話題性には乏しいが、なかなか興味深い面もある内閣改造だ。少しばかり触れてみたい。小泉首相の改革を競わせるという言は確かに本音のようである。
官房長官の安部氏だが、これは官邸主導の現在重要なポストではあるが、悪い言い方をすると監視がしやすいという事でもある。失敗したときはひどい事になるが、これが勤まるようなタフさがないと将来の首相になるのは難しいという事だろう。細部に至るまで内外から厳しく評価されると言う意味では、私は米大統領選の予備選のイメージを抱いた。
中川農水相だが、この人の配置などはなかなか象徴的だ。元々農水族と言えるが、経産相時代にFTA関連をやらせて、その上で農水相にしてお手並み拝見というのはやるなと思う。小泉首相は農政改革も念頭においており、農協などをどうにかするつもりなのかもしれない。
個人的に興味深く思っているのは竹中総務相だ。これはテレビ局などの既得権益改革の意図があるのではないか。最近の総務省は昔と違って放送局の権益をむしろ嫌悪している傾向がある。細かい話かもしれないが、デジタル放送におけるコピーワンスの見直しとか(正直大歓迎だ)IPによる再送信とか、デジタル放送普及を大義名分にして色々崩しにかかっているという印象がある。竹中総務相で加速させるのかなと思う。
そして、外相ポストについて述べてみたい。これも特徴的だ。自分の任期終了に近付くに従って党での発言権が強い人物を配置していっているという印象だ。今は官邸主導だが、次政権からは改革された外務省として頑張ってくれないと困る、というところだろうか。
町村外相が外れたのは非常に惜しい。私は戦後の外相の中でも氏の能力や見識はNo.1かそれに近いと思っていた。小泉首相以上に欧州直系の外交の伝統を有しているように思える。官僚出身の割に外務省的でないなと思っていたら、同窓だったという別宮氏の言によると(過去ログページ、要検索)ドイツ中世史の権威であるという話だ。それはかなり腑に落ちる。ドイツ的な学者肌の政治家と表現できるかもしれない。ところで小泉首相の政治的ポジションは以前のエントリ(参照)で少し書いた事がある。非伝統主義者という側面は、今回の自民党憲法草案でも中曽根氏の保守色の強い前文をあっさり却下している事からしてもあまり外れていないと思う。そして現在の自民党の政治家で町村氏は立場が近いほうだろう。立場が近いからこそ不要と見なされたのかもしれない。立場が近く、自分より優秀かもしれないから嫌ったと言う事はないと思うが、小泉首相に悪意ある人はそう解釈するかもしれない。靖国参拝とかで立場は違うが枝葉末節だろう。歴史認識も近いと思われる。
麻生氏になると日本の伝統的な保守主義者の色も強くやや毛色が違ってくる。しかし頭の悪い人物ではなく、政局に対する判断力もある。お手並み拝見としか言いようがないが、期待されているのはまさに外務省内部のコントロールだろう。町村氏に弱点があるとしたらそういう部分かもしれない。安保理常任理事国を巡る国連外交などは良い見本だ。町村外相本人の認識は正しくても、変な部下に好きなようにやらせてしまった。その意味での責任はあるだろう。
小泉首相の「10年、20年、30年・・・」という発言(参考blog)が一部で話題になっているが、中韓とは当面とにかく距離を取るというメッセージでもあり、麻生外相起用はその延長上のメッセージでもある。また対米外交は当面官邸主導での余裕もある。つまり「外務省」でありながら当面は国内改革に専念するという面もあるのではないか。今に限り、それもまた賢明だろう。この一年はかけがえの無い最高のチャンスであるからだ。麻生外相はその時間を生かせるのだろうか。
2005年11月01日
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幕引き内閣
Excerpt: 小泉政権の最後の内閣が発足した。小泉首相の予告通り、後継者と目される人物には重要ポストが割り当てられた。まず、官房長官を拝命した安部晋三氏だが、内閣の顔になったことで、ポスト小泉の最有力候補に踊り出..
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参拝しなかった」と述べていたのが、NHKにて
流れていたのを記憶しております。外相の職を
離れた今、適切な機会にご参拝なさることで
しょう。