2008年12月31日

2008年を振り返って

 別に1年のまとめというわけではないが、年末なのでちょっとした所感を記しておきたい。金融危機以来の状況の変化は大きいのでなかなか追いかけられない。エントリを増やしたいという気はあるのだが、どうにも途中で止まってしまうという状況だ。

麻生政権:
 これは私の個人的な予想が大きく外れた結果になった。首相就任直後のマスコミの報道には違和感を持ち、そもそも解散など微塵も考えていないのだろうと考えていた。なってしまえばこっちのものとばかりに、「解散するために就任したわけではない。内閣総理大臣の責務を果たすために就任したのである」とでも発言して平然と任期切れまで居座るかと考えていた。しかしその後の各種報道、本人の発言を見ると必ずしもそうではなかったようだ。もちろん公に出来ない事情があるのかもしれないが不可解に思える。なぜなら、逆説的だが今の首相の政治的な拘束条件はあまりないからだ。次の選挙は普通にやれば自民党は下野する可能性はかなり高い。負けて元々、勝てば自分の手柄くらいに思えば少々強引な事も可能である。もっと理解できないのは定額給付金関連の経緯だ。こういう施策は行政コストの単純化を第一に考えないといけない。年収にかかわらずとにかく配るとして、富裕層は負担を増やすことにして帳尻を合わせるだけの話だろう。経済畑の首相にしてどうした事か。外交面では悪い対応をしていなくても、基盤となるのは国内での立場の強さだけにどうにもならない。つくづく人物と地位の関係は微妙なものである。次の首相が誰になってもどうなるか予想が付かない。やはり選挙区の候補者選定と党首を含む党の要職を選出する予備選段階の民主化を相当強化しないと日本の政党政治の先行きは暗いのではないだろうか。

雇用情勢:
 逆境になると社会の悪い面が出てくるという点では日本に限らない。それでも、表面に出てくる事象に陰鬱さが目立つのは否めない。性格的にあまり明るい民族性ではない上に、儒教的な禁欲性が変な形で出てくる。そして日本の場合は福祉機能を一定程度企業にアウトソーシングしている面が強かっただけに、福祉機能ごと失われるという形で労働者へのダメージが大きくなる。一例を挙げると住宅だろう。欧州などは公営住宅にかなり力を入れる伝統があるが、日本は企業が寮を用意したりする。これは賃金以上に各企業の違いが大きいので、助成や優遇に関する措置は強化しなければならない。その一方で、居住は基本的人権の一環であるということもあるので、借地借家法などを再度整備して、企業の資産にも弱い義務を課すべきであろう。退去の通告は三ヶ月前には必要で、別途賃貸物件を紹介するなどの措置を取れば免責するといった具合か。事は住宅に限らない。必要なのは、基本的人権に関する保障というのをどの水準で行うかということなのだが、そういう大局的な議論は国政の場では極めて停滞している。その時その時のニュース性のある問題に対応するというのは、それはそれで一定程度大切だが、そればかりでは困るのだ。

地方分権:
 前述の内容とも関連するが、私はこの金融危機で地方分権の流れは一旦停滞すると思っている。理由は単純で、日本中で中央政府に対して何とかしてくれという声が上がっているからだ。少なくとも政治の問題としては市や県に上がってくるわけではない。そして相対的に裕福な自治体も、自分たちだけ財政的に切り離されればうまくやれると考えて行動しているわけでもない。(もちろん、ミクロなレベルでは別だが)結局日本人自体が中央集権が好きだということなのだろう。これは根深い問題で、人間の物の考え方に依存するだけに容易に変化するとも思えない。やるとするなら都道府県の合併くらいだろうが、これも簡単とは思えない。日本人の自覚は薄いが、今の都道府県の区分はかなりの伝統と権威を有しているのである。

Foreign Affairs:
 論座で日本語版を読んでいた人は多いだろう。休刊は残念なことであった。ただ英語版は本家を見れば良く、掲載状況は変わらないようであるのでそちらを参照するべきだろう。日本語で読めるものとしては、実は朝日新聞のサイトに一部の翻訳が掲載されている。(参照)軽く目を通すだけでも参考になることがあるだろう。一例として、個人的に気になったこちらの論文を取り上げてみたい。
 この論文、内容に大きく異を唱える部分はない。ただ個人的な所感としては、米国の政治文化における特徴かもしれないが、概して民主国家連盟なるものそれ自体の結束に関しては過剰に自信を持ち過ぎているように思われる。(困ったことにこれ自体は美点であり、必要であるのかもしれないのだが)というのは、この民主国家連盟なるものをどのような位置づけに置くとしても、それが権威を持つのは国益のための互助会としてではなく豊かな国の責務として義務を果たす時だけであろうと思うからだ。例えば日本にしても、これ以上の義務を果たすことに積極的になるだろうか?日本ほどでないにしても、米国以外の民主国家はどこも充分に計算高いと思うのだが。

田母神論文:
 上記の民主国家連盟もしくは類似の構想は以前からあり、日本はどうするべきかという本質的な議論は必要であり、先送りが続いているのが現状だ。それがこのレベルの問題で停滞しているようでは困る話である。それにしてもマスコミのみならずネット界隈でもこの問題に関する対応は極めて不可解である。通常、一定以下の水準の論説は話題にもならず黙殺されるのが通例で、今回もそうであろうと思っていた。それがこのような展開になるということは、自衛官の地位を奇妙なまでに過大評価しているということになるが、それは今までの世間の対応と矛盾してはいないだろうか。いずれにせよ軍人が偏った考え方を持っているということは世界的に見てもしばしばあるし、現状の自衛官もそれなりにはいるようだ。しかしながら文民統制の原則はあり、実際の行動には害を与えない成熟した状況が確立しており、こういうことがあれば更迭はされる程度の状況認識が自衛隊内部にあればそれで充分ではないだろうか。今回も問題の本質は国政の場での議論が稚拙であるということで、状況に変わりはない。
posted by カワセミ at 23:25| Comment(1) | TrackBack(0) | 世界情勢一般