2006年04月06日

フランスCPE問題への感想

 フランスではCPE問題を巡って連日派手なデモが繰り返されている。内容の詳細は様々なメディアで報道されているのでここでは省略する。要は、雇用の硬直性を打破し、若年失業率を下げようとしての施策が、為政者の思ったほどには支持されていないということだ。

 この件は世界中で報道されており、米国では相変わらず揶揄するような意見も多い。ただ毎日のこの記事が珍しく冷静に背景を解説している。(参照)フランスは少し特殊な国で、とかくこの手のデモは当たり前のように頻発する伝統がある(といっても今回は大規模だが)日本人の私からすると、社会の多数派が支持するようなデモも一度くらい参加してみたいと思わなくも無い。このような事態でフランス国内の不安定を言い出す記事は適当に読み流せばよいだろう。彼らは相変わらず平然とフランス人でいるのである。むしろ興味深いのは、この手の問題が世界的に報道される度合いが増えたと言うことだ。1960年代にもフランスは大騒ぎだったことが多いが、このように逐一報道されただろうか。これはある一国の雇用問題がその国内だけにとどまらず、様々な要素で他国にも影響を及ぼす度合いが増えてきたからだと解釈してよいだろう。EUは勿論のこと、他の工業国も例外ではない。むしろその事に興味深さを覚えた。

 とはいえ、雇用問題それ自体は深刻だ。また労働者の権利自体、一度雇用されると手厚く守られ過ぎているという傾向がある。ちなみにこちらのブログはなかなか参考になるのでぜひ参照して欲しい。
 今回の法案自体は本来のコンセプトとしてはそれほど不当なものではない。ただ、ある国の法律は、良かれ悪しかれその国の文化の影響を受ける。私見では、フランスの教育制度が今回のデモの原因の一つではないかと思っている。日本のように、大卒なら大卒と、まとまった形で分類されるものではなく、もう少し細分化されている。このポジションにいるからこの程度の将来、というのが教育を受ける過程の中で見当がついてくる。日本だと同じ会社に就職してしまえば、その後は東大卒だろうが無名の四年制大学だろうが、課程が同じであれば待遇は基本的に変わらない、しかし欧米の大半の企業はそうではない。米国であれば雇用の流動性があり個々人の能力を判定するシステムもそれなりに動いてはいるが、欧州は概して硬直的だ。結果、どの層も自分が属するクラスとしての既得権を守りたくなるのではないだろうか。硬直的である場合、上昇機会は少なく転落はあり得るのが社会の常であるだろうから。

 ただ、若者の意識の未熟さに関してはやや留保しておきたい感情も残る。親の世代より次の世代は恵まれていなければいけないというのは、実際にはそれを達成するのは当然とは行かなくても、社会の理念として存在するのは悪くない事だと思うからだ。またどの世代もそれぞれ若い頃に未熟であったし、そのエネルギーは直接的ではなくても間接的に社会変革に資すること多大であったろう。そして日本で言うところの団塊の世代が次世代に余り義務を果たしていないのは、どうも主要な民主主義国共通の現象のように思われる(となると、第二次大戦の帰還兵の子弟教育と言う、主要な民主主義国共通の問題との関係が深くなってくるように思うが、それはまた大がかりな議論の対象であるだろう。ちなみに米国ではIT革命その他で多少なりともこの世代が偶然スキップされた感が強いがどうだろうか)また、民主主義の常で、一見表面化しないことでも多数派に有利な政策がじわじわと遂行されているものである。人口動態の変化がここでも効いていると思われる。

 いずれにせよ、人間の意識そのものが常に政治の争点である。ド・ヴィルバンは少し浮世離れしているようにも思われる。理念は良くても手順は誤ったかもしれない。これまでの最大の受益者が当面必要な負担を行わないことには改革は進まないのだろう。それは洋の東西を問わない。ましてフランスでは。
posted by カワセミ at 02:26| Comment(10) | TrackBack(3) | カナダ・欧州・ロシア
この記事へのコメント
ご丁寧に有難うございます。
社会で色々問題が起こっているのは否めませんね。ただこの問題は、現地の人間の皮膚感覚が分からないと評価できないようにも思います。この種の行動もトータルとして含めてフランスの民主主義の発露の一つであるという広範な合意が社会的にあるように思いますがどうでしょうか。デモに反対の人も、心のあり方としてはそれほど距離がないように思うのですが。
フランスのエリートは他の欧州諸国と比較しても純粋培養的な傾向もありますし、社会全体としてはバランスが取れているのかもしれません。
Posted by カワセミ at 2006年04月06日 22:29
はじめまして!
 フランスの雇用に関してのデモの事はニュースになっていますが、本当のとろは、よく私は理解できていません。

だだ、私の住むメキシコシティーでは、しばしばデモがあえります。
フランスのデモほど、大きなものでないにしても。

交通ラッシュになって、迷惑といえば迷惑な事なのですが、
メキシコの場合
メキシコの人は、為政者と、一般の人との差、

為政者が本当に民意を反映した政治をしているか?

というのが、デモと言う形で訴えるしかないと言う形になって来てしまっている気がします。

実際デモをしたからと言って変わらない事の方がほとんどですが。

なんか、書きながら、うまく言い得ていません。
失礼しました。
Posted by メキシコのおばちゃん at 2006年04月10日 13:22
>メキシコのおばちゃん様
フランスのデモはちょっと他国と違う感じがしたので取り上げてみました。このフランスとまともなデモがない日本だけが特殊なのかもしれませんね。そういえば日仏は言論界で異様に共産主義の受けが良かったとかなぜか地方分権の力学が国内的に弱めだとか妙な共通点があります。直接関係しているわけではないでしょうが。

海外事情等、機会あればぜひお聞かせ下さい。そのメキシコの姿は民主主義国の普通の状況だと思うのですが、日本人にとっては興味を惹くことが色々あるでしょうから。
Posted by カワセミ at 2006年04月13日 01:42
はじめまして。フランス関連情報を発信するブログをやっています。
日本では構造改革、ネオリベの論理が自明のようにまかり通っていて、企業のリストラ、雇用の流動化は仕方ないがないという話になる。そのツケなぜか若い世代に押し付けられる。団塊の話がありましたが、日本では団塊の世代が言いたい放題(ニートだの、品格がないだの、他人を見下すだの)、やりたい放題ですが、老後は資産運用とか、楽器を習うとか言ってないで、若い世代のことを少し考えたらどうなんでしょうね。とんでもない法案がこっそり通過してしまうのを見るに付け、フランスの社会の合意形成に向けてぶつかり合う姿に健全なものを感じてしまいます。
Posted by cyberbloom at 2006年04月23日 18:59
何度もすみません。先ほどはTBをさせていただいたことをご報告しようと思っていたのが、コメントを書いていたら忘れてしまいました。よろしくお願いいたします。
Posted by cyberbloom at 2006年04月23日 19:02
TB有難うございます。

日本の場合、言論空間では奇矯な内容のものが大手を振っていることが問題なのでしょう。この種のデモ自体が信用を得ていません。フランスの場合はやはり歴史でありとあらゆる体制や政治を試してきたという誇りがあるのか、行動すること自体を評価する土壌があるように思います。
フランスに限らず、欧州でも団塊の世代はそれほど褒められないような話も聞きますが、それでも引き継いだ伝統に相当するものは残そうという理念があるように思いますね。
Posted by カワセミ at 2006年04月23日 19:58
カワセミさん、お返事ありがとうございます。確かに日本ではデモ自体が胡散臭いものに思われています。でも何かやらなければ事態は変わらないわけで、私自身、闘争とはいわないまでも、いろいろやる羽目になりました。そういう中から思うのは、日本はデモよりも、ブログではないかということです。日本にはもうブログしかないじゃないかって感じです。カワセミさんもこうやって議論の場を提供なさってますが、こういう場の積み重ねが日本の場合、重要な力を持っていくのではと思っています。
Posted by cyberbloom at 2006年04月25日 22:30
そうですね、今となってはブログしかないかもしれません。

少し前は違った考えを持っていました。昔のNifty的な、流れに有機性を持った各人の顔が見える掲示板のほうがいいかと。2chのような各人の一意性が保障されない掲示板がうまくいかないのは当然ですが、(一次情報の収集トリガーには結構使える)ブログはそれぞれの孤立性が強くそれほど発展が望めるのかと。

しかし今は少し違ってます。有名なブロガーは継続的に更新もしてますし、それはある種の活力、知性の持久力を測るためのハードルという側面もあるのかと。そういう人間がお互いにTBをして、そこにもう少しパワーは少ないが知性的な人々がコメント等で集まれば違うのかなと。米国だと大学のような高等教育でブログや掲示板が回っていて知の再生産が盛んですが、日本は若く優秀な人々が本当に閉鎖的であると感じます。だけど本当は、ブログのようなマイペースな場だけではなく、逃げの打てない環境で知的に叩かれても頑張るという、古典的な切磋琢磨の風景が(特に若い世代になればなるほど)昔以上に必要であると思うんですけどね。

私の場合は、自分のところでどうかというより誰かに何かの刺激になればいいかという側面が強いです。マクロ的な論調が多いですが、それは個々に高い専門性を持つ人々の統括に至るくらいの内容で無いと意味が無いんですね。それは私よりずっと優秀な人に任せるしかない類のものかなと思っています。その意味で海外に長期滞在して貴重な情報を持っているとか、売りのある人はいいなぁと思うことも多いですね。
Posted by カワセミ at 2006年04月27日 00:50
カワセミさん、もう1本TBさせていただきました。CPE撤回から時間が経ちすぎた気もしますが、いまだに根強いアクセスがあるので、続きを書くことにしました。ところで、カワセミという名前にもひかれるものがあります。実は自分の子に翡翠という名前をつけたので。
Posted by cyberbloom at 2006年05月03日 23:59
雇用問題は一朝一夕にカタの付く話ではないので、後々参照されることもあるかと思います。当時の空気を伝えると言う意味でも良いかと。
写真撮影が趣味の友人がいて、この鳥が気まぐれでなかなかうまく撮影できないと言っていたのを聞いて、直感的につけたハンドルです。そのうち何か考えるかと思いながらもなかなかいいのが思いつかずに今に至っています。もはや変更し辛くなってしまいました。
鳥は綺麗ですが、私の書く文章はなかなかあのようにスマートにはいきませんね。
Posted by カワセミ at 2006年05月08日 00:28
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