2005年05月09日

米国におけるヤルタ会談の評価(2)

 finalventさんのトラックバックにコメントを返そうと思ったのだが、ちょっと長くなりそうなのでまたエントリの形で。ちなみに雪斎さんの方でも同じテーマでエントリされており、注目するテーマは皆似たようなものかと苦笑した。北朝鮮はしばらくどうでもいいだろう。例によって話がずれまくるが好きに書き散らしてみる。

 このヤルタ体制関連に関して、もはや蛇足もいいところだが一応背景も含めて述べる。第二次大戦開始前は、英仏あたりには「ヒトラーとスターリンどっちがマシか」という究極の問いが存在していた。ここでドイツに傾く人が多かったのは当時の基準としてはさしておかしくもない。フィンランドとの戦争でソ連がイメージを落としていたのも案外効いていたようだ。もちろん歴史はドイツを強く否定する事になったのは皆ご存知の通りだ。結局ドイツが欧州ローカルで圧倒的なのが二度の世界大戦の原因だということで戦後の厳しい仕打ちがあったわけだが、そういう背景の反動という側面もある。そのための東欧の犠牲は、米国はともかく英仏あたりはやむなしの構えだった。戦後のフランスの露仏同盟もどきの行動など私に言わせれば悪質だが、ただ陸軍国の戦争の悲惨さを思うと一刀両断にも出来ない。時間が経過し、ドイツが穏やかに復活する様子を見れば、ここまでの犠牲は必要なかったとの揺り戻しがあるのはおかしくもない。

 もっともこれは大戦直後にはっきり考えられていたともいえない。案外軽視されているが、米国は大戦直後には本気で五大国(現常任理事国)の世界統治を考えていたフシがある。常任理事国の軍事参謀委員会のようなものもあった。もちろんあっという間に役に立たなくなったが。この付近での対ソ認識の極めて甘い時期がソ連に貴重な時間を与えた。冷戦の成立はジョージ・F・ケナンのX論文以降といって良いだろう。この前後で対ソ戦のオプションもあったようだが手遅れで無理だった。そうこうするうちに朝鮮戦争と相成る。後はどうにもならない。

 そして凍結されたドイツ問題だが、これは欧州と米国の温度差は常にあった。米国側がドイツ東部国境の複雑な問題にかなり無頓着であったのは様々な側面から見て取れる。当時でさえそうであるし、まして現在は「安定した文明的な地域」として過去に言及しなければいけない。しかも東欧は少なからず対テロ戦争の正面に立つ同盟国で、例によって対応が甘くなる。結局今の米国は今抱えている問題の延長線ですべてを解釈するとしかいいようがない。ここではドイツが低い確率で東欧に変なことを言い出す可能性がある事に関してはノーマーク状態だろう。むしろ対露よりその意味で東欧のNATO加盟は意味があるかもしれないが。

 米国国内という意味では、専制政治への妥協でひどい目にあったという認識が対中東問題を中心に蔓延している。イラン憎しでフセインに入れ込んだのが代表だろう。この意味では共和党の伝統的保守主義者も、ラムズフェルドなどを筆頭に批判される立場でしかない。結局ウィルソン的な理想主義を一定程度織り込まざるを得ず、政治路線という意味ではある種の落としどころは出てしまっている。少なくとも今回のブッシュ発言を勇み足と否定するような意見は米国内ではきわめて弱いだろう。

 そしてこのブッシュ発言そのものは、客観的立場でも、実際に犠牲になった東欧諸国の立場でもヤルタ会談を否定する内容はその通りだとしか言いようが無く、ロシアの言い分は無理筋ではある。結局すべてに首尾一貫するしかない。ただそれが第二次大戦後の国際秩序の否定かというとそれほどの意味は無いだろう。ただ米国の思いとして、せいぜい第一次大戦後のイメージ(まぁアジアは抜くとしても)に近くなり、それでも微調整程度に考えているとしたら、実際の当事者はそれだけでも大事になって大変かなぁ、とは思う。
posted by カワセミ at 23:57| Comment(2) | TrackBack(1) | 米国
この記事へのコメント
基本的な捉え方は、カワセミ氏の言うとおりで宜しいかと思うのですが、少し違った観点から見てみたい.戦後冷戦史をどう見るかでアメリカに2つの流れがある.一つは正統派で、冷戦はスターリンとソ連全体主義の生み出したものとの解釈.これからヤルタは正統派歴史家にとって苦い事実となる.もうひとつはいわゆる修正主義派で、ソ連は常に受身でありアメリカの過剰な対応(アメリカ資本主義の拡大の必然結果という改定版もある)が冷戦をもたらしたとするもの.日本ではこの修正主義に依然として一定の人気があるようだが、アメリカでは八十年代以降下火になった.最近のイラク戦争で、サダム=ヒットラー=スターリン論に対し修正主義的反駁が出てきた.これに強く反発したのがブッシュさんご本人ですね.従って対テロ戦争、自由と民主主義の拡大を奉じるブッシュ大統領としてはこのチャンスにヤルタを批判することで正統派的歴史観(自由の戦い)を強調したかったのではないですかねえ.もう一つ、政治家が歴史を引用するのはしばしば誰かに聞かせる目的がある.今回の場合、直接にはプーチン政権を牽制したのでしょうが、中国、フランス首脳も(戦勝国として)出席している.よく考えれば戦勝国中国(中華民国)は実質的に消滅し、フランスが戦勝国というのはあの偉大なドゴールのおかげであって、実際は歴史の擬制ですね(フランス人は怒るだろうが事実はそうなんですから.なにしろ真珠湾攻撃のあと米仏はお互い宣戦布告したんですからね).戦後秩序の根幹である戦勝国(五大国)の枠組みを前提になったはずのヤルタを批判することで、(フランス、中国に)少しいやみ(ジャブ)を言いたかったのかもしれない.ちょっと読みすぎかもしれないが、戦後60年、面白いことが起きるものです.8月15日にブッシュさん、何を言うか、あるいは何を言わないか.
Posted by M.N.生 at 2005年05月10日 10:32
その修正主義とでもいうもの、戦後は特に日本とフランスがひどかったと思います。ただそれは、極言すれば知識人階級のいわば言論上の遊びで、現実の政治の力としては皆無に近かったのではないでしょうか。
第一次大戦サイトの別宮氏が「大体資本主義って言葉は何だ。共産主義者が共産主義以外の体制を勝手にそう言ってるだけの話じゃないのか」と発言していたことがありました。私もそこまでは思わないものの、ただ現状の先進国から中進国の、旧共産圏以外の国を見れば社会や産業の発展段階によって社会の様相が違い、文化によって表面的な慣習が違うだけとざっくり割り切ることは可能かもしれません。私は少なくとも経済システムは人類共通だと思ってはいます。地理的に隔絶しながらこれだけの類似点が示されてきた日本と欧州の歴史など、その有力な証左になるかと。

またまた話がずれました。ですから米国としては、そんなの元より歯牙にもかけてない、という事でいいのではないでしょうか。そしてフランス・中国ですが、このヤルタ関連の発言は本質的にイギリスにとても辛い発言でもあります。だからその線はないかなと思うのですが。
Posted by カワセミ at 2005年05月11日 01:25
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