2007年06月25日

修正された条約によるEUの前進

 以前のエントリでも取り上げたEUの憲法条約であるが、修正を加える形で各国の合意が得られる見通しとなったようだ。(参照1)修正された内容は多岐にわたるようだが、これもかねて報じられていたように、全体を簡素化して主権に関連する部分を抑えたものになるようだ。概要はこのあたりのニュースがよくまとまっている。(参照2/参照3)"

 元々内容的に憲法とは言い難く、"constitution"の語句を削除したのは適切なのだろう。またEUの大統領職は置かれるが外相ポストは無い。象徴的な部分は残すが実質の部分は(少なくとも現時点では)機能させずに、あくまで各国の主権を尊重するというところか。しかしその他理念的な部分の多くに手が加えられており、各国の微妙な世論に配慮した結果が伺える。そしてEUの多数決原理はより人口を反映した形に変化していくようであるが、やはりここは揉めるポイントになった。

 これも報じられていた話だが、この合意の直前でポーランドが歴史カードを切った。曰、「ナチスによる侵略がなければポーランドの人口は2倍はあった」という主張である。(参照4)6600万人というどう試算したか良く分からない数字も語っていたようだ。カチンスキ首相自らの発言であるだけに大きな反響を巻き起こした。いきなり高め玉の印象があるが、全く無茶な主張とも言えないのが問題を複雑にしている。駐日ポーランド大使館のページにちょうど記載があるのでリンクするが(参照5、ページのトップはこちらだがここ自体リニューアル中で、こちらに移行する模様)第二次世界大戦直後にポーランドの人口は大きく減少している。なお同国の犠牲者数は試算にもよるが600万人前後とされており、人口に対する犠牲者数では、日本も含めた主要な大戦関係国の中で間違いなくトップであろう。これを言われると基本的にドイツは黙るしかない。

 しかしこれにはEUの他の国の賛同は得られなかったようだ。まずデンマークのラスムッセン首相が反発したことが報じられている。相変わらず骨のあることである。こちらのニュース(参照6)などを見ると、北欧諸国が今回の合意を重視している様子が伺える。ポーランドとの関係が重要なバルト諸国などは微妙な立場だったかもしれない。

 結局、ドイツはポーランド抜きで採決しようとの強硬な立場を取ったようだ。そしてポーランドは結局折れた。しかしその一方で、合意結果に示されているように最終的にはポーランドに対して妥協している。そしてポーランドは感情的な外交で孤立したのかというとそうでもない。今回ポーランド支持に回るかもしれないと思われていたチェコは大きな動きを見せていないが、ポーランドとの役割分担はあったようだ。このあたりのニュースは興味深い。(参照7/参照8,広告後の音声に注意)ポーランドの立場強化に協力するが、合意が破棄される事は望んでいない。しかし交渉の矢面に立ったポーランドの支援には貢献したと自負しているというのは面白い。

 なお今回の交渉の主な勝者は英国と見られているようだ。(参照9)ブレア氏とサルコジ氏が親密な事は知られており、サルコジ氏が花道を用意したのかなとつい思ってしまう。ブレア氏をEU大統領職の候補に考えているようでもある。その一方で今回の交渉におけるドイツのリーダーシップに疑義を呈したりもしている事が報じられていた。サルコジ氏はポーランド排除など不可能な事だと思っているようだ。メルケル氏はうまくやったと言えるが、なかなか危ない状況でもあっらたしい。(参照10)

 今は欧州主要国のリーダーが変化している時期なので、距離感を探るような雰囲気もある。いずれにせよこの雰囲気では、正直EU拡大どころではあるまいなと思う。ただそれはそれで大事で、例えば対トルコとか、あまりに不誠実な外交を行うとやはり問題が持ち上がってくるのだが。
posted by カワセミ at 00:41| Comment(1) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア
この記事へのコメント
御無沙汰しておりました。

ポーランドには同情を禁じえませんが…
「場末になった責任を取れ」とは、しかし無茶なことを言うもんだなあ…とも(粗い例えですが、「私がケーキ一個を我慢すれば、云々」という切り口から解決策が語られる南北問題みたいで)
昨今は、倫理を軸とした攻勢は鬼門だなあと
思うことしきりです。

Posted by 魚服記 at 2007年07月03日 13:55
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