている。ミサイル防衛の件もそうであるが、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟の噂が流れているようだ。もちろん両国とも公式なコメントは出していない。しかし水面下で様々な模索がされていることは間違いないだろう。

 言うまでもなく両国の事情は少々違う。歴史的にも中立政策を維持してきたスウェーデンとソ連・ロシアに気を遣わねばならなかったフィンランドでは選択肢も異なる。これまでの経緯としては、珍しく面白い内容が日本語のみで記されているWikipediaのものが参考になる。(参照1)ちょっと演出的過ぎるが北欧各国の立場を分かりやすく示している。どの国もそれぞれの事情で必死だったというわけだ。特にデンマークは実に興味深い外交大国なのだがここでは省略する。ちなみに米国は冷戦期に中立国にはかなり一線を引いて外交関係を結んでいたようだ。意外にも経済面での情報が遮断されていたらしい。確かにスイスやスウェーデンなど、中立国は経済が停滞していた印象はあるのだが。ノルウェーの一人当たりGDPが高すぎるのは別の理由としても。(今に至ってもEUに入らないはずである)

 ところで今回の噂は、5月にバルト海で実施されたNATOの演習が直接の契機である。これに関しては興味深いブログがあるので紹介させていただく。(参照2)またどういう事情か不明だが人民日報サイトではフィンランドの参加も明記されている。(参照3)その一方で一般的な民主主義国のメディアでこの件はひっかからないのが不思議だが。

 スウェーデンに関しては、上記ブログでも記載されているように安全保障に関する考え方が政党によって違う。今は以前のエントリでも記したように右派政権となっているが、こっそりと事実を積み上げて追認させる政治手法は日本とかぶる部分もある。自国単独での武器開発はとにかく高コストという事もあるだろう。近年の近代兵器の価格や技術水準を考慮するとそれだけでもNATOとの連携は必要だ。

 フィンランドとなると、軍事的リソースもそれなりに有するスウェーデンと比較してよりデリケートな対応が必要とされる。先日のエストニアへのロシアのサイバー攻撃も我々が思うよりフィンランドを刺激しているようだ。この両国はいずれもサンクトペテルブルクが至近距離にある事でロシア側が過敏に反応する傾向がある。そのため冷戦後の外交も注意深い。NATOへの加盟は表明せず、経済の繋がりという名目でEUに加盟している。しかしフィンランドはEUに安全保障に関する役割もあると考え、EU独自の動きとして陸軍6万人規模の緊急展開部隊(RRF)(参考:参照4)を創設するや、早速それには積極的に参加し、自国への受け入れも容認するとしている。というよりそれが目的であろう。なおRRFへの参加はスウェーデンも表明している。

 北欧諸国は小国が多いが政治的な稚拙さとは無縁なのでそれなりに切り抜けるのだろう。日本もNATOとの連携を模索しているようだが、これこのように相当の思惑が周辺で錯綜している組織に、日本やオーストラリアのように直球好きな国柄が参入するとかなりの迷惑を振りまくこともあるのだろうと思うが、どうだろうか。
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2007年06月06日

EU憲法は復活するか

 サミット開催が報じられているが、現在の欧州はEU憲法に関する討論が主要な政治課題となっている。新たに就任したサルコジ仏大統領は精力的であり、縮小された規模でのEU憲法を模索しているようだ。日本でも報道はされている。(参照1)

 このEU憲法であるが、憲法と名付けられてはいるものの多分に象徴的な表現である。これに関してはBBCの記事が簡潔に現状を表現している。英国の冷淡さを反映してはいるが、かといって別に嘘を書いているわけでもないあたりに苦笑する。(参照2)その他各項目に簡単に言及しているこちらも分かりやすい。(参照3)一部引用する。

The procedures by which laws are passed have not fundamentally changed. Laws will still be proposed by the executive body, the Commission, and agreed jointly by member states in the Council of Ministers and the European Parliament. EU law is supreme in those areas where it has the right to legislate, but that has always been the case. If the procedure allows for a majority vote, it is possible, likely even, that a member state will be outvoted and in that case the EU law will be imposed on it. That already happens. The constitution means that it might happen more often.


 むしろ今までのマーストリヒト、ニース条約に近い性質をこのEU憲法は持っている。政治的宣伝の手法としては時期尚早に過ぎたかもしれない。ただ、ここでの記事で表現されている事実は現時点のものであって、一度構造を作ると時間の経過で実質的な機能が発展していくということはある話だ。

 争点になりやすいのは、現状各加盟国の国数と人口比の双方の二重多数決の部分であるが、これはオランダあたりを刺激するとはいうものの、落とし所を探るのはEU諸国の伝統からして難しくもないと思われる。予想以上に揉めたのは前文などで、こちらの記事(参照4)でも記述されているが、神への言及をどうするかなどでポーランドとフランスが対立したりとか、面倒な事態はあったようだ。とはいうものの、不要な対立を招く部分の常として削除されるようではある。その他名称にまつわる話とか、つくづく思想や主権にまつわる部分は議論の対象になるものだと感じる。

 サルコジ大統領の活動は活発なようだ。各国首脳との会談を次々に行い。合意可能な範囲でのミニ憲法を作成、批准することを目指している。ビジネスでも何でもそうだが、実行力のある人物は中間目標の設定に長けているものだ。欧州の行動主義者の代表はブレア氏からサルコジ氏に移るのだろうか。フランスがサルコジ氏を必要としたのは、実は政策というよりこの活力そのものであったような気がしてならない。国民を鼓舞するだけのリーダーでもそれが切実に必要な事はある。もちろん政策が正しく効率的であるに越したことはないが。

 現在はハイレベルチームが新たな草案の作成にかかっており、まだ議論の段階で一般への公開もまだのようだ。(参照5)直接の要素ではないが、サルコジ氏がトルコ加盟への反対を重ねて表明しているのは草案への合意可能性を高めるだろう。実質的に機能することを重視するという態度は一貫している。

 ただでさえ更新の少ないブログであるが、何となく書けなくなって時間が過ぎてしまった。メモ程度でも残しておくべきだったかもしれない。ただ、それこそ数行書いて終わりか半年は調べ上げないと何も書けないか、というのが世界情勢を語る上ではありがちな事で、こうなるのもおかしくはないかなと思いもする。
posted by カワセミ at 03:05| Comment(0) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア

2007年04月02日

北アイルランド問題のささやかな進展

 紛争が断続的に続いている北アイルランドであるが、北アイルランドの議会を構成する代表的な政党、民主統一党(DUP)のペイズリー党首とシン・フェイン党のアダムズ党首が会談し、自治政府を再開する事で合意したと報じられている。(参照1)今回の和平は長続きするのだろうか。

 この北アイルランド問題、アイルランドとの間で昔から続いてきた伝統的な紛争の延長に位置し、宗教対立が背景にあると理解する人もいるが、必ずしもそのように解釈すべきではない。現在の国境の状態を直接規定した英愛条約にしても1921年と充分に近代のものであり、シン・フェイン党に近しいIRAは1969年の分裂により日本でIRA暫定派と表記される(以降英語圏に多いPIRAと表記)武装組織が成立している。これは様々な思惑が錯綜する政治路線の現代的な対立問題と解するべきであろう。ちなみにPIRAのテロに自爆テロは確認されていない。あくまで政治活動の一環であり、宗教的情熱から発生しているわけではない。そしてその政治的意識とは、1960年代の米国での公民権運動の影響が大きいとされている。実際、IRAの分裂もこの時期である。確かに差別されていたのはカトリックであるが、宗教というより人権の問題というほうが正確であろう。(しかしこの1960年代における紆余曲折を経た民主主義の進歩は高く評価されるべきだ。当時のそれが日本において実りが少ないことをもって民主主義国としては二線級であると欧米人が言うことがあるが、少々反論が辛い。日本はむしろ穏健なコンセンサスによりそれをかなり代替しているのであり、事情が違うのは確かにその通りだが、様々な問題を隠蔽したのも否定できない)

 話がそれた。さて政治の問題となれば、北アイルランドにおける選挙結果はまず参照しなければならない。Wikipedia(参照2)をリンクさせていただくが、DUPとシン・フェインというそれぞれ強硬な立場を示している政党が躍進を継続している。(過去の選挙結果などを参照)これは住民の要求が先鋭化してきたというより、実質的な交渉能力を評価するようになったということであろう。賢く振舞う統治能力の高い(元)タカ派同士の合意はしばしば紛争を終結に導くものであるが、今回もそうであると良いのだが。また、英国に起源をもつ政党は歴史的に零落してゆき、北アイルランドに地盤を持つ政党が躍進したという事実も把握しておく必要があろう。また保守党が直接北アイルランド議会に議席を持とうとする試みも失敗している。現実の住民意識として政治単位としての独立性が高い事は間違いない。その上での政治的選択がどうかということである。こういう事実を前にすると例えば沖縄独立などが100%無いことも良く理解できる。現地オリジナルの政党への支持はほぼゼロである。もちろん日本では沖縄に限らない話だ。

 PIRAの穏健化は様々な要因があろう。経済的に引き合わないという現実的な計算も浸透してきたようだ。そしてこのPIRAの資金の多くは、アイルランド系米国人、特にニューヨーク周辺から多く得てきたとされている。金額に関する確かな情報など確かめようもないが、数百万ドル程度までは間違いないという意見が強い。そしてこのPIRAへの金銭的支援は9.11以降ニューヨークで支持を失い激減した。米国の態度も厳しくなった。ただ武装闘争の放棄宣言以降米国はPIRAのテロ組織認定は解除している。

 経済情勢も状況改善に役立ったようだ。ピーク時に17.2%に達した失業率は2001年段階で6.2%まで低下している。(参照3)現在では4.5%とEU平均よりも低く(参照4)経済の安定の継続が背景にもなっているのは間違いない。

 そのような背景があるとしても、今回の和平の進展に関してブレア首相を称賛する声もある。例えばこのようなコラム(参照5)は賛同するところ多い。最後の部分などは特に。

When he came to office in 1997, an inexperienced and untested leader, it would have been very easy for him to run away from grappling with what had been the most intractable problem in the politics of the British Isles for decades. He had many other ambitions to which Northern Ireland could have been subordinated.

He has displayed courage, ingenuity and persistence. He breathed new life into the peace process and then sustained it through all those exhausting years. In the tireless effort he has devoted to getting to a settlement in Northern Ireland, Mr Blair has showcased his best qualities: his negotiating skills, his flair for creative ambiguity, a certain degree of deviousness, his capacity to take risks, and sheer effort of will.

Last Christmas, the press jeered at him for spending his holiday in the Miami mansion of Robin Gibb of the Bee Gees. To tell the truth, I thought it was pretty naff and ill-judged as well. I laughed like you when 'Stayin' Alive' was mockingly played as the soundtrack for his premiership. As it happens, he spent much of that holiday keeping the peace process alive. Every day but Christmas Day, he was on the phone to Northern Ireland's political leaders, working them towards agreement. Tony Blair has been looking for a high on which to depart from Number 10. He has now got a very great one from this triumph of politics over decades of hate and murder.


 長く続いた紛争はしばしば人をそれに慣れさせる。有利な条件が発生しても人為的な介入が無ければ平和は訪れないか、リーダーが老いて交代する数十年後であったりする。ブレア首相の評価は人により様々であるとしても、様々な問題に何かをしなければならないという決意があり、そして行動したこと、何もしない冷笑主義者と最も遠い距離にあったことは誰もが認めざるを得ないだろう。ユーゴ紛争、イラク戦争、この北アイルランド問題と、驚くほど理念的かつ実務的だ。結局歴史は、そのような人物が作るのだろう。
posted by カワセミ at 01:48| Comment(5) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア

2007年02月28日

ミサイル防衛とプーチン発言

 ポーランドとチェコがミサイル防衛への本格的な関与を決定したと少し前に報じられている。(参照1)前後してロシアのプーチン大統領が反欧米的な発言をしたとして話題になっていたが、その後やや軌道修正をしたようだ。ロシアの反応というのもなかなか面白い。

 直接的には東欧へのミサイル防衛はロシアを意図したものと解釈したらしい。しかし、米国の伝統的な外交政策から見るとこれは正確な表現ではないだろう。他の安全保障面で関与している国、例えば日本、パキスタン、トルコあたりを考えると分かりやすい。いずれも関与の程度や事情は様々なれど、本質的にはその国そのものの安定を第一義としている面が強い。そして副次的効果として周辺地域が安定するという、世界戦略全体としての合理性が追及されていることは言うまでもない。ポーランド、チェコもその見本のようである。NATO加盟国というだけではやや足りないと考えたのか、実質的な駐留を加えることはバルト三国やハンガリーなど周辺国へのメッセージにもなり合理的だ。また言うまでもないが、当事国が強く望んでいるのも間違いない。ユーゴ紛争の経緯で欧州の主要国が実に頼りなかったのは全ての国が良く覚えているのだ。

 さて、その後のプーチン発言である。ワシントンポストで紹介されており、このような内容らしい。(参照2)全体として伝統的なロシアの主張に沿っており新味はないようにも見える。しかしながら部分的には興味を惹かれる。またここではあくまで欧州的な文脈で話していると理解するべきであろう。例えばこの付近の言い回しは典型かもしれない。
In connection with this the role of multilateral diplomacy is significantly increasing. The need for principles such as openness, transparency and predictability in politics is uncontested and the use of force should be a really exceptional measure, comparable to using the death penalty in the judicial systems of certain states.

 そしてわざわざ言及した下記の部分は、つい深読みしたくなる。少し長いが引用する。
I am convinced that the only mechanism that can make decisions about using military force as a last resort is the Charter of the United Nations. And in connection with this, either I did not understand what our colleague, the Italian Defence Minister, just said or what he said was inexact. In any case, I understood that the use of force can only be legitimate when the decision is taken by NATO, the EU, or the UN. If he really does think so, then we have different points of view. Or I didn't hear correctly. The use of force can only be considered legitimate if the decision is sanctioned by the UN. And we do not need to substitute NATO or the EU for the UN. When the UN will truly unite the forces of the international community and can really react to events in various countries, when we will leave behind this disdain for international law, then the situation will be able to change. Otherwise the situation will simply result in a dead end, and the number of serious mistakes will be multiplied. Along with this, it is necessary to make sure that international law have a universal character both in the conception and application of its norms.

 NATOやEUではなく国連が正統性を持つという表現だが、それが一定の正当性を持つという事は了解しているという大前提があるように思える。またロシアは国連において、国際法の比較的伝統的なプロセスを重視することが多い。これは大陸欧州や日本の伝統的な保守主義者とあまり距離感はない。ただ実際の国際政治ではしばしば強引で、その割に表面を取り繕うことに敏感というのも面倒といえば面倒だが。しかしその後のこの部分などは賛同者もそれなりにいるであろう。

I think it is obvious that NATO expansion does not have any relation with the modernisation of the Alliance itself or with ensuring security in Europe. On the contrary, it represents a serious provocation that reduces the level of mutual trust. And we have the right to ask: against whom is this expansion intended? And what happened to the assurances our western partners made after the dissolution of the Warsaw Pact? Where are those declarations today? No one even remembers them. But I will allow myself to remind this audience what was said. I would like to quote the speech of NATO General Secretary Mr Woerner in Brussels on 17 May 1990. He said at the time that: "the fact that we are ready not to place a NATO army outside of German territory gives the Soviet Union a firm security guarantee". Where are these guarantees?


 事情が違うだろと言えばその通りなのだが、外交巧者な欧州諸国にしてやられているというロシアの伝統的な被害者意識が今に至っても出てくるという感があり面白い。事象自体は直接の関連性がないだけに意識の構造として変化がないように見える。ただ大きな目で見れば現代ロシアはその結果から恩恵を受けているかもしれない。

 また関係ないが、ふとNATOと日本の立ち位置を考えた。ブレア首相の「欧米が一致すれば他はついてきます」という発言は客観的な事実ではあるが、政治レベルでも国民感情としても面白くないという意味でロシアと日本は良く似ている。しばしば渋々ながら賛同するというところも共通点がある。するとロシアにとっての核兵器は日本だと憲法九条かなと思えなくもない。そしてロシアはともかく日本は、力学としてはNATOやアンザス条約等への統合圧力が常に一定レベルで存在しており、それを外交上かわすための方策はあまり無いのであろう。またその付近が日本の安保政策の中心的な論点である。ロシアでも欧州との距離感が常に課題である。ただこの国の場合、米国を意識して余計なノイズが入り過ぎる感はある。
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2007年02月08日

コソボの国際的な地位はどうなるのか

 少し時間も経過したし、ちょっと今の時点ではあまり書きようもないのだが、これに関しては多少なりとも触れておきたい。コソボ問題であるが、かなり独立国に近い線での自治が認められる方向で国際社会は仲介を進めている。(参照1/参照2)ただ、当然ではあるがセルビアは猛反対の構えだ。

 以前モンテネグロに関してエントリを書いたが、コソボと比較すると状況が違うことが良くわかると思う。モンテネグロは長い自治の伝統があり、独立することで総合的に見れば状況が固定化して地域の安定をもたらすと解釈可能だろう。しかしコソボはどうであろうか。100%完全な独立国となると地域に混乱をもたらすだろう。

 日本のメディアはセルビアにとってコソボは京都みたいなものと解説することがある。それは感情面の事実ではあっても、「主権」を語る際の表現としては、極めて不誠実で危険なものとなる。東プロイセン一つ例に取るだけでそのような表現は問題があることが誰にでも理解できるだろう。現実と遊離した秩序は維持不可能だが、地域に混乱をもたらすような措置は取れない。今回はその典型例と言えるであろう。

 同地域の居住者は、以前からアルバニア系が圧倒的となっている。(参照3)このため独立はアルバニアへの併合に繋がる可能性があり、これは即座にマケドニアの不安定に繋がる。またこの併合方向での国境線の引き直しは、近年の国際社会が注意深く避けてきた方向での秩序変更であることも自明だろう。分離独立のほうがまだしも「民主的」なのである。また、この問題は現在何とか欧州域内で矮小化させているが、世界的な問題に拡大する可能性もあり、その意味からも認められないだろう。

 そのように考えていくと、国連特使の仲介案の内容は直接的には違和感を感じないでもない。普通に考えると、外交などでの制限された内容で名目的にセルビアの主権を認め、自治に関しては、セルビア系住民の人権を確保することを条件に今まで以上に大幅に拡大するというのが順当な所ではないだろうか。というのも、地域の現状がこうである中での独立の達成には、モンテネグロなどの例でも見るようにEUなどの関与で上位組織への大きな主権の移譲を利用して安定を図るしかないであろうからだ。にもかからわず、独自に条約を結んだり、国際組織への加盟も認め、一方で法案の拒否権を国際社会が任命した監督官が持つというのは奇妙に見えなくもない。

 しかしながら、必ずしもそういう文脈で捉えるべきではないのかもしれない。まず、ロシアはこの件に関して、意外にも必ずしも拒否権を行使するとは限らないようだ。(参照4)そして、例えばこの記事(参照5)に見られるように、それはセルビアを欧州の一部にするためのプロセスという見方もある。この付近は米国務省のダニエル・フリード次官補のインタビューの記事により典型的に示されている。これを読むと今回の仲介案の本質がやや見えやすくなるかもしれない。(参照6)読後の感想は人によって違うと思うが、これは日本人や、恐らく大陸ヨーロッパからはなかなか出てこない反応ではないだろうか。本当にそれでいいのかとも思うが、その一方で建設的ではある。だがしかし、たとえばこのような意見はというと、

Russia last year raised the point that independence for Kosovo may set a precedent for breakaway regions like those in Georgia, such as Abkhazia and so forth. Is there concern of creating this type of precedent?

Well, separatists may claim this as a precedent, but separatists have existed for a long time. The fact is Kosovo is not a precedent for other conflicts at all. It just isn’t. Kosovo is a unique situation, because NATO was forced to intervene to stop and then reverse ethnic cleansing. The Security Council authorized effective Kosovo to be ruled effectively by the United Nations, not by Serbia. UN Council Resolution 1244 also stated that Kosovo’s final status would be the subject of negotiation. Those conditions do not pertain to any of the conflicts that are usually brought up in this context. It’s not applicable to Abkhazia, or South Ossetia, or Transdniester. Nor is it applicable to Chechnya or to any separatist conflicts in Europe.


 確かにそうかもしれないし、筋論ではあるが危険な道でもある。米国はコソボ独立にフルサポートの構えであるが、EUとの調整は取れるだろうか。かと言って何かをしないと問題が残存するだけというのもまた事実なのだ。また今回の仲介案などは、例えばこのセルビアに3年間住んでいたというフリード氏など一部の人のリーダーシップで出来たものかもしれない。もちろん実際の所は分らないが、歴史はどうなるか先の見えない時に少数の人間の選択で決定する瞬間があり、今回もそうではないかと、ふと思ったのだ。
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2006年10月07日

ロシアと近隣諸国の外交模様

 ロシアとグルジアの間で緊張が高まっているとの報道がある。(参照1)反露的とされているグルジアのサーカシビリ大統領の政権弱体化を狙っているとされている。元々グルジアはその面積や人口規模に見合わずソ連・ロシア史に多くの影響を残す人物を輩出しており(参考:Wikipedia)しばしばロシア人に感情的な対応をさせる背景ともなっている。グルジアが検討しているとされるNATO加盟などとんでもないという所であろうか。

 その一方でラブロフ外相のポーランド訪問が報じられており(参照2参照3)課題が山積しているものの、ロシアが関係修復の動きを見せているらしい。合わせて考えるとなかなか興味深い。

 グルジアと違ってロシアはポーランドのことを尊重していますよと言う意図があるかどうかはともかく、外交交渉の本命はこちらかなと思えなくも無い。これはこの付近の報道(参照4)を見るとロシア外交としてはNATOの拡大を防ぎたいというのがまずは第一の目的で、既に加盟してしまったポーランドの警戒感を減退させるのが総合的に見て得策と判断しているのかもしれない。ちなみにこのミサイル防衛システムのポーランド配備の件は以前のエントリでも挙げたように少し前から囁かれているものだが、米政府の公式見解としてはまだ正式なものは無いようだ。ポーランドの国内世論も反対のほうが強く、むしろ標的になる可能性の方を懸念している面もあるようだ。(参照5)そのためロシアとしては打診の余地ありと考えたのかもしれない。しかしこれは同じく報道されている石油パイプラインの件と外交上噛み合っていない印象もある。

 石油パイプラインの件ではこのニュースでの報道がやや興味を惹いた。(参照6)バルト諸国とポーランドをすべて迂回するという事で、関係諸国が反発している。

Fotyga on Thursday reiterated Poland's "negative position" regarding the project. Along with EU Baltic state partners Lithuania, Latvia and Estonia, Poland objects to the planned pipeline which bypasses all four states as posing a threat to their energy security.


 シュレーダーが悪かったと言っても始まらない。この計画の撤回をメルケル首相に打診して却下され、ドイツとポーランドの関係も怪しくなっているという話もある。マスコミはモロトフ=リッペントロップの再来とか大げさに騒いでいるが、まぁ分からなくも無い。東欧諸国の不信を招いた側面はあり、後から見ればドイツは政治的負担を背負うべきであったと結論づけられるのではないか。

Fotyga also said she had raised the issue of interrupted flow of Russian crude oil supplies to Lithuania's Mazeikiu Nafta oil refinery. Poland's leading PKN Orlen fuels giant is in the process of buying out Mazeikiu.


 この部分も微妙に面白い。ここはバルト諸国唯一の精製施設である。石油産業でポイントとなるのは原油そのものよりむしろ精製で、日本はあらゆる工業部門をほぼフルセットで持ち、とにかく生産設備だけは無駄にある。そのため例えばエネルギー問題だとタンカーで原油を引っ張ってくることだけしか意識に無い。そのためこの種の事情はなかなかピンと来ない。ちなみに近年の原油価格の高騰には、米国内の精製施設への投資不足も一因になっていたようだ。要は付加価値という事であるのだが。原油価格は上下するが付加価値は持続的に生み出すことが出来る。

 いずれにせよ、ロシアはあの手この手で自国の影響力確保を模索しているようだ。個別にはなかなか手強い交渉相手である。しかしパイプラインの件など見本だが長期に見ると不信を買って関与を薄くされてしまう。グルジアもうまくいっていない。今回の件はウクライナへの牽制の意図もあるがこれも不調の感がある。原油価格が下落するとかなり手詰まりになるのではないか。そうなるとかなり高値で買う客に甘くなりそうで、さて中国がどうかなとこれまた懸念されるが。
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2006年09月19日

スウェーデンの政権交代

 スウェーデンで選挙が行われ、右派諸政党が勝利、穏健党を中心とする内閣が成立する見込みとなった。社民党政権からの政権交代である。穏健党のラインフェルト党首が首相に就任するであろう。この選挙への関心は米国と欧州で温度差があるようだ。米国ではそれほどでもないが、欧州での関心は比較的高いのではないか。

 およそ民主主義国での政権交代はどこでも同じであるが、右派でも左派問わず、比較的穏健で現実的な、実行力があると推察される政党が中道の有権者の広い支持を得る形で成立する。今回の選挙は西欧諸国の注目が高いが、英国のキャメロン党首の政権獲得可能性が欧州各国で意識されており、ラインフェルト氏がしばしばキャメロン氏やカナダのハーパー首相と自らを比較する発言をしているという事情もあるだろう。
 また欧州では、複雑な自国政治をある程度単純化した典型例としての結果を北欧のそれに見ているのではないだろうか。Wikiのこの付近のページ(参照1)を見ると分かると思うが(この種の記事として、日本語版としては珍しくポイントをシンプルかつ的確に押さえている)議会も一院制だし政党の出自も比較的明快だ。中央と地方の関係もシンプルである。人口の多い国だとどうしても複雑な要素が絡むが、北欧諸国のそれは欧州各国に過去の古き佳き民主主義を思わせているのかもしれない。特別行政区のように思っているわけではないだろうが。

 それでBBCの報道を見てみるとやはりそれなりに扱われている。(参照2)この記事では全般としてはこのくだりが一番適切であろう。そもそも選挙は接戦でもあった。

Swedes "have voted for change, not a fundamental break with the past", it notes. "They want things to be cleaned up a little, but not completely scrapped," the daily adds.


 この記事で紹介されている中では、ドイツのDer Tagesspiegelの言い草が自国の経済の不調振りを反映していて笑える。とはいうものの、スウェーデンは冷戦期に概して経済はそれほど好調というわけではなく、近年はそれに比較するとマシだという認識は客観性があるだろう。(余談だが、アメリカは変なところで潔癖で、冷戦期において中立国に対しては同盟国と比較して様々な自国の経済インフラへのアクセスを制限していた。近年のスウェーデンには開放傾向である)フランスのLe Mondeの見解はより適切かもしれない。スウェーデンではとかく公共部門における雇用者の割合が大きく、失業者の統計からは職業訓練該当者などは除かれるようだ。この付近日本とも若干かぶる部分がある。社内失業とどちらがマシかは不毛な比較だが。

 あと珍しい事?にYahoo!Newsでまずまず参考になる形で記事が載っていた。AP通信なので納得したが。(参照3)

It has come to the point, some say, that Swedish politics no longer has a right wing.

"They have had to change their rhetoric to glide toward the middle," said Ulf Bjereld, a political science professor at Goteborg University. "The Social Democratic values have such a strong position that you cannot distance yourself from them if you want to be a big party."


 社民党の政策に大きな反発があったわけではないというわけだ。様々な報道からしても微修正として、そして政権交代そのものの価値があったと言えるだろう。まぁ、この付近見ると芸の細かいこともやってるようだと苦笑した。選挙ではこういう事も重要だ。

They now call themselves Sweden's new workers' party, even changing the color of their campaign posters from the dark navy associated with European conservatives to a lighter shade of blue.


 ただ、今回の穏健党の立場は下記の通り確かに有利だろう。

Reinfeldt, 41, who compares himself to Canada's Conservative Prime Minister Stephen Harper or British Conservative leader David Cameron, has no need to worry about losing his conservative wing. There are no major alternatives further right of the Moderates.


 主要政党の中では最も右派と目され、同国の選挙制度下では移民排斥などを強硬に訴える極右政党は議席獲得が難しいかごく少数にとどまる。そのため保守派への遠慮は不要で中道へのウイングを広く伸ばせるというわけだ。もっとも、人口が一千万に満たぬ国でスウェーデン人が9割、残りの移民も6割が欧州内からという時点でそもそも辛い移民政策は実施され続けていると言える。この国の政治はスイスよりまだ油断ならないという印象がある。軍事大国でもあるし、欧州の国としては珍しく徴兵制もまだ存続しているのである。外務省サイトには戦時総動員兵力20万人とある。(参照4)

 ともあれ、内政的には穏健だが外交的にはEU、ユーロ、NATOすべてに賛成でODA削減と強硬に見える政策を取る。日本の右派あたりが変な引用をしないといいのだが。
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2006年06月22日

ハンガリー動乱から50年

 ニュースを聞いておやと思った。確かにこの事件は第二次大戦終結からその程度の時間差で発生したものだ。漠然ともう少し後のことという印象があったのだ。もちろん同時代人として知っているわけではないが、無意識的に頭の中で反ソ連の気風が東欧で決定的になった時期を後ろのほうに思い過ぎていたのかもしれない。プラハの春は別にするとしても。

 今回、ブッシュ大統領がハンガリーを訪問して、当時の民主化への希求を賞賛するスピーチを行ったようだ。これは以前のブッシュの発言で米国がヤルタ会談に関与した事を自己批判するものと同じ文脈であり、ロシアに一層の民主化を促すという意味でも首尾一貫している。(ちなみに以前のここここの2回のエントリで触れている)

 この件は様々なメディアで報じられているが、その関連でいくつか目を引いた記事がある。まず教会という文脈で言及したこの記事、(参照1)かつて聖職者を匿ったという歴史的事実を思い起こさせるのは米国内的にも受けが良いということか。これはサミット開催国としのロシアに対するキリスト教という観点からのアピールも兼ねているのだろう。このアプローチならプーチン始め今のロシアも価値を否定できない。ロシア正教の政府の関係はかつての日本の国家神道に近いイメージと指摘した人がいるが、それでもロシアにおけるカトリックの立場はプロテスタントの右派やイスラムと違っている事もあり、ここでは充分適切と言えるのだろう。対露外交という意味では先日チェイニーが強硬発言で高め玉を投げていることに対して今回のブッシュは穏やかでもある。ロシア・東欧の専門家ライス国務長官の肝いりと思われるが(今回も同行している)アジア外交と違ってこちらの捌きはソツが無い印象である。

 もう一つ、Financial Timesの記事は東欧全般も含めて色々言及している。(参照2)ロシアへの懸念も含めて言及しているのだが率直だ。

In Poland, Eugeniusz Smolar, president of the Warsaw-based Centre for International Relations, puts it more bluntly: "For Poland, security comes from America and development comes from Europe."

Russia's recent efforts to assert itself in the region - especially through its dominant position in energy supplies - has only served to reinforce relations between central Europe and the US. Central European officials, who were among the first to view President Vladimir Putin's resurgent Russia as a potential threat, say they have found a more sympathetic audience in Washington than in Brussels.


 もう少し後でミサイル防衛に関する言及もある。これは私も以前のエントリで軽く触れたが、どうも現地では政治的価値がかなり高く評価されているようだ。

In Radek Sikorski, defence minister, Warsaw has among the most pro-US officials in Europe. The government is urging Washington to locate in Poland a base linked to the proposed American anti-missile shield.


 一大プロジェクトであり米国含めた世界の主要な民主主義国を防衛する要のシステムであることから、これを配備した国を米国が見捨てる事はないだろうという判断か。日本の場合はこの種の政治的機能を必要以上に隠蔽するか過小評価する傾向があるが、外交の厳しさに揉まれていなかった国の反応なのかもしれない。東欧はより自覚的だ。ソ連崩壊後、各国は全速力でNATOへの加盟を推進したのを、当時の私は気持ちは分からなくないがやや過剰反応かなと感じた。しかしそれは全く持って正解だったのだろう。私も気楽な日本人であることに変わりは無い。そして最後のビザの部分、

Personal ties with the US are overshadowed by persistent difficulties in securing visas and Poles, Czechs, Slovaks and Hungarians are united in resenting the fact that they require visas atall.


 これは全く持って間が悪いとしか言いようが無い。OECDのような組織には順次加盟が進んでいることから、米国の9.11以降の安全保障に関する懸念においてはまだ磐石の信頼といかないのだろう。国境管理に完璧を求めても不可能なだけに止むを得ないところか。バルカンの安定も未だ道遠しの感もあり、特にハンガリーあたりは苦労が続きそうな印象だ。バルト諸国も北に行くほど幸運なようだ。安全保障の戦略は世界的な視野が必要だが、治安や移民流入なども絡む生活感の伴う課題では地理的な問題は未だに重要なようだ。
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2006年06月06日

カナダテロ未遂事件に思う

 カナダで爆破テロ計画が摘発され、17人の容疑者が逮捕されたとの事だ。(参照1)例によって日本での扱いは小さいが、カナダでは言うまでも無く大騒ぎだ。標的も国会議事堂、CNタワー、トロント証券取引所と有名な場所ばかりで、実際に実行されていたらカナダ版9.11事件となったろう。この3トンの爆薬はおとり捜査で渡したものと報じられているが(参照2)何とも大技で釣り上げたものだ。

 もう少し詳しい全体の概要として、National Postの記事を示しておく。(参照3)軍の準備も出来ていたようで、全くのギリギリというわけではなかったようだ。そのせいもあるのか、国内の論調はややゆとりがあるようだ。

 言うまでも無いが、カナダの自国に抱いているイメージとしては、アメリカやイギリスなどから一線を引いて、平和な国に暮らしていると言うものだ。そのため国内では比較的リベラルな論調が強い。今回もその典型だが、Toronto StarのAnalysis & Opinion(参照4、画面右中ほど)に見られるような反応が知識人階級では好まれているようだ。裁判で有罪と宣告されるまで潔白だと強調し、あるいは穏健なイスラム教徒との連携を訴える。また背景として米国のような国内規制を嫌うという事情もある。上記のNational Postなどに見られるように、未だそれは高コストではあるがバランスの取り方として好ましいと主張している。(参照5)この種の主張は日本やフランスの知識人が好むところと大差なく、民主主義国ではさして事情が違うものではないなと感じさせる。ただ国民一般では温度差があり、例えば上記新聞で多文化主義の持続があるかというPollではNoの方が多くなっている。もっともこのような時期に40%以上の継続の意思が見られただけで立派かもしれないが。

 この事件のタイミングは米国ではなかなか微妙だ。イラクでの虐殺事件の捜査が進展しており、もちろん米国の価値観に反するものであるからフラストレーションを感じるものになっている。そしてメキシコとの間で移民問題に関してモメているという状況がある。北は安全な隣人、何とかしてああいう具合にと思っていた矢先にこれである。結果北の国境は大丈夫かと言う話さえ出てくる始末だ。(参照6)安全と思ってやたら長いカナダとの国境にメキシコとの国境と比較して1/10しかパトロールしてないという事実を指摘する言い草が、アメリカ人をさらに不安にさせている雰囲気を伝えてくる。テロリストへの"safe haven"を提供するなと言うのはキーワードと言えるだろう。アメリカとビザ免除協定を結んでいる国は普通以上に何かと注文を付けられている。"safe haven"としての破綻国家問題とまた違った、しかしながら表裏一体の問題だろう。

 それにしても、この種のテロ事件の報道は地域性と関連しているだけに、注目されるのは基本的に国内だけだというのを実感する。イスラエルなど、実行されてさえ報道されないし、未遂時の海外での報道などろくに無い。日本の拉致事件なども日本が騒がないと当然であるが有名にならない。余談だが、これはイスラムのテロと違ってこれ以上の再発は無い問題だろうと国際的には少し脅威度を低く見られているというのは頭に置いたほうがいいだろう。その意味でサミット等で取り上げるのは、国際的関心を持続させるという意味で実に適切だ。広義の安全保障問題で日本は楽でいいなという視線は常にあるが、サミット参加国はそれを露骨に言う国々でもない。この種のテロ事件などへの直接間接の協力など、気を遣っても良いであろう。
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2006年06月04日

チェコ選挙雑感

 ドイツ、イタリアと接戦の続く欧州各国の選挙は、多くの真剣な模索が続きながらも明快な解を導き出すのが難しい、未来に不透明感のある情勢の反映かもしれない。それは多くの場合EUを巡っての論議となるが、今回のチェコの選挙もまたその例の一つと言えるだろうか。

 基礎的な知識として外務省の資料をリンクしておく。(参照1)冷戦終結以降の情勢が手際よくまとめられている。経済は1990年代半ばまでは好調だったが、その後迷走したという件に関しては様々な事が言われている。誤解を恐れずに言えば、本来は欧州の先進地域であるというプライドが未だ発展途上の経済に見合わないものであったのではないか。スロバキアを切り離したのもその付近の経緯がある。ウィーンよりプラハは西にあったのにという愚痴は、欧州人は嫌というほど耳にしているだろう。進出した日系企業も、チェコ人の扱いにはデリカシーを必要としたようだ。

 選挙の表層としては、前代未聞のネガティブキャンペーンの連続で醜悪なものだったようだ。(参照2)殴り合いに至ってはいやはやというしかない。とはいっても有権者にとっては瑣末な議論だろう。結局沈滞した社会に対してどう行動するかを選択するのが争点となる。全体の構図としてはこの記事が参考になる。(参照3)構図としては先のドイツの選挙に近似している事が見て取れる。しかしドイツの場合は長く沈滞した経済に改革が必要という事に関しては、建前的には社会のコンセンサスではあった。チェコの場合は未だ民主化に伴う繁栄を享受できていないとの認識が国内に広くあるだろう。ドイツと比較しても左派勢力が伸びる余地はある。が、EUの混迷が、EUへの深い関与を方針とするCSSDに逆風となったという事だろう。もちろんスキャンダルも余りに多過ぎたが。

 そしてこの記事あたりを読むと(参照4)イギリスが与野党問わず求めているように、EUに関しては今少し柔軟なロードマップが必要とされていると感じる。最近になってミニ国連とでもいうような汚職や非効率の数々がEU官僚に続出している事もあり、伝統的なフランスなどを中心とした路線は逆風続きだろう。
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2006年05月24日

モンテネグロの独立の意味

 モンテネグロで住民投票が行われ、55%以上の賛成が確認されたことにより新しい国民国家として独立する見込みとなった。セルビア、EUの賛同も確認され、今後当事国のセルビアとの交渉が残されているとはいえ、独立は規定路線として間違いないものになったと言えるだろう。中国も早い段階で支持を表明している。実は先のメルケル訪中もこの件はやや絡んでいたと推察されるが、この件は後述する。

 モンテネグロは極めて山がちの地域であり、人口も70万に満たず一国家としては非常に少ないものとなる。しかし歴史を紐解けば、モンテネグロはセルビアと民族的・宗教的に大差無いにもかかわらずその地理的隔絶もあって長い自治の歴史がある。今回の独立も海岸線を失うというような思惑からのセルビアの抵抗は少ない。当面は国内安定こそが大事だという事情もあるが、例えばコソボなどに見るようなこだわりは元々薄いと言えるだろう。

 今回の件、事情そのものを伝えるものとしてはこの記事がまとまっていてなかなか良い。(参照1)独立のための条件はEUが設定したという事に注意する必要がある。一国の存立の是非は周囲の大国の容認が必要というのはいかにも大時代的だが、これは未だに世界の現実でもある。理由は簡単で、しばしば周辺国を巻き込んだ戦争に結びつくからだ。欧州周辺に限らず台湾を例にとっても同じである。日中米の容認が必須となる。

 モンテネグロが周囲に与える影響となれば、前述のコソボへの影響がまずは直接のものとなる。当然セルビアは神経質になっており、コソボとは事情が違うというような発言が早速伝えられている。(参照2)しかしながら、影響はより広範である。この文章が簡潔かつ見事にまとめている。(参照3)いくつか引用し、感想を加えてみたい。

Extreme political fragmentation in the Balkans will remain a key issue in European security policy and will demand more attention from Brussels.


 political fragmentationの問題は昔の欧州の抱えていた古い問題の記憶を呼び起こすのかもしれない。

Brussels is, however, in a difficult position. The European Commission postponed until October 2006 its final say on Bulgaria's and Romania's accession, and does not appear to have "digested" the 2004 big enlargement.


 EUは国家統合を進めている。逆説的だがそれはこの種の「独立国家の範囲」を問うという作業を顕在化させたかもしれない。確固とした自立無くしてその先の統合は無いのは昔ながらの政治の現実だが(その意味で中国が最終的に台湾を併合したいのならまず独立させたほうが長期でみると一番効率的)その問いをまだ政治が不安定な地域に対して投げかけたという点では、無論EU諸国のその意図が直接無かったにしても、ある意味罪深いことなのかもしれない。モンテネグロとしては自らの共同体の所属先を旧ユーゴ連邦からEUに振り替えただけかもしれない。独立国家でないとEUに加盟できないからそうしただけだ、とは露骨に言わないかもしれないが。

Montenegro's independence also bears consequences for Russia and for Moscow's relationship with the Western geostrategic realm. Moscow's historic ally, Serbia, will be a less palatable partner than before because of Belgrade's reduced geopolitical weight. Moreover, should regionalist pushes continue to advance in the broader region from the Adriatic to the Caucasus, Russia's historic sphere of influence will be marked by other secessions, such as Transdniester (from Moldova), Abkhazia (from Georgia), and possibly Nagorno Karabakh (from Azerbaijan).


 ロシア周辺も含めた広範な地域に影響があると考えるべきだろう。ここで沿ドニエストル共和国(この地域についてはここなどが参考になる)からの視点としてより率直な表現をしている以下の2つの記事を読むと雰囲気が非常に良く分かる。(参照4,参照5)表現としては露骨過ぎるくらいである。コルシカやバスクへの言及を極論と片付けることは可能かもしれない。しかし南オセチアやナゴルノカラバフとなれば冗談で済まなくなる。

Look for secessionism, political instability and political risk to continue to undermine the post-Cold War geopolitical environment in Eastern Europe and the Caucasus. Expect the European Union to reassess its enlargement strategy, whereby the question of the E.U.'s internal political configuration will need to be re-addressed and effectively resolved. The E.U. government will be under pressure since the question of an E.U. constitutional draft is already starting to take center stage in public policy debates. The political management issue and the very viability of the European single currency will also soon surface as unexpectedly complicated issues that will dominate the agenda during the next two years.


 EU諸国においては、ポスト冷戦期の問題の象徴でもあり、地政学的リスクとしてEUの運命とも密接に絡み合っていると認識されているだろう。

 モンテネグロは小さい国だが、それでも一国が独立して新たに国際社会に出現するというのは大変な話だ。今回、伝統的に自国の利害に絡まなければ国際政治にあまり発言しない中国も早速反応しているが(参照6)台湾問題を抱えている立場としては分離主義の追認と見られかねない発言は相応のリスクがあったかもしれない。メルケル首相の訪中においては、早期にこの問題を矮小化して処理するための努力があったかもしれないと私は想像している。マケドニアはかつて台湾と国交を持っていたという事情もあり、それなりに因縁のある地域でもある。中国国内での政治上の扱いは案外難しかったかもしれない。

 余談だが、こういう事を考えると、昨今国内で議論されている愛国心の教育云々などにしても議論として浮いているように思われてならない。米国でも忠誠の誓いが議論になったりするが、ポイントはindivisibleという部分を無意識かもしれないが強調している点ではないか。国民統合という国内的な要素の議論として適切であるかどうかが重要だろう。欧州の知識人あたりなら「愛国教育?そんなのしなくても日本人は問題なく日本人であり続けられるでないか。何をやろうとしているんだ?」とでも言うのではないか。やるとしたら日章旗の下義務も恩恵も分かち合うというような内容だろう。前者は小泉政権下で日本人はそれなりに果たしてきたのではないだろうか。後者はとなると前者のnoblesse obligeの具体的な実行あっての事と話が発展するだろうし、それは確かに怪しいように思われる。
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2006年05月22日

訪中に見るメルケル外交

 ドイツのメルケル首相が今訪中している。首脳外交は常に複数の目的を追求することになるが、今回はいつにもまして懸案が山のようにある。また対中外交で宥和的だったコール・シュレーダー両氏と違い、メルケル氏は主張もはっきり行うとのこと。今後の様々な外交局面においてそれなりに重要なステップでもあり、突っ込んだ情報があまり流れない状況ながらも簡単にメモしておきたい。

 こちらが簡潔にテーマをまとめている。(参照1)安全保障や人権の主張も行いつつ、ビジネスの話も進めると、まぁ当然の内容である。この中では日本国内でもそれなりに報道されている内容として、イラン核問題への対応がある。欧州の立場を伝え中国に協力を仰ぐのが目的だが、特に軽水炉支援などへの感触を確認したいのであろう。これは米国との調整がついていないはずだが、中国からイランにある程度責任を持つというような発言を何がしかの取引の結果として引き出すことが出来れば選択肢として上がってくるかもしれない。ただ訪米がうまくいかなかったタイミングであるとしてもそれは困難かもしれない。伝統的に中国の対イスラム外交は、政治的現実の追認が大半である。

 ビジネス面ではリニアなどの入札が課題となっているが、実際は著作権などの問題が大きい。Financial Timesがうまく伝えているのだが、(参照2)知的所有権問題が欧州でも問題になり始めている。我々日本人にはお馴染みの話題で何を今さらと言うだけなのだが、いつものように欧州とは問題意識において時間差があるという実例である。あくまで一例に過ぎないが、この記事(参照3)はドイツの反応を良く示している。欧州においてコピー品はウクライナあたりから来るという印象があるかもしれない、でも実数としては中国のほうが多いですよ、とでも言いたいのだろうか。少なくとも外見の整った違反品というのは目新しいのだろう。またここで書かれているように欧州であれば東欧のほうが工業の後背地として有力な代替となり得る。日本はとなると、実害がより大きいにもかかわらず代替選択の苦労はより大きく、対応がより難しくなっているが。

 またFinancial Timesの記事で指摘されている重要な内容は、中国が常に要求している投資に際しての技術移転の強制に関して異議を唱えるということだろう。これを真面目に要求したくなる立場の国は案外多くないと考えておくべきだろう。ドイツは純ビジネス的には日本とかなり多くの部分で競合するが、逆にこういう面で協調出来る数少ない相手でもある。日本も対欧外交がうまいとは言えないが欧州諸国の対アジア外交も英国を除き優れているとも言えない。日本の然るべき人間が現地にいる様子でもなさそうだし、協調して要求しようとは考えなかったのだろうか。もっともドイツとしてはまずEUとしての行動が重要であり、遠隔地へのフットワークの良い外交はやり辛いのかもしれない。

 さりながら、ポイントを稼いだかなと思われるような内容もある。スーダンに関して、別の大臣がこのメルケル訪中と合わせて現地に飛んでいる。(参照4)行動を同期させて人権問題改善への協力を要請する模様だ。人権問題に関して明確に要求したという事が内外に分かるような仕組みになっているという意味で、適切な外交だろう。

 実利と理念の双方を満足させるのが外交だが、バランスも難しいし、相手もあることで常にうまくいくとは限らない。今回もドイツ首相の訪中は言うだけの事となり結果はあまり伴わないかもしれない。しかしながらそうであっても、やることはやった、言うべきことも言った、後は相手次第なのだと言い切れるような外枠を固めたという印象がある。日本がやるべき外交についても、このメルケル外交が示唆する所いささかありと言えないだろうか。
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2006年04月06日

フランスCPE問題への感想

 フランスではCPE問題を巡って連日派手なデモが繰り返されている。内容の詳細は様々なメディアで報道されているのでここでは省略する。要は、雇用の硬直性を打破し、若年失業率を下げようとしての施策が、為政者の思ったほどには支持されていないということだ。

 この件は世界中で報道されており、米国では相変わらず揶揄するような意見も多い。ただ毎日のこの記事が珍しく冷静に背景を解説している。(参照)フランスは少し特殊な国で、とかくこの手のデモは当たり前のように頻発する伝統がある(といっても今回は大規模だが)日本人の私からすると、社会の多数派が支持するようなデモも一度くらい参加してみたいと思わなくも無い。このような事態でフランス国内の不安定を言い出す記事は適当に読み流せばよいだろう。彼らは相変わらず平然とフランス人でいるのである。むしろ興味深いのは、この手の問題が世界的に報道される度合いが増えたと言うことだ。1960年代にもフランスは大騒ぎだったことが多いが、このように逐一報道されただろうか。これはある一国の雇用問題がその国内だけにとどまらず、様々な要素で他国にも影響を及ぼす度合いが増えてきたからだと解釈してよいだろう。EUは勿論のこと、他の工業国も例外ではない。むしろその事に興味深さを覚えた。

 とはいえ、雇用問題それ自体は深刻だ。また労働者の権利自体、一度雇用されると手厚く守られ過ぎているという傾向がある。ちなみにこちらのブログはなかなか参考になるのでぜひ参照して欲しい。
 今回の法案自体は本来のコンセプトとしてはそれほど不当なものではない。ただ、ある国の法律は、良かれ悪しかれその国の文化の影響を受ける。私見では、フランスの教育制度が今回のデモの原因の一つではないかと思っている。日本のように、大卒なら大卒と、まとまった形で分類されるものではなく、もう少し細分化されている。このポジションにいるからこの程度の将来、というのが教育を受ける過程の中で見当がついてくる。日本だと同じ会社に就職してしまえば、その後は東大卒だろうが無名の四年制大学だろうが、課程が同じであれば待遇は基本的に変わらない、しかし欧米の大半の企業はそうではない。米国であれば雇用の流動性があり個々人の能力を判定するシステムもそれなりに動いてはいるが、欧州は概して硬直的だ。結果、どの層も自分が属するクラスとしての既得権を守りたくなるのではないだろうか。硬直的である場合、上昇機会は少なく転落はあり得るのが社会の常であるだろうから。

 ただ、若者の意識の未熟さに関してはやや留保しておきたい感情も残る。親の世代より次の世代は恵まれていなければいけないというのは、実際にはそれを達成するのは当然とは行かなくても、社会の理念として存在するのは悪くない事だと思うからだ。またどの世代もそれぞれ若い頃に未熟であったし、そのエネルギーは直接的ではなくても間接的に社会変革に資すること多大であったろう。そして日本で言うところの団塊の世代が次世代に余り義務を果たしていないのは、どうも主要な民主主義国共通の現象のように思われる(となると、第二次大戦の帰還兵の子弟教育と言う、主要な民主主義国共通の問題との関係が深くなってくるように思うが、それはまた大がかりな議論の対象であるだろう。ちなみに米国ではIT革命その他で多少なりともこの世代が偶然スキップされた感が強いがどうだろうか)また、民主主義の常で、一見表面化しないことでも多数派に有利な政策がじわじわと遂行されているものである。人口動態の変化がここでも効いていると思われる。

 いずれにせよ、人間の意識そのものが常に政治の争点である。ド・ヴィルバンは少し浮世離れしているようにも思われる。理念は良くても手順は誤ったかもしれない。これまでの最大の受益者が当面必要な負担を行わないことには改革は進まないのだろう。それは洋の東西を問わない。ましてフランスでは。
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2006年01月24日

2006年カナダ総選挙

 カナダにおいては異例の冬季の選挙となった、優越院である下院総選挙であるが、保守党が自由党を抑えて第一党の座を確保した。これにより政権交代となる。世界的に見れば米国への影響ということもあり重要な選挙なのだが、日本のマスコミの扱いはいつものごとく小さい。今更愚痴を言っても仕方が無いが、今回などはつくづくそう思う。

 選挙結果としてはここを参照するのがいいだろう。州ごと、選挙区ごとの状況もマウス操作で楽に見れるのは楽しい。またカナダの政党の地域性の強さも実感できる。頭では分かっていたのだが、こうして見せられるアルバータ州やケベック州の結果はインパクトがある。政治の地域性とはこういうことだ。それに比べれば日本や米国(の連邦選挙)の地域性など可愛いものだとも言える。

 今回の選挙結果に関しては様々なことが言われているようだ。直接的には腐敗などの問題であるが、中絶問題にヘルスケアのケベックと永遠の争点のごとき問題が展開するカナダでは一口で言いにくいし、日本人の私はおそらく皮膚感覚がないことから的外れな意見を述べてしまうと思う。ただ、この論説は当たっていそうな気がするし、穏健にうまい言い回しをしているので引用してみたい。選挙前に記述されたものではあるが。(参照)

After four straight Liberal election wins since 1993, the Progressive Conservative/Reformers who merged barely two years ago appear finally to have gotten the message that most Canadians are moderates who prefer to be governed from the centre, not from the ideologically anti-Ottawa, anti-government, socially conservative right.


 カナダの政党の歴史は、日本人が思っている以上に英ホイッグ党やトーリー党からの伝統を引き継いでいるが(その反動としてのケベック連合か。独立問題だけではなく)、そのある種の硬直性を緩和した結果としての穏健さではないかと想像してしまう。例えとして適切かどうかは分からないが、クリントン大統領が中道にウイングを伸ばしてシニアブッシュを破った時のような現象に近いかもしれない。また今回の自由党は、選挙後半では内閣不信任案に賛成した(左派の)新民主党批判に精力を注いでいたようだ。そうした面もマイナスに働いたのだろう。

 ともあれ、日本も推進しているミサイル防衛にも戻ってくるし、その一方で京都議定書には反対と親米的な路線で外交が回りだす。ブッシュ大統領にとってはかなりの追い風だろうか。日本としては、東アジア共同体絡みで巻き込みたいところだが。
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2006年01月23日

フランス大統領の核に対する発言

 フランスのシラク大統領が自国の潜水艦基地における演説で、フランスへの攻撃に対しては核報復もあり得るとの発言を行い、物議を醸している。日本での扱いは小さいが、欧州ではそこそこのインパクトを示しているようだ。

 発言自体は、潜水艦基地でなされた事もあり、抑止力の維持を強調するという側面もあろう。ちなみに客観報道として、ワシントンポストの記事をリンクしておく。(参照)そして、ここではイランなどを念頭に置いた発言ではないかと言われている。しかし欧州世論は概して批判的で、有益な意味を見出せないという意見も多いようだ。(参照2)
 しかしながら、この発言自体はもう少し普通に考えるべきだろう。ここで言及しているのはテロ組織ではなく国であることがポイントだ。良く知られている事例だとサラエボ事件あたりだろうか。オーストリア皇太子は暗殺されたが、これはテロ組織ブラックハンドが背後にある。同組織はセルビア人将校を中心として構成されており、解釈は今に至っても論争になるが、まずは実質国家テロだとして良いだろう。そして今回のシラク大統領の発言、このような事例も含めて国家の責を問うという文脈だろう。もちろん近年では北朝鮮も同じとして良いだろう。

 口が腐っても公然と言えない話だが、フランスの核兵器が中東やアルジェリアなどの北アフリカ諸国を意識していることは間違いない。また公式発言として、核戦略が必ずしも確固とした文脈で語られない。フランスは新しい時代における核戦略を模索中・・・と曖昧な発言が過去に多かったのは本当のことを言えないこともある。また直接の軍事対決で勝ち目がない国がこの種のテロを利用した恫喝に走ることは、欧州人は良く知っている。そういう誘惑を国の指導者層が持つ事を抑止するというのも必要だ。そのようなこともあって欧州諸国は今でも軒並みNATOに加盟するのだし、少し距離を起きたいフランスは、どうしても様々な局面で自国独自の牽制が必要だ。だからこそ西アフリカでの乱暴な行動があったり、この種の発言となる。それが立派だとは全く思わないが、非文明的な現状に対する現実解と考えておくべきだろう。

 イランに対する牽制も当然あるだろうが、これに関しては残念ながら効果がないだろう。対イランで有効なカードがあるとすれば、恐らく本格的な石油輸出の禁止しかないだろう。また中国の説得に労力を費やすことになるが。
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2005年12月15日

EU加盟は先送りとなったマケドニア

 東欧へのEU拡大はかなり進展したが、マケドニアの加盟交渉にフランスが慎重な姿勢を示したと報じられている。(参照)マケドニア自体は人口200万程度の国で、それ自体の問題は大きいわけではない。むしろウクライナへの思惑から割を食ったという印象もある。もっとも、様々な思惑が交錯するややこしい地域である。自分が何を書けるわけでも無いが微妙にメモ書きを残しておきたい。ちょっともやもやとした思いがある。

 小国を取り上げる際に便利なので、今回も外務省サイトをリンクしておく。(参照2)旧ユーゴから分裂したマケドニア共和国は、古来マケドニアと言われた領域を全て領有しているわけではない。独立時に内戦は回避したものの、ギリシャとかなり揉めた。曰、マケドニアはそもそもギリシャ人の国である、そのような名称を使う事はまかりならんと。古代ギリシャはマケドニアをバルバロイ視していたような気がするが、そういう問題ではないらしい。むしろもっと最近(といっても充分昔だが)、サン・ステファノ条約のあたりの経緯が問題だ。一応Wikipediaの項目をリンクしておくが、当然いくらでもまともな本があるので読むべきだろう。この条約をひっくり返された関係国の怨念は相当なもので、数十年後全世界がそのツケを払うことになる。セルビアだけの話でも大変な地域なのだが。そんな事もあり、旧ユーゴ紛争時のギリシャの態度は、マケドニア共和国がギリシャ領マケドニアまで含めた国境変更まで目指しているのではないかという疑心暗鬼すら表明することがあったようだ。(もっともこの手のギリシャの自意識過剰な発言はEU内では有名で、いつもの事と割り引く必要がある)その種の摩擦はいつでも再燃する可能性はあるが、EUのメリットには様々な国際問題の棚上げということもある。もう少し治安が改善したら加盟の方向には動くのだろうが。

 欧州人に欧州の範囲はどこまでかと聞くと、バルト三国あたりは無条件で入る。問題はこのバルカン付近だ。内心嫌と思っていることが多く、それが国や人によって違う。欧州の闇の部分とでもいうべきか。日本人の我々には、彼らがあからさまに口にはしない皮膚感覚での嫌悪感はなかなか分からない。これが北アフリカ諸国となればまだしもの割り切りがあるし、日本人が朝鮮半島や中国に対するときも所詮は外国という認識があり救いになっている。しかし、中途半端な身内意識で一定の義務感を抱いた時に問題は深刻になる。ただ、日本人がその付近を多少理解したとしても、外交上それに迎合して話を合わせる必要は無いと思われる。それは彼らの心ひそかな部外者への期待を裏切るからだ。
 旧ユーゴ紛争への欧米の対応は今でも高い評価ではない。しかし真の悲劇は、大声では言いにくいが、欧州人が要求水準を高くし過ぎた事ではないだろうか。特に、北海沿岸諸国あたりが。オランダなどは頭から冷水をかぶったようなものだろう。その反動が昨今及んでいるという印象もある。それは昔から何度もあった風景だ。今までに教訓は嫌というほどあるはずなのだが。
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2005年11月24日

プーチン大統領訪日の意味

 国内の報道は北方領土問題に関心が集中していた感がある。私も可能性は低いながら進展の可能性は多少あるかもしれないと思っていた。実際はお互いの国内事情から原則論を動かすことは出来なかったようだ。では今回のプーチン訪日は何の意味も無いものだったのだろうか。今までのロシア首脳は領土問題の存在のため日本に来た結果が外交の失敗と解釈される事が多かった。ロシアにとって今回のそれはどうなのか。

 外務省が今回のプーチン訪日の概要をまとめて発表している。(参照)ここからリンクされている小泉政権下でまとめられた日露行動計画も、読むと今までに無い野心的なものだ。さらりと書いてあるが「戦略的パートナー」という言い回しはここでは必ずしも儀礼的な意味合いでは使われていないと考える。そして今回の訪日でも「成果文書」が重要であろう。これだけの成果が文書としてまとめられるのは、今までの日露の疎遠さを考えると意外なくらいだ。(4)の民間企業の協力の促進など、今までの日本の対応から考えると180度の転換と言えるだろう。その意味で、トヨタのロシア進出は、一部で経済の論理しか考えない売国奴と言わんばかりの報道もされているが、小泉政権下での方針を受けたテストケースというほうがより実態に近いのかもしれない。

 そして今回の成果文書で最も重要なのが(5)のWTOに関することであろう。通常WTO加盟では、加盟希望国が主要国に対する二国間交渉を行い、それが妥結することにより加盟に至る。当然米国とEUへの交渉が最重要だが、日本もこの分野で発言力が小さいわけではなくそれに次ぐくらいの地位ではある。かねて予想されていたとはいえ、交渉終了の宣言の意味合いは大きい。

 簡単ながら要点をまとめた記事があるので引用する。(参照2)米国、EUとの交渉は必ずしもうまくいっていない。特にここで述べられている航空機産業の問題は大きい。この産業、日本国内に実質皆無に近いという状況から実感は薄いのだが、欧米での存在感は極めて大きい代物だ。ロシアとすれば、主要な工業でそこそこの国際的競争力がある産業は少なく、これを保護したくなるのは無理もない。しかし欧米では身勝手なルールで参入するという象徴的な意味合いになってしまう。当事者にとっては大変な話だ。

 その意味で、今回の訪日の雰囲気を伝えるワシントンポストの論調(参照3)は、欧米から見ればこう見えるという典型だ。日本はロシアに対してサービスした、という所か。まぁ、成果文書を見ればビザだ観光だ公務員支援だと盛り沢山でそれはそうだろう。つまり、今回日本がまずはボールを投げた、それをどうするかは今後のロシア次第、ということだろう。今は拉致問題などで日本支持に回って様子見から始める、という所か。なお話がそれるが、以前からロシアによる北朝鮮の予防占領の計画を伝える報道が散発的になされているが、これは可能性が低いとはいえ中国のそれよりまだしも実現性が高いかもしれない。何となれば、中国が日本海側に港を持ち、ウラジオの近くに出てこられることをロシアは極端に嫌がっているからだ。シベリア鉄道の弱体もあり、ロシア極東は海運にかなり依存している事は周知の事実である。

 それにしても、領土問題あるが故に原則を譲らなかったイメージを保つことに成功した小泉首相は、誠に政治巧者だと思う。今までの並の首相では、何ら進展無いとして無能呼ばわりされていたに違いないだろうから。
posted by カワセミ at 23:57| Comment(0) | TrackBack(1) | カナダ・欧州・ロシア