2007年05月13日

トルコ政治の混迷

 トルコの政治は混迷を深めているようだ。この記事を執筆している段階では、従来議会が指名していた大統領を国民の直接投票とする法案をトルコ議会が可決したと報じられている。(参照1)しかしながら大統領は拒否権を持っており、まだ紆余曲折がありそうな状況だ。

 与党の公正発展党(以下AKPと記述)は国民の広範な支持を得ており、国民の直接選挙とすることでその立場を強化したい意図があるのは間違いない。にもかかわらず、一方でトルコ国民は軍部の政治介入を容認ないしは支持してきた歴史がある。これはタイなどでの国民意識と比較すると面白いかもしれない。タイの場合は王室もあり、国民が政治的に一体感を感じる対象はかならずしも議会が主導的に持っているわけではない。ではトルコの場合はどうだろうか?

 専門家というわけではないので考え違いがあると指摘していただけると有難いのだが、トルコ国民の軍部に対する支持は、進歩性や公正性の象徴ではないかと思われる。尚武の気風はアラブ世界にも多いが、ケマル以降はそこに近代性を持ち込む事に成功した。アナトリア人という概念の抽出に成功した事が重要であろう。そして現在は軍部主導の国家安全保障会議という組織が強力な権限を有しており、時に内閣に対して政策や人事を指示する形となる。例えば(イスラム主義の)福祉党が政権を獲得した際は憲法裁判所への提訴という形を取って解党する事となった。

 日本人に対してこの状況を理解させるのはかなり難しい。無理に比喩を挙げるとすれば司法のそれかもしれない。選挙の結果地位を獲得した議員や政党がいたとして、三権分立の原則の下、司法府に所属する検察庁が告発し、裁判所が判決を下したら、国民の内心の支持がどうあろうとその結果をまずは信頼するというのがこの国の政治文化である。以前のエントリで多少関連することを書いたが、日本では法務大臣が死刑判決にサインしないことをしばしば批判される。これは単純に立法府・行政府が司法府ほど信頼されてないという事実の発露であるのだが、この側面に関して日本人が自覚的であることは必要なのかもしれない。しばしば政治文化はその国の体臭のようなもので自国では気付きにくい。他国からの介入も良い結果を生み出すことが少ないのは「無理をさせる」事になるからであろう。しばしば有益なのかもしれないが。

 しかしながら、今回の混乱に関しては確かにトルコ人の意見は多様である。AKPはまずまずの運営をしてきたとみなされていること、軍部や官僚エリートは既得権層であるとの見方も強いからだ。その意味で世俗主義者も必ずしも全てEU加盟賛成というわけでもない。

 なお、最近のトルコに関する記事は欧米では比較的手厚く報道されており、BBCなどは分かりやすく背景なども記しており参考になるだろう。(参照2/参照3)下記の引用部分などには注意する必要がある。

The European Commission has already warned that "the supremacy of democratic civilian power over the military" is a prerequisite for any country hoping to join the EU.


 とはいうものの、仏サルコジ大統領の誕生などもあり、トルコのEU加盟は当面進展しない方向で動くだろう。トルコ国内でもEUの交渉態度に不満の声が強い。確かに外部から見れば「嫌なら嫌と最初から言え」というところか。英国は異質なものを抱え込んで平然とする様は他になかなか見られない側面もあり、同情的なようだが。もちろん色々と思惑込みだがそれは言わないのが欧州人のお約束というものだろうか。
posted by カワセミ at 03:35| Comment(8) | TrackBack(0) | 西南アジア・北アフリカ
この記事へのコメント
検察庁は法務省に所属するので組織としては行政の一部です。
Posted by 些末なことですが at 2007年05月13日 07:13
あ、確かにそうですね。独立性を尊重されてはいますが。
Posted by カワセミ at 2007年05月13日 12:17
世界情勢を見渡して、少し気になるなと感じている所にタイミングよく触れられるので、いつもながら感心しております。

>>トルコ国民の軍部に対する支持は、進歩性や公正性の象徴ではないかと思われる。尚武の気風はアラブ世界にも多いが、ケマル以降はそこに近代性を持ち込む事に成功した。


これに異存はないんですが、世俗主義にはもう一つの要素(地域性歴史性)もあるように思います。トルコの近代化路線(世俗主義)は青年トルコ党の動きに象徴されるように西洋型の近代化を目指したものの、オスマン帝国の持っていたイスラム世界の指導者の地位を精神面で完全に捨て去ることはできなかったわけですね。ケマルでさえ、最後にトルコ人としてのアイデンティティーを求めたものは、民族ではなく宗教だったわけで、結果としてトルコ語を話せないがオスマンの治世下でイスラムに改宗していたギリシャ、スラブ系の人々を多数トルコ国民として抱え込み、トルコ語を話しトルコ人でありながら正教やユダヤ教信者であったがために多くのトルコ人が祖国を離れるという大きな事件(日本ではほとんど知られていない)が前世紀に起こったわけです。
 今回、世俗派の拠点とされるのは、アンカラ、イスタンブール、イズミールですが、歴史的にオスマン治世下で非常に国際化していた地域であり、宗教と民族の多様性が、根付いていた地域であっったという要素を感じます。又、ギリシャ系スラブ系トルコ人(奇妙な表現ですが)の多い地域でもあるようです。
 このイスラムと他宗教(キリスト教、ユダヤ教)の歴史的地理的関係の微妙なところは、我々日本人には理解しがたいところで、最近ではスペイン史でも注目を浴びていますが、トルコ社会の底流に、国民国家(民族)と宗教のねじれが存在していることも、重要ではないかと思います。
  
Posted by M.N. at 2007年05月14日 15:26
先ほどのコメントのハンドルネーム、M.N.生です。失礼。
Posted by M.N.生 at 2007年05月14日 16:46
カワセミ様

稚拙なコメントで、申し訳ないのですが。。。

世俗化を進歩性と公正性と捉えるならば、軍部は、明らかに、セキュリティのみならず、この世俗主義の枠組みを守ってきたと言えるでしょう。そして、それに対する、国民の期待と信頼(忠誠とは言いすぎですか)、軍部の支持になっているのでしょう。ただ、この近代化も、完全に、世俗化されているとは言えない側面、言い換えれば、常に、イスラム教主義者との調整、対立、均衡のうえになりたっています。もちろん、世俗主義者もイスラム教なのですが、それを政治に介入させるか、させないかで、2分されてしまいます。地政的にも、歴史的にも、欧州と中東の境とされる地域ですから、その両者に対して、相互作用を受けるでしょうし、受けてきたでしょう。ただ、少なくとも、ケマル、(アタトゥルク)EU、発足後は、加速するように、EU寄りの制度、政策をとってきました。これには、概ね、コンセサスがあり、そこに、進歩性を見出したきたのかも知れません。(それを軍部がサポートする形ですが。)ただ、ここに来て、トルコも、ある意味、疲弊している。緊張状態での世俗化ですから、ふっと息を抜いた瞬間に、どちらかに、大きくブレル可能性があります。今回のこの政治的混迷もその一つの表れではないでしょうか。
トルコを世俗主義者(Secularists)とイスラム主義者(Islamists)という2項のみで、見るのはあまりに単純ですが、この軸は、意外と分析に使えて有効かと思います。
Posted by forrestal at 2007年05月14日 18:50
「子曰く、郷原は徳の賊なり」とはいえ…ですね。

郷愁が(自他にとっての)感性の檻ならば、いよいよ通過儀礼(宗教装置)の尊ばれるところですが、
それもまた既得団体として(常なる)悪魔を仮想するのであれば、問題構造が大きくなって…却って(発展的)退路が狭まっただけ、益して自他に対して残忍に振舞うことになる皮肉が生まれます。
そこから出自、それぞれの義理による溝は、新たに深まる、広がる。
異邦人と隣人と父との間で引き裂かれるトルコ人の少ないことを祈りたいものですが…
Posted by 魚服記 at 2007年05月16日 13:08
>M.N.生様
事実はおっしゃる通りで、宗教面でもある程度の順化はありました。意図的にそうした面もあり、また縮退による国民国家の創設という事業の性質上、そこから発生する当然の帰結という面もあるでしょうね。類似の例があまり思いつかないのですが、オーストリア=ハンガリー二重帝国の例は近いかもしれません。これも結果論とは言え、オーストリア人にとっては(感情面はともかく)国家の効率を大きく上げ、良い結果をもたらしたと言えるでしょう。
トルコに関しては、アラブ人との一定の緊張関係があるのが幸運な面もありますが、問題を複雑にもしています。冷淡なようですが、自国以外の外国に属するどの地域に対しても変な肩入れをしないほうがトルコの未来に繋がるでしょう。EUへの反感が昂じてキプロスあたりで変な嫌がらせを強めたりしないといいのですけどね。

>forrestal様
民主主義にはブレがありますのである程度やむを得ないという面があります。ただ例によってこの国の運命も世論以上に政治力学に左右されますので、議会政治が混乱して権威主義的な勢力の発言が強まらないかどうかという点がポイントになると思います。またNATO経由の米国頼みかなという気もします。日本も色々宥めたりアドバイスしたりとかしているようですけどもね。

>魚服記様
結局はエリート層の責任感次第ともいえますが、トルコは日本に多少近いのか、歴史的に自国民にそれほど過酷でもなかったように思います。何とか一体感は保てるのかなと希望的観測を。
Posted by カワセミ at 2007年05月16日 21:56
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Posted by Lawrence Burch at 2009年04月22日 20:44
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