2007年07月02日

歴史認識問題への補足

 forrestal様、エントリでのリンク有難うございます。長くなったのでこちらもTBでコメント代わりのエントリとします。自分の過去のエントリへの補足も兼ねていますが。

 久間氏への発言にはまたかとげっそりしています。ちなみに軽く2chの関連スレを見物していましたが、そこですら前後の発言を踏まえて「学者や評論家ならそういう考え方も確かにあろうが防衛大臣の言としては不用意ではないか」と冷静な意見が多かったのに笑いました。もう言葉がないです。なお日米でこの問題への見解が違うのは当然でしょう。とっくにお読みとは思いますがこれをリンクしておきます。

 歴史認識に関しては、日本人は外国のマジョリティの状況を過剰に気にする傾向があるかと思います。民主主義である限り同じ国内でも多様な見解があり、外国を非難する前に国内ではどうなのかという話になります。例えば従軍慰安婦の決議は問題になりましたが、それでも日本の大手新聞社やテレビ局の多数派よりは冷静ではないでしょうか。まぁ、比較する先があまりに駄目だという話ではありますが。

 何より気になるのは、今回の日本人の(特に右派勢力の)反応の仕方です。昔からある日本人の古典的な性質や文化の反映ですが、やや視野が狭かったかなと思います。外国の歴史認識を気にするときは、どのような性質をもつ個人や組織から出されたものであるかを当たり前に認識し、反応を考えるべきではないでしょうか。例えば今回の米下院、これは山のようにあるどのような決議に対してもそうなのですが、内容のアカデミックな精密さというよりは、米国の大衆の倫理的な立場の表明と、外国がテーマになっているというのであれば、それは米国が注目・関与しているというメッセージであるということではないでしょうか。もし緻密さを求めるとすれば、決議自体の絶対数が今と比較して極めて少ない数となるでしょう。それが米国にとっても世界にとっても、良いことであるとは私には思えないのです。そして上院外交委員会や国務省、大統領にそれぞれ別の役割があり、それぞれに応じた反応の仕方があるというだけではないでしょうか。

 日本人は、例えば国連などでの活動では、緻密で手堅く、間違いがないことで知られています。ただ活動の総量が少なく、最終的なアウトプットの総合評価で良いとは言い難い面もあります。そしてその緻密な間違いの無さを求める潔癖さが裏目に出た典型例かと思います。だからこそ今回の米下院に対しては、まさにその核である米国の倫理的原則と外国に関与していることの表明に対して、日本がそれをどう評価しているかという事を外交的対応の中核とするべきだったと思うのです。その意味で安倍氏の「数ある中の一つ」発言には本当に失望しました。数あるもの全てが、例え一見つまらなく見えるものでもやはり大切なのですから。それを思うと原爆に関してはまだマシかもしれませんね。少なくとも未来に関しては大筋で一致しているのですから。
posted by カワセミ at 23:43| Comment(4) | TrackBack(2) | 国内政治・日本外交
この記事へのコメント
カワセミ様

こちらこそ、紹介、リンクを貼って頂き、ありがとうございます。

エントリにも書いたのですが、この度の意見広告は、稚拙です。御説ある通り、その背景調査も含めて。

また、誰にというのも、重要です。その役職において、権限は異なりますから。少し古い例えを出せば、前小泉総理が、ジョージ・W・ブッシュ大統領と、当時、米国では、軍法違反である、ジェンキンス氏について、意見をするなどというのは、両国トップのする話ではありません。

又、アメリカという国家は、ご存知の通り、その理念においては、多分に内外の区別がなくなります。つまり、これだけの議員の賛成があったということは、恐らく、次期大統領選を睨んだ、国内消費用であり、同時、諸外国(今回は、日本でしたが)そのメッセージになりますね、この辺の取捨選択のセンスがないと困ります。また、このアメリカのメッセージにどう対処するかは、欧米はじめ、世界が注目することです。

そのあたり、もう少し、認識して、上手くやってほしいのですが。。。

久間大臣、辞任となってしまいました。これは、選挙を睨んだ、政党内の力学の産物でしょうが、これで、辞任させるのなら、それ以前に辞任や、内閣改造など、先手は打てたはずです。少し、後手、後手になってますね。
Posted by forrestal at 2007年07月04日 00:46
お久しぶりです。

 従軍慰安婦問題がアメリカの下院にまで飛び火したことについて私は「アメリカは他国の歴史認識問題にも首を突っ込むのか」と思いました。
 従軍慰安婦問題は日本と韓国の問題であり、それに何の関係もないアメリカは介入するなと思います。

 久間前大臣が「原爆投下はしょうがない」と言ったことについては誠に遺憾です。日本とアメリカでは原爆投下に対する認識は違いますが。

 また19世紀にヨーロッパによるアフリカ植民地支配は当時のヨーロッパ人が「未開の土地に住む人々に文明を与える」と言いましたがその結果は、今日のアフリカが抱える諸問題の原因になってしまいました。
 前にもこうコメントしましたが、日本(河野、村山両談話に拘りまくる)とヨーロッパ(ユダヤ人に謝罪及び補償をした一方で、アジアやアフリカなど植民地支配した国家《アフリカは奴隷貿易も含む》には一度も謝罪も補償もしていない)では全く違いますが、歴史認識問題であることに間違いないと思います。カワセミさんはどう思いますか?
Posted by ハイタカ at 2007年07月05日 13:26
>forrestal様
同じ民主主義国でも、欧州の一国であればもう少し政治的に様々な含みを持たせるでしょう。感覚としては我々に近いものになるでしょう。しかし米国はああいう国であって、だからこそ「役に立つ」と解釈し、我々は同盟を結んでいるわけです。近年同じように摩擦を抱えているトルコなどもそうですが、あそこは日本と比較してもさらに米国との付き合いが浅いのでより強硬な反応を示しています。またタイミングも悪いですが。本当なら自国の慰安婦問題を二の次にして、トルコのアルメニア人虐殺に関する決議こそ行き過ぎではないかと意見を述べても良かったかもしれません。そのくらいの度量がないと外交は切り回せないという印象もあります。

久間氏ですが、行政の実務にたけた人ではあるのかもしれません。ただこれも裏目に出ましたね。ある政治環境における最適解を求めるのではなく、政治環境そのものの構築が大臣職の仕事なのですが、それには致命的に向いてなかったという気がします。誠に地位と人物の関係は難しいと思います。松岡氏も同じでしたが。小池氏は個人の資質としては向いているかもしれません。うまくやれば、次期政権でもすぐに交代というのも問題ありかと言うことで留任の可能性もありますね。もっとも就任直後があの原爆発言の勇み足ですからバランス感覚でどうかという危惧はあります。中川昭一氏も近いでしょうか。ただやらせてみないと分らない面も多いです。

>ハイタカ様
基本的に米国の外交的関与はその当事国が希望するから関与しているというのが基本です。特に日本や韓国、台湾などはその典型です。そして米国内の同じ文化的ルーツを持つ人が協力します。文化的紐帯の薄かったアフリカへの関与がこれまで薄かったことを考えれば理解できるかもしれません。最近は強化しているようですが。
むしろ米国がこの種の関与の要求を撥ねつけるのはどういう条件の時かを考えるのが有効かもしれません。歴史問題に関しては、今日の人道基準で過去を解釈するのは世界中どこも同じです。米国となれば、人権や民主主義の観点からして問題ありと思えば、基本は世界中どこでも関与でしょう。そういう国だから日本も同盟を結んでいるわけで痛し痒しです。ただ一つ言えるのは、余り細かい事まで完璧な外交的合意が得られる事を期待してはいけないということでしょう。日本の緻密な要求に耐えられるのは日本人だけと思うべきでしょう。

植民地支配の問題ですが、21世紀の現在では多分に政治的なスローガンでもあり、また旧宗主国自身の政治思想の反映でもあるでしょう。植民地支配で大きな問題を起こしたのは英仏よりむしろオランダとかベルギー、イタリアなどで、もっとひどいのはそれ以前のスペインなどでした。どの国をどの程度非難するかというのは実に現在の問題であることが分かると思います。中東・アフリカなどは安定する政治単位がそもそも小さすぎますね。欧州の植民地支配が一段落したあと、たまたま小さく安定した政治単位になった地域は幸運でした。そして、植民地支配以前の政治的に安定した時代は、今日許されないジェノサイドの結果としてもたらされることがしばしばであったことは頭に置いておくべきでしょう。この種の構図はおおよそ世界共通で、先の植民地主義否定の政治思想も含め、米国を除いて旧宗主国で大差ないでしょう。米国は自分たちが独立側であるという面もあるので話が少々ややこしくなります。
Posted by カワセミ at 2007年07月06日 01:06
「米国は自分たちが独立側である」というのはあまりにもムシのいい話では。フィリピンであんたらは何十万人殺して自分のところの植民地としたんだ?という事になりますから。
未だに太平洋諸島は民主主義の最低限の必要条件である選挙権すらないまま植民地支配されてるわけだし。
Posted by き at 2007年07月25日 15:11
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