2007年02月08日

コソボの国際的な地位はどうなるのか

 少し時間も経過したし、ちょっと今の時点ではあまり書きようもないのだが、これに関しては多少なりとも触れておきたい。コソボ問題であるが、かなり独立国に近い線での自治が認められる方向で国際社会は仲介を進めている。(参照1/参照2)ただ、当然ではあるがセルビアは猛反対の構えだ。

 以前モンテネグロに関してエントリを書いたが、コソボと比較すると状況が違うことが良くわかると思う。モンテネグロは長い自治の伝統があり、独立することで総合的に見れば状況が固定化して地域の安定をもたらすと解釈可能だろう。しかしコソボはどうであろうか。100%完全な独立国となると地域に混乱をもたらすだろう。

 日本のメディアはセルビアにとってコソボは京都みたいなものと解説することがある。それは感情面の事実ではあっても、「主権」を語る際の表現としては、極めて不誠実で危険なものとなる。東プロイセン一つ例に取るだけでそのような表現は問題があることが誰にでも理解できるだろう。現実と遊離した秩序は維持不可能だが、地域に混乱をもたらすような措置は取れない。今回はその典型例と言えるであろう。

 同地域の居住者は、以前からアルバニア系が圧倒的となっている。(参照3)このため独立はアルバニアへの併合に繋がる可能性があり、これは即座にマケドニアの不安定に繋がる。またこの併合方向での国境線の引き直しは、近年の国際社会が注意深く避けてきた方向での秩序変更であることも自明だろう。分離独立のほうがまだしも「民主的」なのである。また、この問題は現在何とか欧州域内で矮小化させているが、世界的な問題に拡大する可能性もあり、その意味からも認められないだろう。

 そのように考えていくと、国連特使の仲介案の内容は直接的には違和感を感じないでもない。普通に考えると、外交などでの制限された内容で名目的にセルビアの主権を認め、自治に関しては、セルビア系住民の人権を確保することを条件に今まで以上に大幅に拡大するというのが順当な所ではないだろうか。というのも、地域の現状がこうである中での独立の達成には、モンテネグロなどの例でも見るようにEUなどの関与で上位組織への大きな主権の移譲を利用して安定を図るしかないであろうからだ。にもかからわず、独自に条約を結んだり、国際組織への加盟も認め、一方で法案の拒否権を国際社会が任命した監督官が持つというのは奇妙に見えなくもない。

 しかしながら、必ずしもそういう文脈で捉えるべきではないのかもしれない。まず、ロシアはこの件に関して、意外にも必ずしも拒否権を行使するとは限らないようだ。(参照4)そして、例えばこの記事(参照5)に見られるように、それはセルビアを欧州の一部にするためのプロセスという見方もある。この付近は米国務省のダニエル・フリード次官補のインタビューの記事により典型的に示されている。これを読むと今回の仲介案の本質がやや見えやすくなるかもしれない。(参照6)読後の感想は人によって違うと思うが、これは日本人や、恐らく大陸ヨーロッパからはなかなか出てこない反応ではないだろうか。本当にそれでいいのかとも思うが、その一方で建設的ではある。だがしかし、たとえばこのような意見はというと、

Russia last year raised the point that independence for Kosovo may set a precedent for breakaway regions like those in Georgia, such as Abkhazia and so forth. Is there concern of creating this type of precedent?

Well, separatists may claim this as a precedent, but separatists have existed for a long time. The fact is Kosovo is not a precedent for other conflicts at all. It just isn’t. Kosovo is a unique situation, because NATO was forced to intervene to stop and then reverse ethnic cleansing. The Security Council authorized effective Kosovo to be ruled effectively by the United Nations, not by Serbia. UN Council Resolution 1244 also stated that Kosovo’s final status would be the subject of negotiation. Those conditions do not pertain to any of the conflicts that are usually brought up in this context. It’s not applicable to Abkhazia, or South Ossetia, or Transdniester. Nor is it applicable to Chechnya or to any separatist conflicts in Europe.


 確かにそうかもしれないし、筋論ではあるが危険な道でもある。米国はコソボ独立にフルサポートの構えであるが、EUとの調整は取れるだろうか。かと言って何かをしないと問題が残存するだけというのもまた事実なのだ。また今回の仲介案などは、例えばこのセルビアに3年間住んでいたというフリード氏など一部の人のリーダーシップで出来たものかもしれない。もちろん実際の所は分らないが、歴史はどうなるか先の見えない時に少数の人間の選択で決定する瞬間があり、今回もそうではないかと、ふと思ったのだ。
posted by カワセミ at 01:57| Comment(6) | TrackBack(1) | カナダ・欧州・ロシア
この記事へのコメント
カワセミ様

旧ユーゴから、コソボ紛争にかけては、欧州主要国は、自前の軍隊で、何もできなかった。又、国連の調査・監視団も機能しなかったという経緯があります。

特にコソボに関しては、セルビア系、アルバニア系ともに、伝説的な聖地になっています。又、ムスリム系もいます。欧州諸国やロシアが主体的に動けないのは、民族的なつながりや、歴史的経緯、又、この地域における混乱がもたらす、自国領域における、政治、経済、社会に悪い波及効果が及ぶことの懸念が大きいのでしょう。
それは、現状でも本音の所では、変わっていないと考えています。

では、現在の状況を踏まえて、どうすればいいかとなると、御説にもある通り、コソボのみを、国際的に承認するとなると、セルビア系の反発、不満が大きくなり、混乱、紛争への蓋然性が高まります。
又、現状放置も、問題の先送り、さらに、悪化した状態になる蓋然性もあります。

つまり、この地域に対する、作為・無作為は、どちらもかなりリスキーです。

国連を通しての対話は、重要ですが、ある程度、上位機関がパワーで押さえつけてしまう。おそらく、EUが主体になるでしょうし、なるべきです。

そうでなければ、パリティを図って、緊張状態ではあるが、相互抑止の働く方法をとる。

正直、イスラエルーパレスチナのように、聖地やナショナリズムが絡んでくると、これといった良い方法がないとうのが、現実でしょう。

私にも、良いアイディアがあるわけではありませんし。
まあ、独立から国家建設へ向けての混乱は、珍しいものではありませんが。

極論すれば、パワーによるコントロールと、対話の継続しか現状、思い浮かびません。
Posted by forrestal at 2007年02月09日 01:29
カワセミ様

 アフリカ、南米、バルカンと、世界情勢をバランスよくエントリーされていることに感謝。この地域の情報に弱いので、確たる見解をコメント出来ないのですが、大きな流れで考えると、統合やグローバル化が進むと、逆に地域独立のモーメンタムが強くなるのは避けられないですね。特に欧州はEU統合が背景にあるのでよけい強い独立感情がでるのかなと感じます。
 スペインやイタリアには以前から分離傾向がありますが、最近は英国やフランスでも見られます(比較的うまくやってきたのは本来連邦国家であったドイツくらいですか)。結局、バルカン諸国も、EUという大きな枠組の機能に期待するしかないのかなとも感じます。ただそれは目先の危機解決にはつながりませんですね。
 ひとつ気がかりなのは、アメリカが安易に民族独立の動きに乗ることです。これはアメリカの理想主義的な側面で非難は出来ないのですが、ウィルソン主義を、歴史意識や固有文化的伝統の強い地域に持ち込むことがもたらす混乱には無頓着であるということも、又アメリカの一面ですから。
 
Posted by M.N.生 at 2007年02月09日 10:45
カワセミ先生

日も空けないうちに、また節操もなく……寄らせてもらいました。

以前、言語学的関心からロマの省察をしていた時期があったのですが、今回の騒動を見るに、またアッシュカリーには災難が続くのだろうと想像され、なにやら暗い気持ちになりました(彼らには毎度のことですが)。

バルカンは、西から東から、難民が吹き溜まりになって多様を極めながら、
未だ彼らは、一般(巨視的)にはただ「アルバニア系住民」の括りで処理されますから、どうせ今回もさして意見の許されないままに終わり、帰属のあやふやな中でいびられたりして苦しむのでしょう(とんと外信も聞かないですし、いっそマケドニアにでも逃げた方が楽だったりして。あそこは最近は滅多な諍いもない様子ですし)。

実際は諸勢力が「〜系」などとは(本当に)とても括れない所帯ですが、紆余曲折を是非乗り越えていただきたいものですね。

なにやら纏まらぬ話でしたが、これにて。


Posted by 魚服記 at 2007年02月09日 14:05
尋常でない人たちのコメントが揃い踏みすると壮観ですね。
いやはや、いつも有難うございます。

>forrestal様
おっしゃる通り、ユーゴ紛争の様々な局面に渡って欧州は無力でした。そして作為も無作為も危険だというのも明らかですね。そして問題は、上位機構として働くEUが機能するかどうか疑わしいというところにあります。
NATOは安全保障のための枠組みですが、EUは元々経済の論理から発生したものです。利益を拡大することにコアコンセプトがあり、政治統合を目指す段階でそれが必ずしも意図した通りに働かなくなってきたというのが昨今の情勢です。むしろ経済的な先進国が相対的に発展していない国の面倒を見るという面が拡大してきました。それでも成長率が高ければ投資に対するリターン期待という話はあるのですが、バルカン地域ではそのような論理はとても回りません。EUは理想主義的な部分を多く持つのは事実ですが、権利を拡大するという本来の目的はまだまだ強固な側面を持っています。義務を果たすための組織にもなれるかというのは主要国の覚悟次第ですが、どうにもそれは期待薄のようです。

>M.N.生様
欧州地域の政治文化では、自国が主導権を完全にとれるならともかく、そうでなければEU官僚は雲の上で何を勝手にやるか分らん連中だと胡散臭く見られているのは当然でしょう。政治に関する監視こそが民主主義の要諦とすれば、分権に関する反動が発生するのはむしろ当然かと思います。まだ足りないくらいかもしれません。下手を打つと欧州は旧オーストリア=ハンガリー帝国の拡大版みたいな非効率なものになるかもしれんと言うと言い過ぎかもしれませんが。
米国に関する危惧は本当にその通りです。こういう局面で単純化してしまうのは悪い癖ですが、それが結果的に良い事もあるので評価は難しいです。このエントリでもう少しはっきり書けばよかったのですが、コソボのためというよりむしろセルビアのためという意識が勝っており、セルビアへの嫌悪感からまだまだ離れられない欧州諸国に対してある種の道義的優位を作ってしまっているという面があるでしょう。多くの欧州諸国は内心ブツブツいいながら抗しきれずにひきずられてしまうかもしれません。ただどう転んでもかなりの混乱は間違いないので、セルビアを安定させるという事にまずフォーカスするというのは戦略的に適切な方針かもしれません。ただその手法に関しては山のように議論があると思います。

>魚服記様
いつもコメントありがとうございます。これからもよしなに。
この地域の複雑さ、多様さは周知の事実と思いますが、このエントリを読む範囲では過剰な単純化の謗りから逃れられないかもしれませんね。アッシュカリーの苦難もいつもの事というのも不憫な話で、世界は慣れてしまっています。(その意味で、イラクの悲劇を慣らさないようにしているだけでも、関係諸国は仕事をしていると言えるかもしれません)アルバニア自体も問題の多すぎる国ですし、テロリストもどきの連中でないと満足感を国民に与えられない局面があることは悲劇です。マケドニアは頑張っていると思います。紛争地域へのフォローもさりながら、このような国の現在の努力が壊れないように支えることもまた大切なのでしょう。
Posted by カワセミ at 2007年02月13日 02:24
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Posted by Bosch 500 plus reviews at 2015年01月28日 07:46
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<コソボ自治州>独立巡るセルビアとの交渉延期
Excerpt: 2月10日12時35分配信 毎日新聞  セルビアのコソボ自治州の最終的な地位を巡る交渉を担当するアハティサーリ国連事務総長特使事務所のローハン次席は9日、コソボの州都プリシュティナで、13日から..
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Tracked: 2007-02-10 15:18