2006年02月07日

続・欧州とイスラム世界のムハンマド風刺画騒動

 前回も追記を加えたのだが、この件は自分の認識と世間のギャップが多少大きいようだ。蛇足もいいところではあるのだが、もう少しこの件に関するつぶやきを記してみようと思う。ただ実態と合っているかどうかとなると、地域によっても違うし、元々大雑把な意見なのでどうというものでもないが。

 この件、欧州における移民が背景というのは全くそうであるのだが、それは攻撃的な構図として見るべきではないだろう。むしろ旧来からの宗教その他に対するタブーの増加には、成熟した社会として柔軟に対応していたと。しかし当然摩擦はあるわけで、今回のような風刺画はいわば社会のガス抜きのような行動の現われだろう。そのような所までに注文をつけるのかという事で、むしろ欧州諸国は被害者だという意識があるのではないか。
 また、前回のエントリのコメントでも軽く触れたが、例えばテロ組織のように、欧米などのキリスト教世界との対立が継続すること自体にメリットを感じる組織がイスラム世界に多いことには注意しなくてはならない。今回の件が該当するかどうかはともかく、本質的にこの種の摩擦は一定確率で発生し、それと共存することを覚悟しなければいけない、というのは言えるだろう。

 ここで社会におけるタブーという点で、英国での法案の件が極東ブログさんの方で軽く触れられている。英国のサイトを見たところ、これは昨年の10/25段階で修正が必要となり上院で否決されているようだ。このページの"Racial and Religious Hatred Bill, Committee,"(ページに2箇所)に続くリンクで確認出来る。2001年にも似たようなものが否決されている。しかし日本人や米国人から見ると英国上院ってのは鼻につく・・・いやそれは余談だが。いずれにせよそういう動きもあるという事ではあるが、ただこの件に限れば、英国は別扱いでいいのではないか。

 近代に至るまで宗教で散々殺し合いをした欧州諸国はこの種のタブーが面倒なことは良く分かっていると思う。あるいはキリスト教のカルトの延長としてのイスラム教、というと言い過ぎだろうか。ただいずれにせよ、近代的な国民国家を形成する中で、それぞれの国はそれなりの現実解を模索し、様々な試行錯誤を重ねた努力の結果としてそこそこ落ち着いた現在の社会がある。少し関連したエントリを以前に書いたので場合によっては参照してほしい。
 そういう歴史ゆえに欧州諸国は一線では譲れないのだが、その過程で英国は欧州の他の国に比べると(北アイルランドの件だけでなく)かなり異質なものを抱え込んだまま共存するという道を選んでいるようだ。米国もそれに近い面がある。だからこそ今回、英国や米国の政治レベルでの発言がやや融和的に見えるのは私としては得心が行く。妥協はアングロサクソンの伝統、と彼らは言うが、世間でのイメージと違ってそれは真実だろう。もちろん手法的なものであって、少なくとも今回「やっぱりイスラム駄目よ」という内心の認識は同じだろうが。

 そういう事を考えながら、日本の事も考える。イスラム地域に関して判官贔屓のごとき言動があるのは分からなくも無い。未だ相対的な弱者ではあるからだ。ただしかし、日本と社会の発展段階が近い欧州諸国の、今まで積み重ねてきた努力や何とか辿り着いた現在の社会の貴重さというものに思いを致さないのは何なのか、と思う。少なくとも同じ口で自国の歴史に理解を求めることは出来ないと思うのだが。
posted by カワセミ at 20:46| Comment(4) | TrackBack(2) | 世界情勢一般
この記事へのコメント
イスラムの仕業はやはり社会ルール違反行為です。愛国無罪で日本は中国で反日デモの激化で大使館や領事館を教われ謝罪もされていない。信教無罪でこのような外国と本国以外の大使館など襲撃するのが正当化されるのは、近代国家としてのルール違反です、日本もいい加減な対応でお茶を逃さず、欧州と協力して、国連に提訴して野蛮行為は禁止させるのが当然です。信教の自由を認められてるのを逆手に取って他国で自己主張し唯我独尊」の無茶な行為を許したら国際的な社交ルールも成立しません。イスラム教をキリスト教が主流の国でも信教の自由は認めていますが事故勝手な暴力や破壊行為が許されると考えるのは過ちです。
Posted by ようちゃん at 2006年02月08日 04:32
 はじめて書き込み致します。
 私は今回の騒動を、欧州、イスラムどちらかに肩入れするという観点からではなく、昨年の反日暴動に絡めて「在外公館への破壊行動はいかなる理由があろうとも許される事ではない。ウィーン条約を遵守できなかった国(今回でいえばレバノン)は謝罪と賠償に応じるべきだ。」というメッセージを小泉首相または麻生外相が主張すべきだと思います。正論ゆえにイスラム諸国からの反発はないでしょうし、何より未だに日本に謝罪も賠償も出来ない中国に対する牽制にもなるからです。
 今回の騒動でレバノンの内相は責任を取り辞任しました。ウィーン条約を守れない国はそれ相応の責任を取らされる、そういった極当たり前の事を国際社会で徹底させる事が、メルケル首相曰く「ルールを守れない」中国の異常性を国際社会で浮き彫りにする事が出来ると思います。
Posted by ささらい at 2006年02月08日 19:52
ルールに対して腹を立てている。
ということが暗にあるのではないかとも思いますが。

こういう言葉は恵まれた日本人が使うべき言葉ではないのかもしれません。
Posted by ひのき at 2006年02月09日 12:42
>ようちゃん様
初めましてですか、宜しくお願いします。
そういう見方によっては素朴でストレートな見解は、今日日本国民の多くに求められていることではないかと思います。政治家は様々な現実に対応する方策を考えねばなりませんが、それを支える態度は確固としているべきでしょう。ただ国連というと表現が難しくなります。この種の人権や法理に対する原則に対して、それは欧州由来のものに過ぎないという見解は、世界的に見れば多くの日本人が驚くほど多いのです。

>ささらい様
ひのきさんも軽く触れていますが、まさにそのルールも含めて反発していると考えるべきでしょう。中韓はあれでもまだ「品のいい」方です。レバノンやヨルダンはギリギリ通るかも知れませんがシリアやイランやサウジやイエメンはまるで通じないかもしれません。問題は、イスラム諸国がその代替として考えているルールが本当に狭い範囲でしか適用できない事ですね。少なくとも国境の外に持ち出すことは非常に難しいでしょう。
何度も言いますが、我々日本人は、本当に運がいいんです。近隣国との距離感は自国でイニシアティブが取れます。
Posted by カワセミ at 2006年02月12日 01:38
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イスラム風刺画について多少思った事
Excerpt: もちろん国情の違いがあって、こんな事ざくっと言っちゃいけないんだけれど、わりと中東地域では西側に関して陰謀論が流通しちゃう所がある。世論レベルで。 911でっち上げとか。これは西側にもあるけど。 そ..
Weblog: 人生とんぼ返り
Tracked: 2006-02-09 13:34

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Excerpt: デンマークを始め、ヨーロッパ各国でイスラム教の預言者・ムハンマドの風刺画が掲載された。 この事にイスラム教徒は激しく反発し、世界各国で大規模なデモや暴動が起きた。 その中
Weblog: がつんと!
Tracked: 2006-02-10 19:10