すぐにやめるかと思いきや、マイペースでだらだらした内容ながら年末までこのブログも続いた。今回は2005年を振り返って、総括というほどでもないが、全体として私が重要と感じたことに関して、色々と述べてみたい。全体としては、過渡期の年であったと言うことになろうか。複数の話題を扱うが、コメントしていただけるのならどの内容に関してでも構わない。
・日本の衆院選
このblogの名称を世界情勢としているのは日本自身も含んでいるからである。英語で言えばinternationalではなくworldwideに相当するとでも表現すればいいかもしれない。そして世界的ニュースという意味では、カトリーヌのような短期的なインパクトをもつ事件でなくある程度長期に渡り影響がある内容となれば、日本の衆院選は今年の重要なニュースの一つと言えるのではないだろうか。
この選挙は、小泉首相のイニシアチブにより郵政民営化を争点として戦われた。そして首相により一種の国民投票であると位置付けられた。しかし投票する国民の側からすると、小泉首相を含む政治家サイドが何を言おうがあくまで「衆院選」に対する投票だ。優越院の全議員を選出し、間接的に行政府の長も決定するという、日本の最も重要な選挙であるという本質はいつもと変わらない。そして投票する側は、各候補者が何を発言しようが「今回はどの候補者に議席を与えればよいか」というのを全体的に判断するだけだろう。そして民主党は良質な党首に恵まれることなく、党内もバラバラで信頼を得る事が出来なかった。また今回民主党に投票した人に理由を聞くと、「政権交代が必要だから」という回答がかなりあった。つまり、それを期待することによる得票バブルの部分はまだあるという事だ。政策そのものへの信頼という意味では、今回の衆院選結果よりまだ低くなる可能性がある。
この選挙を海外から世界的ニュースという観点で見ると、日本国民の意識とは別に、当然ながらこの選挙結果がそれぞれの自国にどう影響を及ぼすかという事に関心は集中する。その意味では、経済運営の路線と対中関係の2つがやはり全般として注目点となっているのではないか。
日本では米国的な競争重視の新保守主義が強まり、EUなどで根強く見られるで福祉重視路線が後退する。これは少なくとも日本の企業、少なくとも国際的な多国籍企業の競争力をより高めるし、WTOなどの多国間協議の場での日米の連携度合も強まり、EUの政策選択の幅も狭くなる。この選挙結果に関する評価は党派性によって異なるが、それは米国というより欧州諸国でより色濃い。これはEU内の事情から当然と言えるだろう。
対中関係に関しては、田中角栄に始まった日中蜜月時代の終焉と位置付けられるだろう。ただ中国の対外政策の過激さ度合にもよるのだが、世界的に見ても近隣諸国というのはそれほどうまくいってないのが普通なので、どこにでもある普通の風景が日中間でも展開されるというだけの話だろう。その意味で日本人が考えているほど大げさな捉えられ方はされていないのではないか。この緊張状態を地理的に離れた唯一の超大国のアメリカが仲裁するのもまた当たり前の風景で、中国がやがて来る経済的な低迷期に妙な対外行動を取らない限り、これは東アジアのある種の戦略的安定状態として比較的長続きするのではないだろうか。日本も中国もそういう普通の風景に慣れるということを、ここ数十年かけて学習することになるのではないだろうか。
・イラク民主化への思惑
これに関しては米国のもたつきが目立つ。しかし少し引いてイラクの現状を考えてみたい。そもそも同程度の経済水準にある国はいわゆる先進国に該当する国と比較して犯罪発生率は高い。イラクの場合統計がそもそも確固たる状況ではないが、問題が局所化されている印象が強い。米国の期待水準の高さが結果的に社会の変化を加速させていると考えるべきだろう。普通の国が半世紀とかかける変化が数年間で起きている。私はそれがイラクにメリットをもたらすと考える立場だ。
それにしても、イラクの問題であるにもかかわらず、米国を語りたがる人が多いようだ。実のところそれは冷淡な日欧のリベラル勢力の本質でもある。世界的にある程度以上の事件が発生し、対処方法を決めるときにそれはどうあるべきかということに関心は集中し、その地域の秩序に関する議論は二次的であった。そして今回のイラク問題では、実質的なパラメータは2つしかなかった。すなわち、アメリカがどの程度本気で関与するかという事、そして当のイラクの国民意識はどうか、つまり「格付け」的にどのあたりに属する国かという事だ。実際はこの2つのパラメータしか作用しないこと自体が多くの国の不満の根源なのだが、リソースの提供無しにこの不満が解消されることは無い。
公然と口に出す者は少ないが、多くの民主主義国は世界の様々な地域を内心で「格付け」している。だからユーゴ紛争地域の時「欧州の中でこのような非人道的な行為が行われていることを許すことは出来ない」と語られ、多くの国で対処することになった。その発言自体が配慮を欠くという自覚は欧州人に薄かった。スーダンで何があっても放置で、マグレブ諸国含む中東地域が何をやるかの境界になる。大局的な視点で考えると、イラク問題はその価値観の境界での混乱であると解釈出来るかもしれない。個別の利権等の純経済問題は妥協が可能だが、安全保障に関する価値観はそうではない。そしてこの価値観に関しては、米国は日欧よりやや楽観主義的な解釈を広い地域で取る傾向がある。日欧の伝統は「地域の政治的現状の追認」だ。
本来、その追認が不可能な場合の対処方法について、「格付け」の擦り合わせを民主主義諸国間で普段からとりまとめる作業がイラク問題を踏まえた各国間の作業となる。ところがイラクの結果待ちのフィードバックがある程度この問題に関連するだけに、事態が動くのを待つしかないということもある。北朝鮮やイラン問題の現在の停滞の理由は、最終的に軍事力を背景にしないと解決しない種類の問題で米軍のリソース提供待ちであるというのが最大の理由だが、背景として、いずれもある種の境界に属する対象国であること、そして今後の主要国で政治的な落しどころを模索するため、テストケースとなっている最中であることが理由でもある。この主要なターゲットはロシアと思うが、それはプーチン大統領がロシア国内の状況にそこそこ民主主義と親和性の高いある種の相対的安定を構築出来るかどうかにかかっている。今の原油高は結果的にその猶予期間となっている。
・EUの今後
欧州憲法を巡る混乱が目に付いたが、ただこれはある程度事前に予想されていた。そもそもこの種の統一憲法は、自治の気風が強い各地域をまとめる連邦国家が持つような代物だろう。それなら、各国は国内の憲法だけで各地域は充分譲歩しており、EUに関して我慢できるのはせいぜい金の面でのメリットのための仕方ない部分というのが本質ではないか。欧州の主要国で中央集権の気風を持つ国は少ないが、その典型のフランスがEU主導の中心であるということそれ自体がEUの先行きに問題を発生させているのかもしれない。どこまでいっても国民国家はその国の「体臭」から逃避することは出来ないように思われる。当面バルカン半島でのEU拡大を一服させているのは適切な判断だろう。統合とは、むしろ確固とした独立がそれを支える。確固とした基盤の無い国が統合に走ると、しばしばそれは社会不安の原因となる。
それにしても、欧州が労力を割いて意味があるものとなるとこれは結構難しい。強いて言えば英米にやられっぱなしになっている法制度の世界化への努力だろうか。経済分野、例えば日欧を説き伏せてWTOの徹底的な強化し、EUにフィードバックさせるというような作業だろうか。実現の容易な範囲をミニマムアクセスとして取り決め、国内向けの圧力にするような路線しかないかもしれない。当面はドイツの停滞をどうにかせねばEUの有効な作用は厳しいが、ドイツが今年の日本のような段階に達するためにはむしろEUは邪魔のように思われる。なかなか解がなく、厳しい状況が何年も続くだろう。
・京都議定書
米国の見解はここでも誤解されているようだ。平たく言うと「誰も守らないでしょ、それに中国やインドとかどうするの」と言うことだ。今回、EUで達成国がほとんど無いことが明らかになったようだ。経済低迷してかつこの結果では米国の言い分がその通りだったとしか言いようがない。排出権取引の強化を進めたほうがいいのではないだろうか。来年は遅まきながら様々な試みが始まるだろう。各国の思惑が絡み合うが、例えば炭素固定技術などを提唱するこういう話とかが動き出すかもしれない。ただ米国の排出する絶対量は余りにも大きいので、今後数十年で急速に減る見込みがあるとはいうものの、それをもっと加速しろとは言いたくなる。
・感染症問題
鳥インフルエンザがその典型だが、今のところ世界的な大流行とまではいっていない。人間の移動が増大した現代ではこの問題はますます深刻になる。ここでも中国にどう対応するかという問題があり、困難なテーマだ。
・国連改革
米国が強気で押さないと何も進まないということが証明された一年でもあった。それでも数年かかるかもしれない。日本の安保理入りは現在のままでは苦しい。中国は対外的な視線をさして気にしないので、最後の段階でも拒否権を使う可能性はかなり高いと思う。
・ロシア
WTO加盟に向け各国の思惑が交錯。来年の最も主要な国際的テーマの一つとして扱われるだろう。日本は目立たず強力に後押ししている。ただし、ロシアでこれ以上民主化が後退すると、ロシアカードのオプションは使えなくなる。WTOの加盟自体は、中国が加盟している以上、経済的要件のみで満たされるとは思うが。
現在は原油高でもあり、ロシアはある種の猶予期間が得られている。プーチン大統領に貴重な時間が日々経過しているという自覚があるかどうか。この国は個別の外交は洗練されており油断もならないが、大事な戦略的決定を下す段になるといつも失敗する。情報機関が優秀なだけにそれを受けての政治家の決定が哀れを誘うが、来年からの数年間でそれが繰り返されるかどうかが分かるのではないか。
私が世界情勢に関心を寄せるようになってからは長いが、様々な事を知るにつけ、日本は恵まれているという印象を強くする一方だ。明確に世界秩序の受益者であるにも関わらず、それを国民に説明するのには労力が伴う。日本の政党政治に差別化要因があるとしたら、この現状に対し、どの程度の負荷を背負うのを適切と考えるかという事かもしれない。政治路線ではなく、その量ではないか。外交面だとそれは分かりやすいが、内政的にもそうなのだろう。来年以降、日本はそれを模索していくような、そんな気がする。
2005年12月30日
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