昨年から眼病に悩まされ、最終的には網膜剥離で入院手術ということになってしまった。思っていたよりもかなり大変だった。評判の良い眼科ということもあり術後の経過は良いが、まだ何かと不便なのは否めない。とはいうものの、失明もせず生活も仕事も何とか継続できそうなので良しとするしかないだろう。追加で別の治療は考えないといけないかもしれないが。まぁ、そんなこんなで何とか生きている。
すっかり世情にも疎くなったのでなかなか復活とはいかないが、せっかくなので様々なテーマに関するちょっとした所感でもメモして、久々の挨拶としておきたい。
衆院選:
いよいよ明日が投票ということになった。今回は自民党が政権継続というわけにはいきそうもない。民主党も頼りない印象があるせいか世の中のフラストレーションは大きいようにも思える。しかし私としては、元々の期待が大きくないせいもあるが、今まで定期的な政権交代がなかった民主国家としては昨今の状況はまずまずなのではないかと思っている。もちろん真の論点は先送りにされ、数回の衆院選を経ないと意味のある論争は生まれないかとしれない。ただ30年くらいかかりそうなものが半分程度にまで縮められた印象はある。それはまだ見えにくいが良心的といえる少数派の議員、心ある官僚の努力の結果だろう。マスコミはもう一息で脱皮というところだろうか。紆余曲折は多いに違いないが。不安視されている外交・安全保障政策も、右派的政策は左派政権で実現が容易になるという性質を考えると、かなりの混乱を経た後に一定の成果は出せるかもしれない。歴史を振り返るなら、明治末期から大正期あたりの不安定な政党政治の時代がまた来るのかもしれない。その時とは異なり、今の日本人は議会政治の中にしか良い解は無いことを理解していると思う。
アフガン情勢:
率直に言うと展望は悪いだろう。破綻国家が世界に悪影響を与えるのは事実なので全く関与しないというわけにはいかないが、投入コストは青天井になりかねない。コストを絞って封じ込めに舵を切る戦略が最も適切と思われるし、英国は以前からこの意見が強い。保守派の間ではコンセンサスが出来つつあると思うのだが、オバマ政権がどのあたりでバランスを取るつもりなのかはまだ見えてこない。失敗と評価されるにはまだ若干の余裕があるが、国内政治の帰趨によっては政治的資源が急速に失われかねない。医療保険改革がアフガン情勢に影響ありというのは筋違いに思うが事実だろう。しかし米国の現状を思うと、日本の健康保険制度は自国民があまり意識していなかった様々な要素によって支えられているということを実感する。
G2論:
この種の言説に関して過剰に反応する必要はないと思う。過去は日本に関してもあったし、当面の成長エンジンに注目は集まりやすいものだ。ペッグ制の現実を考えるとG1論の変形の感もあるし多少の屈折も感じる。ただこの種のレトリックで持ち上げて国際的に有用な役割を中国に果たしてもらうというやり方はあるかもしれない。中国が貢献しやすい国際的な責務を民主国家で共同して考えてみるのは良い事だろう。例えば難民の受け入れなどは日本よりハードルが低そうだ。
新型インフルエンザ:
ワクチン輸入に関して不用意な言及。正直ぞっとした。意味が分かって発言しているとは思えないが。今少し深刻な病状をもたらすウイルスであれば世界はどう報じたであろう。
核廃絶問題:
この問題の本質を扱った論評が少ないと思う。つまり、この半世紀強という時間で、核技術を扱える国は潜在的に増加し続けてきたという事実を冷静に指摘しなければならない。1950-60年代あたりの、現在先進国といわれるような有力な工業国や地域大国の試みに
は、多くは米国が核の傘を提供するか、有効な安全保障上の関与を行うことで対処した。またこれは自発的に核開発を断念するに至った唯一のパターンであることにも注意する必要がある。そして、それらの米国の申し出に最終的に納得出来なかった国がインドなどのように核武装国となったわけだ。そして、パキスタンあたりを皮切りに、次の発展段階にあたるやや外交上の安定感に欠ける国々まで手を出せる段階に達したというのが21世紀初頭の現状というわけだ。リアリストの立場からこれに対処しようとしたら、核廃絶というようなテーマを挙げて時計の針を逆回転させようとするのは当然のことである。少なくともロシアをこれに納得させるのは充分可能と思われる。中国も現在の水準が高くないので微減程度で済むだろうし、核武装国の政治的資源は維持可能と踏めば協力は取り付けられる可能性がある。むしろ英仏あたりをどう扱うかがかなりの難題となる。
2009年08月29日
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政権交代を果たして
Excerpt: ■まず、カワセミ様のブログの更新があった。率直にうれしかった。目を手術されたとの
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政権交代を果たして
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大筋を論じられているところで、細かい話になって恐縮ですが、仮に政権交代が実現した際に、政権の引き継ぎがスムーズにできるのかが当面の試金石かなと感じております。戦前ならば政権交代が当たり前だったのですが、その時期にどのように引き継ぎが行われていたのかはわからない(単に無知なだけですが)部分が多く、現状の自公連立政権、より露骨にいえば麻生首相の姿勢に不安を感じます。また、政権の引き継ぎが内閣官房を中枢とする政治家レベルで行えないとなると、官僚機構が統治の継続性を担保せざるをえませんが、昨今の状況を考えると、官僚機構自体が自分自身のガバナンスができなくなる可能性もあります。天下りやその他の不祥事の問題ではなく、行政府の役割がそれだけ複雑になっていることがはるかに大きいのでしょう。もっとも、この点もどこかで負担をしなければ解決する問題ではなく、今回、仮に円滑に進まなかったとしても、ただちに絶望すべき問題ではないと思いますが。
国際情勢に関しては、論点があまりに多いのですが、やはり米中関係を抑えておかないと、わからないことが増えてくるのでしょう。Kissingerの"Rebalancing Relations With China"は図式的な部分もありますが、G-2論の問題点に関しても的確な指摘が多いと思います。ただし、キッシンジャーのアジア認識はやや雑な印象もありますが。
その意味で、核廃絶、あるいは核の拡散防止というのは、レトリック以上の意味をもつ可能性をもっていると感じます。なるほどと思ったのは、(1)冷戦期の核保有国、(2)(1)の核保有国によって拡大抑止を保障されている国、(3)いずれの保障もなく核保有を目指す国で核に対する利害と感情が異なるという点です。これでも粗い分類でしょうが、米中関係で信頼関係があっても、この問題のマネージが不首尾に終わると、非常に危険ですし、おそらくキッシンジャーが危惧している対中封じ込めに傾いた際には、国際的なアナーキーが広がるリスクが非常に高いと思います。英仏の扱いは難しいとは思いますが、現状の核拡散防止体制が十分に機能していない状態では、両国が積極的な対応を行わない場合、国際政治のプレイヤーたりえず、今後の不安定な国際協調体制ですら、無視できる存在になりかねないという可能性を指摘する、ちょっと突き放した態度も必要だと考えます。
まず、目を手術されたとのこと一日も早い回復を祈念しております。
私も環境が大きく変わり、大学機関に戻っております。ブログも1年の休止を経て、研究の合間をぬって、細々とですが更新しております。
まず、この度の選挙ですが、日本政治にとっては長期的に良い結果を生むのではないかと思います。ただ、民主党政権になったとしても(なるでしょうが)、きわめて、大きな混乱と不安定な時期が続くのでしょうね。そこを国民は、失望と捉えてはいけないのですが。何事も経験を積んで学習していくほかないでしょう。ただ、意外に小沢氏を含め、官僚との調整はバランスよくやるのではないかと思っております。
アフガン情勢ですが、ご指摘の通り、あまり進展しているとは言えない状況です。ただ、これは、「テロとの戦争」の継続であり、アメリカは、オバマ大統領は、何が何でも安定化させたいのでしょう。もうすでに、アメリカ国民のほぼ、半数は、なぜ、アメリカがアフガンで戦わなければならないのと懐疑的な見解が世論調査などで半数を占めます。この国内世論は、今後、広まるでしょうし、そうなれば、泥沼化、オバマ大統領も大きく政策を転換しなければいけないでしょうね。
核の問題ですが、オバマ大統領の発言には当然、理由があり、それは、アメリカの優位性をより高めるのが狙いです。御説にもある通り、政治的価値としてもっぱら保有している、英・仏との共著的な縮小のほうが、難しいですね。
日本の核武装論の議論は、専ら、抑止のみを焦点とし、外交戦略上の議論が殆どないのが現状でないでしょうか。
>Hache様
貴殿も体調不良が続いていたとお聞きしております。最近はいかがお過ごしでしょうか。
>また、政権の引き継ぎが内閣官房を中枢とする政治家レベルで行えないとなると
この件は確かに不安なのですが、しかし思い返すと自民党内での政権交代でそもそもどうだったのかという問題があります。最近でも小泉政権以降、安倍政権、福田政権あたりへの移行はうまく出来ていたとは思いがたい。何となく継続できるだろうという感じで何もやらず、結果人に依存していた部分が多く、時が経つと矛盾が露呈して破綻という経緯だったのではないかと邪推してしまいます。防衛省などは官僚機構の方で継続性をある程度担保していたかもしれませんし、文部科学省などもなまじ政治家側の関心が薄いだけにそうかもしれませんが。しかし多くは総理大臣のリーダーシップが示されない状況で権力が分散、迷走したという印象があります。
今回ですが、政権交代ということで、一度だけは内外から多少大目に見てもらえるでしょう。その唯一の機会に失敗をやり尽くしてしまえるかが鍵と思います。自民党も次回の意趣返しなどに繋がらないように協力しておくべきでしょうね。
>キッシンジャーのアジア認識はやや雑な印象もありますが。
率直に言うと、あんまり当たってないですよね、これまでの実績としては。欧州大陸の論理かなという気もします。伝統的にアジア外交は米国の弱点でもありますが。ただ中国を過大評価する伝統は昔から米国にあって、これは将来もあまり変化しないとも考えられるので、日本もそれを織り込んだ対応をする必要があるでしょう。
>おそらくキッシンジャーが危惧している対中封じ込めに傾いた際には、
これなんですが、ロシアなどと違って今現在も擬似封じ込めみたいになってる側面もあるのではないでしょうか。地理的な要因も大きいですが。戦略物資の貿易などは今でも制限があるので、下手な緩和が出ないように努めるのがひとまずの課題かと。アフリカ外交など色々やってるようですが、相手のある話で、アフリカ諸国も充分したたかにやってますよね。
>無視できる存在になりかねないという可能性を指摘する
突き放したとしてもどうでしょう。英仏が離反した状態で欧州諸国を米国が充分に掌握できるかというと相当に怪しい。東欧あたりのいくつかの国が機会主義的な行動に出てトルコやイスラエル付近まで変な思惑が飛び火とか、ろくでもない事になりそうです。要は主要な同盟国すら説得できないようではそもそも核拡散の防止は全く進まないので、前提にするしかないと言うことだと思います。
>forrestal様
ブログも再開されたようで良かったです。しばしば拝見しております。
>ただ、意外に小沢氏を含め、官僚との調整はバランスよくやるのではないかと思っております。
概して民主国家では、官僚との調整は中道左派政権がうまいことが多いように思います。日本では自民党が国内的に中道左派的な政策を取ってきたので事情が違うのですけど、長期的にはもう少し透明性のある形でかつての自民党を引き継ぐような気がします。そして本来なら自民党はリバタリアン的な側面を強めるのがいいのではないかと思うのですが、日本人はあまりに依存性が強すぎるので機能しないかもしれません。結果、伝統主義的な側面が強調される政党になる可能性もあり、そうなると幅が狭くなるかなと。今回も自民党の一部政治家が保守政党云々という表現をしてるので気になります。中道右派として多くの国民の支持をバランス良く集める政党に戻りたい、とか言ってくれればまだしもでしたが。
>そうなれば、泥沼化、オバマ大統領も大きく政策を転換しなければいけないでしょうね。
早晩そうなると思いますが、民主的な現地政権を支援する形にうまく着地できるかどうか。パキスタンの安定に割くリソースが減るかもしれないのも心配の種です。
>日本の核武装論の議論は、専ら、抑止のみを焦点とし、外交戦略上の議論が殆どないのが現状でないでしょうか。
日本が一応の満足を覚えている現状の核の傘を、他の地域にうまくコピーして運用するにはどうすればいいかということを米国と相談する・・・・とは思えません。そのくらいやってもいいはずなんですが。