2005年05月21日

戦後の日本政治の変遷と安全保障政策の今後

 不思議と世界的に歴史問題がクローズアップされる時期である。欧州では現在に近い歴史として、第二次世界大戦後の変遷も注意深くはあるが論じられている。冷戦終結というインパクトも日本とは比較にならない。日本では1945年から同じような安全保障環境が続いてきた錯覚さえある。では政治的にはずっと対米従属を継続してきたと言えるのか?やや偏見が混じるかもしれないが私の考えを書いておきたい。
前回のエントリではロシアとの領土問題を取り上げたが、第二次世界大戦後しばらく、少なくとも鳩山政権の頃までは、対米一辺倒という志向はむしろ薄かったと言える。その後しばらく政治的な論争も継続した。政治路線として米国との同盟を日本人が最終的に選択したのは、1960年の安保改定の時だろう。
 その後ニクソン政権が日本に与えたマイナス面は多かった。現在伝えられているところによると、佐藤首相との個人的相性は最悪に近かったという話だ。首相の米国大統領との個人的な信頼関係が案外外交に効いて来るのは後に中曽根氏、小泉氏が証明するが、実はかなり昔からの話だ。これは日本国内の世論の屈折にも繋がる。その後の日中関係の急進展は、頭越し訪中の意趣返しのような気分が日本にあったせいでもある。ただアジアの連携で米国に対抗、と本気で論じる人間は実に多かった。日中国交正常化が1972年だが、この事実を考えると、日本が対米一辺倒で外交を継続した時期はせいぜい10年強と見なすことすら可能である。日本人のナショナリズムは昔から変わらず強いままで、政治の場では常に代替策を模索し続けてきたとは考えられないだろうか。
 そして現在に至るわけだが、対露関係は停滞したままで、日中関係はご存知の通りの情勢だ。国連外交が多国間交渉での道義的立場の維持という側面があり、特に安全保障関係では実質的意義が薄いことにより機能し辛いことを考えると、日米同盟を中心とする以外の政治的模索は常に敗退してきたと言える。これは日本が集団的自衛権を行使していないのが主な原因である。以前のエントリにも書いたが、兵士を危険に晒すということの政治的価値が増大している以上、一方的な関係をそれなりに容認する唯一の例外である米国以外との関係が構築できないのは自明だ。この当然のことが論じられない戦後の言論空間とは何であっただろうか?
 集団的自衛権の行使を条件にした場合、いくつかのバリエーションが過去にはあった。G7が結成され、サミットが毎年開かれ、政治的役割を増大させて来た時期だ。このサミットの歴史はかなり興味深い。仔細に見ると米国が議長国の際は政治・軍事的協力の強化を目指し、フランスが多国間外交での新しい役割を与えるというパターンが観察される。そしてフランスは政治的役割強化に関しては常に抵抗者であった。国連の安保理に常任理事国の地位を占めていることからも、この安保理こそ安全保障の権威とすべきと考えていた。EUの統合が現在ほど進んでいない70年代??80年代初期は独伊の反発もあったように思われる。ここでポイントとなるのは日本の立場で、日本がこのG7強化にコミットしなければ、安全保障に関しては他の欧州諸国にも配慮してNATOで処理しようという話に落ち着くしかないからだ。
 このNATOに関しても日本はチャンスを逸して来たと思う。ロシアとNATOとの関係は複雑な面が多く、関係が強まったり弱まったりと微妙だ。しかし冷戦終結後、NATOフルメンバーとは言わないまでもそれに近い関係に一気に進展する可能性がある時期があった。結果的には現在まで混乱が続いているのだが、そうなっていたら日露関係が大きくロシア側に有利な形にシフトする危険性があったのではないか。例えば領土問題でロシアは飛躍的に自己の立場を強化し得たと思われる。ユーゴ紛争期に日本はかなり資金的な貢献をしている。この時期にNATOにオブザーバー参加を打診することはやっておくべきではなかったか。今ならやるかもしれない。小泉首相は北朝鮮問題その他で東欧を外遊先に含めていた。ロシアとの領土問題の交渉は、表面的な報道とは別に水面下では結構詰めているのではないか。もっとも私の単なる過大評価かもしれないが。
 昨年のシーアイランドサミットでは、アフリカ諸国からG8に対し、平和維持部隊への協力の提案があったそうだ。(参考)アメリカで「民主共同体」的な米国主導の新国際組織の議論がされているようだが、この付近からの派生となるかもしれない。攻撃は米国、復興と治安維持は国際組織、というのは現場での効率という意味では良いだろうし、長期でみれば合理的な方向性として出てくるかもしれない。またモメそうな話ではあるが、日本が将来安全保障の役割を増大させるとすれば、こういう枠組を改良したものになるのではないかと思っている。復興と治安維持の任務を果たすのだから、事前の決定にも参加させろという言い方しか出来ないだろう。今からフランスあたりに行って外人部隊の運用ノウハウでも身に付けておくのが正しいかもしれない。
posted by カワセミ at 19:44| Comment(1) | TrackBack(3) | 国内政治・日本外交
この記事へのコメント
いつも興味深い論考を楽しみに拝読しております。関連しそうな記事を(古いものも含め)3本トラックバックさせていただきました。よろしくお願い致します。
Posted by 山川草一郎 at 2005年05月24日 11:48
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