2006年04月09日

日米新租税条約に見るビジネスと政治

 日米間FTAは検討を始めても良い課題だと思う。どっちにしろ時間がかかる話であるし、問題点を詰めるだけでも大変な手間だからだ。ただ農業部門が伝統的に問題になるので大変、などと思って調べていたら、日米租税条約が近年改定されているのに気がついた。何てことだ、こんな重要なことを今まで気付かなかったとは迂闊。

 内容は財務省発表の文章、及びそこからのリンクで確認できる。元々租税条約は、二重課税の防止によるビジネスの円滑化などを目的としているもので、日本や米国など、世界の多くの経済先進国はこの種の条約をそれぞれ各国と結んでいる。今回のミソは、配当所得の軽減もさりながら、利子所得の源泉国免税が大きい。そして上記リンクページでさらっと1行だけで書かれている「使用料」の免除が大きなトピックかなと思っている。要は特許や著作権に関する内容だ。本文十二条に記載がある。

 この条約のインパクトはかなり大きい。日本国内で多くの米国企業が円滑にビジネスを進めることが出来る。英国とも同様の条約を結んでいるらしいし、恐らく他の経済先進国とも進めるのであろう。日本の近年のベンチャー企業育成などの試み、各種IT起業などのビジネス経緯などを考えると分かると思うが、日本企業自体が多くの起業で出現し、雇用や収益、納税を発生させるのが理想ではあっても、どうもこの国は経済界のリーダー層が新しい経営者に冷たく、なかなかうまくいかない傾向が強い。しかしながら、外国で実績ある企業となれば、それが一流のブランドであったりすると割と受け入れられやすいものだ。免税措置を取ったとしても、そこでビジネスを展開する限りにおいては、一定の雇用や需要は発生し、消費税などは当然納めることになる。近年は中国進出に懐疑的になっている欧州企業も多く(米国は概して最初から懐疑的だ。さっさと足抜け出来る企業ばかり進出している気がする)「法の整備」に加えて税率の優遇で知的活動中心のビジネスはこっちでやってもらおうとしているのではないか。

 少し前の、まぁ今も一部の日本人は、外国企業の進出を乗っ取りだ何だと嫌がる人が多い。しかし、現代の先進国の経済で筆頭級の課題はやはり雇用であり、需要が必要とされているということであろう。その意味でこの種の試みは全く持って正道である。

 また書いている通りであるが、条約の濫用を防ぐために規定も随分細かく記されている。よほど周辺国に首を突っ込まれるのが嫌なのだろうなと苦笑した。第五条など、「ペーパーカンパニーは駄目よ」とすんなり書いておけばいいだろと思ってしまう。それにわざわざ石油や天然ガスと記載しているのも面白い。有利になってるので米国の石油メジャーさん東シナ海で掘ってね、というわけではないとは思うが。(あそこは採算自体は取れないだろうし)何か今後有望な話でもあるのかもしれない。深読みしすぎかもしれないが。

 いずれにせよ、日本の伝統的な「目立たずうまくやっている」外交の典型だと思う。この種の国際的な話し合いで不利になると大声で騒ぎ、米国あたりに「日本は被害者面するのが昔から実にうまい」と揶揄されたりするのだが、そんな事言ってたらEUの一国などどうなるのだろう。今回は米国内でのビジネスが楽になったので、米国で稼いだドルも再投資しやすくなるだろう。何と言うか、うまく食いつなげそうだ。
posted by カワセミ at 23:46| Comment(3) | TrackBack(0) | 経済一般
この記事へのコメント
先月号の諸君の渡部昇一とビル・エモットの対談「中国は「靖國」を怖がっている」で、日米および日英間の新租税条約の話が渡部から出て、ビル・エモットが全然知らずに驚いていた(ように感じた)のを読みました。
Posted by ■□ Neon / himorogi □■ at 2006年04月13日 05:11
中央公論の新刊を読むついでに先月号をもう一度確認していると同じような内容が掲載されていました。同じくビル・エモットが田中直毅にこの件を初耳だと驚いていました。はてさてどっちが先なのか。

この条約と前後して米ドル為替レートも介入無しで安定し、(この間日米とも対ユーロは大きく変化している)にもかかわらず対日投資も順調になってきました。経済の活性化に見えない部分で貢献しているのかもしれません。

大局的に見れば日米で経済の一体化を進展させているプロセスと見れないことも無いでしょう。元々農業などは関係者の政治力は強い割に経済先進国では経済の大きな要素を占めるというわけではないです。このような農業問題を迂回しての経済政策は概して益が多いかもしれません。
Posted by カワセミ at 2006年04月13日 23:38
 最近は猫も杓子も「FTA」の連呼状態ですが、こういうやり方もあるよ、という事なんでしょうか。
Posted by ささらい at 2006年04月13日 23:45
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