2006年08月28日

日本の対中央アジア外交

 小泉首相の中央アジア諸国歴訪が伝えられている。(参照1)カザフスタンとウズベキスタンを訪問し、エネルギー戦略を含め話し合うという。なかなか興味深いことではある。いずれも人権問題ではお寒い限りの状況で、さすがに小泉首相も釘を刺すつもりのようだが、今回は戦略外交重視ということか。もっとも欧米の行動もこの付近の国に関しては少々怪しいのであるが。

 両国の基礎データを外務省からリンクしておく。(参照2参照3)頭に入れておいたほうが良いこととしては、この両国が旧ソ連の中央アジア諸国の中では大国と見られていること、ウズベキスタンのほうが人口としてはむしろ多いこと、しかしながら昨今の経済開発はカザフスタンのほうが進んでいることである。資源は石油や天然ガスも豊富だが、金属関連が充実していることに着目するべきだろう。特に世界第二位のカザフスタンのウランは、原子力の重要さが再度注目されてきている昨今、注目しておくべきであろう。

 ところで、この中央アジア諸国に対する日本の外交方針に関しては、麻生外相の演説という形で外務省のページに明確に記載されている。(参照4)私は次期総理と目されている候補の中では、少なくとも個人の資質だけを取れば麻生氏が最も優れているであろうと判断しているが、この演説の内容も的確でかつ華があって良いように思う。

 この内容と関連することに関してコメントを加えてみたい。まず、市場主義を謳っていることがあり、重要な原則であろう。市場で繁栄している国が市場の発展に尽くすという、日本にとっては当たり前の行動であるが、当事国にとっても最終的なメリットは大きい。近年は二国間での契約で資源を囲い込もうとする動きがままあり、これは歴史を振り返っても定期的に出てくる動きである。しかし、結局これは天然資源に恵まれた一部の国家を潤すだけであり、大局的には失敗に終わることが多い。昨今の中国の資源囲い込みを巧妙な外交と称する人もいるが、これも実質的に'73の石油危機の最大の責任者と目されるかつての日本と大差ない損をしていると言えるだろう。結局売る側は利益の最大化を目的として足元を見るのである。小国は大国に振り回される弱い存在というよりどう利用しようかと抜け目なく振舞う油断ならない存在というのは冷戦時代から変わらない風景である。需要国に取ってみれば、同じ資金で市場から調達するのと比較し、最終的には割高であろう。そして供給国に取ってみても、ただでさえ乱高下する一次産品に頼る経済は脆弱であるというのに、政治的な動きに左右されることは経済の混乱を増大させ、長期的な発展は阻害されることが多いのだ。
 次に、世俗的なイスラム地域の安定の重要さを指摘していることがある。原理主義の浸透を防ぐ必要があるというのはこの地域に限ったことではないが、世界全体を見渡すとすれば北アフリカ地域と並んで浸透を防ぐべき最前線と言える。欧米の政治家であれば明確に意識しているのであろうが、日本人でこの当たり前の認識をしている人が少ないように思う。欧米との協調も意識した発言かもしれないが、原理主義相手だとそもそもビジネスすらなかなか進まない。
 さらに、周辺地域とのセットで考えて、明確に戦略を語っていることが目を惹く。アフガンからパキスタンに至る南方ルートの整備は、実際にこの地域が長期的に安定する唯一の道であろう。経済発展に海へのアクセスが重要なことは、皮肉にも21世紀になってますます高まっている。一次産品にはコストをかけられないという絶対的な事実はむしろ近年強化されているのではないだろうか。それこそ二国間契約で有利な条件で釣り上げるとか、長期には例外とみなされる場合だけであろう。日本のような工業国でも、一次産品は入手できるできないが問題になるというより、安く入手するというのが肝要になっている。ともあれこの南方ルートの整備はインドとパキスタンの緊張緩和にも役立てることが出来るであろうし、今少し他の民主主義国も巻き込んでみたいところだ。日本が顔になって欧米がバックアップという形が出来るくらいになればいいが。

 現在の小泉政権は比較的世界全体を視野に入れた外交を展開しているが、国連の常任理事国入りの運動を始めたことが良いきっかけになったという側面もある。その意味では、むしろこの外交の活発化が直接の国益だったといえないだろうか。
posted by カワセミ at 19:59| Comment(1) | TrackBack(1) | 中央・南アジア
この記事へのコメント
>特に世界第二位のカザフスタンのウランは、原子力の重要さが再度注目されてきている昨今、注目しておくべきであろう。

なーんだかなあ。
日本会議発の「シーレーン外交」妄想は、SF並に現実感がないと思うよ。

カザフからどうやってウランを運んでくるつもりなんだよ…_| ̄|O

ある意味、15年戦争までの日本の資源獲得戦略より底が浅い。頭悪すぎ。
Posted by Bar at 2006年08月28日 22:07
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悲惨世代:今日のキーワード
Excerpt: 悲惨世代・・切ないキーワードですね。これが小泉さんが残した遺産、でしょうか・・。
Weblog: キーワードで見る今の旬!
Tracked: 2006-08-30 23:15