キューバのカストロ議長やベネズエラのチャベス大統領と親しいといわれるモラレス氏が大統領に当選したと報じられている。世間では反米大統領と話題になっているようだが、こういう政治的支持は南米地域に限らずしばしば見られるものだ。日本のような国では実感しにくいが、多くの途上国ではその国のエリートは外国の手先のように見られてしまう。感情的な側面もあるので難しい問題ではある。
このあたりの地域は日本からすると遠隔地でしかないが、交通機関の発達した現代なら今少し関心が持たれても良いと思う。あまり知らない人もいるかと思うので、知的な人には蛇足もいいところだがこれを機会にエントリしておきたい。
ボリビアの情報は、例によって外務省サイトをリンクしておくが(参照)この国に関しては歴史に着目するのがより重要と思う。ボリビアは経済的には南米でも恵まれないほうである。大きな原因の一つが内陸国であることだ。海港の経済的重要さは今さら強調するまでもない。日本などはその恵まれた環境を全然生かしてないと歯噛みする思いである。しかしこの国はかつて港湾を有していた。これはチリとの戦争で失っている。インターネットで読めるものとしては別宮氏のサイト内の記述が充実しているので参考になる(参照2)まぁ、チリの侵略戦争と言ってしまって差し支えないだろう。19世紀時点でも露骨な話ではあった。ここで最後のほうに記述されている、現在も交渉中というのは形式的なものではない。日本大使館のサイトにも記載してあるのだが(参照3)、南米の多国間交渉の場などで支持を取り付けようとしている。ボリビアはペルー、ベネズエラ、コロンビア、チリとアンデス共同体(CAN)を作っている。(ちなみに愛・地球博でもアンデス共同館でまとまって参加していた)これはかつてLAFTAで不利な扱いとなっているのを不満に思う諸国が結束したものが前身となっている。またこれがなかなか機能しない集まりなのだが、それでも地域の中核的な共同体であることは事実であって、そういう場でこの「海への出口問題」がしばしば取り上げられる。そしてこの戦争の経緯を考えるとペルーも屈折した思いがあり、チリとしてもそうそう無碍にも出来ないようだ。昔の話をと無視する態度を取ってはいるが。
この件、個人的には何かの協定を結んでボリビアに提供してやったらどうかと思う。立ち上げ時に資金がかかるのであれば、チリにもメリットのある形で港湾や接続する鉄道をODAで整備するとか、まだしもましな使い方のように思うのだが。
さて今回のボリビア大統領選、米国あたりの報道では麻薬云々に注目が集まってしまう。しかし現地的には、率直に言うとそれなりの利益がある商品作物としてしか捉えられていないだろう。需要があるから供給があるだけ、というところか。確かにこれに関しては需要をどうにかするべきだろう。まぁ、米国も色々やってはいるのだろうが、国内的に中南米のイメージが今少し良くない事も問題を複雑にしている。経済的に豊かでない国の普通の行動が先進国を苛立たせるのは日本に限った話ではない。
目玉としてはやはり天然ガスの国有化問題だろうか。一応ワシントンポストの関連記事をリンクしておく。内容としては客観的な見解に徹している。(参照4)モラレスは多国籍企業が搾取しているとの主張をしてきたが、本当にそう思っているのか、しばしば資源国で受け入れられやすい世論に迎合しているのかは微妙だ。実際、私有財産の保護を強調していたりはする。しかし冷厳な原則、ビジネスには投資のための資金と技術が必要で、それを提供した者にこそ最大のリターンがもたらされるという経済の原理を理解しているのだろうか。その双方が無ければ自国の領土内に資源があっても火星にあるのと変わりはしない。その意味でモラレス氏には少しばかり不安を覚える。国際上合法的な契約は、それが確かに力関係上不利と思われるものであっても、それを遵守することからしか信頼は生まれないし、投資環境としての評価も高まっては行かない。中南米諸国はその件に関しては充分すぎるほどの理解を得ているはずなのだが、貧困はしばしば判断を誤らせる。ブラジル企業と良い関係を結ぶことが出来れば少し違ってくるのだろうが・・・・長い時間をかけて関税自主権を回復した明治日本の外交は、やはり正しかったと言うことかもしれない。
2005年12月23日
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