小泉首相は訪米をメインに外遊中だが、カナダ訪問は比較的重要かもしれない。今回は京都議定書関連の温暖化対策がかなり重要なテーマになっている。日本はこの分野で一応それなりの責任を果たしており、比較的努力を重ねているといえる。しかし世界の大半の国の取り組みは中途半端であるし、しかも議定書を守ってさえ削減は不十分だ。今回のカナダとの対話ではこの付近の雰囲気をうまくまとめた記事がある。(参照1)例えばこの表現は注意深くなされている。
An official close to Koizumi said Japan sees the AP-6 initiative as supplemental to Kyoto, not as a substitute.
また北朝鮮関連でもカナダに話を通して引き込もうとしている。同様のことはオーストラリアともやっている。またこの小泉首相の訪加は麻生外相のG8外相会談とタイミングを合わせていることにも注意する必要があるだろう。(参照2)ちなみにサミットで北朝鮮の拉致問題を盛り込むことに成功しているようだ。当初ロシアが消極的なことは明確な形で報道されていたのでうまくやったのだろう。
Japan is also hoping Canada will become more active in promoting security in East Asia, and add its voice around the G-8 table next month in Russia to those countries urging North Korea to stand down on its nuclear and ballistic weapons programs.
個人的な興味があってウォッチしていた日本のデジタルテレビ放送の規格だが、ブラジルにおいて最初の日本以外の国としての採用が伝えられている。(参照3)竹中総務相が訪問しているが、案の定様々なサポートで釣ったようだ。もっとも純技術的にもワンセグなど移動体通信に有利という面もあったようだ。アメリカ方式がなぜかこれに弱く不思議だったが、衛星ラジオ等が極めて強力なせいもあるかもしれない。
このブラジルとの関係、G4絡みという縁もあるのだが、近年はかなり手厚く行動している。関係はかなり良好なようで、昨年のルーラ大統領の訪日時に発表された共同文書(参照4)も比較的テーマを明確に記述しており、行動自体が活発化している印象がある。エネルギー関連などかなり大きな要素だろう。個人的には西アフリカの情勢も睨んでコミットしているのではないかと推察しているが。
中東問題への関与も、国内のマスコミには一向に報道されないがいろいろやっている。小泉首相のG8出席前の訪問の計画も報道されている。(参照5)ただし情勢は再び不透明になっている。ハマスはテロ組織ではあるが賢く振舞っているようだ。アルアクサ殉教者団は相変わらず無茶をしているようで、これを機にハマス側に実権を握ってもらったほうがまだマシなように思う。過度に期待するのは禁物であるが。
ところで人権問題といえば、そもそも内政面が問題になる。小泉首相の政治的ポジションに関しては以前も関連するエントリを書いたが、具体的に人権重視の傾向が現れているのはこういうニュースではないだろうか。(参照6)日本人のドミニカ移民の件、裁判で補償の要求は拒絶されたが何らかの人道的措置を検討しているようだ。今までの歴代自民党政権はこの種の問題に冷淡過ぎたように思う。
"The government must do what it can regardless of the outcome of the lawsuit," Koizumi said.
Fernandez, who plans to visit Japan from Saturday to July 4, has in the past dealt directly with the Japanese emigrant issue. For instance, in 1998, he made the decision to give free land to the emigrants. The Japanese government is optimistic about winning his support.
言うまでも無いが、世間では後継となる首相の行方に関心が高まっている。これなどはかなり興味深い記事だ。(参照7)やはり小泉首相は様々な意味で例外かもしれない。しかし、日本のように比較的複雑で産業が高度化した社会では、実は意外にコンセンサスは得られない。結果、軋轢を回避するのは先送りにしかならない。つまりこの意見は本質的に正しいのである。しかし後継首相がそれを選択するかどうかは分からない。
後継の候補として挙げられている人物だが、対イラン政策では小泉氏のように米国に協力するかどうか分からないので当てにするなという論調もある。(参照8)この懸念は確かにあり、後継となる首相が扱いを間違うとかなり危険である。資源の囲い込みをやるというのは、自由貿易で利益を挙げている国にとっては本質的に不利であり自己矛盾なのだが、なぜか推進する人が多い。実際はアラビア石油の二の舞が関の山だろう。市場から調達するとなれば単純にドルを持っていて金払いが確実だと信頼されている国が有利になるのだが。
靖国神社に関して、安倍氏の動向に懸念する声もある。(参照9)最後の部分はポイントを突いているかもしれない。
But if Abe goes to Yasukuni, the situation will become more serious than in Koizumi's case, Soeya said.
Apart from Yasukuni, Koizumi has tried to improve ties with China.
以下、具体的な解説が続いている。私も、上記の以前のエントリで述べたように小泉氏は本質的に東京裁判を受け入れており、靖国の件だけを除けばリベラルな人物だと思っている。だからこそ、政策として行く行かないの議論はあれども、オプションとして選択できる余地自体はあるのかもしれない。水面下でも真意は伝わっているのであろうから。
しかし、確かに安倍氏の口からははっきりとこの種のコメントが発せられていないかもしれない。となると、むしろ靖国参拝のような行動は、少し対応を誤れば一斉に欧米の反発を受けるという可能性もある関係上、選択できないという可能性が高いかもしれない。日本国内では運が悪いみたいな言われ方をされる可能性もあるかもしれないが、もちろん政治的な意味合いはそうではない。後継首相が誰であるかは分からないが、やはりアカデミズムの客観性を押し出したアプローチが、当面はいいのではないだろうか。以前米国が言い出した多国間の歴史研究を、日本が再度自ら言い出してもいいかもしれない。('06.7.2追記)
こんな記事が見つかったのでおまけでリンク。日本企業が所有する外国籍の船舶を保護するための法改正。こういう記事は、日本が今まで義務を果たしていなかった雰囲気を良く示している。国際法理の面からは問題が無くても、実質的な道義性に問題がありすぎた。多国間条約などでフォローするといったことは必要としても、核になる部分は自国が責務を果たすとしないと信頼は築けない。日本は公共財としての安全保障を少しずつ理解してきているように思うが、まだまだ道は遠いかもしれない。