2006年05月19日

米国とリビアの国交正常化

 米国がリビアとの国交を正常化し、テロ支援国指定も解除すると報じられている。(参照1)ライス国務長官はイランや北朝鮮の重要なモデルであると述べているようだ。苦境にあるブッシュ政権にとっては、核開発を断念したリビアへの対応は、何がしかの成果として宣伝したい思惑もあるかもしれない。

 パンナム機爆破は、日本人には実感が無くても欧米人には強い衝撃を与えた大きな事件であった。9.11以前では最大級のテロ被害だった。そのため批判する人々もまだ根強く存在する。(参照2)しかしながら、この論説(参照3)に見られるように、現実的な脅威の査定というリアリズムからして評価する向きもある。実際、9.11という大きなインパクトがテロ国家としてのリビアを過去の存在にしてしまったという側面もあるし、見込みのある国から対応するべきなのであろう。また、現実には人口600万に満たない規模の国でもあるし、優先度が重大なもので慎重に扱わなければならない課題とはみなされなかったのかもしれない。

 ここで、リビアでの石油ビジネスを指摘して、それが円滑に進むように今回のテロ支援国解除指定があったのではないかという指摘もある。しかしながら、この論説(参照4)で国務省から述べられているように、純粋に安全保障上の決定というのが正確なところであろう。実際、欧州企業との競争は現実にも厳しいからだ。米国としては、中東地域以上にあの付近は欧州の担当だという意識がありそうに思われる。これは現地の人間の感覚とも近いのかもしれない。例えばル・モンドのこの記事(参照5)、ややある種の空気を伝えているかもしれない。そしてここで示されているドイツへの肩入れというのは、そのまま日本にもある程度適合してもいる。日本人としては注意して対応しなければいけない感情であろう。

 ただ、リビアの人権の現状に関しては、フリーダム・ハウスのレポート(参照6,リビアを地図から選択)を見る限りにおいてはまだまだお寒い限りのようだ。政治的自由と市民的自由、両項目で北朝鮮と同レベルの世界最低ランクに評価されている。この評価が絶対というわけではないが、アフリカ各国の国情に応じて、イスラム地域も含めて細かく評価を分けているあたり、それなりの指標にはなると考えられる。

 そのため米国の今回の決定に関しては批判する向きもあるが、今回の判断には、後継者と期待されている人物の存在があるのではないか。カダフィ大佐には多くの息子がいるが、そのうち上記のル・モンドの記事にもあるサイフ・アル・イスラム・アル・カダフィ氏が改革派と目されている。リビアは王政になったと揶揄する新聞記事もあったが、立憲君主制になるならある種の現実解という表現も可能だろう。改革者はしばしば体制内から出ることもある。要は結果なのだろう。氏は自分が後継者であるとしてはいないが内外の信望は高いようで、そのように推測している向きが多い。元々英国への留学を始め、欧州での滞在も長くビジネス畑の人物のようだ。特に言論の自由の推進に注力し、政治犯釈放などの動いている事もあり、欧米の民主主義国からの評価は高い。氏のインタビューを含む記事があり(参照7)、なかなか興味深い。氏は外交を主な任務として世界中を精力的に回っているそうだ。リビアはイスラム地域の中では比較的教育水準が高いようでもあるし、人口も少ないので政策の実施も効率的になることが期待される。政治家の力量次第で展望は開けるのではないか。実際イスラム地域では小規模な国のほうが政治はうまく回っている傾向がある。部族的な小規模秩序の延長と考えればいいのかもしれない。

 ちなみにサイフ氏、実は去年日本に来ている。リビアはアフリカの国としては珍しく地球博に単独パビリオンを構えていた。そこで万博関係者に茶菓子を配っていたというのはなかなか微笑ましい。(参照8)しまった、事前に日付調べられたのだろうし、見物に行けば良かったか(笑)
posted by カワセミ at 00:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 西南アジア・北アフリカ
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