2006年05月24日

モンテネグロの独立の意味

 モンテネグロで住民投票が行われ、55%以上の賛成が確認されたことにより新しい国民国家として独立する見込みとなった。セルビア、EUの賛同も確認され、今後当事国のセルビアとの交渉が残されているとはいえ、独立は規定路線として間違いないものになったと言えるだろう。中国も早い段階で支持を表明している。実は先のメルケル訪中もこの件はやや絡んでいたと推察されるが、この件は後述する。

 モンテネグロは極めて山がちの地域であり、人口も70万に満たず一国家としては非常に少ないものとなる。しかし歴史を紐解けば、モンテネグロはセルビアと民族的・宗教的に大差無いにもかかわらずその地理的隔絶もあって長い自治の歴史がある。今回の独立も海岸線を失うというような思惑からのセルビアの抵抗は少ない。当面は国内安定こそが大事だという事情もあるが、例えばコソボなどに見るようなこだわりは元々薄いと言えるだろう。

 今回の件、事情そのものを伝えるものとしてはこの記事がまとまっていてなかなか良い。(参照1)独立のための条件はEUが設定したという事に注意する必要がある。一国の存立の是非は周囲の大国の容認が必要というのはいかにも大時代的だが、これは未だに世界の現実でもある。理由は簡単で、しばしば周辺国を巻き込んだ戦争に結びつくからだ。欧州周辺に限らず台湾を例にとっても同じである。日中米の容認が必須となる。

 モンテネグロが周囲に与える影響となれば、前述のコソボへの影響がまずは直接のものとなる。当然セルビアは神経質になっており、コソボとは事情が違うというような発言が早速伝えられている。(参照2)しかしながら、影響はより広範である。この文章が簡潔かつ見事にまとめている。(参照3)いくつか引用し、感想を加えてみたい。

Extreme political fragmentation in the Balkans will remain a key issue in European security policy and will demand more attention from Brussels.


 political fragmentationの問題は昔の欧州の抱えていた古い問題の記憶を呼び起こすのかもしれない。

Brussels is, however, in a difficult position. The European Commission postponed until October 2006 its final say on Bulgaria's and Romania's accession, and does not appear to have "digested" the 2004 big enlargement.


 EUは国家統合を進めている。逆説的だがそれはこの種の「独立国家の範囲」を問うという作業を顕在化させたかもしれない。確固とした自立無くしてその先の統合は無いのは昔ながらの政治の現実だが(その意味で中国が最終的に台湾を併合したいのならまず独立させたほうが長期でみると一番効率的)その問いをまだ政治が不安定な地域に対して投げかけたという点では、無論EU諸国のその意図が直接無かったにしても、ある意味罪深いことなのかもしれない。モンテネグロとしては自らの共同体の所属先を旧ユーゴ連邦からEUに振り替えただけかもしれない。独立国家でないとEUに加盟できないからそうしただけだ、とは露骨に言わないかもしれないが。

Montenegro's independence also bears consequences for Russia and for Moscow's relationship with the Western geostrategic realm. Moscow's historic ally, Serbia, will be a less palatable partner than before because of Belgrade's reduced geopolitical weight. Moreover, should regionalist pushes continue to advance in the broader region from the Adriatic to the Caucasus, Russia's historic sphere of influence will be marked by other secessions, such as Transdniester (from Moldova), Abkhazia (from Georgia), and possibly Nagorno Karabakh (from Azerbaijan).


 ロシア周辺も含めた広範な地域に影響があると考えるべきだろう。ここで沿ドニエストル共和国(この地域についてはここなどが参考になる)からの視点としてより率直な表現をしている以下の2つの記事を読むと雰囲気が非常に良く分かる。(参照4,参照5)表現としては露骨過ぎるくらいである。コルシカやバスクへの言及を極論と片付けることは可能かもしれない。しかし南オセチアやナゴルノカラバフとなれば冗談で済まなくなる。

Look for secessionism, political instability and political risk to continue to undermine the post-Cold War geopolitical environment in Eastern Europe and the Caucasus. Expect the European Union to reassess its enlargement strategy, whereby the question of the E.U.'s internal political configuration will need to be re-addressed and effectively resolved. The E.U. government will be under pressure since the question of an E.U. constitutional draft is already starting to take center stage in public policy debates. The political management issue and the very viability of the European single currency will also soon surface as unexpectedly complicated issues that will dominate the agenda during the next two years.


 EU諸国においては、ポスト冷戦期の問題の象徴でもあり、地政学的リスクとしてEUの運命とも密接に絡み合っていると認識されているだろう。

 モンテネグロは小さい国だが、それでも一国が独立して新たに国際社会に出現するというのは大変な話だ。今回、伝統的に自国の利害に絡まなければ国際政治にあまり発言しない中国も早速反応しているが(参照6)台湾問題を抱えている立場としては分離主義の追認と見られかねない発言は相応のリスクがあったかもしれない。メルケル首相の訪中においては、早期にこの問題を矮小化して処理するための努力があったかもしれないと私は想像している。マケドニアはかつて台湾と国交を持っていたという事情もあり、それなりに因縁のある地域でもある。中国国内での政治上の扱いは案外難しかったかもしれない。

 余談だが、こういう事を考えると、昨今国内で議論されている愛国心の教育云々などにしても議論として浮いているように思われてならない。米国でも忠誠の誓いが議論になったりするが、ポイントはindivisibleという部分を無意識かもしれないが強調している点ではないか。国民統合という国内的な要素の議論として適切であるかどうかが重要だろう。欧州の知識人あたりなら「愛国教育?そんなのしなくても日本人は問題なく日本人であり続けられるでないか。何をやろうとしているんだ?」とでも言うのではないか。やるとしたら日章旗の下義務も恩恵も分かち合うというような内容だろう。前者は小泉政権下で日本人はそれなりに果たしてきたのではないだろうか。後者はとなると前者のnoblesse obligeの具体的な実行あっての事と話が発展するだろうし、それは確かに怪しいように思われる。
posted by カワセミ at 23:32| Comment(0) | TrackBack(1) | カナダ・欧州・ロシア
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モンテネグロの100年戦争
Excerpt: 先日、独立宣言をしたばかりのモンテネグロ。 実は日本との間に驚愕の事実が!? しかも鈴木宗男関連(ぇw いや、これは知りませんでした。ちょっとびっくり。 勉強
Weblog: Gotz Island
Tracked: 2006-06-05 20:59