今日はとても残念なニュースを耳にすることになった。日本の政党政治の成熟の過程が、相変わらず遅々としたものである事を実感することになった。前原民主党代表が辞任するという。メール問題の責任を取るとの事だ。確かに格好の悪い、稚拙な誤りであっただろう。しかしこれは代表辞任に値するものなのであろうか。
以前のエントリでも、年金問題での交代に苦言を呈したことがあった。今回言いたいことも全く同じだ。野党第一党の党首は選挙結果次第で内閣総理大臣となる。今回のメール問題は内閣が吹き飛ぶほどの大問題だろうか。国民は批判しつつも多少のことでは揺るがない一徹さ、容易に変化しない存在の重みも静かに求めているのである。
複雑で高度な社会を運営する現代政治は、大多数の人が賛同するような政策はそれほどない。あるとしたらとっくに解決済みとなっているか、やり残していてこんな課題がまだ残っていたかと発覚したときに時代錯誤的な印象を抱くものであろう。通常は政治的争点になりにくい瑣末な、対立点の発生しにくい常識的な法案一つ通すのにも6割か7割の賛成、それも面倒な話し合いの結果何とか通すというのが現実ではないだろうか。まして政治的争点となっている、本質的な困難さを伴いかつ対立の深刻な課題であればどうであろうか。時間もかかる話であろうし、その間紆余曲折もあり、対立陣営からは枝葉末節の不備を追求される。政治は生身の人の試行錯誤の営みであるから全く失敗が無い政党というのは普通は無い。だからと言って、僅かな瑕疵を理由としてより優れた政策が通らないとすれば、それは長い間の政治の停滞を招くだけだ。80??90年代の日本がまさにそれであったように。
米国で例えてみよう。例えばイラク戦争だ。これは極論すると2つの選択しか恐らくは無かった。最初から地域の政治的現状を認めるか、民主化の区切りがつくまで貫徹するかだ。中間解は無い。そして議論はあるが、こういう大問題でもブッシュやブレアは続投だった。日本はどうだろうか。私はサマワで不幸にも犠牲者が出ても、首相の進退問題には繋げるべきではないと考える。昔の安保闘争では法案を通すために辞任となったが、いずれにせよ政治家は政治に関する責任を貫徹することが必要だ。ドイツの政治家の「第二次大戦後の重要な安全保障政策の決定はことごとくドイツ世論の反対を押し切るものであった」という述懐をどう考えるべきか。逆説的だがこれこそが民主化の価値でもある。
責任を貫徹するしないが争点になる形としてはならない。どの方向で貫徹するかを議論としなければならないのだ。単に無能を理由に落とすのであれば、経済面だとしても、10年以上の経済の停滞とか、雇用問題の長期に渡る深刻さであるとか、政治の核心部分への評価で無ければならない。
民主党の若手には頭のいい人が多い。しかし結果を残すのは行動主義者で、長いプレッシャーに耐えなければならない。今回の辞任劇は責任を取ったのではない。タダの逃避であろう。昔からしばしばある、日本の線の細いエリートの姿の典型だ。今こそ大事なことは別にあると言わなければならない。率直な謝罪は必要にしても。
2006年03月31日
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小泉総理が次の総裁の条件として使命感、洞察力、情熱を上げてましたがまさにその通りだと思います。
なお、ドイツに限らず、戦後日本の重要施策の中にも、世論の反対を押し切っている(単独講和、消費税など)例が多いです。民主主義の基本はrepresentativeとresponsibleですが、最近は前者ばかりに注目が集まり、responsible governmentが忘れられがちであるように思います。
大問題でなければ辞める必要は無いし、大問題なら復活してはいけませんね。論理としては首尾一貫していないと説得力はないですね。
>nh様
その通りですが、それは小泉首相も含めた自民党でもそうだったわけで。それでも断固としてその地位で責務を果たす能力も必要ですね。
>かんべえ様
生テレビお疲れ様でした。確かに責任を果たすのは重要ですね。代表として多くの情報にも接し、また先覚者であると自他共に認められれば時にそのような事はあるでしょう。そういう時に「反対だが、○○さんがそういうからにはひょっとしたら理があるのかもしれない」という有権者の静かな支持を得るためにも、こういう時の態度は重要なのですが。また同じ理由で、クリーンである事もますます重要なのでしょう。