2005年11月13日

書評を兼ねた近年の中国経済に関する印象

 もう読んでいる人も多いと思うが、今回は山本一郎氏の著作「『俺様国家』中国の大経済」を取り上げてみたい。氏は「切込隊長」のハンドルネームでblog界では有名なようだが、著作という形で読んだことは無かったので興味深くはあった。体裁は整っているが硬質で皮肉な文章になるのかなと予想していたが、フタを開けたらその言い草はblogと同じような勢いで展開していた。もっとも、これは本の帯に「中国13億の民に告ぐ!『愛読無罪』」などと書いている時点で予想できねばならず、その点は私も要反省だ(苦笑)

 それはともかく内容だが、とにかく中国は経済に関する基本的なデータが信用出来ないというのが大前提としてある。で、そういう実体を個々の事例を極力挙げる形で極力説得力ある形で示し、可能な範囲で推論するというのがこの本の基本コンセプトである。事例としては各章で、ファンダメンタル、不良債権、通貨政策、エネルギー問題などを取り上げ、それらに共通する問題点として、統計の杜撰さ、および捏造、党決定の絶対性による硬直性などを様々な事例を紹介する形で示されている。ある程度の常識がある人には「多分そんなところじゃないかと思っていたがやはりそうだったか」という印象になるだろう。ただ、この本はもう少し無邪気に中国に関わろうとしている人々への警告の書であるのかもしれない。文章としてはあの言い草だし、叙述も銀行の決算書が山賊に襲われて決算できませんといった個別のエピソードが面白すぎてエンターテイメント的ではあるが、要所のメッセージは真面目なものである。
 それにしても、私も色々な本を読んでいるつもりだが、およそ経済に関して語る本でこれほどまともな数字らしい数字が出てこない本も珍しい。大学レベルの数学知識は普通必要になると思うが(一般人向けの本でも多くは高校レベルを想定しているだろう)笑えることに四則演算のレベルすら怪しい。著者もそのような事を書いているのだが。

 その他この書籍の内容に関しては読んでもらうしかないとして、感想を交えつつ関連したことに関して述べてみたい。ここで挙げられた中国経済の無茶苦茶さは、実のところ昔から知られていたものである。普通に考えればこういう国が経済発展することはない。では、なぜ少なくとも近年は発展してきたか。それを考えるほうがむしろ重要だろう。これに関しては為替が全てとも言える。ドルペッグ制により通貨の信用を擬似的にドルとリンクさせ、貿易黒字によりドルや円を稼いでいるという事だ。中小企業で該当する業界にいる人は分かると思うが、コスト競争力の関係上、中国に進出しないとそもそも明日明後日の契約が取れないという場合が既に多い。低コスト化の努力をしていない企業とは取引を打ち切る顧客は多い。気楽に「長期的に見れば日本に不利」などと言っている場合ではなく、全く自社の商品が売れずに半年で会社が無くなるかもしれないのである。要は、中国が狙っているのはこういう状況がほぼ経済の全領域で発生することである。そしてこれを脱却するには、ほぼ同時に(できれば業界ではなく国単位、さらに可能なら主要な経済大国全部で)撤退とすることだろう。

 最近のFinancial TimesとかThe Economistといった、海外の経済関係のマスコミの論調が非常に微妙である。日本が中国への新規投資に慎重になり、会社によっては撤退しているところもある。欧州企業はそれを有利な条件で買う事は可能ですよと。可能だけど実際それってどうよ、というニュアンスだろうか。要は、彼らも良く分かっていないという事だ。つまり最後に持っていた者がジョーカーの引き合いのごとく損をする可能性があると。まぁ、フォルクスワーゲンとかは確定組に見えるがどうだろうか。そういえば高速鉄道もドイツということになりそうらしいが、ドイツはまた中国で大損するのだろうか。

 いずれにせよ、中国の経済成長、はどうなっているか分からないとして貿易収支とするが、いつまでも成長を続けるのは不可能だ。それを買う国が存在しなくなるという単純な事実によって。何らかの形で調整が発生するが、それがどう展開するかは誰にも分からない。
 歴史を長期で見れば、日本は20世紀末から21世紀初頭に自国の経済低迷を脱するために中国を使い捨てにした、と悪のほうに分類されるかもしれない。そもそもの経緯として1989年の天安門事件直後、日本が他の欧米諸国を出し抜く形を取ったのは否定できないということもある。少なくとも中国が将来そのように解釈するのはもう確定に近く、仕方ないかもしれない。ただ、少なくとも先進国の間ではそう思われたくないなという気もする。しかし、ドイツやフランスが失敗した場合にはそんな意見が盛り上がる可能性もありそうだ。アメリカやイギリスはきっちり逃げ切るのだろうが。
posted by カワセミ at 15:45| Comment(13) | TrackBack(1) | 北東・東南アジア
この記事へのコメント
最近、中国に関して気になってるのは、現状の経済成長が不可能になったとき、沿海地域がその富を維持するために内陸地域を切り捨てるのか、それとも中華思想、ナショナリズム、共産党権力といったものが強くて沿海地域と内陸地域を一つにまとめ続ける(その代わり経済的には中国全体が停滞する)のかですね。
どっちになるかで、先進国の対応も違ってくると思います。
Posted by Baatarism at 2005年11月13日 23:44
いやそれは地方を経済的には切り離して政治的には一体的な強権政治、とシンプルな話だと思います。貧富の格差の問題は、冷徹ながら富者が問題視している範囲でしか問題にはならないということでしょう。沿岸部の人間の内陸に対する視線は、乱暴に言うと欧州人のアフリカに対する視線と大差ないかと。そして領土的な一体感はまた別の話であって。
昔の農民反乱を引き合いに出して貧富の差から中国の危機を説く人がいますが意味がありません。現代の軍事情勢では、正規軍を「無慈悲に」動かした場合、国民の反乱は全く無力です。民主主義国の常識を前提にすると間違います。経済の話は沿海地域だけに絞った議論としても良いと思います。
政治的には軍の一体性を維持できるかどうかにかかっているでしょう。昨今の中国の陸軍の削減は、近代化が理由というだけでなく、国内要因的にも必須になっているのでしょう。いざという時に管理可能な範囲にしておかねばなりませんし。
Posted by カワセミ at 2005年11月14日 01:08
カワセミさんのおっしゃる状況は、一言で言えば中国では沿海部が内陸部を植民地化しているということだと思います。
しかし植民地というのも割に合わないもので、得られるリターンよりも投入するコストの方が大きいことが多いです。英仏にしろソ連にしろ、最後は帝国主義の維持が経済的に不可能となり、植民地の離反・独立を招きました。(英国の場合は自分から植民地を切り捨てた側面もありますね)
だから中国が内陸部の反抗を抑える軍事力を維持して軍が一体性を保ったとしても、やがて中国は経済的理由によって分裂することになるのではないかと思うのです。その「やがて」がいつごろになるかという問題はあるにしても。
そのような経済的な理屈を度外視しても中国が一体性を保つだけのナショナリズムやイデオロギーがあるのかが、僕の気になっているところです。
Posted by Baatarism at 2005年11月14日 14:50
おひさしぶりです。

中国経済のうち、統計データに関しては複数の筋から「使える」という話を聞きました。
かんべえ氏の中国の統計データに関する一説は確かに正しいものの、だから中国経済に関して全く理解できない、わからない、というほどのものではないそうです。ちなみに、私はここら先の議論には全く無力です。ちゃんと説明できないですから……

中国は潜在能力だけは十分にあります。
中国が数千年の歴史の中で、多くの場合経済先進国であったことを忘れるべきではないのです。
というよりも、潜在能力の高さが多くの問題を吹き飛ばしてしまうとも言えるかもしれませんな。
逆に、ある程度成長した後が問題だ、というのは全くその通り。
現状、何故中国が高成長しているのかといえば、彼らが貧しく技術水準も極めて低いからでしょう。
Posted by おきゅきゅきゅきゅ?? at 2005年11月14日 19:50
>日本は??中国を使い捨てにした、と

何清漣は、共産党支配の延命に関しては日本も大いに責任がある、と既に批判してますね。
Posted by ■□ Neon □■ at 2005年11月14日 22:12
>Baatarism様
植民地というのは、異なる文化集団を支配する場合です。中国は明以降ほぼ統一王朝の状態であり、近世以降分裂が恒常化するほどではありません。歴史的に見ても統一バネは相当強いと見るべきです。むしろ国内での権力の移行に注目するべきでしょう。分裂より短期間の混乱、例えば国共内戦のイメージがまだ近いでしょう。とはいうものの、現代の軍事技術は問題を長期化させないかもしれません。冷酷なようですが、核兵器は国内に撃ち込むことも可能です。
また「無慈悲に」というのが重要なキーワードである事にご留意ください。19世紀の欧州では無差別殺戮は非文明的であると考えられてきました。スペインの植民地獲得はそれほど高コストというほどでもなかったでしょう。旧ソ連も末期はボロボロでしたが、人道的なゴルバチョフの登場までは多くの人が体制の危機と考えるほどではありませんでした。一度固まった専制政治というのは容易な事では崩壊しないのです。北朝鮮が良い例です。分裂するとなれば、それは旧ユーゴのように豊かな地域が搾取されると感じて「自分達だけ独立すればより豊かになれる」と考えた場合でしょう。それは人や金の移動を制限するということですが、それはむしろ今の体制のほうが独立国家よりまだやりやすいかもしれません。

>おきゅきゅきゅきゅ??様
>「使える」という話を聞きました。
そのままそういう言い回しだったのかどうかは分かりませんが、それは正確な表現です。その数字を前提として関係者が動いており、確かめるすべが無い以上ビジネスの現場では「使える」でしょう。またある経済単位内では、外部にツケを回すことによって成立させることも可能です。いずれにせよ誰も分からない、党は絶対というのがキーワードです。
また、中国が経済大国なのは昔からで、近代も現代もずっとそうだったでしょう。その意味ではずっと変わりません。変わったのは欧米日で、恐らく17世紀から18世紀前後のどこかで新しいルールが生まれ、それがこれまでのルールに足され、その足されたルールの重要さの割合が増大し続けているということでしょう。それを理解した国から近代国家になっているのでしょう。そこで重要なことはどんな文化集団においてもコア部分は変わりません。
ところでかんべえ氏ではなく山本氏の間違いですかね?

>■□ Neon □■
そうですね。とはいっても、日本は世界中で同じ事をやってますから。専制政治家を抱き込むのは日本とフランスの得意技と米国が揶揄するのですが、まぁそんな面もあります。少なくとも近隣国の混乱は短期的には不利で、それを避けたいと思うと自然とそうなりますね。混乱したほうがましと考えるとまた別で、それが昨今の日本と言えなくも無いですか。
Posted by カワセミ at 2005年11月15日 22:51
今後、中国はかつてのロシア帝国のような国になっていくのかもしれませんね。沿海部や主要都市では一応近代的な文明やインフラが存在するけど、内陸部では農民が徹底的に収奪され、反抗すれば容赦なく殺戮されるということになると、近代で一番近いのはロシア帝国だと思うのですが。
Posted by Baatarism at 2005年11月16日 18:43
ところで今回カワセミさんと議論して思ったのですが、オーベルシュタインなのは雪斎さんじゃなくてカワセミさんなのかもしれませんね。さすがに核まで出てくるとは思わなかったです。(^_^;
Posted by Baatarism at 2005年11月17日 10:32
カワセミ氏

>ところでかんべえ氏ではなく山本氏の間違いですかね?
私は、山本氏の本を読む気は全く無かったり(と言うか時間がないです……)
で、中国経済の統計がおかしいという話は、
Rawskiの、
ttp://www.pitt.edu/~tgrawski/papers2001/gdp912f.pdf
から知りました。だから、本来はろーすきーのとなりますしそれが一番しっくりきますが、
日本で政治畑系の人々にイチハヤク、コレを伝えたのはかんべえ氏ですな。
溜池通信にいくつか出てますた。

>「使える」
うーん。もうちょっとニュアンスが違っていたと記憶しております。
ちなみに、私が利用可能な中国統計は貿易関連のみ。貿易だけは相手国もあるから安全でつ。まぁ、地球圏には宇宙人との間に貿易収支赤字が存在していたりしますが。
まぁ、修行が足りないんでちゃんと説明できない話ですが。

>中国が経済大国なのは昔からで、近代も現代もずっとそうだった
この点、変わったのは最近のことで、中国だけが地の底まで落っこちました。
アヘン戦争の頃から、中国経済の成長率は顕著に低下しています。
そう言う意味で、変わったのは欧米や日本ではなく、中国なのです。

別に独裁国家でも共産国家でも、経済成長そのものはある程度まで可能だと思いまつ。ソビエトでも可能だったように。経済政策に致命的なミスが無ければ、ですが。
問題なのは、ある程度成長した後のこと。
Posted by おきゅきゅきゅきゅ?? at 2005年11月17日 14:32
>普通に考えればこういう国が経済発展することはない。では、なぜ少なくとも近年は発展してきたか。それを考えるほうがむしろ重要だろう。これに関しては為替が全てとも言える。

貯蓄投資バランスが事後的にせよ貿易収支に等しくなると考えると、過剰投資と思われる中国が大幅な貿易黒字を出している不思議さは、非常に過少評価されたレートでの出血輸出ということ(実は貿易収支は赤字)とかんがえるべきなんでしょうか.あるいは、実は中国経済は多重構造で、ある地域は過剰貯蓄のある種の黒字国家で、他の地域は過大なレートで搾取されている大幅赤字国家、全体としては実はあまり成長していないと見るべきなんでしょうか.
 日本が高度成長期に貿易赤字に苦しんだという事実からみて、中国の現在の成長がどうも不思議です.結局、貯蓄も投資も外国資本の割合が大きいと考えれば合点はいきますが.
Posted by M.N.生 at 2005年11月17日 16:00
カワセミ氏

日本企業は批判されるべき、という意味ではなくて、すでに反体制派は日本を叩く方が効果的だと思ってるんじゃないかな、というか、風向き観測というか。

一方で、反体制派ではなくてはっきり言って体制派、莫邦富のコラム。

>日系企業よ、安い労働力追求主義から脱却せよ - nikkeibp.jp - 莫 邦富の中国ビジネス指南
<a href="http://nikkeibp.jp/style/biz/marketing/china_biz/051114_dakkyaku/" rel="nofollow">http://nikkeibp.jp/style/biz/marketing/china_biz/051114_dakkyaku/</a>

中国側の言い分はそうだろうけど、営利追求するのが企業の目的。仕事を仕込んで使えるようになったらハイさようならのジョブホッピング労働市場では日本企業の立場も当然ではないかと。

問題は大企業に引っ張られて中国進出した中小企業でしょうねぇ。
Posted by ■□ Neon □■ at 2005年11月17日 16:57
> M.N.生さん

実は中国は過剰貯蓄であるが、その多くが隠されていて統計に出てきていないというのが、僕にとっては一番合点が行くのですが。
貿易黒字はとりあえず信用できるはずですし、財政赤字は少なくとも中国政府発表以上であることは確実ですから、貯蓄投資バランスは本当は貯蓄過剰だけど、政府がきちんと貯蓄を把握できていないということだと思います。
そのような隠れた貯蓄は、ひそかに闇経済や国外に流れているのでしょう。
Posted by Baatarism at 2005年11月17日 18:13
>Baatarism様
いやまぁ、先方の実態がそうであるというのを忘れてはいけない、というだけの話ですから。今となっては米国含めて世界の民主主義国共通ですが、専制政治の国では何でもありです。ちょっと今すぐ資料が出てきませんが、中国の場合ミサイル基地は比較的北京に近いところにもあったと思います。切札温存の感がありますが、偶然ではないでしょう。

>おきゅきゅきゅきゅ??様
貿易関連なら使えますね。それでも貿易相手国によってはどうかとも思いますが。
また中国の成長率ですが、清末から国共内戦のように国内が混乱していれば成長率が下がるのは当然でしょう。古代や中世では王朝交代期に人口半減とかある国なので。むしろ租界とかがそれなりに機能していた大正や昭和初期は少し良かったかもしれません。
また、ある程度まで成長が可能なのは、単純な物量投入型の投資が有効な範囲までですね。そこから先が問題なのはおっしゃる通りですが、そこがどこかというのが国によって随分違いそうです。

>■□ Neon □■
なまじ日本は近いというのが効いていますね。
例えば米国に工場を建てるとなれば現地の国内企業が参考になりますが、中国だと国営企業が無茶苦茶なので。一方欧州企業は遠隔地に知的産業のベースを置くという側面もあり、給与も働き次第で上げることもあるのでしょうが、日本企業の知的インフラは多くが国内で済んでしまうと。中小企業は何もかもギリギリのところで綱渡りしているのが多いので、簡単な問題ではないですね。欧米だと中小企業は進出することがそもそも難しいので問題が少ないのでしょうか。

>Baatarism様
>M.N.生様
闇でドルにされている人民元は相当な額のようです。貯蓄率もやたら高いようです。多分その考えで当たりでしょう。また思うに、米国の51番目の州で、やたら低コストで知的所有権もあまり気にしないでいい地域があったらそこに企業は集まるものだ、と考えれば一番単純に理解できるかもしれません。と言う事は、我々の見えない所で多くの現地の労働者にしわ寄せしている限りは当面継続するとも思えますし、どこまで継続するかは米国の容認次第、とこれまた単純な結論となりますが。
Posted by カワセミ at 2005年11月19日 00:15
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