2006年02月03日

欧州とイスラム世界のムハンマド風刺画騒動

 末尾に記述を追加しました。('06.2.4)

 デンマークに端を発するムハンマドの風刺画問題だが、欧州全域に飛び火する状況で蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。またパレスチナ選挙やイランでもめている最中にタイミングの悪い事だ。とりあえずメモ代わりのエントリ程度。

 ちなみに発端となったのはこれらしい。概要はワシントンポストの記事がまとまっているので引用する。(参照)このコラムも参考になるだろう。(参照2)実のところ、欧州の反応はキリスト教やユダヤ教におけるタブーとも重なり、イスラム地域の世論に関しては理解しているし、一般論としては融和的なのだろう。同じくワシントンポストのこのコラムで示されていた内容はなかなか示唆的だ。(参照3)一部引用する。

The complication in the cartoon controversy, says Islam Online, "stems from the conviction held by many Muslims, that 'press freedom' of the Danish variety would not be tolerated?indeed, would be prosecuted to the fullest extent of the law?if Judaism were made the target of such slurs, in a Europe where legitimate, if exaggerated, fears of anti-Semitism have long acted as a sort of moral bludgeon, shaping legislation and molding public norms and taboos."


 私の印象としては、タブーに関する欧州一般の理解はかなり高かったと思う。そうであるから、いやむしろそうであるが故に暴力行為のような一線を越えた反応に関する反発は一層強くなったものと考える。これが日本であれば、聖なるものへの敬意という感覚はむしろ薄れているかもしれず、より純粋な反発がはっきり現れていたのかもしれない。そうでないのは運がいいだけとしか言いようが無い。日本でもかつて悪魔の詩の邦訳で殺害された筑波大教授の件があるが、現在日本で発生していたらどうだったろうか。インターネットの影響力も昔とはまるで違う。

('06.2.4追記)
 この問題に対する日本の他のブログを見たが、奇妙な認識がされている事も多いのに驚いた。挑発的であるとか、他文化を理解すべき、そのタブーを尊重すべきという論調も多いのだ。この件、そのような問題だろうか?当の欧州では、そのような事は多くの人が百も承知だろう。

 比喩が難しいが、日本人としては皇室に対する態度に重ねてそのような発言になっているのではないだろうか。公然と触れないことが社会としての約束事で、無意味に混乱を引き起こすことであると。だが欧州、いやもっと広く取った少なくともキリスト教圏の民主主義諸国「全体」でそのような日本人的自粛が可能なはずも無い。そして現在の自由な社会を維持する限り、ある一定確率でこの種の風刺画のごとき表現がメディアに現出することは絶対に避けられない。実際に今回は小国デンマークの一新聞が発端であるに過ぎない。それをゼロもしくはそれに近い状況にしようと試みるには、法規制以外の方法はない。欧州の多くのメディアがそれに危惧を抱くのは当然過ぎるほど当然だろう。
 少なくとも私は、そのような社会の未来図は闇でしかあり得ないと思うし、多くの民主主義国の国民もそうだろう。これはそれでも良いとする人たちとの対立であるという苦い現実を率直に認めなければならない。当面、摩擦の沈静化のための戦術的な対応が必要だとしても、本質的な解決のためのリアクションは取れない性質の問題だろう。

 どこか忘れたが、欧州の新聞で「ムハンマドよ、怒るな。ここでは我々は皆風刺される」というような発言をしているキリストの漫画が掲載されていた。イスラム圏の人々がそれを理解してくれると良いのだが。
posted by カワセミ at 23:06| Comment(3) | TrackBack(5) | 世界情勢一般
この記事へのコメント
お久しぶりです。あたしゃこの事件、中国の反日デモと重なってしょうがないですね。きっと現物のマンガを見たイスラム教徒は1%もいないんじゃないでしょうか。
Posted by かんべえ at 2006年02月07日 10:03
>かんべえ様
お久しぶりです。皆さんお元気でしょうか?
世間の反応は日頃からの反感に乗っただけという点は似てると思います。ただ中国の場合は少なくとも当初は官製だったでしょう。イスラム圏の場合、恒常的にキリスト教世界と対立していること、それ自体に利益を感じている組織があるという点が違うかと。陰謀論的な見方はしたくないですが、仮に意図的な要素があるとすればその付近かなと思います。全欧州なら何がしかのネタを拾うのは可能ですからね。

>ひのき様
初めまして、宜しくお願いします。
イスラム世界の大衆的には侮辱にしか見えないでしょうね。そこでどうリアクションを取るかとなると、人により違うし思惑もあり、ではないでしょうか。
Posted by カワセミ at 2006年02月07日 19:39
悪乗りしてまとめると、共通点はこういうことですな。

(1)国民のホントの不満は別のところにある。
(2)権力者は最初は「しめしめ」と思っているが、だんだん青くなりつつなる。
(3)第三者は高みの見物となる。

いずれにせよ、イラク戦争に反対するなどして、必死に中東との対立を避けてきた欧州としては、こんなことで懸念が顕在化するとはやり切れない思いでしょう。
「中国とイスラムの連携を警戒せよ」というハンチントンの予言は妙なところで符合しているような。
Posted by かんべえ at 2006年02月08日 09:57
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