2005年08月27日

イラク民主化の混迷に思う

 憲法起草での厳しい交渉が連日報道されている。クルド勢力とシーア派の妥協は成立したように思われるが、スンナ派の取り込みには苦労しているようだ。簡単に論じられる問題でもないが、いくつか感じたことを書き記してみたい。

 本来、スンナ派はアラブ人という事でシーア派勢力との共通点があり、スンナ派という事でクルド勢力との繋がりがある。クルド勢力は一般に思われているより政治の現実に対する柔軟な対処能力があると見られ、フセイン政権下のイラクでも制限は多いもののそれ相応の自治権を確保してきたようだ。そのため、クルド勢力はフセイン後はスンナ派主導の旧来のイラクからシーア派主導の近未来のイラクに鞍替えしたと見れないことも無い。これに旧来一定の受益者と見られてきたスンナ派が反発しているという構図だろう。スンナ派は学歴の高い層が多く、知識人的な反発傾向も他地域より強いようだ。しかし旧来の行政機構を極力保ったまま連邦制に移行するのは恐らく現実解だ。そして安全保障や外交面では極力一元化を残すと。確かに軍事力も含めて極端に地方分権を進めると民族浄化発生となるのは世界の多くの地域で証明済みで、とりわけ注意を払う必要がある。国家建設方針におけるこのような原則は米国ではかなり早い段階から提言されている。代表的なものはこの付近で、内容的にもイラクでの現在の試みと多くの共通点がある。

 むしろ今までの段階で、治安維持といった汗を流す行為を米軍頼みにする構図がかなり早い時期から発生しているのは興味深い。日本や西欧的な近代ナショナリズム感覚だと理解しにくいが、世界的に見れば治安維持行為は時の政府の大きな負荷の一つで、自分たちの権力に問題がなければ手を抜きたくなる分野の一つだ。米軍関係者から撤退も選択肢の一つだと牽制発言があったのもそれを受けている。権力者は権力に伴う義務を果たさねばならないが、それをきちんと果たせということだろう。それをそれなりに果たしてきた歴史を持つ国が今日先進国といわれるのかもしれない。これが日本や西欧などだと、この種の安全保障上のアウトソーシングは、国際的な治安維持や核の傘といったもう少し高いレイヤで発生しており、比較するのは面白いかもしれない。

 イラクでの暴力が深刻だというのは様々な形で報じられている。しかし米国のメディアも含めて、もう少しバランスの取れた報道が欲しいようにも思う。例えばインドなどは典型かもしれないが、選挙になると死人が出るというのは世界的に広く見られる現象だ。今回もそして今後も、政治的イベントに伴う混乱は発生する。イラクは長い時間をかけてその度合いが減少していくと見られるが、現在の短期的な情勢に一喜一憂する報道では大局が見通し辛くなっているだろう。かといって米国のメディアを批判しても、興味は国内的な事情から来ている以上、仕方が無いのだが・・・・
posted by カワセミ at 12:49| Comment(3) | TrackBack(0) | 西南アジア・北アフリカ
この記事へのコメント
基本的にカワセミさんの論旨には賛成です.2点ほどコメントを.
イラクの現下の治安悪化を、本来的なアラブ.イスラム社会の国家形成の不可能性と繋げた論調がよく見うけられる.29日の日経朝刊にも「イラクは英国が人工的に作った国だから云々」という主旨のコメントがあった.アメリカのイラク民主化作戦を揶揄する人(米国内も含め)にこのような意見を言う人が多いようだ.だが、これは歴史認識においても又統治論においても、バイアスがかかりすぎてやしまいか.実際、中東では一九世紀後半から(西洋的な意味とは異なるものの)国民国家形成の動きはあって、エジプトではかなり進み、イラクはそれに次いでいる.昨今の日本のイスラム解説は、ともすればイスラムといえば宗教原理がすべてに優先して国民国家形成の動きを軽視しているようにみうけられ、バランスを失しているんじゃあないでしょうか.(アラブ.イスラムに共感的な人ほどこのような傾向があって失笑させられる)
もう一点.アメリカの論調を日本で引用する際に、その論調がほとんどアメリカの国内事情から来ていることを肝に銘じておく必要があります.このへんを理解するには、結局多面的な不断のアメリカ理解が必要と感じますが、日本のジャーナリズムは、(私見ですが)このへんがますます弱くなっているように思います.
Posted by M.N.生 at 2005年08月29日 11:05
うーん。基本的には賛成と言えば賛成なんだけども。
イラクを占領したのはアメリカとその同盟国達で、イラクの治安を確保するのは彼ら(というか我々)の義務ですよ。旧イラク政府は、なんだかんだあって崩壊しちゃったし。
はっきり言ってこの点では、我々はまったく及第点の働きを出来ていないでしょう。
イラクで反米感情が渦巻いているのもある意味当たり前。

せめて、2003年中にあったいくつかの問題のうち、どれか一つでも解消できていれば、、、
イラク侵攻のときにトルコからの侵攻路を確保できれば、あるいはイラク占領後1ヶ月で充分な占領のための兵力をイラク入りさせることが出来ていれば、その後の経済援助を円滑にやっていれば、

まぁ、済んだことですが。現状ではイラク国民の中にテロを援助している人間がおり、その為にアメリカ軍・イラク軍は極めて苦しい戦いを強いられております。だから現在のイラクは崩壊するとは思わないけど。やり方によってはイラクをもっと良い状況に出来た筈です。
やっぱり、占領兵力過小の問題が大きかったですよ。現在の状態では長い期間に渡って地道に努力するしかない。
そう言う意味では、日本には(ついでに私にも)覚悟が足りていなかったし、なによりアメリカ政府も同じように中途半端に仕事をしていたと思いまつ。今更言ってもしようがないことですが。絶望するほどじゃないけど、失望するレベルではあるかと。

で、一番日本にとって辛いのは、アメリカの軍事力が、イラクのおかげで低下してしまっていることでしょう。
アメリカ陸軍は、イラクにおける占領で一万人くらいの死傷者(と言っても、かなりの割合で負傷を癒して戻ってこれるでしょうけど)を出しております。
さらに、ここ数年以上に渡り、イラク占領のために兵力を貼りつけざるを得ないでしょう。
当然、中東以外の国への影響力は減少しかねず、これが現状のバランスを少しずつ動かすことになってしまうかと。
一言で言えば、イラク侵攻のようなことを今後行うには、アメリカ国民による支持が前回以上に必要になるということです。
アメリカ軍は将来的にも動きにくくなるでしょう。程度問題だけど。あんまり望んでなかった未来だなぁ。。。
ラムズフェルドの動きもちと不安だし。アメリカ陸軍はどうなるんだろう。RMAも良いけどよぉ……(こっちの方が懸案か(ハァ
Posted by おきゅきゅきゅきゅ??@また長文…… at 2005年10月07日 11:19
以前のエントリへのコメントも歓迎です。有難うございます。

イラクに関してですが、現状は治安の良い部分と悪い部分が比較的分かれてしまった感があります。そして奇妙に先進国的な基準を当初から想定し過ぎてしまったのではないでしょうか。例えばアフリカの途上国の一部で見られるように、都市部は最低限何とかなっているが地方は無政府状態、というのが中間解としてあっても良かったように思います。兵力不足は、無いものは出せないとしか言いようが無いでしょう。英国が10万人、日本が1万人の治安維持兵力を準備できないのと同じ理由で。だからやるべきでなかったという意見もあるかもしれませんが、私はその意見には与しません。それは悪い政治というものがどれほど悲惨なものであるかを実感できなくなった人の意見でしかないと思うからです。

ちょうどといいますか。似たような事を書いて最近話題になっている論文があります。ここではオイルスポット戦略と称していますが、要所を押さえろという論旨には賛成です。
<a href="http://www.cfr.org/publication/8847/how_to_win_in_iraq.html" rel="nofollow">http://www.cfr.org/publication/8847/how_to_win_in_iraq.html</a>

日本語訳は今発売中の「論座」に掲載されていますが、なぜか英文の本当に最後の一文が略されているのが疑問です。議論を呼ぶ内容ではあるのですが。
Posted by カワセミ at 2005年10月10日 00:51
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