2007年04月12日

スーダン情勢に関する観察(5)国連人権理事会の無力

 既に様々なページで話題になっているが、Google Earthはダルフール紛争に関する新レイヤーを追加したと報じられている(参照1)この試みは大変に有意義なものだ。情報とそれによる人の意識の変化のみがこの種の問題を解決するからだ。本ブログでも何回か取り上げているこの問題だが、簡単ながら状況の推移を記しておきたい。

 前回のエントリでICCの対応を取り上げた。その後戦争犯罪であることは間違いないということになり、代表的人物として容疑者も名指しして引き渡しを求めることになった。しかしスーダン政府はこれを拒絶している。(参照2)これは政治的に大きな情勢の変化と言えるだろう。信頼性の高い人物の情報がソースとなり、公式な国際機関からの正式な要請を拒絶したという事実が残るからだ。

 にもかかわらず、昨年国連の組織改編の一環として成立した国連人権理事会の対応はお寒い限りである。理事国の顔ぶれはこのようなものである。(参照3、下の47ヶ国)例えばこのあたりのページ(参照4)は分かりやすく書いてあるが、要はとにかく政治的な思惑が先行し、人権問題の対応という本来の責務は二の次になってしまうということだ。安保理の代替とは無茶だが、使える組織は使うというのは世界的に見れば常識だ。「品のいい」国は少数派なのだろう。日本も過去の歴史問題を引き合いに出されたりしているが、例えばここにあるようにスイスも人種差別国だというような表現で貶められたりする事がある。勿論大方において非難する国の人権の問題のほうが比較にならないほどお粗末であるのだが。

 ダルフール問題を扱った時の内容はこのようなものであるが(参照5、中ほどにダルフール関連、ページは30 March 2007時点)言うまでもなくここに形容されているような建設的なものであったとは言い難い。このページ全般を読むと理解出来ると思うが、本来の意味で人権を重視する民主主義国が少数派になって何も進まない状況である。この人権理事会、主要国で唯一反対していた米国の予想がそのまま的中したのは何というべきか。もはやジョークと表現しているメディアもあるがその通りであろう。

 ダルフール問題では、こちらの記事(参照6)が今少し人権理事会の状況をまともに伝えているだろう。重要なキーワードが次々削除されて見事に骨抜きになる様子が伺える。最後付近のこの文章が、的確に現状を表しているだろう。

If, as some diplomats claim, the EU draft is the strongest possible text that could win a majority vote in the Council, that in itself is an indictment of the body, confirming its inability to credibly address the world's greatest ongoing human rights crimes.


 そして現状はというと、この有様にスーダン政府はタカをくくったのか事態は悪化する一方である。隣国チャドとの紛争は以前から継続しているが、チャド側で200-400人と推定される多くの死者が発生したと報じられている。(参照7参照8)せめてこれが事態打開の糸口になればと言うくらいしか無い。中国により一層の関与を求める声も強くなっているようだが。
posted by カワセミ at 02:01| Comment(8) | TrackBack(0) | サハラ以南アフリカ
この記事へのコメント
お久しぶりです。

以前コメント欄で、
アメリカは起源より続く宗教国的性質からどこかしら融通が利かない、おかげでコンセンサスの構造に活きるリバタリズム(ここでは「危害の原理」に絞った意味と御考えください)の指向が、実質は道徳観念のプリントを欲求しているのではないかと錯覚される、
だから独自の経緯を持つ他所としては、いささか憤激を覚えるところがあり、
と非難を展開させていただきました(文面は違いますが、含意はそうであったと受け取っていただければ……)。

しかし、それでも、カワセミ先生が収支弁護をされたように、今回の懸案で欲求されるような理想が“まるで在るかのように”、アメリカは訴えることがきる、というのは、やはり美点というべきなのでしょう。

求められるべき精神の快楽を黄金律(「自分が人から危害を受けたくなければ、誰にも危害を加えないことである」例として『ムハンマドの遺言』)に求めるというのは、かのJ・S・ミルの言葉でもありました……
Posted by 魚服記 at 2007年04月17日 11:55
私もまた同じことを繰り返す事になりますか。「別の政治文化を持つ民主主義国がより関与する熱意を持っていれば」違った展望があるかもしれないと。

誰もかれもが「自分の考えるように米国が行動すれば世界は良くなる」というような主張をします。決してそれ以外の国に求めることはなく。

ですが米国は、時に思慮の浅い理想の探究を行い、大小様々の挫折を経験し、その中で得られるこれまた大小様々の業績を達成するという繰返しを、さしたる他国の影響なしに続けるのでしょう。

私の生きているうちにより進化した別の世界を見たいとも思いますが、今ですら世界の現状は上出来と諦めるしかないかもしれません。悪いほうへの展望は山のようにあるだけに。
Posted by カワセミ at 2007年04月18日 00:52
お邪魔します。

 相変わらず泥沼化の一途を辿るダルフール紛争ですが、それにも関わらず国連がまだ無力さを露呈しています。
 イラクのクウェート侵攻や旧ユーゴスラビアのボスニア紛争の際は当事国に制裁というペナルティを下したのに、このダルフール紛争やミャンマー情勢には制裁したくても制裁を下せないという状態が続いている。
 国連人権理事会ですが、人権問題を抱える中国やロシアは人権委員会に入る資格すらないと私は思うのですが。中国はチベットなどを弾圧、ロシアはチェチェンをはじめとする国内の共和国や反体制派を弾圧し、まるで旧ソ連を思わせる圧政振りです。現にこの両国は安保理でミャンマー情勢を巡る採決で拒否権を使い、軍事政権に肩入れするという結果となりました。
 スーダンのバシール大統領はアラブ民兵を使い黒人住民を虐殺、かつてのルワンダやボスニア、コソボ以上の惨劇を起こしました。かつてのミロシェビッチを思わせるバシールの非道ぶりは民族主義者としかいいようがありません。
 スーダン情勢が進まないのは中国にも原因があるとも思います。石油などスーダンの利権を取り、またダルフール紛争で使われている武器が中国製であることも思われます。
 私の推測なのかも知れませんが、中国がこれ以上スーダン情勢を泥沼化するようだとアメリカが中国を「悪の枢軸」と名指しで非難するかもしれません。まあ日本や欧米に比べたら中国やロシアは民主主義が遅れてると思います。カワセミさんはどう思いますか?
Posted by ハイタカ at 2007年04月23日 15:39
カワセミ様

おひさしぶりです。少しだけ。

責められるべきは、スーダン政府などであって、国連及び、委員会ではないのでしょうが、そもそも、国連の限界であって、これ以上は、何もできないでしょう。ただ、悲観的になる必要もなく、このような限界が露呈することは、国連にとっては、大きな課題であり、我々の認識(国連観)においても有益でしょう。

同じことは、ICCにも言えます。国際関係における、法の支配、今回は、管轄権の問題ですが、その今強制性をいかに担保するかは、今後、重要です。

中国に関しては、大きなアクションはないと思います。この種の問題に介入することは、あまりに、ハイリスク・ローリターンですから。

軍事力も種類、使い方、規模、介入レベルによって、効果は、異なりますが、かの地域のような混沌圏には、原始的なパワーによる和平に向けてのインセンティブ・コントロールが必要ですね。

Posted by forrestal at 2007年04月23日 22:43
カワセミさま

本当に申し訳ありません。こちらのPCの動作不安定で、何度も同じ内容をコメントしてしまいました。

本当に申し訳ありません。一番最後のコメントを残して、内容が同じなので、削除してください。

ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。

名前がfになっているのも私です。

失礼いたしました。お手数、おかけします。
Posted by forrestal at 2007年04月23日 22:48
色々トピックを書きたいのですがちょっとエントリにならない状況です。
とりあえずエリツィン前大統領、ご冥福をお祈りします。その業績に議論はあれど、少なくとも愛国者であったことは疑いないのでしょう。お疲れ様でした。

>ハイタカ様
大筋の認識はその通りと思います。また日本人の多数派、欧米人の多数派の認識も大差ないと思います。ただ、現状そうであるとして、それにどう対応するか、どう行動するかというのが政治の問題となるわけで、そこはかなり意見が分かれる所でしょうか。

中国は、非常にゆっくりではありますが、やはり近代的になっているのでしょう。大局的に見れば毛沢東以降、現在に至るまでの指導者は後のほうが幾分ましでしょう。ただ天安門事件のような事もありましたし、紆余曲折が向うの時間軸で動いて50年停滞や後退というのが当たり前のようにあるのでしょう。変化の激しい現代には基本的な要件として不利な面を抱え過ぎています。その点ロシアは物の考え方が変化する可能性がまだありますが、あそこも中国同様知識人が大衆に対して冷淡すぎます。政情を安定させながら地方分権をうまくやって、いくつかの都市に高度な産業の興隆が見られるという形になれば良いと思うのですが。

ともあれ、国連はその性質そのものが非効率です。それでも意見を交換できるフォーラムとして、ある種の浅い広範な合意とか、政治的ガス抜きなどといった前向きな側面もやはり有しています。過大な期待をせず、徐々に進歩させると割り切るしかないでしょう。その代替機能となると、NATOの政治機能の熟成くらいしかありませんか。実際は明白な直接的防衛行動(9.11くらいか)が必要になったとしても、特定の物理的貢献が義務というわけではないので(もちろん政治的・道義的な責務がかかっては来る)日本も原則としては協力を拡大するべきなのでしょう。

>forrestal様
削除作業を行いました。まぁコメントも(というかエントリも)少ないブログで管理に苦労してるわけでもないのであまり気にしないでください。

最近はAUに見られるように地域で責任を持ってというのが国際政治の流れですが、私は必ずしもこれがうまくいくとは思っていません。欧州のように政治的成熟が進み、多国間外交の伝統が長い地域であれば比較的うまく機能すると思います。しかし周辺国の思惑が錯綜し機会主義的な外交が横行する場合は混乱することが多いでしょう。拡大NATOのように世界的な組織で、直接利害関係を有さない遠隔地の国が前面に立って、近隣の民主主義国はバックアップに徹するような外交の仕組みを強めることも意味があると思うのです。実際PKOなどはそれで実績を挙げています。ただこのやり方の問題として、自国と関連の薄い遠隔地への関与に、資金や軍事面での大きなリソースを割きにくいという事があります。また外交経験の不足もあるでしょう。英仏のような強力な外交の伝統を持つ国でさえ、アジア外交はやはりうまく切り回せていないという感があります。とはいえ、極力世界的な視野で連携していかないと事後処理も安定しないし課題を放り出すことになりますね。

スーダンに話を限れば、やはり米国が旗を振るか、場合によってはフランスに無茶をさせるしかないのでしょう。ただこの地域は現大統領の後継者が今よりマシという確証が得にくいだけに難しいですね。それでもあれだけひどければどう転んでもまだしも、と思うのですが。
Posted by カワセミ at 2007年04月24日 02:37
 直接に中身に関わるコメントではないが、フランス大統領候補ロワイヤル女史が、ダルフール関連で、北京オリンピックのボイコットを示唆して、中国政府を怒らせ(慌てさせ)ていますね。大統領選挙の論点と、どう絡んでいるのか不明なのだが、国際世論を動かすには、何でも利用するという姿勢もやむをえない、いやそうすべきだと思えるし、もう少し尾を引くことに期待すら抱いてしまいますね。それだけ気が滅入るし、深刻な話なのですが。北京にとってはえらい迷惑でしょうがね。あと五日で結論が・・・。万一ロワイヤルならこの話、どうなるか。
Posted by M.N.生 at 2007年05月01日 12:10
>M.N.生様
もう間もなくになりますが、フランス大統領選面白いですね。恐らくサルコジ氏かなとは思うのですが終わってみなければ分かりませんね。
北京オリンピックの件ですが、アフリカ地域に関する欧州人のこだわりのようなものに中国がどこまで敏感かにかかっているかと思います。このタイミングでしか使えないカードですし、万が一本当にボイコットになってもパリで代替開催とか言い出すと面白いかもしれませんね。前回落ちているだけに。
まぁそれでも、落とし所は探ってくるでしょうね。中国の内政のタイミング次第では多少動かせるかも。
Posted by カワセミ at 2007年05月04日 03:05
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