郵政民営化で世の中は騒がしいが、大多数の国民は無関心のようだ。それ自体は大衆の健全な感覚だと思う。ただそれはそれとして、日本のマスコミの経済政策に関する議論は実に粗雑なものだ。別に安全保障に関する議論が粗雑でないというわけでもないが、陰謀論の類なら重視するポイントが違うだけという弁護も可能だが、それどころか全くの出鱈目ということもある。一定の知的思考が必要な分野にテレビや新聞が向いていないということもあるが、それでも欧米のマスコミはそこそこにはやっている。
経済学部卒というような出身でない、経済を専門分野としない知識人に対する良質な手引書はなかなか少ない。結局その筋の学問をきちんとやるしかないのだろうが、ポイントを簡単に押さえたいという向きはあるかもしれない。その場合は、多くの人が推薦している田中秀臣氏の「経済論戦の読み方」がやはり適しているだろう。著者の見解が全く無いというわけではないが、極力客観に徹しようという努力は見て取れる。
いわゆるリフレ派の見解が最近は優勢なようだ。もっともこう単純に分類して良いものでもないので具体的にいうと、スティグリッツ氏、クルーグマン氏あたりの見解が合理的ではないかということだ。(もちろん、安全保障に関するクルーグマン氏の見解には全然賛成しない(苦笑))私も条件付きながら両氏の見解の妥当性が高いと思う。著作は数多いが、クルーグマン氏の方が入門的なものも多くて読みやすい。様々なブログ、可能なら米国の大学のサイトあたりで情報を収集して対応することをお薦めする。もちろん日本のマスコミは完全にスルーしたほうがいい。
金融政策を重視する人に多いかもしれないが、概してこの種の見解に賛同する人は頭のいい人が多い。知的に詰めていくとこの種の結論に落ち着くということだ。これまでの歴史的経緯に関する解釈、現状に対する認識、それらを説明するための妥当性は極めて高いだろう。しかし、ではどのような政策を取ればいいかとなると、出すべき結果は分かっているにしても、提言される具体的政策で必ずしも成功するとは言えないと思われることが多い。そもそも日米のような経済大国の国民が決して合理的には行動しないという事もある。
とにかく、主要な先進国がこれだけの規模でデフレ対策をしなければならないというのは、近代の記憶として少し薄いものがあり、そのあたりも政治の論理が付いていけない理由の一つだろう。個人的には、恐らく90年代以降の生産性の伸び、特に供給側が提供する数字に現れにくい部分での伸びがそれまでよりかなり向上しているのが原因ではないかと思っている。これと先進国での少子高齢化の2つが主要な要素ではないか。生産性の伸びの原因は情報通信革命であろうし、世界的に見た教育水準の全般的な向上だろう。中国はデフレの原因というよりむしろ結果に近い位置に存在しているのではないか。
まぁ、私自身経済に明るいわけでもないし、直感的にそう思っているという程度のエントリではある。
2005年07月04日
この記事へのコメント
経済政策に関するマスコミの議論が粗雑であるということには同意しますが、まだちゃんとしたテキストや解説書が書店で得られるので、その解毒剤にはなりますね.クルーグマンの本も良いし、ちょっと専門的だがバグワティのグローバリズム擁護本も一読の価値在り.私が絶望的になるのは科学分野、特に地球環境問題の分野です.これは本当にどうしようもない議論があって、しかも中和剤になるべき一般書もない.はっきり言ってレスター・ブラウンなんかトンデモ本の部類ですが、これがまじめに受け取られている.もっと悪いことに、この手の地球環境悪化に関する本を読んで問題意識を持っていることが何か免罪符になってしまって、実際的な解決策がかえって阻害されてしまうことさえあると感じますね.地球環境問題は実は国際政治学の問題でもあるという割り切りが一定程度あればいいんですが、なまじ科学的衣装をまとっているから余計に環境主義者に対する反論は不毛になってしまう.なにかいいアプローチはないものでしょうか.私は大学学部は理科系(エネルギー化学専攻)だったものだから余計に気になります.
Posted by M.N.生 at 2005年07月08日 10:50
この手の話題があるたびに英語圏なら何とか、という結論ですね。やはり日本は教師の国ではなく生徒の国なので、賢明な人々は静かにしていてあまり発言しないことが多いせいですかね。長期的にはエリート層(頭のいいほうから数えて2割くらい?)への徹底した英語教育強化で知的な問題の多くは解決するように思います。
Posted by カワセミ at 2005年07月08日 23:40
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