米国の大手メディアとしては、ヘラルドトリビューンの報道がやや目立ったので代表として取り上げておきたい。同紙にはややその傾向があるようにも思うが、欧州的な政治感覚がこの記事にも見られる。(参照1/2/3/4/5)2番目の記事の一部を引用する。
The second is to ask when and where the process of dismemberment of former empires will end. After all, the very word "Balkanization" derives from the break-up of the Balkan territory of two empires, Ottoman and Austro-Hungarian, into 10 states.
この地域に関して言及するときの歴史感覚としては外せないのであろう。オーストリア・ハンガリー帝国やオスマン帝国(これは普通の日本人が思うよりかなり欧州寄りに考えたほうが良い国である)からの分裂が継続する、その最終段階であるとの意識が見える。4番目の記事のミリバンド氏のコメントもそれを示している。この種の「このユーゴ問題を終わらせる」という種類の発言は各国から共通に出てきている。
"There is a very strong head of steam building among a wide range of countries that do see this as the last piece of the Yugoslav jigsaw and don't see stability in the western Balkans being established without the aspirations of the Kosovar people being respected," Miliband said.
ちなみに国内メディアの報道であるが、意外に読売がまとまった記事を出していた。社説(参照6)は特にどうということもないが、個別の記事では、例えばこれなどはポイントをうまくまとめていると思う。(参照7)ここではロシアの主張などもちゃんと書いてあり、国際法の観点からすると全く筋が通らないわけでもないのだ。ロシアは奇妙に(国連などでの)国際法の前例に拘り、何とか建前としては正当性を主張しつつ自国の影響力を残したいという主張をする外交的伝統があるが、このコソボ問題はまさに欧州の問題であるだけにそれが典型的に見られると感じた。またスリランカが非難声明というのをワンポイントで記事にしていたりする。(参照8)まぁこれは日本とノルウェーが頑張って宥めるのであろう。他にも関連記事がいくつかあるが、感度の高いライターが一人いるのかなという印象を受けた。社説の内容を考えると、組織立ってはいなさそうだが(苦笑)
ちなみに中国へのフォローもさすがに手抜かりはないようで、今回のヒル次官補の訪中のタイミングは合わせたものであろう。確かに北朝鮮問題はないわけではないが、外交官が単独の目的で動くことは少ないし、ましてヒル氏がユーゴで実績を上げた経歴がある専門家である以上当然だろう。(参照9)ヒル氏のみならずブッシュ大統領も「特殊事例」と強調しているのはまさに長く続いたユーゴ紛争の終結としたいとの欧州諸国と共通の見解があるからであろう。
ところでNATOの状況であるが、今はアフガンにおける兵力の分担で相当の軋轢が発生している。わけても、直近のニュースとしてはドイツがアフガン南部への部隊展開を断ったというのが大きい。(参照10)ドイツの国内状況としては、若干日本にも似た屈折した議論が発生しているようだ。最初に設定された担当地域からの変更は認めないという政治勢力があるようだ。そして多くの犠牲者を出したカナダやオランダは不公平だと兵力を引くかどうかという話になっている。そしてこの状況でコソボに展開するKFOR部隊の維持を昨年12月に決定している。(参照11)もちろん役割は違うので単純な使い回しというわけではないのだろうが、政治的軋轢が続く状況では、とにかく欧州内だけでもケリをつけたいという見解がEU内に強まったとしても無理もないところであろう。ちなみに現在のKFORの各国の派遣人数はこのようになっている。(参照12)仏独伊の負担がやや重い状況だ。なおリーダー国は、比較的小国の場合は持ち回りにしているようだ。チェコなども担当していたことがある。また言うまでもないが、これらのNATO諸国は、日本が給油問題でどういう議論をしていたかは良く知っている。来日時のメルケル首相の言もキツくなろうというものである。
さて、コソボ問題での日本の立場であるが、意外に重要ではないかという気がする。他の国に独立承認を呼び掛けると、それを機会に追随する国も結構あるのではないだろうか。今回は国連を回避するかどうかという瀬戸際なのでなおさら重要である。通常の日本の外交的伝統では、時には無駄なくらい慎重に調べ上げて随分時間をかけて国家承認する手順を踏む。ところが町村氏などのコメントでは前倒しを示唆するような発言があった。かなり裏でせっつかれているのではないかと推察している。ちなみに現在セルビアへの最大援助国は日本であるはずだ。(欧米から干されているだけとも言えるが)こういう時にセルビアの顔が立つような妥協案を出すだけは出すということをしても良いだろう。EUの見解に少しのおまけがあるとか、実現時の負担の分担も怪しい言いっぱなしの内容とかでもいいのである。そこから事態が動くこともあるのだから。伝統的にフランスなどはこういうのがうまいのだが、今回はほとんど当事者であり、動きようもないだろう。
ヒル氏は20日に来日の予定と聞く。まさかさすがの日本も北朝鮮問題の話だけして終わりとは思えないが。せめてこの問題につき、うまいコメントでも用意しておいて欲しいものだ。