前回エントリに続いて、個別内容にコメントしてみたい。
・第2章
やや伝統主義的な記述に傾きすぎている嫌いはないだろうか。資源に関しては、割合もさりながら絶対消費量と入手性、代替可能性などを考えないとやや一面的ではないか。現状の世界情勢だと支払いの確実な日本は最高の上客で、資源を外交カードにしようという試みは近年の世界で成功例があるのだろうか。河川の上流を管理している国が下流に嫌がらせすると言う程度ではないか。それ以外は最近のロシアのような考え違いとなって終わるだろう。それでも原油や天然ガスは代替可能性が低めの資源だからまだマシなくらいだ。銅線が駄目なら光ファイバー、くらいの規模でマクロ認識をすれば工業国有利の構図はそうは変わらない。貿易が安全であることがほぼ唯一の決定的な要素であろう。
同様の事は食料に関しても言える。日本は比較的食文化が多様な部類に属する国であるということも勘案しなければいけない。パンとチーズの消費が多い欧州のように米と魚と伝統的な野菜だけなら日本の自給率も高い。農業政策の失敗と言うこともある。その自らの選択の結果を維持するのが国益であるという記述をしておかないと、日本は何やら不利な状況にあるという被害妄想的な意識に流されてしまうのではないか。水資源に関しては、国際河川が国内にないことに言及しているのは誠に適切である。
・第3章
国益を記述した第3章部分に関しては、より古典的な記述の感がある。まず日本の伝統なるものは、その大半は江戸時代のものであり、それ以前の日本的特質は直接にはあまり反映されていないこと、また明治以降に人為的に設定された古典による部分が多いことに触れておくべきだろう。そして世界的に見れば日本は比較的古来よりの因習から自由であった国だ。幸運にも早期に宗教勢力の専横は排除できたし、科学技術面での受容は常に柔軟であった。「進取の気風」が伝統であるといってもいいかもしれない。また民主主義の価値を国益に明記しておくのは必須であろう。そしてそれを基礎にした未来の選択に関する権利の維持を政治的国益の代表として記述しても良いかもしれない。例えばEUでは工業製品はMade in EUの記述となり、ドイツは抵抗したがそうせざるを得なかった。日本はMade in Asiaはもちろん、例えば米加豪と先進国に限ってMade in Pacificとしても嫌だろう。日本人は孤立主義の伝統があり、他国の顔色を見ながら過ごすのが本当に嫌なのである。その良し悪しはともかく、そういう気風が強く、国民が強く望んでいる事として意識しておいた方が良いであろう。例えば日本人に他国の経済状況を勘案して自国の金利政策を決定する器量があるのだろうか。
・第4章
外交力に関しては、現状の客観的な能力状況を記述しても良いだろう。つまり、短期的な交渉に関しては不器用であり、外交リソースの少なさもあり(一定の量がなければ質を云々する段階に達しないのは、ここで典型だ。その意味で格闘技ネットワークなどを取り上げたのは聡明な着目と言えるだろう)しばしば稚拙であることも多いが、しかしながら中長期の外交方針に関しては、世界的に見てもかなり優れたほうではないかという事である。これは第二次世界大戦前後の大きな失敗を除けば、明治初期から現在に至るまでほぼ一貫しているだろう。そして時代が下れば今現在国益に貢献している外交官が改めて評価されるであろう。不思議な事に、表面的な発露の仕方は違うが、外国の中では米国が比較的近いことに注目しても良いかもしれない。この件を実感するのには簡単な説明で済まないのでここで詳細は述べないが、私は比較的長い年月でその事を確信するようになった。疑問を抱く読者諸氏も多いと思うが、どこかで頭に入れておいていただくと幸いである。
また軍事力に関して記述した部分があるが、これは対象を整理して述べるとより実感と説得力が増すかもしれない。私は以前のエントリで安全保障の対象として簡単に分類して述べたことがあるが、いわゆる先進民主主義国に関しては必ずしもツールにならず、米国を中心とする放射状ネットワークの中での価値として再評価されることが何らかの形で記述されると望ましい。例えばフランスはオランダより軍事力で優越しているが、対日外交でそれがどれほどのツールになるかというとかなり怪しい。むしろPKFなどへの貢献といった側面が重要となる。これは報告書中で記述されているが、機能による直接の分類としているのでやや価値が見えにくいかもしれない。「外交」のツールなので、相手による話であるのだから。
長くなったので続きはまた後日とする。残りはあまり内容がないかもしれないが。
2006年03月24日
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