プーチン大統領の来日が11月に予定されている。領土問題の進展に関心が集まっているが、普通に考えると困難だろう。しかしながら、ここ最近は今までなかったような微妙な反応が出てきているので取り上げてみたい。
この領土問題そのものに関しては、以前にエントリを上げている(参照)のでそちらも参照して欲しい。本質的には主権の問題というのがポイントである。これは実のところ日露双方とも立場は全く同じで、いずれも多少の経済的な負担をしても主権を維持したいと考えている。そのため本質的な対立があり、なかなか進展しないのだ。
その認識の前提に立てば、ロシア側から出てくる意見は首尾一貫している。例えばプーチン大統領の意見は何度も報道されているが、一貫して主権に関しては譲らないし、現地への投資を行っても立場を強化しようとの意図だ。資源などをネタに、政治経済各方面での見返りで日本に譲歩を促すとのやり方は、実際伝統的に日本側が模索している考え方と同様だ。最近ロシアの研究機関の提言として報道されている内容も、それよりは大胆ながら考え方としては同じだ(参照)。択捉・国後では経済活動を認める一方、主権の問題としては50年間凍結するとしている。主権が問題なのだからそれは解決とはならないのだが。いずれにせよ日露の立場は近い。両国は政治文化の土壌も似ているのかもしれない。欧米文化に対する距離の取り方などは特に該当するところだろうか。
また日本として頭に置いておいたほうがいい事として、欧州の伝統的な立場の微妙な変化である。欧州議会の決議に関しては以前のエントリでも扱った(参照)以前サミットで日本が北方領土問題を取り扱い、欧州から冷淡な扱いを受けたことは覚えている人も多いだろう。その時点から変化した事は何かと言えば、東欧圏へのEU・NATOの拡大である。今回も領土問題が政府の公式な見解として継続しているエストニアやラトビアの意向があるのは間違いないと私自身は思っている。独力で力関係上不利な小国がこの種の組織を活用するのは常套手段だ。もちろん日本に協力を求めることもあるだろう。ただ、この付近は日本側とすれば判断するべき重要なポイントになる。
ロシア側の伝統的な立場を考えると、第二次世界大戦での結果を見直したくないというのは絶対条件に近い。現実の国境線がどのくらい変わるかというのが問題ではなく、政治的に大きな環境変化であると見なされてしまう妥協が出来ないということだ。もちろん、過去を振り返ればいろいろな問題が出てくる東欧や中央アジア方面の問題が主軸となる。この点で、北方領土の二島返還は日ソ共同宣言もあることでもあり、従来の環境の微調整で処理可能なのだろう。しかし択捉・国後はそうではない。ともかく日本側も宣伝し過ぎた。二島返還を目指すのであれば問題の国際化は有効だが、四島返還を目指すのであればむしろ問題の矮小化が必要であった。この件は現在の日本政界では理解されていそうであるが、勿論手遅れである。中国はこの矮小化に成功して領土問題を解決できたと私は考えている。
それ故、日本が東欧の国境問題に対応するときには決意を固めなくてはならない。手遅れながらも問題の矮小化により、ロシアの他の国境問題に波及しないような路線を選択するのか、あるいは欧州とも連携し、アメリカのヤルタ体制批判メッセージとも合わせ、やや大規模な見直しをロシアに求めつつ進めるのか、どちらの路線を選択するのかという事を。どちらで対応するかによってシナリオは全く違う。この事を頭に置き、いずれかで首尾一貫しないとまとまる交渉もまとまらないだろう。
2005年10月22日
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ところで北方領土の帰属問題の解決は日露関係改善の前提条件なのでしょうか。個人的には領土問題の解決が困難であるならば、棚上げにしてでも日露関係改善を進めて欲しいところなのですが。