2006年08月22日

盧武鉉政権は中立を望んでいるのか

 今月のフォーサイトはなかなか興味深かった。内容もさりながら、それを読んで様々な事を考えさせられるという意味で刺激になる。今月は黒田勝弘氏が韓国の盧武鉉政権の政策に関して取り上げていたものが目を引いた。盧武鉉大統領は朝鮮半島の地政学に入れ込み、中立国となるのが韓国の将来として望ましいとしているらしい。その文脈ですべてを解釈すると筋が通ると。
 黒田氏も本文の中で述べているのだが、中立のためには力が必要で、そのために米国とのFTAで経済力を高める必要があるし、北朝鮮の核開発も、将来の統一コリアの軍事オプションとして残しておきたいという思惑がある。対日政策もその文脈から考えると筋も通る。中国との関係も良くは無い事実もそれを裏打ちしている。いわゆるバランサー論もそのような背景からの発言であった。以前のエントリに上げた戦時作戦権返還問題もそうであろう。

 ただ、誰もが薄々承知しているように、これは当面推進するのが難しい政治路線であるのは間違いない。そもそも中立に力が必要というのは理解していると思われるのだが、客観条件が余りにも揃っていない。この種の、論としては正しいか妥当性があっても、推進するための現実の政策として何が良いかという判断の段階で誤るのは別に韓国に限ったことではない。昨今だとロシアや中国もその手合いであろうか。

 中立というと、多くの人はスイスを想像するのではないだろうか。しかしこの国は中立といってもかなり特殊な事情が反映した国で、むしろ孤立主義の一形態に近い。外交は活発だが水面下での交渉が多い。韓国はスイスよりスウェーデン、それよりはオーストリアを参考にすると発言すればまだしも評価も得られたろう。そもそも世界的には非同盟というのがその主流の認識であり、それと異なる中立国の概念は上記のスウェーデンやオーストリアで分かるように極めて欧州的な外交文化から発生している。

 例えば冷戦期のオーストリアは、中立のための呼吸をとても良く分かっていたのではないか。地図を見ると分かるが、チェコよりも首都は東に位置している微妙な立地条件、孤立的な武装中立は難しい。その一方でドイツとの連合国家どころかNATO加盟も許されない。東側に行くなど真っ平御免。それ故外交が命である。他国との交渉に気を遣い、周辺国から持ちかけさせるように誘導する。ウィーンのブランド力はフルに活用。関係諸国の利益に気を遣った。それでもスイス同様、秘密外交苦労と無縁ではいられない。しかし戦火には巻き込まれず、市民生活の権利と豊かさは守られたのだ。今も北朝鮮との関係があるというのも伝統の反映か。

 韓国、または統一コリアに同じことが出来るだろうか。何らかの形での周辺諸国への外交的利益の供与が必須であるというのがポイントである。また安全保障面での脆弱性は否めない。それでも歴史を紐解けば、第一次大戦時のベルギー中立侵犯でイギリスは参戦した。中立国を侵犯するのが国際的に悪とみなされ、周辺の近代的、文明的な民主国は支援する。その歴史を韓国の周辺諸国も踏まえているであろうから、中立政策を取ったとしてもアメリカによる抑止はまだ有効である、と彼らは考えているのだろうか。これはあり得ない解釈ではないが、今の盧武鉉政権がそこまでの判断をしているとはどうにも思えない。このまま米韓同盟が解消する方向となれば、日本の南部仏印進駐に怒りながら、それでもその段階で軍事的措置までは取れなかった歴史がむしろ近そうに思われる。うまくいくシナリオのほうでアチソンライン再現、であろうか。単純な事実として、中立国は条件が整ってないと戦争に巻き込まれやすいという冷厳な側面があるのだ。

 中立、というより非同盟政策は難しい。旧ユーゴが典型であるが、緩衝地帯という役割があった故に適切なタイミングで周辺国が介入することが出来なかった。強固な国民国家であることが中立の最低限の条件となる。つまり、中立政策の推進が可能になるとすれば、平和裏に南北の統一が出来たその瞬間に、地域の安定のためそのような道を歩むと宣言するしかないのであろう。分断国家である今現在、中立政策を推進することが何を意味するかは自明である。まして韓国はあまりにも地域主義の激しい国だ。そういう時の統一バネは外部に対して団結することで発生し、ここでも反米や反日は論理としては辻褄が合ってはいるが、だからといって朝鮮半島内部の問題がすんなり解決する保証は無い。

 ともあれ、彼らの理想とする未来に行き着くまでの問題のほうがはるかに重大なのは疑いない。統一コリアを夢想しながらその政策を考えつつ実際の統一からは逃げ回るより、積極的に朝鮮半島問題の究極の解決策としての統一を主張し、国際社会の支持と支援を取り付けるための外交にフォーカスを絞ったほうが良いと思うのだが。それでこそイニシアティブも取れるというものだ。何と言っても当事国なのだから。
posted by カワセミ at 00:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 北東・東南アジア
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