2006年09月19日

スウェーデンの政権交代

 スウェーデンで選挙が行われ、右派諸政党が勝利、穏健党を中心とする内閣が成立する見込みとなった。社民党政権からの政権交代である。穏健党のラインフェルト党首が首相に就任するであろう。この選挙への関心は米国と欧州で温度差があるようだ。米国ではそれほどでもないが、欧州での関心は比較的高いのではないか。

 およそ民主主義国での政権交代はどこでも同じであるが、右派でも左派問わず、比較的穏健で現実的な、実行力があると推察される政党が中道の有権者の広い支持を得る形で成立する。今回の選挙は西欧諸国の注目が高いが、英国のキャメロン党首の政権獲得可能性が欧州各国で意識されており、ラインフェルト氏がしばしばキャメロン氏やカナダのハーパー首相と自らを比較する発言をしているという事情もあるだろう。
 また欧州では、複雑な自国政治をある程度単純化した典型例としての結果を北欧のそれに見ているのではないだろうか。Wikiのこの付近のページ(参照1)を見ると分かると思うが(この種の記事として、日本語版としては珍しくポイントをシンプルかつ的確に押さえている)議会も一院制だし政党の出自も比較的明快だ。中央と地方の関係もシンプルである。人口の多い国だとどうしても複雑な要素が絡むが、北欧諸国のそれは欧州各国に過去の古き佳き民主主義を思わせているのかもしれない。特別行政区のように思っているわけではないだろうが。

 それでBBCの報道を見てみるとやはりそれなりに扱われている。(参照2)この記事では全般としてはこのくだりが一番適切であろう。そもそも選挙は接戦でもあった。

Swedes "have voted for change, not a fundamental break with the past", it notes. "They want things to be cleaned up a little, but not completely scrapped," the daily adds.


 この記事で紹介されている中では、ドイツのDer Tagesspiegelの言い草が自国の経済の不調振りを反映していて笑える。とはいうものの、スウェーデンは冷戦期に概して経済はそれほど好調というわけではなく、近年はそれに比較するとマシだという認識は客観性があるだろう。(余談だが、アメリカは変なところで潔癖で、冷戦期において中立国に対しては同盟国と比較して様々な自国の経済インフラへのアクセスを制限していた。近年のスウェーデンには開放傾向である)フランスのLe Mondeの見解はより適切かもしれない。スウェーデンではとかく公共部門における雇用者の割合が大きく、失業者の統計からは職業訓練該当者などは除かれるようだ。この付近日本とも若干かぶる部分がある。社内失業とどちらがマシかは不毛な比較だが。

 あと珍しい事?にYahoo!Newsでまずまず参考になる形で記事が載っていた。AP通信なので納得したが。(参照3)

It has come to the point, some say, that Swedish politics no longer has a right wing.

"They have had to change their rhetoric to glide toward the middle," said Ulf Bjereld, a political science professor at Goteborg University. "The Social Democratic values have such a strong position that you cannot distance yourself from them if you want to be a big party."


 社民党の政策に大きな反発があったわけではないというわけだ。様々な報道からしても微修正として、そして政権交代そのものの価値があったと言えるだろう。まぁ、この付近見ると芸の細かいこともやってるようだと苦笑した。選挙ではこういう事も重要だ。

They now call themselves Sweden's new workers' party, even changing the color of their campaign posters from the dark navy associated with European conservatives to a lighter shade of blue.


 ただ、今回の穏健党の立場は下記の通り確かに有利だろう。

Reinfeldt, 41, who compares himself to Canada's Conservative Prime Minister Stephen Harper or British Conservative leader David Cameron, has no need to worry about losing his conservative wing. There are no major alternatives further right of the Moderates.


 主要政党の中では最も右派と目され、同国の選挙制度下では移民排斥などを強硬に訴える極右政党は議席獲得が難しいかごく少数にとどまる。そのため保守派への遠慮は不要で中道へのウイングを広く伸ばせるというわけだ。もっとも、人口が一千万に満たぬ国でスウェーデン人が9割、残りの移民も6割が欧州内からという時点でそもそも辛い移民政策は実施され続けていると言える。この国の政治はスイスよりまだ油断ならないという印象がある。軍事大国でもあるし、欧州の国としては珍しく徴兵制もまだ存続しているのである。外務省サイトには戦時総動員兵力20万人とある。(参照4)

 ともあれ、内政的には穏健だが外交的にはEU、ユーロ、NATOすべてに賛成でODA削減と強硬に見える政策を取る。日本の右派あたりが変な引用をしないといいのだが。
posted by カワセミ at 23:12| Comment(7) | TrackBack(0) | カナダ・欧州・ロシア
この記事へのコメント
こんにちは、はじめまして。
いつも、カワセミさんのブログ、楽しく読ませて頂いております。情報量と分析の鋭さには、多くの知見を頂いております。
私は、D大学・大学院とアメリカ外交を学んだものです。今は、事情あって、民間で、働いておりますが。

私も、ブログをはじめたばかりなのですが、まだ、3日ぐらいです。時事問題というより、完全な個人的な趣味になってますが・・・
一度、見て頂いて、もしよろしければ、私のブログページにリンクを貼らせて頂きたいのです。

よろしくお願いいたします。
Posted by あいけんべりー at 2006年09月24日 22:27
いつも楽しく拝見しています。
トリビアに飛び付くようで、恐縮ですが・・・

> 余談だが、アメリカは変なところで潔癖で、冷戦期において中立国に対しては同盟国と比較して様々な自国の経済インフラへのアクセスを制限していた。

素人目からすると、スウェーデンやスイスのような中立国は、ナチや東側にも“配慮”していたことから、アメリカは神経を尖らせていたのだと思われます。イム・ホーフ著『スイスの歴史』には、スイスがアメリカと国交正常化をするのに苦慮した様子が描かれています。
そういえば、スイスでは、移民を制限する法律が国民投票を経て成立しました。こういう動きを見ていると、EUの求心力はますます低下しているのではないかという気になります。

その一方で、少し前に東欧から帰国した知人によると、東欧でもユーロの普及が劇的に進んでいるようです。これをどう解釈するかは、判断の分かれるところかもしれませんが。
Posted by 木星人 at 2006年09月25日 18:16
EUが一つの開かれた連合体として、うまくいくのかは、わかりませんが、楽観視はしておりません。

S.ハンチントン氏の『文明の衝突』論を借りれば、
We(我々)と Them(見知らぬ他者)との間の、敵対感情でしょうか。もちろん、これは、ナショナリズムを駆り立てます。しかし、ハンチントン氏の論理は、表面的です。その後の様々な相互行為を通して、その関係は、浸透していきます。
木星人さんの言及された移民制限は、おそらく、そのような理由のみではないでしょう。最も大きいのは、経済的な事柄だと思います。フランスで、ルペンが支持を得たように、雇用や、福祉などの問題が主ではないでしょうか。

すいません。リンクを貼らせて頂きました。ご迷惑でしたら、すぐに、取り消しますので、その旨、お伝えください。
Posted by あいけんべりー at 2006年09月25日 18:42
お返事遅れて済みません>あいけんべりー様
以前のブログで記述していたリンクフリーの旨を
こちらでも書いておけば良かったですね。宜しくお願いします。

アイケンベリー氏の論文は私もいくつか読みました。
ややリベラルな、しかし手堅さを持つリアリストで
フクロウ派の代表格とでも言えるでしょうか。
今後の活躍が楽しみな人です。もっともこの前日本批判とかしていて、
よりにもよってこのアイケンベリー氏がかとちょっと凹んだものですが。
もっともアジア地域への理解が進めば異見を変えてくれると
思いますけどね。
Posted by カワセミ at 2006年09月25日 22:54
>木星人様
EUは紆余曲折を経ながら「効率の良い」共同体を作ることを
模索しているのではないでしょうか。
スイスはちょっと特殊な国として別枠としても、
その他の国は混乱や摩擦を管理可能な水準に抑制することを
社会の理念を維持したままで追求することでしょう。

常に意識される課題としては、イスラム地域よりバルカンから
旧ソ連の地域にかけて存在するように思います。ロシアとの距離の取り方の
議論は尽きないでしょう。その意味でも、ここ数年の一番重要な選挙は
2008年のロシア大統領選でしょうか。
Posted by カワセミ at 2006年09月25日 23:07
こんばんは。
コメントありがとうございます。こちらこそ、勉強させて頂きます。

ブログの方を移転いたしました。初心者なもので、TBできなかったりで・・・汗

http://ikenberry.blog70.fc2.com/ 

また、たまにみてやって、厳しくつっこんでくださると光栄です。

よろしくお願いします^^
Posted by あいけんべりー at 2006年09月26日 20:53
> カワセミ様、

コメントありがとうございます。
私見では、EUはソ連にも似た壮大な実験だと考えています。その成否を現時点で判断できるような情報も頭脳も持ち合わせていませんが、目の前で起きている現実をしっかりと記憶し、人類の教訓を得るようにしたいものだと思っています。

私もスイスはヨーロッパの特異点だと愚考しますが、スイスの歴史を知れば知るほど、学校で習う歴史が理解し難かった理由が分かるような気になります。上手く表現できませんが、スイスはヨーロッパの裏庭というか、矛盾が凝縮された場所という感じがします。
EUの成否がスイスで決まるというのは極論としても、スイスの動きはヨーロッパのセンサーのように思えてなりません。
Posted by 木星人 at 2006年09月27日 10:50
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