2007年07月25日

日本における参院選の意味とは

 参院選であるが、周知のように自民党は厳しい情勢である。ただこれは日本の政治状況を考えると無理からぬ面もあろうかと思う。第二衆院にすぎないなどと言われることもあり、参院の意義がしばしば問われている昨今、これを機に自分の考えをメモしておきたい。(最初はM.N.生さんへのコメントとして書いていたのですが、長くなったのでエントリにしておきます)

 まず参議院に関する私の考え。しばしば一院制への移行などが話題に上がる。私はこれは適切でないと思うし、強く反対する。周知のように日本は議院内閣制で、行政府に対する直接選挙がない。まずこの事を認識しておかないといけない。県知事はあるが、これも周知のように地方政府の権限、県民の自治意識も、他の工業国と比較すれば良く分かるが、それほど高いものではない。日本のような人口の多い、複雑で多様な社会と産業構造を持つ国には、政治への多様な反映の場が必要である。この二院の選挙が実質この国の政治に対する有権者の判断の多くを決める。一院制への移行が適切になることがあるとしたら、それは道州制などが比較的うまく機能し、地方政府の議会などが強力な存在になり、中央政府と一定の緊張関係を持ちながら切磋琢磨するような状況になった時ではないかと思うのだが、日本の近未来には望み薄のように思う。それ故必要なのは改革されたより活発な二院制と地方議会の着実な進歩ではないだろうか。

 さて、議院内閣制であるからには有権者の行政府へのチェックは間接的なものである。そして党首選は(近年党内選挙の民主化が進んできたとはいえ)あくまで党員が決めるもので有権者の決定は直接及ばない。そして日本は自民党が与党として強力で野党は弱体。さらに与党の選ぶ首相は行政府の長としては「外れ」がたまにある。言い方はきついが、例えば英国とかはもちろん、政治体制の似た欧州諸国の多くと比較してもそうではないだろうか。国民の民度を考えると、もう少し精選された人材を期待してもおかしくはないだろう。

 日本の基本的な政治状況は上記の通り。ではここで政治力学として何が発生するか。衆院選に関しては「どの政党に政権を託すか」の選択となる。野党の怠慢から自民党が継続的に強いであろう。では参院選は?どの政党に政権を渡すかは選択できないが、選挙結果によって党に対する評価の高低は示される。そしてその最大責任は党首であり、与党においてはイコール内閣総理大臣となる。つまり、政権に対する審判を間接的に表現することは可能であり、出来の悪い政権を降ろしたり、出来のいい政権に信任を与えるという政治的結果は選挙によって発生させることが可能であろう。橋本政権下での降板はイレギュラーだという意見があるが、私はそうは思わない。むしろこれは構造の問題であり、同様の局面はこれから参院選になるたびに高い確率で発生すると思う。

 とはいうものの、これは大局的に見ると、過渡的時期における仮の合理的帰結であって、この状況が良いかとなるとやはりそうは思わない。それ故改革の必要性があるが、上記の現在の政治的現実を踏まえると、党首選における参議院議員の発言力強化という方向性は考えられないだろうか。党首選での一票の重みを衆議院より大幅に重くするのである。「良識の府」というのは今となっては半ば建前ではあろうが、長い任期でじっくり物事に取り組めるのは間違いない。それを利用して党首選もやや時間をかけてやる。広く国民一般の党員も巻き込んでである。ただ恐らく定数の大幅削減など荒療治は必要となるだろうが、参議院の価値を高めるために一つの方法かもしれない。それによって党の有力者を衆議院から参議院にシフトさせる。そして外交などの長期的取り組みが必要な案件には優越を与えるというのもありかもしれない。結果としては米国の上院あたりにやや近い面も出てくるかもしれないが、あれも上院が必ずしも優越院というわけでもなく、「権威」があるというのがミソかなと思っている。いずれにせよ、党員、わけても国会議員自身が参議院を軽視している限り、国民も軽視し何かのツールに使おうとするのは当然であろう。
posted by カワセミ at 02:08| Comment(7) | TrackBack(1) | 国内政治・日本外交
この記事へのコメント
前に雪斎さんのブログのコメントにも書いたことなのですが、個人的には参議院に限って党議拘束を禁止するのが、参院の価値や権威を高める一番良い方法ではないかと思っています。
参院で法案が審議される度に、アメリカ連邦議会のように政党を離れた議員個人の信条が問われ、多数派工作が行われるというのは、非常に面白いですし、議員も鍛えられるでしょう。
Posted by Baatarism at 2007年07月25日 09:55
私のコメントに関し、エントリーを起こしていただき感謝します。内閣評価と参院の在り方について、カワセミ氏と基本的考えは変わらないと思います(特に二院制の維持と参院の権威強化)が、1点コメントを。
 橋本内閣の時もそうでしたが、参院選での投票者の怒りは、実際は内閣の失政というより官僚組織の失敗に向けられたものです。(橋本内閣時は金融行政、今回は年金行政)そして、日本の憲政は政治が官僚機構を統治するのが建前ですが、これはあくまで建前で実態は違いますね。選挙で政治家は選べても官僚組織は選べない。行政(官僚組織)への不満は内閣交替で対処できないし(建前論では出来ることになっているが)、そうすべきかどうかという疑問が残ります。日本が他の議院内閣制の国(英、独、豪、加など)と比べ内閣が短命な理由の一つに官と政の関係が整理されていない(それが官の狙いかも)こともあると思います。
 もう一点、安倍さんは選挙で大敗しても辞めるなと言ったのは、居直りを勧めているのではなく、政権の選択はあくまで解散衆院選で行うべきで、参院選が済んだら政権選択の論点を明確にしていただきたいという趣旨です。それで解散なら結構なことだと思います。
Posted by M.N.生 at 2007年07月25日 11:07
首相や党首の質や短命であることの問題の一端は、国政選挙が多過ぎることで党首の選択が選挙対策に重きを置かれていることにあると思います。
参議院は政党色を薄める方向(極端には選挙での党籍離脱・公認禁止、当然に党議拘束無し)が、参議院にとっても党首選択にとってもいいのではと思います。
Posted by motton at 2007年07月25日 13:47
どんなに参院改革が声高に唱えられようといつまで経っても参議院から政党色が抜けないのは、参議院が「再考の府」ではなく実質的な「決定の府」になっているからである、とは政治学者がよく指摘するところです。

つまり、憲法上の規定によって参議院が否決した法案を衆議院が再可決するのに3分の2の賛成が必要であり続ける限り――言わば参議院が衆議院に対して(アメリカ大統領のように)「拒否権」を持ち続けている限り――政府・与党は法案の確実な成立を期すためには参議院においても過半数の確保に走らざるを得ません。憲法上、参議院は「決定の府」たることを運命付けられていると言えます。

参議院が「良識の府」「再考の府」として本来期待されていたような慎重な審議の場になるためには、やはり憲法を改正して(中曽根草案のように)再議決要件を衆議院の過半数に緩和する必要があるんではないでしょうか。こうすれば時の政権が参議院選挙を毎回気にしすぎたり党議拘束によって参議院の独自性が失われたりということもなくなると思います。
Posted by だい at 2007年07月27日 23:40
参院選は終了し、全体の数字自体はやはり理にかなったものでした。
私は橋本内閣の時以下、宇野内閣の時よりはマシ、前回の小泉政権時の結果も踏まえて単純に割り出したのですが、自民への基礎的な支持は継続して下落傾向と自分自身で書いているにも関わらず、その部分をあまり見込まなかったのはミスでした。それにしても、これだけ個別のブレがあるにもかかわらず、巨視的な結果は一定の法則があることに驚きます。以下、遅れましたがリプライを。

>Baatarism様
すぐに出来る方策としては一番いいでしょうね。ただ民主党が多数派になった現在、民主党側からでないと言い出しにくいので短期的には実施が難しくなりました。ただ議員個人の資質を鋭く問うのは良い方向です。その意味でも、広い地域での単純小選挙区で選出という方策を取れないものかと思います。人口が多い県は単純に選挙区を2〜3に割るなど。2年ごとの改選で1/3ずつ入れ替えというのが案外いいかもしれません。まぁ、これもまた難しい話ですが。

>M.N.生様
良いコメントをいつも有難うございます。
>実際は内閣の失政というより官僚組織の失敗に向けられたものです。
まぁ、確かにそうではあります。しかし議会政治家が目の色を変えて本気になった時は、国民から選ばれたわけではない官僚はやはり立場の弱さというものがあり、完全に抗することは困難です。卑近な例でいえば、少し前の自民党で地元に利権を引っ張ってくる時などはそうです。ただ議会政治家が設定した基礎的な状況に対して極力それを利用するという行動は取るわけです。この付近の呼吸をうまく理解している人は官僚のコントロールがうまいかなと思います。
>官と政の関係が整理されていない
行政に関して、立法内容を実施する時に行政府の裁量部分があまりに大きい事などはその典型でしょうか。最近のPSE法などはそうでした。これに違和感を感じない人が日本には多過ぎるように思います。結局行政府の監視は立法府でやるしかないのですが、日本は司法の場に出るときだけそれを問題にしているように思います。まぁ、これはこれで色々模索しており、大まかには良い方向に動いているのですが。
>政権の選択はあくまで解散衆院選で行うべきで
結局のところ、他の政党への政権交代がしばしば発生しない限り、今回のエントリのような政治的要求を有権者は持つわけです。政党が変わらないならせめて首相は変えろと。それは過渡的なものなのですが、それが意識されないレベルに至っています。今回に限れば有権者のメッセージは首相を交代させろということで間違いはないのですが、長期的に見れば政治状況を正常化する意味でもいいかもしれませんね。小泉氏や麻生氏の今回の発言はなかなか意味深長です。安倍首相は全然理解してないかもしれませんが。

>motton様
選挙そのものは、本エントリでも記述したように、実際のところはこれでも少ないのだと思います。もう少し意味のある選挙が多くあるべきでしょう。より正確に表現するならば、議院内閣制であるが故に、行政府の状況に立法府構成者の選択という本来の目的が引き摺られ過ぎるという事でしょうか。結局党内民主化の強化と政党間の政権交代が必要である、というのが全てかと思うのです。

>だい様
>再議決要件を衆議院の過半数に緩和する必要があるんではないでしょうか。
まぁ、6割くらいがいいかなと個人的には思います。それと廃案にさせず、審議時間を守らせるのも重要でしょうね。それでも効率の悪さは、日本のような大きな国には大局的に見て必要なことではないかと思う事もあります。ただ意味のある効率の悪さはやはり必要で、委員会の強化とか、色々思うことはあるのですが。
Posted by カワセミ at 2007年08月01日 01:41
カワセミ様
是非、弊社サイトにRSSでブログを引っ張らせていただきたいのですが、可能でしょうか?
よろしければメールをください。
お願いいたします。
お待ちしております。
斉藤
Posted by デルタエージェント株式会社斉藤 at 2007年08月08日 14:59
コメント有難うございます。

どのような場合でも駄目というわけではないのですが、基本的に政治・経済分野の論壇系ブログを希望しています。右のリンク集などを見ていただければ推察可能かと存じます。ただトップページへの単純なリンクであれば特に規制するつもりはありません。まぁ、この話に限りませんが、ブログというもの自体、こちらの希望というものはあれど何かと強制できない話なのは理解しております。

宜しくお願いいたします。
Posted by カワセミ at 2007年08月09日 23:25
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