2006年05月22日

訪中に見るメルケル外交

 ドイツのメルケル首相が今訪中している。首脳外交は常に複数の目的を追求することになるが、今回はいつにもまして懸案が山のようにある。また対中外交で宥和的だったコール・シュレーダー両氏と違い、メルケル氏は主張もはっきり行うとのこと。今後の様々な外交局面においてそれなりに重要なステップでもあり、突っ込んだ情報があまり流れない状況ながらも簡単にメモしておきたい。

 こちらが簡潔にテーマをまとめている。(参照1)安全保障や人権の主張も行いつつ、ビジネスの話も進めると、まぁ当然の内容である。この中では日本国内でもそれなりに報道されている内容として、イラン核問題への対応がある。欧州の立場を伝え中国に協力を仰ぐのが目的だが、特に軽水炉支援などへの感触を確認したいのであろう。これは米国との調整がついていないはずだが、中国からイランにある程度責任を持つというような発言を何がしかの取引の結果として引き出すことが出来れば選択肢として上がってくるかもしれない。ただ訪米がうまくいかなかったタイミングであるとしてもそれは困難かもしれない。伝統的に中国の対イスラム外交は、政治的現実の追認が大半である。

 ビジネス面ではリニアなどの入札が課題となっているが、実際は著作権などの問題が大きい。Financial Timesがうまく伝えているのだが、(参照2)知的所有権問題が欧州でも問題になり始めている。我々日本人にはお馴染みの話題で何を今さらと言うだけなのだが、いつものように欧州とは問題意識において時間差があるという実例である。あくまで一例に過ぎないが、この記事(参照3)はドイツの反応を良く示している。欧州においてコピー品はウクライナあたりから来るという印象があるかもしれない、でも実数としては中国のほうが多いですよ、とでも言いたいのだろうか。少なくとも外見の整った違反品というのは目新しいのだろう。またここで書かれているように欧州であれば東欧のほうが工業の後背地として有力な代替となり得る。日本はとなると、実害がより大きいにもかかわらず代替選択の苦労はより大きく、対応がより難しくなっているが。

 またFinancial Timesの記事で指摘されている重要な内容は、中国が常に要求している投資に際しての技術移転の強制に関して異議を唱えるということだろう。これを真面目に要求したくなる立場の国は案外多くないと考えておくべきだろう。ドイツは純ビジネス的には日本とかなり多くの部分で競合するが、逆にこういう面で協調出来る数少ない相手でもある。日本も対欧外交がうまいとは言えないが欧州諸国の対アジア外交も英国を除き優れているとも言えない。日本の然るべき人間が現地にいる様子でもなさそうだし、協調して要求しようとは考えなかったのだろうか。もっともドイツとしてはまずEUとしての行動が重要であり、遠隔地へのフットワークの良い外交はやり辛いのかもしれない。

 さりながら、ポイントを稼いだかなと思われるような内容もある。スーダンに関して、別の大臣がこのメルケル訪中と合わせて現地に飛んでいる。(参照4)行動を同期させて人権問題改善への協力を要請する模様だ。人権問題に関して明確に要求したという事が内外に分かるような仕組みになっているという意味で、適切な外交だろう。

 実利と理念の双方を満足させるのが外交だが、バランスも難しいし、相手もあることで常にうまくいくとは限らない。今回もドイツ首相の訪中は言うだけの事となり結果はあまり伴わないかもしれない。しかしながらそうであっても、やることはやった、言うべきことも言った、後は相手次第なのだと言い切れるような外枠を固めたという印象がある。日本がやるべき外交についても、このメルケル外交が示唆する所いささかありと言えないだろうか。
posted by カワセミ at 23:57| Comment(2) | TrackBack(1) | カナダ・欧州・ロシア
この記事へのコメント
対アメリカ外交でも、メルケルのように
全体としては協力的な姿勢を明確に打ち出しながら、
グアンタナモについてはやんわりと苦言を呈するというような態度を、日本もできんのかしら?と思いました。
だけれども、そういうのをしないのが日本の立ち位置なのかも?という気もします。
Posted by 妖怪 at 2006年05月24日 12:54
米国の場合、わざわざ外国から言われなくても国内の声が充分過ぎるほど大きいし、ドイツも先刻承知でしょう。むしろドイツ国内の米軍基地では許さないよというようなドイツ人へのメッセージでしょう。
そういう意味では、在日米軍基地ではどうなのかという話になります。同盟国であるからには当事国の米国ほどではなくても一定の道義的責任はあるでしょう。全くの人事のように思っている日本人が多いのにはうんざりします。もっともテロ容疑者の尋問自体は必要で、そこから引き出してテロを防いだ実績もあるだけに話は複雑となります。バランスを取るのは難しいですが、そういう作業も共に行うのが戦略的パートナーという事でしょうか。
Posted by カワセミ at 2006年05月24日 23:39
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