2006年03月26日

東京財団の安全保障研究報告書に関する感想(下)

 最後に5章以下の地域情勢・日本の取り得る方策について記述した部分に触れてみたい。これらの部分は客観的で要点が綺麗にまとめられている印象があり、内容も大半は極めて妥当なものと感じる。私がどうこう言う余地も無いものであるが、軽く感想などを述べてみたい。

・ロシアの政策
 他の国に関しては、政治の論理、客観条件などからある程度力学的に政策を決定せざるを得ない。しかしロシアは、歴史的に見ても指導者層の判断や選択が比較的大きなウェイトを占めつつ路線が決定されている。(肝心な時に間違っている気もするが)プーチン大統領自身の能力は高いのかもしれないが、やや場当たり的で徹底さを欠く印象がある。その意味ではむしろプーチン後の路線がかなり重要だろう。G8追放の検討はマケイン氏あたりが中心となっているようだが、ライス長官の言うように(少なくとも現時点では)誤りだろう。日本も様々にアプローチをかけているが、現在の小泉政権では、領土問題等で何か譲歩をしようにも、それが歴史的に有効な資産となる可能性が少ないと判断しているのではないか。ただWTO加盟の後押しなど、ロシア側としては重要だが日本国内ではあまり話題にならない課題で誘いをかけてはいる。これは適切なアプローチだろう。いずれにせよロシアに関しては相当突っ込んだ分析を別にやらないと戦略的条件としては文章をまとめ切れないかもしれない。

・EUの対中政策
 簡単に言うと、EUは少し前の日本のようなものだと考えれば良い。実際大局的に見れば、〓小平から江沢民、胡錦濤に至る指導者の変遷は開明化と見れないことも無い。欧州は伝統的にアジア政策がうまくないのだが、今回も例外ではない。

・ASEAN政策
 米国や中国との関係も重要であるが、地域のイスラム教徒に対する他宗教勢力の反発がどのような展開を見せるかという国内的要因がある程度各国の政策の拘束要因となると思う。フィリピンのように選択の余地が少ない場合はむしろ分かりやすいが、マレーシアからインドネシアに至る地域はかなり面倒だ。なお米国が中国に譲歩するというのは米国内的には「汚れ役」を任せるという論理となり、強く批判されるだろう。実行したとしても短期間で挫折する政策と思われる。

・日本の戦略
 原則部分では、まず集団安全保障を可能とする事に尽きると思う。その後の協力関係に関しては、現実の政策展開としてはやりやすい国からやるしか無いであろう。最近も麻生外相の欧州への招待などNATOへの関与拡大が話題になっているが、極めて適切であろう。アンザス条約との統合は検討しても良いかもしれない。実質のリソースは日米で負担して、政治的窓口だけ適当な国際機関名にして対応出来ればかなり楽になる。シナリオとしては色々あれど、米国を中心とした民主主義国全体で日本のリスクに対応するというやり方が有効であるという情勢にあまり変化はありそうにない。その中でリスク管理もうまくいくだろう。例えばニューカレドニアを領しているのを大義名分にフランスをアジア太平洋の国際会議の席に付けて普段から言質を取っておく、の類か。

 最後になるが、どのような議論をするにしても、日本人がどの程度の負担をする覚悟があるのかというのが決定的要因になるのは変わらない。その意味でP86に記載されたような厳しい国際環境を想定するような試みはもう少しあっても良いだろう。とはいうものの、広く世の中に参照されるべき文章として、本報告書は有意義な役割を果たしている。ただ日本人の一般国民の多数派は皮膚感覚で政治路線の正しさは見抜いているフシがあるので、実際の意義としては国民意識にあるフラストレーションの解消とか、そういう側面になってくるのかもしれない。その意味でもアメリカ以外の民主主義国との集団的自衛権の話は、進めるということそれ自体に意味があるのだが。
posted by カワセミ at 20:57| Comment(2) | TrackBack(0) | 国内政治・日本外交
この記事へのコメント
長文の反響をありがとうございます。

このプロジェクト、今月末で丸2年となりますが、「安全保障論議を虎ノ門から発信する」ことを目的としております。こうした議論が、ネット空間でも大いに広がることを期待しております。
Posted by かんべえ at 2006年03月26日 22:26
<a href="http://blog.goo.ne.jp/2005tora" rel="nofollow">http://blog.goo.ne.jp/2005tora</a>
(株式と経済展望)さん{阿修羅}にも同文掲載していました。(2006年3月26日 日曜日

フジテレビ「報道2001」より山崎氏と西部氏とうろん)を見てとか種種参考にしてます。ここまで来ると日本の国会は何のためにあるのかと言う疑問が出てきますが、番組では西部氏が「自分の国は自分が守るべきだ」という原則を自覚すべき時が来ているのだ。だから国防予算を5兆円から10兆円に拡大して、核武装も検討すべきと日本の知識人は提言すべき時が来ている。日本が核武装すれば中国だろうがロシアだろうが日本を攻撃しようなどとは考えなくなるだろう。
 インドには核を認めるダブルスタンダードですから
日本が核攻撃を受けたら米は助けてくれるか?>と言えばNOと言うのが当然です。人命尊重ですし、人口過剰国は1国で10億人超える国が中国・インドと2国もアジアに集中しています。経済が発展すると資源消費も非常に多く消費します。経済利益でも将来的には不透明です。自国の軍事費を増やして無駄な外国支援金など減らす方向の検討が必要です。自国の安全を金銭で外国に依存する政策はもう終わりでしょう。
Posted by ようちゃん at 2006年03月27日 02:22
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