国内の報道は北方領土問題に関心が集中していた感がある。私も可能性は低いながら進展の可能性は多少あるかもしれないと思っていた。実際はお互いの国内事情から原則論を動かすことは出来なかったようだ。では今回のプーチン訪日は何の意味も無いものだったのだろうか。今までのロシア首脳は領土問題の存在のため日本に来た結果が外交の失敗と解釈される事が多かった。ロシアにとって今回のそれはどうなのか。
外務省が今回のプーチン訪日の概要をまとめて発表している。(参照)ここからリンクされている小泉政権下でまとめられた日露行動計画も、読むと今までに無い野心的なものだ。さらりと書いてあるが「戦略的パートナー」という言い回しはここでは必ずしも儀礼的な意味合いでは使われていないと考える。そして今回の訪日でも「成果文書」が重要であろう。これだけの成果が文書としてまとめられるのは、今までの日露の疎遠さを考えると意外なくらいだ。(4)の民間企業の協力の促進など、今までの日本の対応から考えると180度の転換と言えるだろう。その意味で、トヨタのロシア進出は、一部で経済の論理しか考えない売国奴と言わんばかりの報道もされているが、小泉政権下での方針を受けたテストケースというほうがより実態に近いのかもしれない。
そして今回の成果文書で最も重要なのが(5)のWTOに関することであろう。通常WTO加盟では、加盟希望国が主要国に対する二国間交渉を行い、それが妥結することにより加盟に至る。当然米国とEUへの交渉が最重要だが、日本もこの分野で発言力が小さいわけではなくそれに次ぐくらいの地位ではある。かねて予想されていたとはいえ、交渉終了の宣言の意味合いは大きい。
簡単ながら要点をまとめた記事があるので引用する。(参照2)米国、EUとの交渉は必ずしもうまくいっていない。特にここで述べられている航空機産業の問題は大きい。この産業、日本国内に実質皆無に近いという状況から実感は薄いのだが、欧米での存在感は極めて大きい代物だ。ロシアとすれば、主要な工業でそこそこの国際的競争力がある産業は少なく、これを保護したくなるのは無理もない。しかし欧米では身勝手なルールで参入するという象徴的な意味合いになってしまう。当事者にとっては大変な話だ。
その意味で、今回の訪日の雰囲気を伝えるワシントンポストの論調(参照3)は、欧米から見ればこう見えるという典型だ。日本はロシアに対してサービスした、という所か。まぁ、成果文書を見ればビザだ観光だ公務員支援だと盛り沢山でそれはそうだろう。つまり、今回日本がまずはボールを投げた、それをどうするかは今後のロシア次第、ということだろう。今は拉致問題などで日本支持に回って様子見から始める、という所か。なお話がそれるが、以前からロシアによる北朝鮮の予防占領の計画を伝える報道が散発的になされているが、これは可能性が低いとはいえ中国のそれよりまだしも実現性が高いかもしれない。何となれば、中国が日本海側に港を持ち、ウラジオの近くに出てこられることをロシアは極端に嫌がっているからだ。シベリア鉄道の弱体もあり、ロシア極東は海運にかなり依存している事は周知の事実である。
それにしても、領土問題あるが故に原則を譲らなかったイメージを保つことに成功した小泉首相は、誠に政治巧者だと思う。今までの並の首相では、何ら進展無いとして無能呼ばわりされていたに違いないだろうから。
2005年11月24日
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