2007年04月02日

北アイルランド問題のささやかな進展

 紛争が断続的に続いている北アイルランドであるが、北アイルランドの議会を構成する代表的な政党、民主統一党(DUP)のペイズリー党首とシン・フェイン党のアダムズ党首が会談し、自治政府を再開する事で合意したと報じられている。(参照1)今回の和平は長続きするのだろうか。

 この北アイルランド問題、アイルランドとの間で昔から続いてきた伝統的な紛争の延長に位置し、宗教対立が背景にあると理解する人もいるが、必ずしもそのように解釈すべきではない。現在の国境の状態を直接規定した英愛条約にしても1921年と充分に近代のものであり、シン・フェイン党に近しいIRAは1969年の分裂により日本でIRA暫定派と表記される(以降英語圏に多いPIRAと表記)武装組織が成立している。これは様々な思惑が錯綜する政治路線の現代的な対立問題と解するべきであろう。ちなみにPIRAのテロに自爆テロは確認されていない。あくまで政治活動の一環であり、宗教的情熱から発生しているわけではない。そしてその政治的意識とは、1960年代の米国での公民権運動の影響が大きいとされている。実際、IRAの分裂もこの時期である。確かに差別されていたのはカトリックであるが、宗教というより人権の問題というほうが正確であろう。(しかしこの1960年代における紆余曲折を経た民主主義の進歩は高く評価されるべきだ。当時のそれが日本において実りが少ないことをもって民主主義国としては二線級であると欧米人が言うことがあるが、少々反論が辛い。日本はむしろ穏健なコンセンサスによりそれをかなり代替しているのであり、事情が違うのは確かにその通りだが、様々な問題を隠蔽したのも否定できない)

 話がそれた。さて政治の問題となれば、北アイルランドにおける選挙結果はまず参照しなければならない。Wikipedia(参照2)をリンクさせていただくが、DUPとシン・フェインというそれぞれ強硬な立場を示している政党が躍進を継続している。(過去の選挙結果などを参照)これは住民の要求が先鋭化してきたというより、実質的な交渉能力を評価するようになったということであろう。賢く振舞う統治能力の高い(元)タカ派同士の合意はしばしば紛争を終結に導くものであるが、今回もそうであると良いのだが。また、英国に起源をもつ政党は歴史的に零落してゆき、北アイルランドに地盤を持つ政党が躍進したという事実も把握しておく必要があろう。また保守党が直接北アイルランド議会に議席を持とうとする試みも失敗している。現実の住民意識として政治単位としての独立性が高い事は間違いない。その上での政治的選択がどうかということである。こういう事実を前にすると例えば沖縄独立などが100%無いことも良く理解できる。現地オリジナルの政党への支持はほぼゼロである。もちろん日本では沖縄に限らない話だ。

 PIRAの穏健化は様々な要因があろう。経済的に引き合わないという現実的な計算も浸透してきたようだ。そしてこのPIRAの資金の多くは、アイルランド系米国人、特にニューヨーク周辺から多く得てきたとされている。金額に関する確かな情報など確かめようもないが、数百万ドル程度までは間違いないという意見が強い。そしてこのPIRAへの金銭的支援は9.11以降ニューヨークで支持を失い激減した。米国の態度も厳しくなった。ただ武装闘争の放棄宣言以降米国はPIRAのテロ組織認定は解除している。

 経済情勢も状況改善に役立ったようだ。ピーク時に17.2%に達した失業率は2001年段階で6.2%まで低下している。(参照3)現在では4.5%とEU平均よりも低く(参照4)経済の安定の継続が背景にもなっているのは間違いない。

 そのような背景があるとしても、今回の和平の進展に関してブレア首相を称賛する声もある。例えばこのようなコラム(参照5)は賛同するところ多い。最後の部分などは特に。

When he came to office in 1997, an inexperienced and untested leader, it would have been very easy for him to run away from grappling with what had been the most intractable problem in the politics of the British Isles for decades. He had many other ambitions to which Northern Ireland could have been subordinated.

He has displayed courage, ingenuity and persistence. He breathed new life into the peace process and then sustained it through all those exhausting years. In the tireless effort he has devoted to getting to a settlement in Northern Ireland, Mr Blair has showcased his best qualities: his negotiating skills, his flair for creative ambiguity, a certain degree of deviousness, his capacity to take risks, and sheer effort of will.

Last Christmas, the press jeered at him for spending his holiday in the Miami mansion of Robin Gibb of the Bee Gees. To tell the truth, I thought it was pretty naff and ill-judged as well. I laughed like you when 'Stayin' Alive' was mockingly played as the soundtrack for his premiership. As it happens, he spent much of that holiday keeping the peace process alive. Every day but Christmas Day, he was on the phone to Northern Ireland's political leaders, working them towards agreement. Tony Blair has been looking for a high on which to depart from Number 10. He has now got a very great one from this triumph of politics over decades of hate and murder.


 長く続いた紛争はしばしば人をそれに慣れさせる。有利な条件が発生しても人為的な介入が無ければ平和は訪れないか、リーダーが老いて交代する数十年後であったりする。ブレア首相の評価は人により様々であるとしても、様々な問題に何かをしなければならないという決意があり、そして行動したこと、何もしない冷笑主義者と最も遠い距離にあったことは誰もが認めざるを得ないだろう。ユーゴ紛争、イラク戦争、この北アイルランド問題と、驚くほど理念的かつ実務的だ。結局歴史は、そのような人物が作るのだろう。
posted by カワセミ at 01:48| Comment(5) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア
この記事へのコメント
失礼ながら、感慨などを。

自身が職責として、「継承者」であることを証明する時、
それが必然として死者(使命に殉じた過去のイギリス人)を使うことだという強い自覚が、彼(ブレア)にはあった。
死者が単純に殉死であることで聖化されることは、却って、生き残ったもの(現イギリス国民)が通過儀礼として、その経緯の価値を補完する(死者の仕業を肯定する)ことを、他者に対して、将来的に難しくするのだということを理解し、
列強でも最も永く、勲位という(ベンサム的コンセンサスの伝統の最たる)一定の物差しを保持してきた国の宰相として、
半ば無意識的に、かつ批判的に、正義の(倫理ならざる、当事的な)弁証法的側面を強めてしまいかねない作為には“できる限り”配慮せねばならないと任じてきた。
「世界」に死者と遺族の価値(イギリス人のソーシャルイメージ)を訴える理を継続し続ける為に。イラクは難局だったことでしょう。
歴史を背負うこと、英国宰相の困難さの最たる以上のような宿業が、一層際立った近年だったと思います。
Posted by 魚服記 at 2007年04月02日 15:42
まったく個人的な経験を。私は、90年代の前半、米国で働いていました。その会社が、北イングランドに進出することになり、工場の開所式を行いました。その場に地元の下院議員が挨拶に来られたのです。気さくな人で、車を自分で運転して、ひょっこり来られました。友人に聞くと、「トニー.ブレア、労働党の議員」とのこと。握手して別れました。首相になる前の話です。
Posted by M.N.生 at 2007年04月04日 11:10
カワセミ様

いつもながら、勉強になります。
北アイルランド問題ですが、まず、ブレア首相が1998年に民主体制プロセスを盛り込んだ、グッド・フライデー合意が大きいと考えています。

又、エントリーにもあるように、9.11テロ以降のアメリカ、特にアイルランド系アメリカンの影響力の低下も大きいでしょう。
もちろん、武装解除には至っていません。この辺りが、非常に難しいところで、ある程度のコントロールが効かなければ、必ず、不満をもつ別派が生まれてしまうということです。

2003年には、北アイルランドに、ジョージ・W・ブッシュ大統領が訪問し、圧力をかけたと言われてます。改めて、米英の特別な関係を考えさせられたのですが。。

多くの日本人の場合は、特に戦後、宗教的な闘争もなく、単一民族神話に馴染んでいますから、なかなか理解しにくいことなのかもしれません。

中道左派より、「サード・ウェイ」を掲げた、ブレア首相ですが、仰る通り、現実的な路線を対外的な出来事においてとってきたと思います。又、国民への説明も忘れなかった。

対外的なことだけに限定して言えば、概ね、日本人は、作為に対しては、過剰に反応し、無作為に対しては、鈍感な、矮小化する傾向があるように思います。
どちらも、ケースによっては、国際的には、影響力を及ぼすのですが。。

いずれにせよ、ブレア首相は、白・黒ではないですが、後世の政治学者、歴史家が、評価対象にしたい人物になるでしょうね。

外交・交渉における成果は、多大な努力のわりには、意外とまさに、ささやかな進展しかみないものでしょう。
Posted by forrestal at 2007年04月09日 10:59
何か書こうと思いつつも、特に書き加えることも無いように思い、そのままにしておきました。

ブレアは確かに後世色々語られる事になる首相でしょうね。その是非はともかく、少なくとも一定の敬意をもって。
Posted by カワセミ at 2007年04月14日 01:57
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Posted by Danny King at 2009年04月22日 14:51
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