2005年07月12日

対北朝鮮問題に関する提言(補足)

 対北朝鮮政策に関する提言を書いたが、その後Cirincione氏のこのインタビューを読んだ。前半部分の日本語訳は現在発売中の論座に掲載されている。重要な点としては、米国の対北朝鮮政策が固まっていないのは政権内で路線対立があるからだというらしい。すなわち、核開発を止められれば良しとするか、核開発だけが北朝鮮の問題だけではなく、政権交代策を含めて検討するべきかという事だ。これに関して少し書いてみたいと思う。

 基本的に私の意見は以前のエントリと同じで、6ヶ国協議は破綻しているという考えだ。外交交渉の場としては、手を尽くしたが失敗したという形を整えるためのものと考えている。そして米国の政権内で路線対立があるという事は、日本が軍事的な内容も含めた実質的な負担を負うという決意も含めて意見を表明すれば、その路線決定にかなりの影響力があるという事も示している。政権交代策が適切だというのはいくつか理由がある。

・核兵器開発意図の強さ
 クリントン政権の時の失敗でも分かるが、通常兵器に大きく劣る北朝鮮が核カードを欲しているのは切実感がある。これはむしろ米国のような軍事大国が理解し辛いことかもしれない。あのような途上国は、核さえ持てば日頃うだつのあがらない状況を大きく改善できると考えるものなのだ。

・核兵器開発が仮に停止された場合
 それほど強い意図を持っている限り、かなりの見返りが無いと停止には応じないと思われる。しかし高い確率ではないが、周辺諸国が安全保障面での一定の保証と経済援助を約束した場合は核開発の停止に応じる可能性がある。しかし、あのような閉鎖国歌を完全に査察し切れるものだろうか?10年経過したらまた問題が発生という事にならないか。そしてそれが決着したとしても、通常兵器でソウルに対して脅威が存在している事実は変わらない。そのせいもあり韓国が北朝鮮への攻撃を止める構図もあまり変わらないだろう。そして核開発の停止により安全保障面での一定の保証を得たとすれば、麻薬や偽札といったアンダーグラウンドなビジネスはこれまで以上に展開するだろう。つまり、核開発以外の現在の問題は相変わらずということだ。

・他国への悪影響
 パキスタンに核武装を認めたことによる悪影響は既に述べた。核開発を断念させたとしても、それにより一定の報酬が得られるというのは実に悪いメッセージになる。

・拉致問題など人権問題の停滞
 これは言うまでも無いが、政権交代以外では容易に解決しない。安全保障と人権に関する基準が抜本的に変化するのは、専制政治においてはその大半が指導者の交代でしか実現されない。この意味で、政権交代策以外に拉致問題の解決は難しいという事実を、日本の指導者はいずれは率直に国民に伝えるべきだろう。今はタイミングが悪いかもしれないが。

 拉致問題は広範な人権問題の一環として処理されるべきであるが、現在の6ヶ国協議はそれを扱うのに適切な場ではない。何しろ事実として機能していない。再開されるという報があるが、短期的な合意があったとしても最終的な解決には至らないだろう。そのため、この協議を関係国のメンツが潰れない形で収束させる必要がある。例えば中国に今までの外交に要した費用云々の名目で資金を渡して、今後の政策の黙認を促すべきだろう。それは実質的に北朝鮮難民に関して中国領で人道的な扱いをするための費用として使われることになるかもしれない。
 欧州諸国に関しては、ユーゴ紛争の時のアプローチをより反省を踏まえて洗練化させた提言をするべきだろう。北東アジアの政治的緊張という点に関しては、仏独あたりと米国との亀裂を修復するという政治的要素も念頭におきつつ、PKFに近い性質を持つ治安維持部隊を国際組織として作って、政権交代後の安定策の一つとする。ここには日本も加わるが、フランスあたりに絡んでもらうと良いだろう。アフリカ等でドライな治安維持任務には経験が深い。小規模な部隊でもいいので、ロシアあたりに入って貰うとなおいいだろう。北朝鮮に関しては、イラク型の戦後の混乱は薄いだろう。割とすんなり新しい政権に服従すると思われる。この種の事前の出口戦略を策定しておく事により、軍事オプションの発動に至る際の外交的摩擦を低減させることが出来る。(逆に、イランに関しては日本のアプローチも有用ではある)

 軍事オプションの目標は脅威除去に関しては専門家の方策を取り入れることになるだろうが、金正日個人とその周辺の重要人物以外の罪を問わないというアプローチをして、中核部分の除去をすることに注力する。政治的には「金正日が悪かった」という形での解決は可能性が充分あるからだ。もちろん民間人への攻撃を極力回避すべきなのは言うまでも無い。
 北朝鮮問題に限らないが、概してアジア政策はG7などを中心とした欧米経由で固めて実行すると大体はうまくいくのである。この付近が結束する場合と、米国単独で行動した場合のロシアや中国の過去の政治的反応を考えると参考になるだろう。

 ただし、このような基本方針を立てても、中国の不介入という確約が取れたとしても一定の犠牲は発生する。それを何より日本が飲めるか、飲めるとしたらどの程度かというのが国際的に見ても問題の核心のように思う。今回は米国は頑張ってもらうとして、それ以外の有志連合諸国はその大半が後方支援として安全な場所で働いて貰わねばならない。政治的にはそういう事は必要だし総合的に考えれば有益だからだ。そうなった際の日本は多少は米国の気持ちが分かるようになるだろうし、政治的成熟を遂げることになるだろう。
posted by カワセミ at 02:27| Comment(4) | TrackBack(2) | 北東・東南アジア
この記事へのコメント
 金正日の個人的保証をおこなわずにだれと交渉するのですか?北京は、金正日を除外した交渉ルートもっているのでしょうか?わたしには、そうはみえません。中国人に渡した金はどこへ行くのでしょうか?拉致被害者の身代金は、中国人の介入によって暴騰する想像に恐怖を感じる。北鮮に駐留するロシア兵は、なにをはじめるのでしょうか?日露戦争以来のこの地域の歴史的事実を、参考にしたほうがいいと思う。
Posted by 罵愚 at 2005年07月12日 03:30
 トラックバックをありがとうございます。
 北朝鮮情勢は、もしかしたら日本が「普通の国」になるための知的鍛錬の機会を提供しているのではないかと最近、思い始めています。
Posted by 雪斎 at 2005年07月13日 01:03
>罵愚様
ロシアはウラジオの近くの海側に中国が出てくるのをとても嫌がっているようです。極東ロシアが海運に頼っている程度はかなり大きいので。金正日個人に関しては、アフリカのいくつかの国であったような亡命で決着の可能性もそれなりにあるかと思っています。

>aki様
初めまして、宜しくお願いいたします。
マイペースなブログなのでその旨ご承知おきください。ただ、コメントをいただければ可能な範囲で補足することは可能です。説明するのが困難な場合は率直にそう言うつもりです。また労力としてちょっと厳しいという言い方になるかもしれません。例として挙げると、以前「西欧の芸術の伝統では、政治と芸術は無関係とはいかない」とコメントしたようなものがあります。これは確実なことなのですが、正直説明は難しいし、頑張れば可能かもしれないけど私には一冊の本を書くような労力を必要としそうです。(もちろん、より優れた人間は数行で納得させられるのかもしれません)そんな箇所があるのは自分でも分かっていますが、正直扱っているテーマ自体が重いので手に負えない部分も多いというのが率直なところです。ま、そういうことを労力を惜しまず地道かつ穴が無いようにやるのが本職であり、プロフェッショナリズムって事なんでしょうけどね。

>雪斎さま
いつもお世話になっております。
私もそのように思います。ちょっとどこで目にしたか忘れたのですが、ブレア首相に小泉首相が拉致問題の説明をした時に「その件は了解した、日本を支持する。ところで日本はこの問題をどのように解決したいのか」と返答されて答えられなかったという話があるそうです。(情報ソースの確認が取れないので捜索中ですが)確かに日本は答え辛い状況です。迷いがあるのでしょう。アメリカも迷っています。他の民主主義国も当事者意識があれば迷うでしょう。しかしそういう中で回答を探す作業自体に価値があるのかもしれません。そして日本の腰が定まらないと、米国の方針も決まらないのではないでしょうか。少なくとも自国の事を棚に上げて米国の指導力の無さをなじるような態度とは一線を画したいと思うのです。
Posted by カワセミ at 2005年07月13日 21:22
カワセミさん、こんにちは。愛・地球博、私も行きたいと思っていますが、暑さと混み具合が心配で決めかねております。
日本がまずどうしたいのかを決めて同盟国と相談すること、これは本当に大切なことだと思います。かつて「日本は顔が見えない国」と言われていた背景には、この主体性の不明瞭さが一つにはあったと思います。昨今の国際社会の日本に対する評価の高まりには、日本がどういう方向に向かいたいと考えているのか、少なくともかつてに比べればはっきり見えてきた面があるからと思います。
イラク、米軍再編、現在日本が直面する全ての重要なイシューにこの主体性の重要さは共通します。もちろん、これらの問題については、政治的な困難さから、分かっていてもそれができない(あるいは表に出せない)事情もあるわけですが、少なくとも、その問題が先に進まないとき、同盟国に責任転嫁するようなやり方は避けるべきでしょう。
英国と拉致との関係で言えば、森総理の第三国での発見案のリークを思い出しました。拉致のような高度に政治的な問題には、裏交渉を避けて通ることはできないと私は思います。それを政府としては表向き決して口に出せませんし(表に出た瞬間すべては崩壊します)、私たちも知るすべはありませんが、これほどの特殊な問題には、そうした打開策を模索することもあり得ることを、少なくとも理解するべき(許容できるかは結果によりますし、個人差もあるでしょうが)と思います。
Posted by やじゅん at 2005年07月15日 00:04
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