さて、今回は地震で大きな被害を受けたハイチの孤児問題を取り上げてみたい。国内報道が相対的に少ないと感じているからだ。後述するがこの問題は今月のフォーサイトでも取り上げられており大変参考になった。
米国では後述する事件のせいもあり継続的な報道があるが、背景のまとめとしてはBBCのこの記事あたりがいいかもしれない。(参照1)日本のWikipediaも比較的記述は多い方かもしれない。(参照2)独立の時期は古いにもかかわらず、独裁的なデュヴァリエ政権が崩壊したのは1986年である。他の中南米諸国と比較してかなり民主化の速度は遅い方と言えるだろう。同じ島を共有するドミニカ共和国とは大きく運命を分ける形となった。これは経済面でも同様で、一人当たりのGNIはハイチが$660であるのに対し、ドミニカ共和国は$4,390となっている。(世界銀行より:参照3、ドミニカ国は別にあるのに注意)なおハイチは台湾と国交があり、台湾に大口の債権国にもなっている。今回ベネズエラのチャベス大統領の言動が目立つ形になっているが、これも大口の債権国という事情があるからである。(参照4)
とはいうものの、最大の影響力があるのは米国であることに変わりはない。過去の占領統治などの責任もあり、難民受け入れなどにも積極的であった。今回もフランスの呼びかけに賛同して債権放棄を進めている。また米国では経済力のある人は養子縁組をして若年世代に貢献するべきと言う価値観もある。そしていずれも教会の影響力は強い。(話は飛ぶが、常に米国で争点となる妊娠中絶問題もこの文脈を考えなければならない。教会などが相当程度養子の世話までするから、産むまでは責任を取れ、勝手に殺すな、という話だ)今回問題になったのはハイチ当局に無断で子供の連れ出しを図ったという事件であり、米国では大きな報道となっている。(参照5)人道的な団体を不当逮捕したような印象も受けるが、実際はややこしい事情があり、当該の人々が人身売買と区別が付かない場合もある。国内では産経新聞が臓器狙いの側面もあるというニュースを流していたのが目に付いた。(参照6)この事件そのものの最新の情勢としては、裁判官は関係者の釈放を命じたが尋問のために残留しているという状況のようである。(参照7)
誰でもいいからハイチの子供を連れてこいと空港で怒鳴る米国人や欧州人の姿は日本人にはピンとこないだろう。ただ、そういう人々からすると日本人は極端な血統主義者にしか見えないのも事実だ。北東アジアには概してこの傾向はあるとはいえ、高所得国の割にはモラルがない、と思われているのは確実だろう。国内ではハイチへの援助の遅れを危惧している声もあるが、実際は孤児受け入れの話をさっぱりしないことの方が欧米での評判を大きく落としているのだ。とはいえ、国民性の問題もあるので簡単な話でもなく、そのせいでもあるのか半ば報道はタブー視されている印象もある。だから何かしなければと言うわけでもないが、日本は地震国でもあり、被災者の若年世代への援助は適切だろう。せめて孤児院建設のための助成とか立ち上げ時の人員派遣とか考えるべきだろう。もっとも国内でも子供にかける費用の少ない国であるというのが近年の現実だが。
ところで今回のエントリはフォーサイトの記事に触発された物である。というより、その記事を読み、基本的な知識を各種の公式サイトで読み、欧米の主要なマスコミのサイトを見ればこのエントリを読む必要はない。この雑誌が休刊になるというのはかねて報じられており、大変残念な思いをしていた。今回の記事は海外からの訳だが基本的には日本人の書いた記事が多い。これは重要なことだ。海外の論調を追いかけるのも大事であるが、日本人の目から見て書かれた記事も、しばしば外国から出てこない内容があるからである。日本人が国際情勢に精通すれば、日本のみならず世界に貢献できるとも思う。最近は貴重な雑誌などの休刊が目立つ。外交フォーラムの休刊予定も既に知られている話だ。池内恵氏のように寄稿する中で失望の意を表明している人がいるが全く同感である。ちなみに私も一読者として昨年フォーサイト編集部にメールしてみた。まぁ、少々値上げしてもいいから何とかならんかと一言書いた程度だ。そうしたら意外にも返信があった。もはや問題なかろうと思うので記名部分だけ削って転載する。
編集部あてのメールありがとうございました。「値上げがあっても」とまで書いていただき、本当に痛み入ります。
『フォーサイト』休刊決定にあたっては、読者の皆様には多大なご迷惑とご心配をおかけし、本当に申し訳ありません。にもかかわらず、暖かいメールをいただき、感謝の気持ちで一杯です。私たち編集部としては、精一杯の努力をしてきたつもりですが、力及ばず、今回の結果を招いてしまったことに忸怩たる思いがあります。今はただ、「価値ある雑誌だった」と評価していただけるよう、残る3号、良いものを作ろうと、次の企画を考えているところです。
この間、読者や筆者の皆様から、休刊を惜しむ声が続々と編集部に届いています。こうした声に接するたび、この雑誌を続けていくことのできない寂しさを感じると同時に、すばらしい読者に恵まれてきたのだという事実を再認識し、励みに感じる毎日です。本当に、本当に、ありがとうございました。
またいつか、何らかの形で「フォーサイト的なもの」を世に出せる日がくることを、私たち自身、願っています。それが、どんな形になるのか今はまったくわかりませんが、私たち編集部員が胸にともす「フォーサイトの灯火」が消えることはないと思います。またいつか、何らかの形でお目にかかりたいです。どうぞ、あと3号、見守ってやってください。
そしてそれなりの反響があったのだろうか、今月のフォーサイトにおいて、今夏をメドに有料版のWebで復活する旨が記されていた。現在のようなままというわけにはいかないが、深く掘り下げた記事としたい、と記されていた。まだ具体的なことは記されておらず今後どうなるかは未知数だが、まずは復活を喜びたい。