タイトルに示す西サハラの件、どこかの機会でエントリしておこうと思っていた。つい先日ル・モンド・ディプロマティークの記事(参照)を見かけたのでこれを機会に立てておこうと思う。広大な地が世界地図で空白となっているが、人口は約30万人程度のこの地域、ある意味で世界史と現代の縮図だ。
上記の記事はフランスのある種の知識人を代表する意見として的確だ。多くの事実関係を整理して把握するのにも役立つ。ただ恐らく、これを読んでも大半の日本人はピンと来ないはずだ。まずスペインの旧植民地支配からの経緯がある。
今でもセウタやメリリャなど、モロッコに飛び地としてスペイン領がある事を知っている日本人はいるかと思う。ただスペインは沿岸部にそのようなものを多数抱えていた。中にはセウタやメリリャの維持を条件に放棄したものもある。そしてモロッコ自体はフランスの植民地であったわけだが、この地はアフリカの中でも旧列強に振り回された見本のような国だ。(それでも西洋文明の恩恵も最大であったろう。と言うと現地の人は反発するに決まっているのだが)様々な事件の舞台となり、特にタンジールの地などは国際管理だったこともある。ここで発生したタンジール事件などはWikipediaにも記載があるのだが(参照2)一歩間違えればサラエボのそれではなくこれが第一次世界大戦の原因になったかもしれず、日本では知名度が低いが重要な歴史的事実として踏まえておかなければいけないだろう。なお年代を見ると分かるとは思うが、歴史を考えるに当たっては、日露戦争などは必ずこの付近とセットで理解しないととんだ視野狭窄となる。あれは英仏の複雑な動きやドイツの二枚舌外交の所産でもある。当時の日本人は名政治家に恵まれていたのは、こういう事情を理解して振舞っていたと言うことに尽きる。
モロッコに話を戻す。沿岸の飛び地だけでなく、モロッコの南部地域は元々スペインの勢力範囲で、それを少し早い段階で放棄していた事が重要な歴史的経緯となっている。そしてその南の西サハラの放棄はすんなりとしたものではなかった。この付近東ティモールその他とも事情がかぶるが、今日モロッコはそのような経緯を正当性の根拠としている。問題はそれを国際的に認めさせるプロセスに失敗したということと、現地住民の反感を買いすぎたことだ。
この件、英語版のWikipediaで西サハラの項目がうまくまとまっている。これをMINURSOの項目も合わせて見ると良く分かるのだが、力学的にはむしろ最近動いてきた件である。そして西サハラの人権の項目などを見ると生々しい汚らしさの空気がやや分かるかもしれない。この項目が議論中になっているのがさらにその感を増す。つまりここでも人権問題がある種のリトマス試験紙となっている。独立を目指す勢力であるポリサリオ戦線側とモロッコ双方に問題があるのだが、ただポリサリオ側をテロ組織認定して欲しいと言うモロッコの要請は却下されている。要は欧米がモロッコに強い嫌悪感を抱いていると言うことだ。そして西サハラ領有の主張は無理があるでしょと思っているわけであって、これは現時点となっては挽回がかなり難しそうだ。そして西サハラ地域はスペインの支配のせいもあり、住民の意識としてはやや近代的なようでもある。贔屓の原因でもあるのだろう。
さらにこの地域で、沖合いに石油や天然ガスの資源が存在する可能性があることが問題を今日的なものにしている。人口30万前後ならその地域だけは圧倒的に豊かになれる可能性があり、独立したくもなるだろう。まぁ、イラクと違ってこれこそ石油も主要な原因だ。これは事態を動かすテコにはなるかもしれない。
要は、モロッコは恐らく失敗したのだ。成功のための方策はいかなるものであったか?恐らくはスペインが手を引いた後、現地の住民の主権を極力尊重する穏健な態度を示しつつ、アメリカの容認、できれば支援を取り付けることだったろう。今となっては累積した失敗を取り返せないように思われる。モロッコで原理主義的な勢力が急速に勢力を伸ばしているが、そういう政治的な閉塞感も背景になっているのだろう。ただそうであるにもかかわらず、旧植民地の問題を奇妙に引きずることにより、アフリカの大半の地域から承認を得ているこの地域の独立は欧米の大半から認められていない。様々な理由がある。ここで最初に挙げたル・モンドの論説の最後の部分を引く。「紛争終結となれば必然的に、どちらか一方が正しく、もう一方は正しくなかったということになる」確かにそうだ。だが米国の多数派の考え方は違うしスペインも意識としては複雑だろう。「主権を巡る争い」はいつも解決が困難である。
2006年02月21日
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セウタとメリリャの不法移民問題
Excerpt: モロッコ内にあるスペインの飛び地、セウタ(参照)とメリリャ(参照)を目指す不法難民が九月に入ってから急増している。日本語で読める情報としては六日付の毎日新聞”不法移民:「脱アフリカ」スペイン飛び地を..
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Tracked: 2006-02-22 09:40
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Excerpt: モロッコ内にあるスペインの飛び地、セウタ(参照)とメリリャ(参照)を目指す不法難民が九月に入ってから急増している。日本語で読める情報としては六日付の毎日新聞”不法移民:「脱アフリカ」スペイン飛び地を..
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確かにこの地域は複雑です。まあ、アフリカのどこも同じように複雑な問題を抱えているのですが。
アフリカでは基本的に民兵組織は人攫いで兵力を維持していて、それが常道になってしまっているように思います。
確かにモロッコがその辺を上手く訴えることは難しいかもしれません。地雷がまずかったのでしょう。
ですが、単純に西サハラが西サハラである所存がスペイン領以下には説明できない様にも思います。もちろんモロッコであるという理由はさらに薄くなるのでしょうが。
実際、分離独立した際海岸沿いとアルジェリア側で厄介な問題にならないとも限りません。